■『西井義晃新作展によせて』俳優滝沢修（劇団民藝）/西井義晃作品集（ストリート・アートナビ作家紹介）

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西井義晃新作展によせて　　　　　　俳優 滝沢修

　旅公演さきのホテルへ娘から電話が入った。……西井さんの個展が今、大阪高島屋で開かれているから、ぜひ見にいらっしゃい、明日が最終日！
　楽屋入り前、友人を誘ってさっそく飛んで行った。ゴッホ誕生百年記念の大展覧会を見た足で、ゴッホ縁（ゆか）りの地を訪ねて、オランダから南仏アルルへと旅したときの、西井さんは同行者の一人である。どんな絵を描く人なのかは全く知らない。スケッチ一枚見せてもらったこともない。いつもご機嫌の赤い顔で、持ちまえの大声であけすけに喋りまくる愉快なお人柄から、奔放自在なシュールの絵だろうと勝手に想像していたところ、これが大違い、会場に一足ふみ入れて吃驚した。じつに静かな詩情あふれる佳品ぞろいなのである。やはりゴッホ旅行の仲間だった友だちともども忽ち画面に吸い寄せられて「うーむ」と唸った。「マジメな絵だね」と友だちが発した第一声。マジメな絵とはすこしおかしいが、素人の素直な印象としては私もまったく同感だった。
　第一に色彩の魅力が目をうばう。絵肌のなんともいえぬ味わいが堪らなく好い。たとえば小品の花（バラ）の紅だ。宝石のルビーを細かく磨り砕いて、慈愛をこめて練りあげた手造りの絵具……たぶん溶き油のなかに西井さんの愛飲のレミ－マルタンの幾滴かが秘かに加えられているのでもあろう……を、これまた丁寧に幾重にも塗り重ね塗り重ね、時をおいてまた塗り重ねた絵肌の厚みのある繊細な色の混ざり合い、そのえもいわれぬ艶やかな味わい。
　目を近よせて見ると、というより吸い寄せられてじっと見ると、バラ特有の花弁の重なりの形は定かではないが、花の命がじかに匂いただよって私に囁きかけてくるのが感じられる。
　絵の美しさは言葉では語れない。絵は見ることだ。自分の目でじかに見ることだ、それ以外にない。印刷の複製ではなくて本物を見ることだ。
　一作ごとに独自の画境を築きあげてゆく西井さんのマジメな精進こそ今もっとも尊敬さるべきものだと、私は己の俳優修業の道に照らして確信する。
　ほんとうに絵を愛する多くの人々とともに、この度の個展を観賞できる日が、心から待ち遠しい。　　

（劇団民藝）

西井義晃作品集（ストリート・アートナビ掲載）

「新劇の神様」と呼ばれた劇団民芸代表の滝沢修氏は2000年6月22日に肺炎のため東京都の病院でご逝去されました。

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