18. Do it Yourself!-9

   
「8」が長過ぎてすいません、特別な区切りは無いんですけど…






263. 過去からの使者(13.2.9)

 何と、1年以上ぶりの更新となってしまった。と言うか、もうすぐ2年??深く、深く反省すべきところである。

 恐るべし、Facebook。ここまで自分の生活を浸食してしまっていたのである。皆様も、いかがでしょう。

 もう一つの理由は、iPhone導入に伴ってMacも買い替えざるを得ず、しかし新しい(中古だけど)Macはこのサイトを制作しているソフトがもはや使えないのだった!!これはいかん…

 …それはともかく、前回の続きに入らせていただきます。

 今回も、単純なバスレフなので大して難しいところは何も無い。ラワン合板なのでペーパー掛けが少々面倒になるだろうか…というくらいか。ちょちょいのちょい(古っ)とばかりに、組み立てて行く…のだが、しまった。間違えた。これでフロントの色は自動的にダークブラウンに決まった。

 というのは、ラワン合板というのは表と裏で色が異なる場合が多い。今回も赤みの強い面と、黄みの強い面があったのだが、左右で赤と黄、フロントバッフル部をひっくり返して接着してしまったのだ。…まあいい。迷いは無くなった。そうと決めたら、と早速フロントバッフル部をダークブラウンで塗っておく。お、なかなか良いぞ。そういう神の導きだったのかもしれない。

 吸音材はあまり使わないでおこうかと思ったが、ちょうど梱包材のスポンジが表面を波打たせた形をしていたので、うまく定在波を散らす事が出来るのではないかと思い、リア部に貼ることにした。また、内部配線は以前使っていたオーディオクラフトのQLXを使う事が出来た。素性の良いケーブルである。端子も以前使っていたものを流用するので、この辺りの出費も抑えられた。結構馬鹿にならないものなのだ。

 さて、そうして組み上がった箱のうち、フロントバッフル以外の面を塗って行く。色はもう決めていた。ライトオークで行こう、と。茶系コーディネートの方が絶対しっくり来るはずだ。ダークブラウンに塗られた面にはしっかりテープを貼ってペンキを遮断し、塗り上がった箱はなかなか、古臭い雰囲気を醸し出していて良かった。ふっふっふ、いかにも古い音が出そうではないか。

 ユニット取り付けでネジ留めしていると、フレームの外装がめくれ上がり、「ボロボロ感」がさらに向上?を果たしてしまった。今回、あくまで見てくれは「オンボロ」でいいので、気楽なものである。そういう「ゆる〜い」気分で、新作スピーカーは完成した。

 音出しも、いつもより緊張感が心無しか少ない。「まあ、いいじゃん、そんなに気張らなくても」という感じだ。まあ、そりゃあんまり悪い音じゃ困るが、悪くない程度で十分なのだ。願わくば、古くっさい音が出てくれん事を。

 出た。いいぞ、さすがJBLだ。何だか嬉しくなってくるような、「あの」音が出るではないか。カー用のユニットとは言え、やはり素性は同じという事だろう。これでブルーノートのジャズを聴く。…お〜、いいじゃないの!カラッとして、躍動感があって、高音はちょっぴり歪みっぽい?けど、逆にこれが雰囲気を醸し出してしまう。同軸のツィーターがわずかにザラッとした感触を伝えてくれる。シンバルをジャキっと出すにはこれくらいがイイ。オーディオ的に音質をどうこう言い出せば、そりゃまあ、欠点も数多く出るだろう。やれレンジが、バランスが、きめ細やかさが…などなど。

 しかし、これの何がいかんのだ。楽しいではないか、これで聴いていると。

 楽しく音楽を聴く、基本中の基本な話なのだが、このスピーカーはそれを素直な気持ちで、伝えてくれる。当たり前の事を教えてくれたのだ。

 …とまあ、少し手直ししたものの、この文章を書いたのはちょうど1年前にさかのぼる。ようやくアップする事ができた。次はいつだろう。いかん、人ごとみたいだな。ネタはそれなりに蓄積してはいるのだが…



262. 黄金週間の習慣(11.05.12)

 Facebookにハマってしまった。

 いや面白い。睡眠不足だ。即時に情報をアップできるので、スピード感があっていい。

 …とはいえ、ここがずいぶんとご無沙汰になってしまっていた。それはいかん。伝統あるこのサイトを、サボってはいかん。

 黄金週間と言えば、やっぱりスピーカー自作であろう。

 これもまた、既にFacebookで披露してしまってはいるのだが、ほとんどの人は見ていないだろう。やはり、ここはここのやり方で、いつも通り、「クドく」紹介していきたいと思う。

 そもそもは、JBLのカー用スピーカーユニットをもらったのが発端であった。カー用とは言え、JBLである。「そういう」音が出るに違いない。俄然、興味がわいてくる。これで「古いジャズを聴く」ためのスピーカーが作れるのではないか…「臭い」音でジャズを聴きたい。

 とは言え、このユニット「SR170」という型番は分かるのだが、スペックが全く分からない。検索してみたが残念ながら手掛かりが無かった。まあいいか。何とかなるだろう。ごく普通のバスレフで、そんなに失敗はあるまい。

 大きさはあくまでブックシェルフで行きたい。本当はある程度大きめの箱でゆったりと鳴らした方がいいような気もするが、設置場所には限りがある。幅と奥行きは手持ちのアコリバ製スピーカースタンドに合わせるとしよう。高さは35cmぐらいがバランスが良さそうだ。そうすると、だいたい10Pくらいの容積になる。果たして、このユニットはどのくらい低域を出してくれるのか。同軸ユニットなので、一発だがウーファーとトゥイーターである。小さめの箱でもそれなりに低域は出るだろう。いや、出てくれ

 アバウトに大きさを決めて、板取に入る。そうすると、高さは少し押さえた方がうまく収まることが分かった。なんとか2cm低くする事で落ち着いた。これくらいなら、音にも見栄えにも影響は無いとは思うが…板厚は12@にした。コストダウンである。材料もラワン合板。安いのと同時に今回のテーマ?である「古さ」を醸し出すにはこれでしょう。

 ダクトは高さ2cm×幅18cm、長さは約6cmのスリットダクトである。ほとんど何も考えていない。今まで作ってきた経験から、「まあこのくらいだろう」という辺りである。古いジャズ向けなので、あまり下の帯域まで欲張らず、中低域が豊かに出てくれれば成功である。

 今までやってなかった事もしてみたい。古臭さを出すために、フロントバッフルを引っ込めるのだ。本来はサランネットをはめ込むためとは思うが、まあよかろう。また同軸のトゥイーター部が突き出ているので、それを目立たなくする意味もある。1cmほど引っ込めれば良いか。そうなれば、面倒ではあるが、フロントバッフルだけ色を変えたい。迷ったのは、この配色だった。どういう色の組み合わせにするか…出来れば手持ちの塗料を使いたい。グレー、ダークブラウン、ライトオーク(半透明)、グリーン、ベージュがあった。しかし、後の二つはあまり使いたくない。そうすると…

 フロント→グレー、周り→ライトオーク
 フロント→ライトオーク、周り→グレー
 フロント→ライトオーク、周り→ダークブラウン
 フロント→ダークブラウン、周り→グレー
 フロント→ダークブラウン、周り→ライトオーク


 といった組み合わせが考えられる。メインとなる周りの色をライトオークにするのが一番普通に見栄えが良いだろうとは思う。また、JBLのモニターシリーズでもフロントこそブルーだがこの部分は木目である。4311みたいに全部グレーという手も無くはないが、今回はやはりツートーンで行きたいものだ。

 まあ、いいか。作りながらでも決める事は出来るのだ。とにかく先に進もうではないか。

 いつものように東急ハンズで木を切ってもらい、近くのジャズ喫茶「YURI」でカレーを食いながら待つ。そうして出来た板を家に持って帰って梱包を広げるときは、本当にわくわくするのだ。何せここから、音が出るのだから。



261. 限定に弱い男(11.2.25)

 久し振りのこのコーナー。まあ、クルマを買ったのでこちらのネタが少なくなってしまうのは仕方が無いと思うのだ。

 「限定」「リミテッド」などの言葉に弱い方というのは、決して少なくはないと思う。とは言え、このご時世限定だからといってホイホイ釣られる事もそれ程無いとも思う。「今買わないと無くなってしまう」という気持ちをかき立ててしまうのが限定商品の恐ろしいところ。ただ、その神通力が通用するものが世の中少なくなった。

 久し振りにその「限定」に釣られることになってしまったのだ。「DENON」が100周年記念モデルを限定発売した。アンプやCDプレーヤーなど色々あったが、心惹かれたのはただ1つ、カートリッジである。「DL-A100」という型番こそついているが、これぞ現在も永遠の定番「DL-103」の限定ヴァージョンなのだ。

 心惹かれてしまったのはその姿。黒いボディに収まっているのが103だが、この限定モデルはクリア素材を使っている。スケルトンになっているわけだ。無色透明で、何だかベンツマイクロみたいだが、実は個人的にスケルトンには弱い。何だか良さそうだ、と思わされてしまうのだ。

 もう1つ理由があり、それは現在103を持っていないという事だった。いや、持っている事は持っているのだがカンチレバーが無い。そう、折ってしまったのである。回転するレコード盤の上をタフにトレースし続ける針も、折れる時はまことにあっけないものだった。「ぽろ」。愛車の名前ではないが、折れるというより枯れ葉が木から落ちるかの如しであったのだ。

 やはり103的なものは1つ手元に置いておきたい。カミソリのような解像度なライラ「ヘリコン」と、パワー炸裂のモノ針「CG25Di」がステレオとモノラルそれぞれのメインだが、ステレオ針の方でもう少し中庸な味のものが欲しかったのだ。

 ただ、価格が少々お高い。限定モノにそうした台詞は禁物かもしれないが、結局は103なのだ。当時の仕様で作り、音自体は現代的にチューンされているとの事ではある。実際に出る音は103よりレンジ感はありそうだが、標準103の倍近い価格なのだ。これはどうだろうか… 

 でも買う事にした。やっぱり透明な外観には惹かれてしまうし、前述したように中域重視の針が1つ欲しかったのだ。70年代のロック、歌謡曲、60年代ジャズ用である。

 夏頃予約をしておいて発売は11月との事。その間新車が来たりして、バタバタしているとあっという間に11月が来ていた。そしてカートリッジも入荷していた。取りに行くと、ずいぶん大げさな箱に入れられていた。まあ、デノンのホームページで見てはいたが、こうしたパッケージは確かに限定モデルらしい。中には記念冊子が恭しく入っていた。ケースも少しカッコいい。ただ、お洒落とは言えないというのが感想である。同じコストでも、もう少し質感を高める努力をしてくれたら大切に保存したくなろうものだが、これではこの辺に放ってそのままにしてしまいそうだ(してしまってます)。

 ハコの事はいい。さあ、鳴らそう鳴らそう。シェルは以前中古で買ったテクニカのものを使う。ヘアライン仕上げで現行のものより質感が高い。こういうものをもっと今出して欲しい。今世の中に出回っている工業生産品の大半は、コストダウンと言う名の手抜き品ではなかろうか。

 また愚痴になってしまった。楽しい趣味の時間なのに。リード線は余っていたオルトフォンのものを使う。そしてシェルとの間にはカーボンスペーサーを使ってやろう。少々シェルからはみ出してしまうがご愛嬌。それにしても、やっぱり透明なボディは美しい。若干曇った仕上げなのが惜しいが。

 さて音だ。鳴らし始めにあまり期待しては酷とは思うが、やはり期待してしまう。オリジナルの103が無いのが残念だ。そして出てきた音はやはり最初はちょっと「???」であった。何だか堅苦しく、ぎこちない音が出てきた。アコースティック楽器がニセモノ臭い。このプレーヤーで103を聴いた事はあるが、こんな音ではなかったはず。ヘリコンに慣れ過ぎて自分の中のハードルが高くなっているだろうか?いや、さすがにそんな事もあるまい。しばらくエージングして行くよりないようである。

 そんなわけで、しばらく鳴らして慣らす日々が続く。とは言え、エージングのためにレコードをかけるというのも苦痛である。結局ヘリコンに戻したりしながらだったので、そうこうしているうちに年が明けてしまった。

 で、今は2月。さすがにいい感じになってきた。違和感まみれだったアコースティックものも朗々と鳴らすようになり、ヴォーカルの「座り」も抜群だ。いや良かった良かった。103の針を折ってしまってからずいぶん時間が経っているのでハッキリした事は言えないが、やはりこれは103の音である事は間違いない。中域がしっかりと出ているので、音にぶれが全く無いのだ。期待していた70年代ロックやジャズをちょうど良い塩梅で聴かせてくれる。びっくりするような音は出さないけれども、「鉄板」とも言える安心確実の音だ。

 記憶にある103よりも、高域が伸びているような感触はあると思う。何せ遠い記憶の中にしか無いので「思う」としか言えないのだが、「隠し味に現代風味も少々付け加えた103」だろうか。これでいいと思う。確かに価格が103と比較すると倍なので、それならばもっと積極的に変えてもいいのではないか?という声もあるかもしれない。しかしこれはあくまで限定モデル。価格については割高になってしまっても仕方が無いのだろう。「このクリアボディに大枚叩いているんだよ、俺は」という気概と痩せ我慢が必要なのだ。

 また、103よりも良い意味で「柔らかさ、しなやかさ」があるように思う。もっと103は良くも悪くも硬さがあったはず。もっともこれは、オルトフォンのリード線が関係している可能性もある。一度、リード線を交換して試してみたいものだ。


260. センチメンタル・ジャーニー(10.10.26)

 いつまでも自画自賛の心地よさに浸っている場合ではなかった。もう時間がないのだ。

 次はネットワーク作成である。ダークブラウンに塗られた下部に、スピーカー端子を取り付ける穴を開ける。位置はほとんど設置面すれすれになるので、これは半ば賭けに近いものがあった。しかし結果は悪くはなかった。バナナプラグで端子と水平に繋げば言う事はないだろう。穴はもう一つ、上部ユニットからのケーブルを持ってくるためのものを開けねばならない。ウーファーとトゥイーター、それぞれ用に穴を開ける。

 一次ネットワークなのでそれ程レイアウトに気を使う必要は無いが、何せひっくり返せば丸見えになる構造だ。あまり適当には済ませられない。せめて左右とも同じようにやらねばなるまい。なるべく継ぎ足しのケーブルを使わないようにコイルやコンデンサの位置を決め、3つの抵抗を並べて簡易アッテネーターを作る。コンデンサと抵抗を圧着端子で繋ぎ、抵抗のもう一方は3口の端子板にねじ留めする。先ほど開けたケーブル用の穴にユニットへと伸びるケーブルを差し入れ、端子板へのケーブルにはYラグを付けて、簡単にアッテネーション出来るようにしておく。ちなみにケーブルは今回あまり癖をつけたくないのとC/Pの点から、大須の電化パーツ店「海外電商」のオリジナルOFCケーブルを使用した。最後にスピーカー端子に配線した全てのケーブルをハンダ付けしてネットワークは完成である。

 お次ぎはいよいよ、上部と下部のドッキング。ゲッターロボなど「合体ロボ」もので育った世代としては、たまらない瞬間である。合わせる面がただの平面だと強度の面で心許ないので、下部から少し突き出る部分を作ってはめ込むような形にした。それが接着するときにも役に立ち、ずれを起こす事なしにしっかりとドッキングを成功させた。

 ユニットを装着する段になると、いよいよ音が出せる、という実感が湧いてくる。ウーファー、トゥイーターの両方ともねじが付属していなかったので、ウーファーには市販のステンレス製のものを、トゥイーターにはルックスの点からフォステクスのユニットに付いていた黒いねじを使用した。

 完成。これまでになく仕上がりも良く、ツートーンカラーも我ながら美しいスピーカーが出来上がったと思う。しかし、これで音が悪かったら元も子もない。特に悪くなる理由もない設計だが、やはり音を出してみるまでは不安もあった。

 しかし、それは杞憂に終わった。

 いいぞ、これは。ヴォーカル帯域が大変ナチュラルだったのを確認して、とにかくホッとした。何せ2ウェイでは重なる部分でもあるのだ。下手をすると薄くなったり過剰になったりする懸念もあったわけで、そんな中でこの適度に厚みを持ちながら滑らかなヴォーカルは、クロスオーバー設定がうまく行った事を教えてくれたのだ。新しいユニットでの鳴らし始めでこの状態ならば、かなり期待できよう。

 スリットダクトの低域は、少々物足りないがこれはエージングでまだまだ向上していきそうだ。エンクロージャーの影響から逃れた構造のダクトは、やはり歪みが少ないという印象を受けた。ソフトドームトゥイーターから出る高域は、まだまだ荒削りなものを感じるが、ここもまたエージングで解消して行くだろう。

 そうして2週間ほど鳴らし込んで行くと、低域もだんだん詰まりが無くなってきたかのようにポンポンと弾むように出てくるようになり、高域は繊細さが出るようになった。当然中域は最初から良いままで、言う事は何も無い。やはりユニットがアメリカのメーカーだからなのか、ややドライな感触ではあるものの明るく開放的で、気持ちがよい。この時は長い長い残暑が続いて湿度も高かったのだが、さわやかな音にずいぶん救われたものである。

 このスピーカーの最も気に入った部分は音場の立体感だ。これまで作った小型スピーカーのどれよりも素晴らしいのだ。まさに「スピーカーが消える」感覚を最も味わう事が出来た。正攻法な造りで、下手に冒険しなかったのが功を奏したのかもしれない。自作した中で、一番の小型スピーカーではないだろうか。やはり教科書通り、に近いくらいが一番バランスが良いのだ。

 結局、一ヶ月半ほど手元に置いて鳴らし続ける事が出来た。少し高域が気になったので抵抗値を1つ下げる(端子板の接続を変更する)事は行ったが、あとはそのまま鳴らし込むだけであった。かなり滑らかさしなやかさが出てきて聴きやすくなったと思う。

 いよいよ依頼主の元へ届ける日がやって来た。すなわち、お別れの時だ。すっかり馴染んでしまっていたので渡すのが惜しくて仕方が無い。それでもぐっとこらえて梱包して、車で約一時間強走った。届け先にて、まずスピーカーの容姿で喜んでいただくことが出来て、ホッとした。汗をかいただけの事はあったようだ。そして依頼主のデノン「RCD-CX1」に接続。スピーカーケーブルにはキンバーケーブルの「KWIK16」を選び、バナナプラグを装着してある。キンバーにしたのは、デノンが輸入しているので相性が良いのではないか、と思ったのと中域を大切にしたかったからである。

 出てきた音にまた、ホッとさせられる。システムは異なるとは言え、このスピーカーの良さがしっかりと出ているのだ。大変満足していただいて、本当に良かった。置いて帰るのはちょっぴり寂しい気持ちにさせられたが、きっとこれからもずっと大切に聴いてもらえるだろう。オーディオの素晴らしさを、少しは伝える事が出来たのではないか、という満足感とともに帰途についた。今回は、少々センチメンタルな気分。

 
259. 秋のコーディネート(10.09.27)

 ユニット類が届いた時点では、まだ7月の下旬だった。お盆休みを利用して作りたかったので、まだ慌てる事も無いだろう…と思っていると、いやいやどうして。気がついたら8月に突入、それどころかお盆休み直前になっていたのだ。まあ、よくある事ではあるが、急がねば急がねば。と慌てて設計に入った。やはり尻を叩かれないと人間、なかなか前には進まないようである(と言うより、本人の問題でしかないのだが)。

 ユニットを箱から取り出してよく見ると、ウーファーはともかくトゥイーターの外周が大きめであった。やはり写真だけでは分かりづらいものなのだ。しかしディナウディオを彷佛とさせて高級感はかなりのものなので、これを利用してデザインを起こしたい。

 シミュレーションを行って割り出したエンクロージャーの寸法は幅215×高さ350×奥行き275に決まった。実際にはもう少し大きい方が良さそうだが、あまり大きくはしたくない。本当はもっと小さくしたいところで、自分のものならば実験的にそうするところだが、やはりここは音のバランスを優先したい。冒険せずに行こう。

 今回はセパレート型になっているので、下部にあたるネットワークを収納する部分と本体部を別に作る必要がある。考えてみれば、これもある種の冒険なのかもしれないのだが、なぜかこれは上手く行くような気がしたのだ。設計上注意するのはこの部分だけ、あとはいつもの2ウェイの作り方を踏襲するだけで良いはず。ただやはりセパレート部分を最終的には接着させるわけで、合わなければ御破算である。設計上、特に留意したのはその点だ。バスレフダクトはスリット形状になり、幅185×高さ15×奥行き170という寸法にする。

 図面というのはなかなか完成しないものだが、ここまで決まってくるとあとは早い。なるべく経済的な板取りを目指し、少々の試行錯誤の末、板取り図は完成した。東急ハンズで相談し、サブロクよりも小さな板を使う事が出来た。これも大変ありがたい事だ。

 きれいにカットされた板。さすが東急ハンズだ。木目が鮮やかに出ている方を表にしよう。セパレートされたそれぞれの部分を同時並行して組み立てて行く。下部の方が作りやすく、すぐに出来た。上部も並行して組んで行く。接着剤がある程度乾いた事を確認(確信?)して上と下を合わせてみる。お。いいじゃないの。やはり16cmあたりのウーファーと組み合わせたい大きさのエンクロージャーではあるが、良い音が出そうな形になった。フロントは左右のみ斜めカットを入れている。これは少しでもスリムに見せたいという意図もあるのだ。今回は上下を組み合わせるので、斜めカットがきちんと合うかが心配だったが、やはりそこはハンズのお陰で容易にクリアしそうである。

 箱の補強をどうしようかと思い、とりあえず補強材として4本ばかり切り出しておいたのだが、それぞれ天板の補強と、側板同士を繋げるような形で補強を施した。あまりガチガチに強化しても響きを殺してしまう。程々にしておくのがバランスが良いだろう。スリットダクトに相当する部分はカー用のデッドニング材を貼って防振とする。そして吸音材として、カットされた脱脂綿を適度に貼付けておく。

 上下それそれの塗装に入る。…が、その前にやらねばならないことがある。ペーパー掛けである。磨けば磨くほど、色の乗りは良くなり、艶も出てくる。自分のものならそれ程こだわりはしないのだが、今回は特に念を入れて行った。人のものになるので、あまり下手なものにはしたくないのだ。やれやれ、我ながら何とまあ見栄っ張りな事か。しかし、何せこの時は猛暑。まあ、この夏は猛暑でない日など無かったような気もするが。朝のうちに北側にある小さなガレージの隙間で行ったものの、どんどん気温は上昇、やはり例によって盛大にがこぼれ落ちたものである。

 あらためて、塗装である。上部は半透明ペンキの「ライトオーク」を使い、木目を目立たせる塗り方にする。下部は木目を隠してダークブラウンを塗る。ツートンカラーの茶系でまとめてみた。ボトムを濃い色にするのはオシャレの基本である。そして上下をまた合わせてみる。うん、いいじゃないの。この時は盛夏だが、秋を先取りするカラーリングであると自画自賛モードに限りなく突入していくのであった…


 258. スピーカービルダーへの一歩?(10.08.30)

 は工作の季節。とは言え、この夏はあまりにも暑い。容赦なく暑い。倒れそうである。

 しかし今年も作るのだ。何と実は、依頼されたのである。このわしに、スピーカー制作を、である。

 その方には以前、昔作った「BS-89T」をお譲りしているので、わしの腕前がどの程度のものであるかはご理解いただいているはずである。その点では気が楽ではあるが、何せこれまでは自分のためにしか作った事は無いのだ、当然の事ながら。何だか武者震いにも似た緊張感が全身を覆った。正直な話、ヘタなものは作れない。

 さて何を作るか。あまり大げさなものは一般の方には向かないだろう。バックロードのようにどうしてもエンクロージャーが大きくなってしまうものは今回の構想からは外す。そうすると、超・オーソドックスに2ウェイ・ブックシェルフが適正ではなかろうか。見た目には最も一般家庭には馴染みやすい。

 それ程急ぐ必要は無いとの事であったが、夏休み以外にまとまった休日もしばらくは無いので、やはり作ろう。以前からやってみたかった構想がある。それを実行に移そう。

 オンキョーが最近スピーカーの評価が高い。売りは「AERO ACOUSTIC DRIVE」と呼ばれるバスレフ方式だが、よくよく見てみると結局はスリットダクトである。ただ、本体とダクトから下の袴のような部分が色分けされており、見た目の説得力に大変貢献しているのだ。こういったインパクトは重要である。

 そこで、勝手に引用(パクリとも言う)させていただく事にした。バスレフの箱を上下二つにセパレート化して、下部とドッキングさせる事でスリットダクトを形成するわけだ。こうすると確かに、ダクトをエンクロージャーの外に煙突状に出したのと同様になるという事か。なるほど、ダクトへの悪影響は減るかもしれない。

 さらに引用させてもらおう。下部にネットワークを搭載する事だ。いっそ、底板を付けずにむき出しにしよう。そうすれば調整も楽である。袴状にするのだ。窪んだ部分にネットワークは付ける。アッテネーターは抵抗を挿入するシンプルなものにしよう。

 大まかな構想はここまでにして、まずはユニット選定と購入から行こう。エンクロージャーの内容積や、フロントのデザインはどうしてもユニットに依存するのだ。本格的に設計をするのはユニットを実際に見てからの方が良い。あまり高価なユニットを奢っても仕方が無いので、C/Pの高いウーファーとトゥイーターを探す。色々迷った末選んだのが両方ともデイトンであった。「DC130BS-8」というウーファーと、「DC28F-8」がトゥイーターである。ウーファーは13cm口径で、クラシックなフレームを持つオーソドックスなものだ。トゥイーターはソフトドームで3本のねじで留めるところが、何だかディナウディオを想起させる。このユニット達と、ネットワークに使うパーツは一緒に注文しておきたい。

 シンプルに一次ネットワークでクロスオーヴァーさせよう。二次で組んだネットワークの歪み感の少ない緻密な味も捨てがたいが、素直に鳴りっぷりの良いスピーカーにしたい。まあ、当然コストの面も否定は出来ないが…。だいたい2.5kHzをクロスオーヴァー周波数としたかったので、トゥイーターの方はコンデンサを8.2μFにする。ウーファーの方になると、少々ややこしく、このユニットは5kHz辺りに大きなピークが見られる。よくある事ではあるが、これを一次フィルターで消すのは現実的には難しい。常套手段ではあるが、ウーファーの方は1.5kHzから落とす事にする。0.8mHのコイルを使う事になる。前にも同じようなことを試した事があるが、聴感上は全く問題はなかった。2kHz辺りは強いと耳にうるさく聞こえる帯域でもある。むしろ低めくらいが聴きやすくなるのかもしれない。

 また、この2つのユニットは数値上は能率の値が近い。大幅にアッテネーションする必要はないので、簡単に抵抗を直列に挿入するだけでいいだろう。ただ、調整の余地は残したいので3種類の抵抗を切り替えられるような構造にしたい。端子板に抵抗を3つ並べて接続し、ユニット側からの配線をどれかに接続するやり方でアッテネーションする事にしよう。

 構想はどんどん膨らむ。これでスピーカー端子も含めて「横浜ベイサイドネット」にオーダーをするのだ。ユニットが届いたら、本格的に設計に移ろう。


 257. 東京土産(10.08.04)

 実は、ピカリングのままだった。

 現用カートリッジ、ライラ「ヘリコン」を取り付けたヘッドシェルの事である。譲り受けた時からそうだったのだ。そのままでも全く不満を感じない、十全たる音が出ていたからそれほど気にしてはいなかったのだ。だが、たまたまカートリッジとシェルの間に挟む薄いカーボンの切れ端を手に入れ、使用してみると驚いた。ずいぶん変わるものなのだ。結果はやはりそれまでカーボンを使って感じた感想と変わらなく、大変好ましいものとなった。

 そういう訳で、シェルごと交換する事がさらに先延ばしになっていたのだ。ヘタに替えても、この「ピカリング+薄手のカーボン」という組み合わせに勝てないのではないか…そんな危惧も感じていた事も確かだ。

 しかし、時は来た。…って、そんな大げさな話ではなくてたまたまなのだ。東京へ出張に行ったとき、秋葉原に寄ったら見つけたのだ。シェルが安い。この価格では新品でなかなか買えるものではない…チャンスだ、決めてしまおう。ここで買わなきゃ男が廃る。シェルを買わないくらいで廃っていては仕方が無いではないか。

 で、どれにするか。せっかく安いんだから、いいものにしよう。普段なら買わないような。候補に挙がったのが、オヤイデのカーボンシェル2種類と、オルトフォンのカーボン内蔵タイプ「LH9000」。全部カーボンもいいかな…と思ったのだが、ここで貧乏性の虫が騒ぎだしてしまった。気が付いたら、候補の中では一番安かった「LH9000」を手にしていたのだ。あれ?考えてみると、このカーボンを埋め込んだ構造って、今カーボンスペーサーを挟んでいるのと変わらないねえ??…まあいい。とにかく出る音が重要なのだ。

 実際に取り付けてみると、重厚感が出てなかなかいい感じの外観である。全部カーボンと違って、重量もあるのだ。「ヘリコン」というカートリッジに果たして重量級シェルを合わせるのはどうなのか?という疑問が沸々と湧いて出てきてしまうが、とりあえずそれを押し込める。だから、大切なのは出る音なのだ。理屈ではないのだ。理屈じゃないからオーディオは面白いのだ。 

 シェルにはリード線が付属しており、これはこれで単売しているものだろう。しかし、譲ってもらった時点から付いていたリード線はオルトフォンの銀線である。こちらの方が上位だろうから、リード線はそのまま使う事にする。まあ、その方がシェル単体の変化が分かっていいだろう。

 なかなかごつい雰囲気のヘリコンが出来上がった。早速音を聴こう。これまでに比べると当然だが、トーンアームのウェイトが後ろに後ずさる事になる。総重量はかなりのアップだ。

 果たして、音の方もそうした外観および内容に相応しかった。

 どっしりとした安定感。物凄い情報量と軽やかさが持ち味のヘリコンだが、そこにピラミッドバランスが加わり、情報が量だけではなく質も伴って瑞々しい音の渦に包み込まれたようだ。パンチ力が違う。これまではライト級のスピーディーなものだったが、クルーザー級のボクサーなのに、目にも留まらぬスピードを披露してくれるのだ。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という言葉が思わず、口からこぼれてしまう。やはりカートリッジと接触しているのはカーボンなので、そこは素材特有の引き締まって力強くスピーディな音なのだが、あとの重量感などはシェルの影響が強いだろう。重さが効いている部分もあると思う。

 やはりアナログはちょっとした事で音が変わる。まあ、シェルを替える、という事はアナログにしてみればかなり大きな変更かもしれない。それでは、これでカーボンシェルに替えたらどうなるだろう…という好奇心も沸くには沸くのだが、まあそれはそのうち、という事にしておかないとキリがないのでこの辺で。


256.  経験豊富な新人(10.07.04)

 大きいな

 やはり、実際に家に来てみるとやたらに大きく見えてしまう。否、店頭で小さく見えると言うべきか。玄関に着いた、引っ越しの時に使うようなキルティング素材のシートにくるまれたラックは、果たして2階に上がるのだろうかと思わせた。

 良かった。当初一人で配送に来るとの事だったが、二人で現れた。こんなに大きくて重そうなものを運ぶ事は御免被りたいではないか。果たして、二人で2階に上げるのもかなりの苦労を重ねていた。危ない危ない、腰なり背中なりを痛めてしまっていたところだ。

 2階に上げてシートを外すと、店頭で見た時の傷は全てオイルステインを塗りこめたのだろう、全く目立たなくなっていた。ありがたい、これなら自分は何もする必要は無い。パッと見は新品と言っても良いかもしれない。

 部屋の定位置に下ろし、若干ガタがあったのでJ1プロジェクトの蒼い大きめのやつを足下に入れる。これで安定した。それにしても、やはり大きい。スピーカーの天辺より僅かに低い程度である。ずいぶん圧迫感があるものだ。

 機器のセッティングを進める。下から、パワーアンプ、DAC、フォノイコ、プリ、トランスポート、一番上にレコードプレーヤーを載せる。利便性を優先した設置のつもりではあったが、とりあえず聴取位置で眺めてみると、少々見た目のアンバランスさに気づいた。

 上から2段目に図体のでかいトランスポートがあり、下から2番目にちいさなDACがあるので、逆ピラミッドなルックスになってしまうのだ。さらに一番下のパワーアンプも小さめなのでそれを助長してしまっている。変えるか。

 そのままトランスポートとDACの位置を入れ替えてみた。そうするとかなり見た目は改善されたように見えた。縦型ラックを入れる事で、後ろにある出窓からの採光面で弱くなってしまうのだが、できるだけ上の方に小さいものを置く事で光を入れる事が出来た。やはりピラミッド・バランスというものは音だけでなく見た目に関しても重要なのだ。ディスプレイの基本でもある。トランスポートはもう少し上に置いた方が出し入れがしやすいのだが、まずはこれで行ってみよう。プリに関しては、レコードプレーヤーの操作を立ち上がった状態でやらざるを得ない以上、そのままでヴォリュームに触れられる上から3段目という位置は譲れないのだ。

 と言うわけで、セッティングは完了。この機会に接点という接点は全て「soundJulia」のコンタクトオイルで磨いておいた。その効果もあるだろうが、ラックの交換はかなり音に効くはずだ。眼前に立ちはだかる機器類は威圧感たっぷりだが、ラック自体の重量も馬鹿には出来ないものだ。

 だが、出てきた音は意外にも軽かった。あれ?こんなものなのだろうか。いや、そんな筈はあるまい。大体、インシュレーター一枚であっても馴染むのに時間が必要なのだ。ましてやラックごと替ってしまっているのだから、当然エージングに時間が掛かるだろう。コンタクトオイルの馴じみも同様、もう少し様子を見てみようか。

 2、3日が経ち、だんだん焦点が合ってくる感覚を覚えた。大丈夫だ。行けるぞ。

 一週間が過ぎると、思わず「おお」と声に出してしまった。この音の醸し出す「空間」たるや、何と立体的なのか。溜飲が下がるとはこの事か。音の粒が、空気の中に華麗に散りばめられる。音が「見える」。美しい…きっと自分は、だらしなくも恍惚とした表情を浮かべていたに違いない。

 低音がどうの、高音がどうの、という問題ではない。音の「佇まい」音楽の「力」がそこにはあるのだ。少し冷静になって考えると、箱形のラックからサイドが素通しのタイプに変わった事が大きいのかもしれない。これまではラックが箱鳴りを起こしていたのではないか。

 また、集成材とは言え合板ではない木材という、より自然の素材を使っている事も良い方向に働いているのではないか。木という事で、もう少しゆったりした音を想像していたが、良い方向に裏切られた。刺は巧みに和らげられてはいるものの、引き締まった曖昧さのない音である。

 縦型のラックにした事で不安だったのは音場感だった。スピーカーユニットの間にラックの高さが届いてしまうので、どうしても邪魔になると思っていたのだ。それがどうだ。全く意に介さず、より整った音場を提示しているではないか。これには驚くと共に安堵を覚えた。全てがうまく行ったのだ。

 予想が当たったのはレコードをかけたとき。やはりアナログは設置に敏感である。どっしりとした安定感がさらに加わり、よりリアリティが増す。音楽は腰だ。腰の強さだ。

 ラックの交換は、ずいぶん遅くなってしまったが実践して本当に良かった。少々の肉体労働も報われた。中古で手に入れられたので、本当に安上がりなグレードアップを果たす事ができた。


 255. ベテランの引退(10.05.29)

 ずっと前からやりたかったのだが、なかなか実行に移せないでいる事があった。

 何故かと言うと、面倒だからである。肉体労働だからである。ひょっとしたら実行前の方が良いかもしれない、という不安も出るからである。暑くなるとやりたくなくなるからである。

 謎掛けみたいだが、それはラックの交換である。使っているのはハヤミの横長タイプだが、どちらかと言えばAV用なので105cmと幅が少々狭い。これまでもこのコーナーで機器の出し入れに苦労するシーンを何度か描写したように思う。今使っているプリとフォノイコに関しては「よく入ったものだ」と思うくらい、横方向に数ミリの空間しか無いのだ。

 とは言え、本格オーディオ用の横型ラックにすると横方向の空間に余裕は出来るものの、左右スピーカーの間隔を拡げるには限界もあるのだ。大体15cmは拡げなくてはならず、これはかなり厳しい数字だ。

 クアドラスパイアにはAV用として108cmくらいの横長タイプがある。中央に仕切りがないので、広くとる事が出来るし、レイアウトも柔軟性が出てくる。これはなかなか良いのではなかろうか…と思った。

 当然縦型という選択肢が最も妥当だろうか。しかし今度は、果てしなく背が高くなってしまうという難点がある。一番上にレコードプレーヤーを設置するわけで、いちいち踏み台に登ってレコードをかける、などという事になってはあまりにも悲しいではないか。棚板は多め、全高はなるべく低く、という難しい条件になる。

 一番お買い得なのはタオックの一番廉価なタイプに棚板と支柱をプラスする、というやり方だろう。しかし正直な話、どうもタオックのラックには食指が動かない。やはりデザインがピンと来ないのだ。それなりの金額を払うのだから、そういった満足度は重要である。

 デザインと言えばクアドラスパイアの他にはMusicToolsがある。一段ずつ積み重ねていくスタイルはなかなか格好も良く、棚板はガラスだが合わせなので叩いても鳴かない。満足度は高そうだ。ただ、それなりに積み重ねていくと大変な金額になってしまう。最近のラックはかなりお値段高目なのだ。

 と言うわけで、いつも頭の中で堂々巡りをしているだけで時間だけが無為に過ぎ去って行ったのであった。もっとも、買い物と言うのは妄想している時が一番楽しい。妄想には金もかからない。

 そんな状況にクサビが打ち込まれる事になった。こういった事が起こらなかったら、ずっとラックは替えずにいたかもしれない。そう、「出物」の登場である。いつも午前中に出掛ける大須だが、その時はたまたま夕方に顔を出していた。「ハイファイ堂」の奥の方に、まだ持ち込まれて間も無い縦型のオーディオラックがあったのだ。

 ADK。大定番である。候補に入れてもいたのだが、新品で買うには少々トラディショナル過ぎるだろうか…と思っていたのだ。中古なら悪くない。傷は少々多かったが、まあ仕方がないか。この程度ならオイルステインでも塗り込めば誤魔化せそうだ。またいつものように、形式的に儀式的に「うーん」と迷ってから購入を決めた。それにしても、たまたまこの日遅い時間に来店した事でラックに出会う事が出来た。運命というやつだろうか。

 納期を一週間後の日曜日と決めておいたので、それまでにある程度は部屋を片づけておかねばならない。そう思いながらも平日はやはり大した事は出来ず、結局土曜日からレコードや雑誌を移動したりし始める事になった。まあ、当日にならないと出来ない事が多いのも確かだ。

 そしてあっという間に日曜日。朝から大変である。まず、機器類を隣の部屋へ逃がさないといけない。パワーアンプが全く重くない事はこういう時ありがたい。レコードプレーヤー、CDトランスポートが少々重い程度だ。とりあえず布団を引っぺがしたベッドに置いておく。今度は空になったラックを引き出す。12年間ありがとう。このラックには歴史がたっぷり詰まっていた。様々な機器の変遷を、自分と共に見てきたのだ。これまでの試行錯誤を、静かに見守ってくれていたのだ。

 ラックを退けた跡は、やけに床面が綺麗だ。畳ほどではないが、色艶が全く違う。ラックの裏側だった部分は対照的に埃まみれである。しかし掃除機をかけると見違えるようになった。準備万端。さあ来い。

 4時。満を持してADKはやってきた。


 254. グルーヴ・チューブ(10.05.06)

 久し振りの、物凄く久し振りの新ネタである。

 2010年を迎えてからあまり動いていなかったが、遂に着手したのだ。やはり人間、そうそう大人しくしてもいられないのだ。

 年度も改まった4月上旬、前々から試してみたかった事…真空管の交換である。昨年手に入れたプリアンプ、ホヴランド「HP100」は音楽性とオーディオ的快楽を両立させた素晴らしいものだが、使われている真空管(12AX7、12AU7)は現在最も普及していると言っていいロシア製ソヴテックである。やはりもう少し違うものにしてみたい。以前使っていたサウンドパーツのプリにはムラードが標準で差してあり、芳醇な音を奏でていた。またムラードを使ってみたいが、高価でもあるし別のものも試してみたい。

 そこで見つけたのがRCA社の5751。12AX7の互換球である。ムラード程高くはないが、メジャーなブランドである。正直な話、どういう音質傾向かは不勉強にして知らないのだが、アメリカ製という事だからそういう音(元気があるとか、そういった)ではないか、と勝手に想像してみた。

 天板を開けるため、星形レンチを既に手に入れていた。これがようやく役に立つ時が来たのだ。幅の狭いラックから、側面をぶつけないように取り出すのも手慣れたものである(?)。最初にネジを回す時には少々緊張する。「メーカーのメンテが…」という極々僅かながらの不安だったり懸念だったり。しかし、ホヴランドという会社は昨年倒産してしまったのだ。自分が手に入れた直後にそうなってしまうのも何かの縁という言い方も皮肉ではあるが、つまりはもう自由にしても構わないという事だ。

 天板を外して内部を見る。整然とした、しかしレヴィンソンのような直線的に無機的に配列されたという感じでもなく、数多のノウハウに基づいて人間の手で成されたものではないか、と思わせてくれるレイアウトが眼前に拡がった。美しい。音の良いアンプは中身も姿が良いのだ

 真空管は真ん中辺りに差されていた。そこから12AX7を2本抜き取り、新たにRCAを差し込む。球の足には事前にJuliaさんの接点オイルを塗ってある。再び天板を閉じて、ラックに戻してセッティング。この「戻す」作業がつらい。ゆっくりゆっくりと押し込んでいかないと当たってしまう。幅の狭いラックと言うのは不便なものである。本当は端子など接続部にも接点オイルを塗ろうかと思ったが、条件を出来るだけ揃えて聴きたいので見送った。まあ、以前塗ってからそれ程経ってはいないので、問題は無かろう。

 肝心の音。濃い。濃いぞ。パワフルで厚く、熱い。これは「まさに真空管アンプの音だ」と素直に感嘆した。ジャズやロックにはうってつけの太い音だ。音楽が実に楽しい。演奏のノリが違うのだ。ミュージシャンの熱い演奏に、思わず拍手を贈りたくなってくる。確かに高域の繊細感が僅かに後退したかもしれないが、それがどうした。得るものの方がうんと大きいのだ。足りないところはセッティングの見直しやケーブル等で何とでもなるだろう。なぜもっと早く試さなかったのだろう…と思うほどだ。

 実は少し前から「サー」というノイズが多くなってきていた。これは真空管の所為だろうか…と思っていたのだが、交換する事でノイズは殆ど聞えなくなった。やはりそうだったか。ノイズの解消も音質向上と共に大変嬉しいことだ。

 と、言うわけで価格からしたら大変コストパフォーマンスの高いグレードアップを果たす事が出来た。もう1本替えていない12AU7も交換したらどうなるか…まだまだ楽しみは後にとっておこうか。



 253. デジタル人間(10.04.13)

 世の中、配信だのPCオーディオだの花盛り(と言うほどかどうかは疑問だが)の状態、CDなどもはや旧世代の遺物と化すのではないかという勢いではある。でも個人的には何だか味気ないですな。そもそも、パソコンというのは「今まで不可能と思われていた事をいとも容易く成し遂げる、夢のキカイ」ではなかったのか、と思うのだ。わざわざそれで音楽まで聴くというのは夢の無い行為のような気がしてしまう。ちょっとつまんでみるのは悪くは無いけれども、メインに据えたくはない。オーディオとは夢のある趣味だと思うからだ。

 少々話が逸れたが、今回はその「旧世代」のCD周りについて。機器はそのままで、持てる力を最大限発揮させてあげたいではないか。あくまで自分にとっての「最大限」という事だが。

 まずは去年の夏の話。CDトランスポートからDACに伸びるデジタルケーブルはカルダス「ライトニング15」を使っている。アナログチックな音で大変心地よい音だが、厚み優先で伸びに欠ける気がしないでもない。また、カルダスはアナログ系は大得意だが、デジタル系は色付けが多いと言う評価もある。ここを変えたらどうなるか、に興味が湧いた。

 以前から興味があったのはワイヤーワールドのデジタル。云わば定番だが、それだけに気になるものなのだ。特にこのブランドはモデルチェンジのスパンが短く、型落ちが出回りやすい。ちょうどそんなタイミングでもあった。狙い目なのだ。

 だが結局手に入れたのは「シルバースターライト」の中古であった。とは言え、当時出回っていた型落ち新品と同様のヴァージョン5.2である。有名なのはその上位機種「ゴールドスターライト」だが、さすがにこちらは高価。それに個人的にはあの金ぴかの被覆が好きではないのだ。どぎつい音がしそうではないか。見た目も大いに気にしたい。

 ぶっといカルダスの「ライトニング」からスマートな(それでも太い方だが)ワイヤーワールドに交換する。デジタルケーブルの交換は1本だけな上に、電源を入れっ放しで作業出来るので楽なものだ。

 出てきた音はレンジの広さを窺わせるものであった。なるほど、確かにオーディオ的にはこちらに軍配が上がる事は間違いない。解像度が高くて力強く、澄みきった音だ。そしてワイヤーワールドらしく元気がある音だ。比べるとカルダスは心持ちナローレンジにはなるものの、中低域が厚くて豊かな音だ。どちらにも良さがあって捨て難かったのだが、よりニュートラルなワイヤーワールドにしよう。デジタル部はその方が良いような気がしたのだ。カルダスはアナログ部で活躍してもらうのがベストだろう。そうしてどちらの美味しいところも戴くとしよう。

 デジタル周りでもう一つ。これは比較的新しく、年末頃の話だ。

 DACの電源ケーブルにはワイヤーワールドの「エレクトラ」を使っているが、全く同じものを中古で見つけたのだ。思いついたのはこれをトランスポートにも使ってみよう、という事。これでデジタル周りはワイヤーワールドで統一されるわけで、どうなるか大変興味があったのだ。

 トランスポートには当時、アコリバの「パワーマックス」に替ってSQI「EXC-SP490SQT」で作った電源ケーブルを差していた。以前ラインケーブルを作った余りでやってみたら、予想外に良かったのでそのまま使っていたのだ。アコリバとの価格差を考えれば、大変コストパフォーマンスの高いケーブルと思う。

 しばらくここには日本ブランドのケーブルを差していたので、特にバタ臭いイメージのあるワイヤーワールドを差すとどうなるか…

 元気の良さと、少し豊かさがプラスされる結果になった。音色の好ましさはやはりワイヤーワールドだ。しかし、あらためてSQIの実力も確認出来た。僅差でワイヤーに軍配は上がったものの、決して劣るものではないのだ。日本ブランドのケーブルとしては、力強さがある。また使う事もあるだろうから、手元に残しておきたい。

 あまりワイヤーワールドを多用すると高域がうるさくなってしまうだろうか…という懸念は、杞憂に終わった。むしろ「繊細にして豪快」なシンバルが大変素晴らしい。全体的にも丁度良い具合に「ほぐれ」てきて正解だ。CD系もケーブルだけでまだまだチューニング可能である。



 252. 犬笛(10.03.10)

 このように毎回とりとめも無く書きなぐっていると、自分のオーディオは一体何処へ向かって行こうとしているのか、諸兄には大変理解しづらいことだろう。目的は「自分の音のさらなる追究」なのだが、まあその過程が物凄く楽しい事は言うまでもない。それでも、これまでやって来た事が伏線となっていて最後全てのパズルのピースが揃う…などという綺麗な事になったら、さぞ恰好良いだろう…とは思う。

 しかし、オーディオに完成など無い事は先刻承知。伏線にもならない事が多いのだ。

 それでも色々やってみよう。今回はお盆休み最中の話である。

 ネット上の家電量販店サイトでも、オーディオを扱っていることもあって、これがなかなか面白い。ついついクリックしたくなる事が多く、自制心が重要になってくるところだ。それでも時には自制心を解放してあげよう。

 ちょっとした金額で試す事が出来る、ということは重要だ。クリックして手に入れたがスーパートゥイーター。いや高価なものではない。テイクティの「BATPURE」という小さな小さな代物である。実売で5,000円もしないので本当に気楽である。

 とは言え本体は大変小さいため、見た目のありがたみはどうしても薄くなってしまう。そうなると効果の程はいかがなものか、それのみが重要になってくるわけだ。20kY以上しか出ないので、殆ど音自体は鳴らないことになる。果たしてどうなるのか、ならないのか。

 両端に小さな端子がついている。ここにケーブルをハンダ付けしろ、というわけだ。今回もケーブルはブラックロジウムの細い錫メッキしたものを使う。ハンダが乗りやすいので重宝する。当初はiConを使ったパソコンのオーディオ側に繋げるつもりだった。FE83Eユニットに付け加えるのだ。しかしやはりまずはメインで試してみたい…そうしてみよう。マニュアルにも「能率は70dBと低いですが、100dB以上の高能率スピーカーに繋いでも効果はあります」と自信たっぷりに書いてある。やってみようじゃないの。

 繋げた線をパラレルに168ESメインスピーカーの端子へ。既にYラグとバナナプラグが刺さっており繋ぎ場所がないのだが、バナナプラグの隙間にこじ入れた。しっかり接触したので問題は無いだろう。ネックレスのようにホーントゥイーターに掛けて垂らしてみる。うん、これでいいんじゃないか。

 最初に音を聴いて「なるほど〜」と思った。別にシンバルがシャキシャキ鳴るようになったわけではない。逆に大人しくなったかもしれない。言い換えれば滑らかに、ナチュラルになったのだ。音が自然に伸びていると、妙な強調感が無くなるという事だろうか。

 一番感じたのは音場の広がり、ハッキリした音像、前後感、立体感…そういった曖昧さの無い音の「佇まい」に強く効果が現れている事だ。これはやはり昨今のスーパートゥイーターを付加した効果と全く同じである。「音」としては全く聴こえない帯域が全体に及ぼす影響。いや、大変興味深い。



 251. トゥシューズ(10.02.12)

 複数のストーリーを同時進行させているかに見せて、実は微妙にずらしていた…というトリックは現在大好きな作家の一人である伊坂幸太郎が得意とするところではある。しかし、わしの話はただ単に思い出したところから書いているだけの事である。老人か。

 さて今回は春から夏へと季節が移り変わろうとしている時期の話である。いや、実際はいつの事やら全く思い出せなかったのだが、写真を撮った時期がそうだったというだけだったりする。

 その時大須をフラフラしていて、たまたま見つけたのがジェフ・ロウランドのスパイクであった。つまり、我がパワーアンプにも使える云わば純正の足である。スパイクと言っても形状は色々あるが、こいつはかなり鋭角に絞り込んだ形をしており、なかなかに美しい。シャンパンでも注ぎたくなってしまう。スパイク受けの方が無いという事で、割安になっていた。まあ買ってみますか。

 買って帰って家でよくよく見てみると、ジェフ専用でもないことが分かった。ジェフ用はゴム足と同じ大きさのくぼみがついている筈なのだ。調べてみると、汎用タイプとの事だった。まあいいか。とにかくセッティングだ。

 しかし、これがなかなかに困難を極める作業だった。4本の足を同時にスパイクで立たせる事は、ほぼ不可能に近い技だったのだ。甘くみていた。何度もスパイクは転がってしまい、このままではアンプ側に傷が付いてしまう可能性もあった。まずい。汗がにじむ。

 仕方がない。力技に出るとするか。つまり、スパイクと足の接触部分に薄手の両面テープを貼り、無理矢理立たせる事にしたのだ。結果は見事成功。ビシッとアンプは屹立した。

 次にスパイク受けだ。元々足の下に敷いていた黒檀のスパイク受けを使う。早速鳴らしてみよう。

 …うーむ。微妙かも。確かにスパイクを使うと低域が締まり過ぎて出なくなったように聴こえる事が多いが、あまりにもか細い低域になってしまった。失敗だったか。

 とりあえずスパイク受けを退けて、タングステンシートに直接スパイクを突き立ててみた。少々大人しめの音にはなったが、この方がまだマシだったので、まずはこれで行こう。スパイクを使う前と比べてどうだったかは、一長一短といったところだろうか。音場の立体感はスパイクを使った方が出やすいようだ。しかしもう少し中低域の量感が欲しい。ベターなスパイク受けを探すとしよう。

 とは言え、そのために高額なスパイク受けを購入するのも何だか本末転倒な気もする。せっかくスパイクは安く手に入ったのだ。ケチになろう。そういうわけで見つけたのが「リラクシン」オリジナル(店主お手製)のハイブリッド・スパイク受けだ。スパイクと接触する部分は真鍮で、その下は黒檀、さらにその下にステンレス、一番下にはフォックという4層構造である。

 かくして結果は満足の行くものとなった。言ってみれば、焦点がビシッと合う感覚を味わう事が出来たのだ。金属同士の接触なので音を殺す事なく、しかし派手になりがちなところをその下の層でうまく相殺している、そういう感じなのだ。安定感のある低域に、美しく散乱する高域。立体感のある音場。まさにグッド・バランス


 250. 金色の参照(10.01.13)

 もう、話はあちらこちらへ飛びまくるのである。許して…

 今回は…そうそう、お盆休み初日の事である。見つけてしまったのだ。ラインケーブルなのだ。カルダスなのだ。しかも「ゴールデンリファレンス」なのだ。しかもしかも、中古ではあるものの、かなり割安なのだ。もちろん、相対的にではある。

 新しく手に入れたホヴランドのプリ〜Jeffのパワー間に使われている同じカルダスの「クワッドリンク」からグレードアップするのに、これ程うってつけのものはあるまい。ただ、あまりにも大きなジャンプアップではある。いくら最上級モデル「クリア」が登場したとは言え、何年もフラッグシップを張っていたものだ。本当はもっとゆっくりとそこへ到達したい気持ちもある。何だかあっけないではないか。以前バランスケーブルを使っていた時代は「クワッドリンク→クロス→ゴールデンクロス」という模範的(?)なグレードアップをゆっくりと行なってきた。

 もっとも、もうカルダスについては大体分かっているので、そういった試行錯誤は必要は無いのかもしれない。ゴールデンリファレンスは電源ケーブルだけで、ラインを使うのは初めてでもある。悪くなるわけも無いし、相性についてもカルダスは良好であることが今回も納得出来ているので、むしろリスクの殆ど無いグレードアップであるのだ。あとはカネを払うだけの問題である。

 そういうわけで、ゴールデンリファレンスはわしのものとなった。それにしても、リファレンスシリーズというのは何故艶消しの被覆なのだろうか。特にこいつは黒に限りなく近いグレーなので、ただのゴム管にしか見えないのだ。まあ「見た目など関係ない」と言われればそれまでだし、昨今無駄に派手なケーブルも多い事を思えば妥当な外見なのかもしれない。それでも、下位モデルである「クワッドリンク」の方が艶のあるブルーの被覆で格好はよく見える。そんなわけかどうかは分からないが、写真を撮りそびれてしまっていた。

 「クワッドリンク」に替えて「ゴールデンリファレンス」を差し込む。暑い中での作業はつらい。が落ちる。縦型のラックにした方がやりやすいのかもしれない。ラックの裏はケーブルでぐちゃぐちゃである。接触させずに配線など、殆ど不可能なのだ。

 とにかく音出し、音出し。カルダスの場合、エージングがかなり必要である事は分かっている。だがRCAラインケーブルはバランスケーブルと違って無理にねじ曲げる必要は無いので、そこまで長くはかからないだろう、という目算もあるのだ。

 やはり、と言うべきか、出てきた音は期待を裏切らなかった。思わず「さすが…」と声が漏れてしまう。濃厚にして芳醇、しかもダシの効いた美味さを感じさせてくれるのは、まさに匠の技と言ってもいいだろう。「音楽がそこに、ある」のだ。再三言っているのだが、カルダスというのはまさに「歌う紐」なのだ。生きている脈動が、音楽を通じて聴こえてくるのだ。いや、聴こえるのではなく感じるのだ。ホヴランドにはやはりゴールデンリファレンスの電源ケーブルが刺さっている。さらにラインケーブルも同様のものを使う事によって、いっそうキャラクターが強化されたとも言えよう。このプリを導入した当初は「真空管だから、シャープな音のケーブルでバランスをとったほうがいいかな…」などと考えたものだが、思いの外カルダスだったのだ。ホヴランドは実際には少々高域の元気が良いので、カルダスのような上手く馴らすタイプのケーブルを使った方が成功しやすいのではないかと思う。

 あとはCD〜プリ間だが、これはスペース&タイムvsカルダス「クワッドリンク」の戦いになる。これは両者それぞれメリットがあり良い勝負だったのだが、やはり中低域から中域の厚さでカルダスを選択した。若干高域が大人しくなるが、これからの課題にしよう。まあ、これはもっとも昨年8月の話なので現在どうなっているかは、まだ内緒という事で…


 249. トランスの音は(09.12.16)

 ここで話はまた、超絶カートリッジ「ヘリコン」を手に入れた時に飛ぶ。

 同時に手元に来たのが昇圧トランス、アントレー「ET-100-2」であった。「トランスの音」を聴きたかったことは以前述べた通り。また、このトランスはインピーダンス切替えが出来るので、何かと便利なのだ。さらに入力も3系統あって、それぞれの内部配線に使われているケーブルが異なる、という大変マニアックな仕様になっているのだ。とは言え、そんなに入力は必要ない上に、接点が増えてあまり良くないような気もする。

 とにかく試聴だ。接続の前に、「Julia」のコンタクトオイルで端子を磨くのだが、いつまで磨いていても汚れが綿棒に付着してくる。やはり積年の汚れはなかなかしつこいようだ。

 まず、せっかくの機能なので内部配線の違いを確認してみようか。トランスとアンプとは余っていたカナレのラインケーブルで繋ぐ。アース線も昔スピーカーケーブルで作ったものがある。入力の種類は普通の銅線(タフピッチ?)、OFC、LC-OFCと時代を感じさせるラインナップ。とりあえずタフピッチに接続し、音を出す。

 うむ、悪くない。とは言え、トランスを繋げる前と比べて劇的に変化したわけでも無く、一長一短と言ったところだろうか。もう少し身のギュッと詰まった音を期待していたのだが、逆に爽やかと言っても良いような音だ。このトランスのキャラクターかもしれない。

 入力をOFCに繋ぎ変えてみる。鮮明感が増し、力強さや太さも出てきた。確かにこの方が良さそうだ。さらにLC-OFCにしてみる。明瞭な高域寄りの音で、これはこれでキャラが立って良いかもしれないが、少々耳障りかもしれない。ジャリっとした感触を覚えるのだ。

 というわけでOFC固定に決定。鳴らし込んでいくと中域のしっかりした充実感が得られ、いわゆるトランスらしさも垣間見えてきた。レンジの面でフォノイコ直結よりも物足りなくなるのは、ある程度仕方があるまい。とは言え、何とかしたくなってきた。

 フォノイコへのケーブルを替えてみたい。それ程高価でないもので効果的なものを…と、ハイファイ堂で探してみた。見つけたのはSpace&Time「RSC REFERENCE」。ホヴランドを導入した時の記述で既に登場しているが、この時に購入したものだったのだ。まだ6Nを使っている時のもの(現在は8N)で何世代か前のモデルだが、シースのしっかりした作りはかなり高級感がある。結構お買い得かもしれない。

 しかしこのシースがくせ者だった。何せ曲がらないのだ。トランスのように小さなものに接続するには向いていなかった。ぶんぶん振られてしまって、真っすぐ設置出来なくなってしまった。仕方なく斜めに設置するという照れ臭い事になりながらも、音を出さねば。

 お、苦労しただけあって音はなかなか良いではないか。明瞭感が出たお陰で、心なしかレンジも拡大したように思える。それでいて太さや厚さも出てきたので、とりあえず満足である。やはりお買い得であった。でも取り回しのしづらさは何とかならないものか…

 結局ケーブルの音を聴きたいが為に機器を増やしているのではないか、という疑問も持ちつつ時は過ぎ、ホヴランド購入と相成った時にトランスを外してしまった。そう、このスペタイのケーブルをDACからプリへの接続に転勤させたからである。

 浮いてしまったトランス、しかしまだ登板機会はあるだろう。外してしまってから少々悔やんだのが、モノラルカートリッジ「CG25Di」を繋いだ時は、明らかにトランスの方が良かった。本来ローインピーダンスなのだが、出力が高いのでハイインピーダンスにトランスを切り替えると、これが抜群だったのだ。やはりオルトフォンはトランスが相性が良いのだろうか。

 ある時トランスの中を開けてみた。OFCのケーブルが一番太く、やはり良い音がしそうである。ただ、切替えが2段階もあるので何となく音に悪影響ではないかという気もしてきた。インピーダンス切替は便利なので残しても良いが、入力は一つにまとめてしまっても良いだろう。それだけでかなりの音質向上に繋がる筈だ。ケーブル自体を変えてしまっても面白いだろう。端子も新しいものにした方が良さそうだ。

 などと、端子まで買って改造に備えてはいるのだが、思い立ってから早数ヶ月。まだ何もしていない。困った事である。


 248. アナログの極北(09.11.20)

 人間の記憶というのは、まことにいい加減なものである。

 前回「時系列順に語る」云々と偉そうに言っていたのだが、早くも嘘をついていたことが判明してしまった。今回は昇圧トランスについて話すつもりだったのだが、そこで「あれ?」と首をかしげる事になった。その前に話しておくべきことがあったのだ。

 まずは、既に「円盤日記」で書いている事ではある。読み返すと2月、まだ冬の最中のことである。現在11月である事を思えば、記憶が薄くなっていても致し方のないところだろうか。

 ビートルズ「リボルバー」のモノラル・オリジナル盤を手に入れ、抑えきれない興奮の中でモノラル針である「SPU-MONO」を取り出そうとしたのだ。元箱である赤いケースからカートリッジを引き抜く。この箱、ずいぶんとタイトにホールドしているので少々力が必要なのだ。そして針カバーを取り去るのだが、この時点で嫌な感じがした。カバーがいつもより深くはまっていたのだ。何となく苦々しい気持ちでそのカバーを取ると、嫌な気分は衝撃へと変った。

 カンチレバーが無い

 見事に針先は折れていたのだ。カバーの方に落ちているカンチレバーはもはやうち捨てられた鳩の死体のように目には映って、それが物悲しさを強調していた。ケースに入れる時も、いつも少々力を込めて「ぐいっ」とばかりに押し込んでいた事を思い返す。それで、カバーの底にカンチレバーは押し付けられ、人知れず折れていたというわけだ。オルトフォンの針は丈夫だと過信していたのだろうか。あっけない、真にあっけない最期であった。

 仕方がない、代打だ。持っていて良かった、「DL-102」である。こいつも元気があって、なかなかよろしい。ビートルズという事もあり、逆に向いているとも言える音だった。しばらくこいつで行くしかあるまい。十分と言えば十分だ。これを聴くと、「SPU-MONO」は少々大人しかったかもしれない。

 そういうわけでモノラル用にはしばらく「DL-102」で糊口をしのいだ。決して悪くはない。いや、上々だった。とは言え、それは決して長い時間ではなかったのだった。

 「CG-25Di」。こいつを見つけた時は素直に「欲しい!」と思った。4月の頃だっただろうか。正確な時期はもう記憶にない。現行は末尾に「」が付いているが、それでもまだ新しいものだ。「i」の付かない当時のものは高値安定している上に、経年劣化の事を考えるとリスキーですらある。それでも当時のものを求める人が多いのは、現在モデルである「i」では出せない音があるという事だろう。しかし、自分は確実な方を採りたい。

 そういうわけで、モノラルファンなら是非とも持っておきたいアイテムが手に入った。こいつのスペックは、と低インピーダンスだがその割に出力が大きい。MMで出すか、MCでもハイインピーダンス設定にして出すか…なかなか迷うところである。ちょうどこの時期、専用昇圧トランスの販売がスタートした。この組み合わせは至高の音を奏でると言う。是非そのうち手に入れたいものだ。

 とにかく、安全にMMで出す事にしてアームに装着。モノラルは上下の動きが必要ないので、カンチレバーにダンパーが無い(ように見える)。本格的である。つまりそれは、ステレオのレコードはかけられないという事を意味する。つまりつまり、ステレオかモノラルか、しっかりと見極めてからにせねばならないのだ。何と刺激的。

 一撃でやられた。その音に、である。これは「凄い」音だ。2本のスピーカーのど真ん中から音が迫力と説得力をもって、こちらに飛びかかってきた。まさに至近距離に、「音楽」があるのだ。うるさくなる1歩手前で節度を持って形成された音。がさつなようでいて、品を兼ね備えた音。こういう音は現代のカートリッジからは絶対に聴く事は不可能だろう。ドラムなど、トタン板に雨が降っているような音にも聴こえるが、演奏のグルーヴ感を見事に伝えてくれ、楽しくて仕方がない。そんな大ざっぱな音なのか、と言われそうだがここでジュリー・ロンドンなど聴いてみよう。うわあジュリー様、何と色っぽい事か。「ぞわっ」と来る、匂い立つようなその色気。昇天、である。

 あたためて、あらためてだが「モノラルは凄い」との認識を新たにした。片っ端からモノラル盤を取り出して聴く楽しみが出来たし、それからモノラル盤を見つけると喜んで買ってしまうと言う、財布を軽くする事に貢献(?)する事にもなったのであった。


 247. アナログの極地(09.10.23)

 何から話せば良いのやら。

 ネタはあるにはあるのだが、何せテレビ台作ったりプリアンプ買っちゃったりしたので、その間の様々な事が置いてけ堀になってしまったのだ。前回のカーボンネタも実は半年以上前に7割方は書いていたのだった。

 やはり時系列順に語るべきだろう。

 話はそう、プリアンプを買う以前、テレビ台完成後あたりだろうか…に遡る。知り合いからアナログ関連ものを安く譲り受けられるという幸運に恵まれたのだ。このようなチャンスはそうそうあるものではない。急な話ではあったが、ありがたく利用させて頂こう。

 と言うわけで、少々迷った末にチョイスしたのがカートリッジでライラの「ヘリコン」と、昇圧トランスのアントレー「ET-100-2」である。前者はやはり現代カートリッジの代名詞とも言える存在、一度は使ってみたかった逸品だ。トランスの方は、確かにフォノイコの方でMCに対応しているものの、いわゆる「トランスの音」を聴きたかったのが選んだ理由である。他にもオルトフォン「MCジュビリー」など凄そうなものがあったが、いくら格安とは言え高価なものばかり。いきなりそんなカネは無い。それでもついでと言うわけではないが、アタッシュケース型のカートリッジキーパーも戴いた。これが結構重宝するものなのだ。しかもこの手のモノは数が出ないから当然なのかも知れないが、普通に買おうとすると変に高額なのだ。

 「ヘリコン」の音は聴いた事が無いわけではなかった。下位機種である「ドリアン」と聴き比べたのだが、ジャズには「ドリアン」、クラシックには「ヘリコン」かな…というのがその時の印象だった。音調の好みではドリアンなのだが、ヘリコンには「涼しい顔をして全ての音をえぐり出してくる」ような能力の高さを持っていると感じたのだ。さて我が家で、その実力はどれだけ発揮されるのか。

 シェルは安価なピカリングのものに、オルトフォンの銀線リードワイヤーが付けられていた。シェル交換の楽しみは将来にとっておくとしよう。まずは音出し。針圧は推奨値である1.68gに合わせる。

 音は、やはりさすがであった。深いところから掘り起こしてくるような、そんな音。どちらかと言うとクールなイメージを持っていたが、決してそうでもない。大げさにはしゃいだりしないと言うだけで、エモーショナルな表現はむしろ得意ではないかと感じた。あくまで大人の、感情表現。解像度や分解能といった、オーディオ的な表現に秀でているような評価をされる事が多いのだが、あまりそれが際立っている印象はむしろ少ない。音の奥に秘められた感情を、こちらに直接伝えてくるような、音楽的な表現の方に秀でているという印象を強く受けた。これが多くの人に支持される理由なのではないか。ジャンル的にも、以前聴いた印象よりもジャズだってかなり良い。結構ガツン!と来るのだ。元々自分のシステムがそういう方向に向かっているので、それを助長するように働いてくれたのではないか。

 さすが、素晴らしいカートリッジであった。「今まで出なかった音が出る」という言い方があるが、それだけではない。「今まで出なかった『思い』が出てくる」とでも言うべきか。それはオーディオと言うものの本質に迫っている要素ではないか。思わず涙が出そうになる。

 もっとも、それまで使っていたベンツマイクロ「ACE」も価格の割に良いカートリッジであることも同時に確認できた。「音」だけに関して言えば、それ程大きな差は無いのではないか。コストパフォーマンスに関してならばピカイチだろう。ヘリコンより好ましいのは、明るさがあることだ。生き生きと、音楽を伝えてくれる。

 とは言え、ヘリコンの音を聴いてしまうと戻れなくなってしまった事は確か。やはり良いものは良いのだ。1つの基準となるカートリッジと言えるだろう。

 あとはトランスだ。次はこれを繋いで聴いてみよう。


 246. 枝葉末節も馬鹿にしない(09.10.01)

 学生時代、一応剣道部だった。

 青春小説をいきなり書き始めたわけでもない。「一応」と言うのは、補欠にも入れない弱い部員だったからで、あまり威張れた事でもないのだ。それはともかく、竹刀は消耗品であった。本当に消耗した。下手をすると一日で折れたりもするのだ。折れないまでも、ささくれ立ってきたりする。それを削ったり蝋を塗ったりと、少しでも破損を先延ばしにするという涙ぐましい努力をしていたのだ。

 そんな中、羨望の的だったのだが「カーボン竹刀」。「折れない竹刀」としてまさに画期的な存在だったが、何せ高価だった。だから学生の身分では、いやいやこの剣道の実力では勿体ない、と持つ事は結局無かったが、考えてみるとランニングコストで見れば安かったのかもしれない。ちなみに竹の色に着色されており、あのカーボンらしいチャコールグレーではない。妙にしなって当たると「ぐにゃり」と曲がる竹刀であった。

 そんな与太話とは全く関係もなく、現在わしのマイブームはカーボンである。あの重量の軽い素材で、何故あんなに重量感たっぷりの音になるのか。よく素材同士を鳴らしてみれば、その音がオーディオの音に付加される、などと言うがあれは嘘に違いない。カーボン同士を鳴らした時に出る「ぺしぺし」という何とも軽薄な、いやカタカナで「ケーハク」と表現したい程頼りない音なのに、いざこれを機器の下に敷いたりすれば「重厚」かつ「力強い」音になるのだ。しかも嬉しいのはそこに「うた」がある事だ。音楽がちゃんと鳴るのである。そこが重量に任せただけの素材とは違いがあるのかもしれない。

 最近、高級な電源ケーブルのプラグに、カーボンをあしらったものが見受けられる。まあ、デザイン的な面もあるだろうが、実際に音に効いている気もする。カーボンアクセサリを販売している「soundJulia」でもプラグの全てにカーボンパイプを装着している。全てにやっていてはかなりの出費になってしまうが、少しは試してみたいものだ。そこで、今回はこのカーボンパイプを使って電源プラグの強化をしてみよう。

 とりあえず2つパイプを買ってきた。どこに付けてみようか。やはり全てに影響する部分が一番分かりやすいだろう。という事で、アンプ側のタップを壁コンセントに接続しているケーブルのプラグに試してみよう。ここにはワイヤーワールドの「シルバーエレクトラ」を使っている。プラグはハッベルのものだ。「Julia」の店長にも言われていたが、マリンコなどは少し隙間が出来るくらいなのだが、ハッベルはかなり力を入れて押し込まないと入って行かないようだ。教えられた通り、まず2つのパイプを繋いでテープで巻き、押し込みやすい状況を作った。プラグにあてがい、ぐいっと思いっきり力を込めて押し込む。

 …駄目だ。途中までしか行かない。これでは中途半端だ。とは言え、もはや抜く事も出来ない。しっかりと嵌まってはいるのだ。まずい。前進も後退も不可能。テープを剥がし、一個にして突き出た部分を金槌でかんかん叩く。ほんの少しは入ったような気もするが、あまり状況は好転しない。次はプラグ自体をやすりで削ってから押し込んでみる。…駄目だ。いかん。気が触れたように金槌を振るう。ついでに奇声も上げたくなった。例によってが額から頬へ、幾筋にも渡って垂れて行く。そんな努力をあざ笑うかのように、カーボンパイプは微動だにしなくなっていた。

 降参。もうこうなったら切断しかあるまい。確か金属も切れる小型のノコギリが…あったあった。まあ、カーボンなら金属を切断する時に出る特有の金切り声(まさに文字通りか)も出まい。ゴリゴリゴリ…と文字で表すほど重みのある音も出ず、塩ビ管でも切っているような感触であっけなく切断されていくカーボン。この粉末はあまり身体には良くないだろう。
 切り口は今一ついい加減だが、とにかくこれでコンセントプラグとしての機能は戻った。物凄く、ホッとした。さあ、元通りfimのコンセントに差し込んで、試聴だ。随分汗をかいてしまった。

 いいじゃないの。掻いた汗の代償としては申し分のない、筋の通った音が出てくれた。もう一度、ホッとした。やはりカーボンらしく、ぐいっと締まって見通しの良い、そして力強く歌い上げる音なのだ。ただプラグに装着しただけなのだが、不思議なものだ。とは言え、あれだけ苦労して嵌め込んだのだ。プラグへの制振効果はかなりのものだろう。やはり電源ケーブルにおいてプラグはかなり重要な位置を占める事が分かった。良い音だけど、少し低域が緩いかな…と思っていたこのケーブルが、良さはそのままで見事に引き締まってくれたのだ。いや、楽しい楽しい。


 245. 歌う紐(09.09.09)

 左右一体型のラインケーブルというのも、なかなか見た目は面白い。3本ならばキングギドラみたいだろう。さてパワーアンプ側は左右の端子が離れているので長めに作ったが、プリ側はそれ程気にしていなかった。すると作業性がえらく悪かったのだ。それなりの硬さを持つケーブルなので、左右を一度に差し込まないと片方が外れてしまうのだ。いやはや、下らない事で時間を使ってしまう。早く音を聴きたいのに。

 さて音。うむ。カルダス切り売り(クロスリンク)と比べると一長一短といったところだろうか。やはりストレート系かもしれない。コクも程々あるが、キレの方が得意なのだろう。ただ、エージングは必要だろう。特にこのケーブルはクライオ処理が施されているので、時間が掛かる筈。様子を見よう。

 一週間。こなれてきた音には少し首をひねらされてしまった。

 中低域がだぶつくのだ。ウッドベースやバスドラの鳴りがどうしても緩く、制動が効いていないようなのだ。量感があるといえばあるのだが、締まらない。ドンシャリと言っても良い。これには困ってしまった。やはりラインケーブルとしては芯線が太過ぎるのか。別の部分で対応を試みようか。ホヴランド導入以前とは逆にしていたプリとパワーの電源ケーブルをまた元に戻してみた。つまり、プリにはゴールデンリファレンス、パワーにはZ-CORD。である。

 これを行なう事で状況は若干改善された。やはり組み合わせというのは重要であるし、面白くもあるものだ。とは言うものの依然として緩さは残っているし、さらにはこの事が最も気になるのだが音場が平面的なのだ。

 しかしこれがプリのせいなのだろうか。確かに真空管式なので少々緩かったり、音場がさほど立体的ではなくなる事はありうる。…、そんなことはない筈だ。このプリはこの程度では絶対にない。この状態では力を発揮できていないだけだ。絶対にそうだ。

 やはり「とりあえず」のケーブルではなかなか言う事を聞いてくれないのか。また探すか。どんなケーブルがいいだろうか。この場合、カルダスよりもオーディオクエストの方がいいかもしれない。グッと引き締めてくれるだろう。「jaguar」辺りの中古があれば、お財布的にも丁度良いのだが…

 そんな中でたまたま見つけたのが「Quadlink 5C…って、やっぱりカルダスではないか。こいつでは緩さは治まらないのではないか。しかし、現在の少々ギラついた部分を上手に均してくれそうではある。ここはカルダスの「上手くまとめる」力に賭けてみようか。また、自分のこれを選択したカンにも賭けてみたい。プリ〜パワー間に接続する。さあ…

 まとまった。これまたあっけなく。

 いや、さすがカルダスである(汗だく)。聴かせ上手である。見事なピラミッドバランスである。思わず「これだ、これ!」と手を叩いて称賛したくなった。引き締まり方はあくまで「適度」の範囲内だが、はっきり「緩い」とは感じない絶妙、ギリギリのバランス。真空管らしい中域の濃さと色気を程よくアシストするという、わきまえられた節度。これは期待通りだが、ギラついた高域をナチュラルに聴きやすいものにしてくれた。ロングセラーだが、それだけの事はあるケーブルだ。これでエージングが進んだらもっと良くなるだろう。カルダスは使い始めはあまり良くない事が多い。なのに、この状態ならば申し分ないことだろう。

 何だかアコースティック・アーツを使っていた時代を彷彿とさせるところもあって、それがまた馴染があっていいのだろう。それをさらにナチュラルな音調にした感じだ。「自分の音」らしくなってきたとも言える。

 いや待て。つまり「自分の音」とはケーブルの音だったのだろうか。だとしたら、かなり痛快かもしれない。



 244. 夏の真空管(09.08.18)

 芳醇。濃厚。艶。躍動。闊達。

 こういったワードがまず思い浮かぶ音。やはり期待は裏切られなかった。もろに好きな音なので、嬉しくなってくる。基本的に陽性なのだ。どちらかと言えばクール系だったアコ・アーに比べると、躍動感は共通したものを持っているが、明るさという点で大きく異なる。

 とは言っても、あくまで「大人の」明るさである。変にハジケてしまう事は決してない。よく道理の分かった、熟成を重ねた人物だけの持つ明るさなのだ。それはやはり真空管がもたらすものなのだろうか。物理的にも「熱く」「明るい」ものから出る音はやはりそういうものなのだろうか。

 音色の心地よさも真空管ならではだろうか。つま弾く毎に心を揺さぶるギター、ピアノの打鍵、ドラムの力感…どれもレコードからしか得られないと思っていた音がCDからでも出てしまった。まずはこの音に浸るのみ。

 心配していたのは残留ノイズだが、杞憂に終わった。真空管方式ゆえ当然ノイズはあるものの、スピーカーに耳を近づけてようやく聴こえるレベルで、リスニングポジションでは全く問題は無い。いやホッとした。さすがに優秀なものだ。

 リモコンが使えない事は少々不便だが、そのうち慣れてくるでしょう。それに、このアッテネーターは直に触れた方が絶対に心地よい使用感が得られる。この上品なクリック感は癖になってしまうものだ。大体、アンプまでそれ程遠いわけではないのだ。これはアコ・アーも同様だったが、クロームメッキ仕上げのため指紋は付いてしまうので、時々拭いてやらねばならない。しかしそう言った部分が愛情を持って接する動機付けになる事は間違いないのだ。

 当然以前に比べるとケーブルが数ランク落ちるわけだが、それでここまでの音が出るのならば満足と言えるだろう。この段階で加えたいと思うのはスピード感か。まあ、アコ・アーはスピード感に於ては随一のものを持っていたので、あれに追いつくのは結構大変かもしれない。でも進むべき方向は見えている。じっくり楽しんで行こう。

 まずは足下から。前回触れたようにゴム足からスパイクに交換されているのだが、先端は尖っていないためにそのまま棚に設置した。こういったスパイクに合うスパイク受けは持っていないので、とりあえずタングステンシートを挟む事にした。結果は、これだけである程度の低域の締まりを得る事が出来た。まずまず敏感なようだ。また形状、素材など相性の良さそうなスパイク受けを探してみたい。

 さあ、お次はケーブルである。久し振りに自作で試してみたかったのだ。とは言え、現在適当な切り売りラインケーブルと言うものが少ないのが大変悲しい。そこで探したのが「シールドされているスピーカーケーブル」だ。これも当然選択肢は少ないのだが、あるにはあるのだ。定価¥1,000代の定番、オルトフォン「SPK1000silver」がその代表だろう。これでいいかな、とも思ったのだが何だか新鮮味が無い(贅沢な…)のでもう少し探してみたところ、これがあった。最近ちらほら見られるサウンドクオリティアイ(SQI)のケーブルである。ここは元々カーオーディオ系なのだが、最近ピュアにも進出している。ここの切り売りがシールド付きなのだ。「EXC-SP490SQT」というこの4芯ケーブルは実際にメーカーからそのままプラグを装着したRCAラインケーブルとしても販売されている。それならばちょうど良かろう。

 しかし、ここからが難儀であったのだ。何せ芯線が太い。パーツ屋で購入した普通のプラグでは全く入りそうにない。しまった、随分面倒な事に足を踏み入れてしまったようだ。芯線を2本まとめて単線を繋ぐなりすれば何とか行けそうだが、今度は胴体の長くて大きなプラグが必要になってくる。ああ、しまった面倒だ面倒だ…

 一旦ケーブルはペンディングだな。次だ次だ。ヒューズ交換である。容量を確認し、「リラクシン」へと向かう。無事ヒューズも揃い、店主といつしか自作ケーブルの話題になっていた。何と、そこでちょうど同じSQIのケーブル「1本」で左右両チャンネルのラインケーブルを、オリジナルとして販売していたのだ。なるほど。4芯あるのでこういう使い方も出来るのだ。そうしよう、これで行こう。真似させていただきます。

 結局パワーアンプ用に「XLR→RCA変換」プラグも買い揃え、盤石の状態でケーブル製作に向かう。その前にヒューズ交換を行なう。エージングに幾日か必要なのでこの段階で音を云々するものでもないのだが、明らかに鮮度感が高くなっている。うまく行きそうだ。

 ケーブルは収斂チューブを使ってまあまあ見栄えのするものに仕上げた。あとは音である。


 243. もう一度(09.08.02)

 本当に、そんなつもりは無かったのだ。信じて欲しい。

 「良いものが入ったんです」とのセリフにホイホイと釣られたわけではないが、「じゃあ、聴くだけ聴いてみようか」とフラフラ行ってしまった。それが全てだ。

 「サ○ンド○ラザ」の店長から前述の電話があった。彼が「ハ○ファ○堂」にいた時代を合わせても、そういう電話は初めてだったので少々驚いた。それが少々興味を惹かれる要因でもあったが、ブツはなるほどと思わせるものでもあったのだ。

 それはHOVLAND「HP-100」というプリアンプである。ここのブランドは「真空管を使った、やけにイルミネーションの派手なヤツ」というイメージだが、音には確かに定評がある。聴いた事はなかったので、買わないけど聴いてみたいと思っても無理はあるまい。買わないけど、買わないけど…

 聴いた。そして2時間以上の長考の末、買っていた

 結果から言えば、一行で終わってしまう話ではある。しかし当然の事ながらそこに至るまでは、様々な葛藤があったことを分かって頂けるだろうか。

 まず、現在使っているプリのアコースティック・アーツを今でもかなり気に入っているという事。しかも、この店で買ったではないか(192章)。これを替えることは全く想定外、むしろ自分の音の根幹を成すものと認識していたのだ。それをわずか2年半で替えるのか。

 と、同時にしばらく機器類が固定していたため、停滞感があった事も事実であった。ケーブルさえもはやほぼ完成の域に達していると思っていて、あと何をするのか?という状態だった。オーディオは立ち止まったら終わり。常に前進し続けなければならないのだ。

 このアンプは新しい挑戦をするにはうってつけではあるだろう。音が生きている血の通った音と言えばいいだろうか。こいつならば、現在の環境に新しい何かをもたらしてくれるのではないか。

 とは言え、こいつはなかなかの金額である。アコ・アーを下取りに出しても、まだそれなりに高価だ。やはりこの不景気の折り、少々冒険が過ぎるかもしれないな…とまた「買わない」方に針が振れ始めていた時、気付いた事があった。

 このアンプはアンバランスしか使えないのだ。つまり、現在使用している2本のカルダスが使えなくなってしまう。それは勿体ない、やはり諦めるか…とさらに気持ちが傾いていたのだが、待てよ…

 そう、このカルダスも売ればどうなる?買える価格に近づいてこないか?

 逆転の発想だった。確かにまずは有り合わせのケーブルを使うしかないが、それもまた良いではないか。グレードアップして行く楽しみができる。「下取りにゴールデンクロスとゴールデンプレゼンスも足せば、幾らになる?」気がついたらそう尋ねていた。そして、返答は十分に満足の行くものであったのだ。翌日、アコ・アーとカルダス2本を持って行く事を告げて店を後にした。帰る直前には、その「HP-100」を聴かせて欲しい、という客が来ていた。まあ、これもタイミングという奴か。

 アコースティック・アーツ、最後の別れである。後ろ髪を引かれる思いで聴いた。良い音ではないか。これを替えるのか。とは言え、どうして自分がHOVLANDを買う気になったかも分かった。レコードはともかく、CDの音が少々シャープに過ぎるのだ。店で聴いたHOVLANDには、それをもう少しほぐしてくれる力があると見た。つまり、もっとナチュラルな方向へ行くだろうという確信だ。当然失われるものもあるだろう。しかし、きっとうまく行く。

 そう言えば、以前真空管プリとして「サウンドパーツ」のものを使っていたことがある。あの音色とナチュラルな音触は魅力的だった。やはりまた、真空管に戻るわけだ。

 翌日は日曜日。店でアンプを交換し、いそいそと帰宅してセッティングである。筐体がまたしても大きいような気がしたので、予め幅を調べておいた。ラックの方がわずか3mm広いだけだった。危ないところだったのだ。どうしてこう、幅の広いものが多いのだろう。足は標準ではゴム足のはずだが、先端をあまり尖らしていないスパイクに交換されていた。とりあえずそのまま設置する。スパイク受けはまた考えよう。パワーアンプとの接続は前日のうちに作っておいたアンバラ→バランスケーブルを使う。カルダスの青い切り売りタイプである。まあ、昔作ったバランスケーブルの出力側をRCAプラグにしただけのことだが。心配していたのが長さで、60cmくらいしかない。まともに引っ張ってみたら、やはり届かなかった。パワーアンプは小さくて奥行きもないので、余計に長さが要るのだ。仕方がない。見た目は良くないがJeff model102を後ろにずーっと下げて、ケーブルの届く場所まで移動させる。まあ、パワーアンプは操作する箇所はないので不都合もない。このケーブルはあくまでも仮のものなので、1mあるケーブルを作るなり買うなりすれば解決する問題ではある。そのうち解決させよう。

 CDからプリへのケーブルは少し前に買っていたSpace&Time「RSC REFERENCE」を使おう。何せこのコーナーで紹介する順番が狂っているのでいきなりの登場だが、当然RCAピンケーブルなどを購入したのには理由がある。それはまたそのうち。古いケーブルだったので購入価格は安かったが、なかなか良い音である。

 いよいよ音出し。さあ、ここから新しい世界が始まるのだ。


 242. 音の良いテレビ(09.07.18)

 音はブルーレイレコーダーから出すしかない。テレビの音声出力はHDMIか光しかなく、普通のプリメインではDACでも通さないと無理なのだ。ブルーレイは起動が遅いのにイライラさせられる。早く音を聴きたいのに。ようやく起動していつもの試聴CDをトレイに載せる。

 おお、まともに鳴ってくれるではないか。まずはホッとした。エコー成分が多いが、これは出来立てのバックロードではよくある事。しばらく鳴らせば治まるだろう。結構低域がずんずんと出てくる。調子に乗って鳴らしていたら「うるさい」と家族から言われてしまった。どうやら階下に低音がかなり響くようだ。うむ、物凄い力を持っているな。考えてみると、ラック一体型のデメリットで、直接振動を床から下へ響かせてしまっているのか。棚板や支柱を制振することで改善されるだろうか。今後の課題である。

 そんなわけで黄金週間最終日に何とか音出しまで間に合わせる事が出来た。見た目も手前味噌ながら、中々のものになったと思う。市販のシアターラックなるものより、悪いがよほどカッコいいではないか。まあ、親バカみたいなものだけど。とにかく、達成感によって気持ちの良い睡眠に入ることができた。

 翌日より、音出しをしつづける。予想通りエコー成分は気にならなくなってきた。まあ、開口部を布などで吸音すればもっと良くなるかもしれない。少々気になるのは、低域は出るのだが中低域の量感が少々物足りない事か。これはバックロードの音道の幅や長さ、はたまた空気室の容量など色々な理由があるだろう。ただ、まだユニットが目覚めていないような感もあった。さすが7年もの間、眠りについていただけの事はある。逆に保存状態もそれ程良くなかった中、よくぞここまで鳴らしてくれるものだ。アンプも素性が良いのだろう、伸び伸びと鳴らしているようだ。

 ただ、ちょっとベールを被っているような感触を覚えた。アンプは店で試聴した限りではそういうタイプではなく、むしろ逆のキャラクターという印象を持っていたので、原因は他にあるのだろう。またユニットはいくら眠っていたとは言え、絶対にこういう音は出さないはずだ。

 とりあえず、出来る事から。スピーカーケーブルを替えてみよう。片チャンネル1mのケーブルがありそうで無かったので、「ハイファイ堂」の2階でケーブル箱をひっくり返して見つけたのはAET「6N-14G」だ。これに安い(と言ってもオーディオクエスト)Yラグを付けて接続しやすいようにした。

 日立のピンク色のケーブルに替えて接続して、とにかく驚かされた。

 あっさり悩みが解決されてしまったのだ。まさにベールを剥がした鮮明な音、中低域の量感も確実にアップし、ぐいっと引き締まった。これまでもケーブルの力を様々な場面で目の当たりにさせられてきていたが、今回も恐れ入ってしまった。ただ、これは日立のケーブルが経年劣化していた可能性も高い。テレビの設置場所はよく開けっ放しにしている窓に近く、湿気も一番浴びやすいからだ。もう10年近く使ったケーブル、やはり消耗品なのだ。

 これでハイヴィジョン放送に見合った音質を手に入れる事が出来た。サラウンドこそ無いが、全く十分である。Perfumeのライヴも、映画も迫力たっぷりで楽しめる。いや、大成功と言えるだろう。

 長きに渡ってテレビ台について書き連ねてしまって、肝心のオーディオのレポートがお留守になってしまっていた。ネタも幾つかあり、さあこれから書こうか…と思っていたところでさらに重大な事が起こった。テレビ台前後のネタはしばらく後回しにせざるを得ない。いや、まさか、そんなつもりは…


 241. 帳尻合わせ(09.06.29)

 5月6日。連休最終日。また。やれやれ。

 やれやれではあるが、逆に覚悟を決められる。今日は一日、製作に費やすのだ。ふらりと出掛けてしまっては、間に合わないかもしれないのだ。やるぞ

 前夜、端金で締めつけた箇所は見事に接合されていた。端金を取り外す時、もしまた浮いてしまったら…と少々、いやかなりヒヤヒヤしたのだが杞憂に終わった。いや本当に良かった。この日の作業が順調に進んで行くという、根拠の無い確信を持つ事が出来た。

 心置きなく、塗装に励む事が出来る。完成したスピーカー部のエンクロージャーにライトグレーを塗って行く。最近は小さいスピーカーばかり作っていたので、塗装面の大きいものは久し振りだ。塗り甲斐はある。

 お次は棚板をラックに組み上げねば。支柱組立家具用のものを流用した。普通の丸棒みたいなので良かったのだが、数が足りなかったのと、仕上げが最初からされているので好都合だったからだ。本体とは全く違う色(ダークブラウン)というのも大変よろしい。もっと重量があれば言うことは無いが…ネックは価格と長さだった。そう、長さが中途半端にも183mmなのだ。棚の間隔は200mm欲しいところ。たった1、2cmの事でもモノが入らない、入れづらいといったトラブルが起こってしまっては仕方がないのだ。万全を期そう。

 解決策は単純。ゲタを履かせる事にした。コイン型に丸棒を薄く切断したものを8枚用意する。これが厚さ15mmだ。合計約200mm。完璧である。支柱は家具用であるから、当然ネジで留める仕様になっている。これは完全に無視し、接着剤でしっかりと固定する。タイトボンドの力を信用するとしよう。

 また、この支柱接着で肝心なのは位置を合わせる事だ。2つの棚、スピーカー部の全く同じ位置に接着しなければならない。ずれてしまうと、かなりみっともないモノになるだろう。製作しながら気になって思案していたが、をボール紙で作る事で解決した。言わば型紙みたいなものかもしれない。単純なものだが、これで楽に位置決めをすることができた。自画自賛。あとは組み上げて行けば良いのだ。

 接着剤を乾燥させる間、今度は再びスピーカー部。ユニットを取り付けるのだ。ファストン端子を使おうかとも思ったが、単純にハンダ付けにした。このユニット「FE88ES」は何度もケーブルを繋ぎ直したりしているので、端子が傷んでいる筈。ファストンはきっと付けづらいだろう。

 FE88ESをしっかりとネジ留めしたスピーカー部は、思わず「おお…」と感動の吐息を漏らすのに十分な威容を誇っていた。想像以上だった。やはり今回も色をライトグレーにしたのは正解だ。クールな風貌が逆に、内に秘めた情熱を感じさせてくれる。これなら音も良いに違いない、と勝手に決めつけた。ここで実際にメインシステムに繋いで音出しをしたいところなのだが、既にこの時点で夕方に近い時間。もう最終日も終盤にさしかかっていた。残念だが先を急ごう。テレビ台は完成して終了、ではないからだ。

 支柱を接着し終わったラック部にスピーカー部を乗せてみる。おお。なかなか良いではないか。支柱の接着剤は既に乾いているようだ。全て接着してしまおう。治具で合せてマーキングをした部分と支柱の先端を接着。1つの支柱からわずかにガタを感じたので、しばらく手で押さえて無理矢理接着剤が乾くのを待つ。ここに端金を使うと引っ掛けた部分の接着の方が外れてしまう恐れがあったので、最後の手段にしようと思ったのだ。少々手が痛くなってきたな…と、つらくなってきた時に何とか接着は成功し、ガタは無くなった。

 つまり、これで完成である。

 何とか間に合ったか…安堵のため息を漏らす。しかし先程も言ったように、まだこれで終わりではない。セッティングをしなければならないのだ。むしろ、これからが肉体労働か。晩飯を貪り食った後、仕事にかかる。まずテレビのコード類を全て取り外し、持ち上げて一旦ベッドに置く。なかなか重いので、本当に少しの移動距離が精一杯だ。と言うより絶対落とせないのだ。テレビの下のこれまで使っていたスピーカーにねぎらいの言葉をかけてから、隅の方に退ける。古いラックはキャスターがついているので楽に移動は出来る。ただ、ケーブル類がぐちゃぐちゃでやりにくい事この上ないのだが。

 一方、新しいテレビ台もキャスターこそ付けなかったが、底に滑らせるためのフェルトを貼っているのだ。さすがに何も入れていない状態ではつるつるに滑って行く。新しいアンプを入れ、レコーダーは旧から新へ入替え、アンプやスピーカーを結線する。スピーカーケーブルはとりあえず、前から使っていた日立の懐かしいピンク色の被膜のやつだ。テレビも日立だし。

 最後に再びテレビを載せる。ベッドの際までラックを動かして、よいしょと持ち上げる。このテレビは二人で運ぶ事が前提なのだろう。取っ手が上の方にあるので一人では持ち上げづらいのだ。とにかくテレビを壊す事なく載せる事が出来た。かなり重くなった台を滑らせて、定位置に置く。これで格好はついた。どうにかこうにか、終わったようだ。気がついたらもう午後11時。本当にギリギリだったわけだ。

 間に合った。あとはこれも肝心、スピーカーのである。


  240. 追い込み(09.06.10)

 5月5日。あと2日である。

 「2日しかない」と思うか、「2日もある」と思うかあなたはどちら?…などと「ポジティヴ志向」云々、でよく出てくる言い回しだが、馬鹿馬鹿しい。2日は2日だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 何だか進行状況が思わしくないような気もするが、作業工程を考えればそれ程時間のかかる部分も無さそうだ。ただ、棚を組み上げる作業が一体どのくらい時間を掛けるものなのか、よく分からないので少々不安である、と言ったところか。

 朝一番の作業はバックロード開口部の塗装である。上蓋を閉じてしまうと塗りにくいからだ。どちらにしても閉じた上蓋の部分も塗らねばならないのだが、後で随分楽になるからやはりそうしてしまおう。開口部から覗き込んだ時に見えるであろう部分にライトグレーを塗って行く。

 そちらを乾かしておいて、2段目の棚板にも塗装を施して行く。こちらはスピーカー部と同じくシナ合板で、下段の棚(MDF)と材質の違いを目立たせないように塗って行く。どうしても木口の部分は違ってしまうが、まあこれとてよほど注意してみない限り分からないだろう。

 雨が降っているので乾燥は遅いだろうが、その間に使用するユニットを取り外しておこうか。D-105からFE88ESを。ネジは既に緩みかかっていた。5年以上使っていなかったのだ、当然だろう。ネジを全て外してもピッタリとバッフルに張り付いてしまっていた。多少フレームに傷が付くのを覚悟で、ラジオペンチをネジ穴に挟んで引っ張る。ずる、と音を立ててユニットのマグネット部が姿を現した。やはり8cm口径にしては大きい磁石である。「よお、久し振りだなあ」と声を掛ける。もう一本は現在のスピーカーをどかさないと取れなかったので少々面倒だったが、無事姿を現してくれた。さあ、頑張ってくれよ

 かなり乾いたであろう、スピーカー部の音道に補強をしよう。最初は余った板を接着しようと思っていたのだが、いや直前までそのつもりだったのだが気が変ったfo-Qの塗るタイプをこれまた久し振りに使ってベタベタと塗りたくることにしたのだ。綺麗には塗らない。逆にできるだけデコボコを作るように塗る事にした。この方が滑らかな音道よりもホーンからの中高域を減らす事が出来るのではないか、という推測からである。音道の最後の部分のみ、カー用のデッドニング材を貼った。ここがあまりカンカン鳴くのもまずいかな、と思ったのだ。

 そしてフタをする前の最後の作業は、配線を通す事だ。今回内部配線に決定したのは、ブラックロジウムの「T-50」である。細くて作業がしやすいのと、錫メッキがされているのでハンダ付けがしやすいのが選んだ理由だ。また、ここのケーブルが持つ穏やかで艶やかな個性が、ユニットのシャープな個性を上手く音楽的に手懐けてくれるのではないか、という狙いもあった。

 いよいよスピーカー部が完成に近づいてきた。上蓋を乗せるところだが、その前に。買いに行かねば。何を。アンプである。

 AVアンプか、普通のプリメインかで迷っていた。現在はYAMAHAのAVアンプを使っていたが、特にサラウンドにするわけでもなく、むしろ端子の少ないテレビのセレクターとして使っていたという要素の方が強い。今やテレビに端子はいっぱいあるのだ。もう一度自分に問う。サラウンドするか?5.1chやるか?答えはノーだった。ステレオでいいだろう。音楽もののDVDはステレオ2chが多いのだ。

 白羽の矢が立ったプリメイン、それはマランツ「PM6001」である。程度の良さそうな中古が「soundJulia」にあるのだ。まだ1世代前というだけで、最近まで現行品だったはずだ。エントリークラスのプリメインだが、AVアンプなら10万円クラスの音だろう。

 店で試聴すると、これはなかなかのものだった。でかいJBLのウーファーを軽々と鳴らすのには感心させられたのだ。ケーブルを取っ換え引っ換えすると素直に反応するところも楽しいではないか。決めた。安いし、これにしよう。

 本当はメインのスピーカーをこいつで試しに鳴らしてみたいところだったが、そんな時間は残されていなかった。既に辺りは夕暮れ。作業を進めねば。フタをする前に、忘れている事は無いか。あった。吸音材。空気室の部分に薄いフェルト(お習字の下敷き)を切り貼りし、アコリバの綿を部分的に詰める。あまり多すぎても良くないだろう。さあ、フタを閉めますよ。準備は良いですか。

 接着剤を塗り、板を持ち上げて「えい」と下ろす。押さえる。…いかん、やはり浮いてしまう部分が出てしまう。では体重を掛けてみよう。しばらく約65kgの重しを乗せるが、あまり効果的ではなかった。頑固だな。やはりここは、先生のお出ましか。

 端金を取り出す。ありったけ取り出す。締めつける。ぐいぐいぐいぐいぐい。おお、さすが先生、見事に隙間が無くなった。これで一晩置けば大丈夫だろう。明日はいよいよ最終日。何とかなる?いや、するのだ。


239. 忙しい黄金週間(09.05.27)

 決まってしまえば早いものである。ざざざーっ、と音を立てて設計は終了し、5連休初日の5月2日の朝、東急ハンズへ向かう。さあ製作だ製作だ。何とかこの連休のうちに完成させねばならない。何故なら製作場所が狭い、いや片づけられなくて狭くなっている我が部屋だからだ。スペースを作るため、仕事で着る衣類が収まっているクローゼットを塞ぐ事になるからだ。

 ブルーシートを敷いて作業開始。既に外は暗くなりかかっている。スピーカー自体はアンサンブル型なので、2本作る必要が無いのは楽かもしれない。とりあえず、カットされた木材を立ててバックロードの形を作ってみる。うむ、問題は無さそうだ。それにしてもこの音道の形状というのは美しいものだ。いつもそう思う。ここから良い音が出てくるのだ。素晴らしいではないか。

 そんなわけで一日目は空気室周りの部材を接着して終了。ちなみに空気室はこれもD-105を参考に、少し小さくしてみた。全体の容積からしたら、それでも大きいのかもしれない。結果がどう出るか分からないが、これも「いい加減」で。時間を掛けて考えたって、それ程結果は変りはしないだろう。いや、時間を掛けた揚げ句ひどくなる事だってたくさんあるのだ。

 5月3日の朝。使命感と責任感(?)に駆り立てられているのか、早く目が覚めた。好都合だ。午後から出掛けるので作業は午前中のみ。出来るだけ進めよう。前日に仮組みをしていて気がついたのだが、接着して行くとどうしても寸法の合わない部分が出てくる事になる。1mm程度の事だが、放置しておいたら後々苦労する事になる。これは後ろの部分で目に触れない箇所なので、大ざっぱに削ってしまおう。この程度なら粗目のサンドペーパーを掛ければ解決するだろう。ベランダに出て、とにかく一心不乱に小口を削り、そして中目のペーパーで仕上げる。合わせてみる。また削る。また合わせる。そんな作業で寸法の狂いは解決。あらためて組み立てにかかる。

 結局この午前中で進んだのは、片チャンネルに当たる部分のバックロード音道までであった。帰ってからも作業できるかな、とも思ったが結局午前様。翌日に持ち越しである。ベッドのすぐ近くに作り掛けのスピーカー。寝惚けてベッドから降りて、大惨事にならないようにせねば。

 5月4日。幸い、大惨事は起きなかった。実はこの日も外出予定があるのだ。それでも頑張ろう。何処まで出来るか。「必殺仕置人」の再放送をやっていて、ついつい見てしまう。藤田まこと、若いなあ。そう言いながらも音道部は全て組み上げる事が出来た。鉛筆で接着部位を記しておけば、それ程難しいものではない。ただ、中途半端に途中から鉛筆を取り出したので少々面倒にはなったが。ちなみに音道の幅は2→2.5→3.5→5.5→8.5→13cmと、180°折り返しながら変化して行く。最初がたった5mmの違いなので、補強も兼ねて一枚挟んでいる。つまり最初だけ音道の高さは9.5cm、あとは11cmである。開口部に階段状の段差を作ったのは、空気室の容積を減らすのと、ルックスの変化を付加との一石二鳥を狙った。音にも少しは好影響があるだろう。ふいご現象の低減とか。

 同時並行でテレビ台の一番下の部分の板、つまり18mmのMDFに着色を施した。色は前回作った小型スピーカーと同じく、ライトグレーである。残ったペンキを使おうというだけでなく、この色が気に入ったのだ。何となくだが、台もアルミニウムをイメージしたかった。いかにも木をイメージさせる茶系と迷ったのだが、木目を生かすために半透明ならばともかく、今回は木目の無い素材も混ぜて使うので半透明は使えなかったのだ。グレーでツヤあり。これが最も癖が少なく、黒系のテレビを置いても違和感が無く、しかも埃が目立たない。良い事づく目であるのだ。

 ここまで終えて出掛けた。夜には戻るつもりだったのだが、ついつい2軒目、3軒目と歩いてしまった。またまた帰りは午前様。まあ、まだ2日ある。この調子ならば大丈夫だろう、か?


 238. 復活計画(09.05.12)

 やっぱり、作るしかない。

 テレビ台の話である。現在「コラム」の欄で長々と書き連ねているが、37型のプラズマテレビを買ってしまったのだ。それまで20型のブラウン管テレビを載せていたラックは、台座がギリギリ収まる程度の面積しかなく、大変不安定な状態になってしまった。台座さえ載ってしまえば問題ないのではないか、という気がしないでもないのだが、世間的にはあまり好ましい事ではないらしい。

 ただ、市販品のテレビラック(AVラック)を探すと、かなり横幅をワイドに取ったものばかりだった。しかも、斜めを向けて設置するしかない状況なので、背面を狭くしたコーナー型にしたいのだ。選択肢は少ない。そして出費は大きい。

 解決への最短距離、自作するのが良かろう。

 作るのであれば、スピーカー内蔵にしてしまおう。長岡鉄男先生の作例にも「玉座」など、現在のシアターラックに先鞭をつけたと言うべきものがある。これらを参考に、色々妄想、いや構想を練った。簡単に現在と同様FE87Eあたりを取り付けておけば無難だろうが、それでは面白くない。

 あれを付けよう。

 そう、長い眠りについていた「FE88ES」、これを復活させるのだ。思い起こせば、眠りかかっていたオーディオへの情熱を甦らせてくれた8cm口径限定ユニットである。こいつが無ければ、このサイトだって存在していなかったに違いない。こいつを装着して生まれた「D-105」の製作記から「freedom of expression」は、「ステレオ一代記」はスタートしたのだ。それをいつまでも眠らせていては失礼に当たる。さあ、目覚めるのだ。再び良い音を聴かせておくれ。

 そうしたら、やっぱりバックロードにしなくては。

 勇んで設計に着手したものの、なかなか進まなかった。最初はラックの天板と側板に該当する部分の両方をエンクロージャーにしようと目論んだのだが、これは大変難しい。コーナー型にするため、後ろの角は斜めに削らなければならない。そうなると、どうやっていいものやら皆目見当がつかなくなってしまい、諦めざるを得なかった。

 天板だけを使おう。それならば比較的簡単である。アンサンブル型だが2つの小型バックロード、例えば「D-10」をくっつけたような形にすれば良いのだ。後ろは斜めカットが入るが、問題はそれくらいだろう。ただ心配なのは強力な磁気回路を持つFE88ES、小さなバックロードで力を発揮することができるだろうか、という事だった。FE83EかFF85Kあたりで妥協した方が良くはないか…これはかなり迷った。しかし初志貫徹、駄目なら換装すれば良いではないか、と開き直った。まずはやってみよう。

 小さなバックロードとは言え、音道は出来るだけ長く取りたい。何とか2mを取るつもりで設計に励んだ。何度もやり直した。もう少しで構想のままで終わってしまう寸前だった。最初は見た目に異様だった旧ラックとテレビの組み合わせも、時間と共に「まあ、こんなのもアリかな」という気持ちになってくるものだ。さらには「こうでなくては」などと思い始めたら危険だ。そうならないうちに、と今一度ネジを巻き直したものであった。

 完成した設計は、結局オーソドックスなものだった。音道長約1.8m、スロート断面積190A、開口部面積1430A。全てホーンの折り返しは180°で、結局「D-10」と同じような構造である。特に意識したわけでもなかったのだが、そうなってくるものだ。また、「D-105」から最後のホーン部を外したような音道の広さになっている。これがどういう違いを生み出してくるか。楽しみである。

 また、エンクロージャー内部の仕切りには9mmの板を使う。限られた横幅を最大限に生かしたかったのだ。これで楽に5回の折り返しが出来るというわけだ。基本的にはシナ合板を使うが、このホーン部を構成する仕切り板にはMDFを使おう。コストダウンと、異素材同士による何らかの効果を期待しての事だ。

 さて難関の後部斜めカット部だ。折り返し部の位置と寸法が分かりづらく、ここでまた投げ出したくなる。ここで長岡鉄男先生の声が。

 「いい加減、で良いんだよ」

 そうだ。きっと何とかなる。何とでもなる。そんなに緻密に寸法を計算するなんて、わしらしくないではないか。行ってしまえ。



 237. 課題終了(09.02.10)

 性質の悪い美女に取り憑かれてしまったかのようである。

 気がつくと、ずっと音楽に聴き入ってしまっているのだ。他の事をするつもりでいても、結局スピーカーの前から離れる事が出来ない。いっそ、家から離れてしまえば大丈夫なのだが、家の中にいるとどうしても駄目だ。本当の女性に取り憑かれた方が世間的には健全かもしれない。困ったものである。

 仕方がない、自分としてはスピーカーから奏でられる音が大変素晴らしいと思っているからだ。こんなに良い音が出てしまえば、離れられないのも無理はなかろうというものだ。自画自賛のように受け取られるかもしれないが、だって良い音なんだから。もちろん、あくまで自分としては、である。他人が聴いてどう思うかは全く別の話である。オーディオとは客観性があまりにも少ない趣味かもしれない。自己満足?それの何処が悪い。真実、自分のためのものなのだ。

 しかし、まだまだ良くなる余地は残されている。前回も書いたが、満足してしまってはこの趣味はお終いである。歌詞ではないが、最高を求めて終わりのない旅をするのである。それが生きている証拠なのである。

 で、その前回も触れた課題。僅かな高域のピーク感。さあ、ここをどう征服しようか…と思案を巡らせていた。まあそれ程慌てる事でもなかった。耳障りなものでも無く、音量さえあまり上げなければ通常気にはならない。様々なところで音を聴いても、もっと高域がうるさいケースは意外に多いのだ。

 慌てない、慌てない…と言っているうちに冬本番、そして年が明けてバーゲンシーズンも落ち着いてきたある日、「また」偶然出会ってしまった。

 これまた、ちょっと太い蛇である。現在這わせている蛇よりも太いが、色は同じグリーン色をしている。舌が二股に分かれていて、妖しく光る先端が艶めかしい。

 …まあ、つまりスピーカーケーブルである。オーディオクエスト「PikesPeak」というタイプ。現在は既にディスコンとなっているので、アウトレットという事だろう。クエスト上位モデルの特徴である「カウンター・スパイラル」と呼ばれる構造のケーブルだ。これは+(プラス)を担う複数(5本か)のリッツ線となった単線導体をまず螺旋状に巻いて中心に据え、その周りを−(マイナス)を担う同様のケーブルを+とは逆の螺旋状に巻き付ける、という構造である。言わば疑似的に同軸構造を採っているのだろう。何だかややこしいが音さえ良ければ文句は言わない。

 DBSと呼ばれる電池も搭載しており、今使用している同ブランドの「CV-4」と同じく36Vを背負っていた。現在このランクの製品は72Vを背負っているので、その点はやはり1世代前のモデルであることを示している。ただ、この電池大きくなればなるほど音が「ゆったり」する傾向にあるので、電池が小さい事は決して自分にとっては悪い事ではない。むしろ好都合だろう。先端のYラグも以前の小さなタイプで銀メッキである。

 正規売価の半額以下ではあったが、それでもまあまあの価格になるので迷っていたが、決算セールとの事で「もう一声」が叶ってしまった。そりゃ、買うしかないわ。あっさり降参。「CV-4」の下取りが幾らになるか計算しながら、そのミドリヘビを携えて帰宅。

 被覆の色が同じなので、その太さが一層際立つ「PikesPeak」。太いだけあって、取り回しは意外に苦労してしまった。その点「CV-4」あたりのタイプは本当に楽なのだ。単線とは言ってもたったの4本、逆に曲げ癖を付けやすいので素直に言う事を聞いてくれたものだ。しかし、今度はそうは行かない。先程説明した構造もあるのだろう、うまく曲がらない。Yラグの向きを両方水平に揃えるのも一苦労であった。1月というのに、軽く汗をかいてしまった。当然わしは暖房のスイッチなどは入れていない。

 スピーカーに接続すると、その太さはさらに目立つ。コーディネートとしては、少々不釣合いであることは否めない。やはりよほどの大型スピーカーでないと、そんなに太いケーブルは必要ないのだろうな、としみじみ思う。でも音さえ良ければそれでいい。

 音は、良かった。いや本当に良い。同じクエストでのグレードアップという、安全策を採っているので失敗は無いとは思っていたが、高域のピーク感という課題を簡単にクリアしてしまったので願ったり叶ったりである。

 とは言っても高域が抑えられたわけでもないようだ。バランスが変化したからではないか。低域から中低域が厚みを増してどっしり腰が据わったのだ。やはり元々はハイエンドシリーズ(その一番下のランクではあるが)、クラシックのーケストラも楽々こなせる重厚な音を聴かせてくれる。スケール感が向上して、得意であった前後の表現に加えて左右の広がりも見せてくれるようになった。それに伴って空間表現もさらに巧みになり、楽器の位置が手に取るように分かる。

 最近クラシックも多く聴くようになったのを見透かしたようなしなやかな音になった。それはまさに大人、である。それでもクエストなのでフニャフニャにはならず、芯のしっかり通ったパンチのある音は健在である。やはりこのスピーカーケーブルという部分は他のブランドに変えることは出来なかった。それで自分としては正解なのだろう。

 とは言え自分は満足しているものの、こういったグレードアップを全ての人に推奨できるかというと、疑問ではある。やはり費用対効果で言えばあまり効率が良いとは言えないからだ。ケーブルは程々のもので十分であることは、こうした経験で逆説的に分かってくるものである。それまで使っていた「CV-4」もかなり良質なケーブルである事が実感できたのだ。まあもっとも、「僅かな違い」のために色々やってしまうのがマニアの性。人それぞれのアプローチで積極果敢に攻めるのが趣味の楽しさというものではあります。


 236. ケーブルに巻かれて(09.01.12)

 いやはや、出てくる時は出てくるものですな。

 ある秋の土曜日、「ハイファイ堂」の2階でたまたま見つけてしまったのだ。まだ入荷したばかりの、その黒くてとぐろを巻いた奴を。そいつは鎌首をもたげて、わしをじっと見ていた(ような気がした)。

 魅入られた。

 よたよたと、そいつ目指して歩を進めていた。その鎌首と尻尾を両の手で捕獲した。

 「…」

 太いな。何者なんだ、お前は。

 …何だか妙な文体になってしまったが、この蛇の正体はMITの電源ケーブル「Z-CORD 3」であった。実物を見たのは初めてだったのだが、いや随分と太い。このブランドはケーブルの間にモジュールを挟んでいるのが特徴なのだが、珍しくこいつにはそれが無い。同じZ-CORDシリーズでも1と2には大小の差こそあれ、瘤が付いているのだが、3には無いのだ。

 逆にそれは好ましい事でもある。瘤付きのケーブルはセッティングに工夫を要する事も考えられる。電源ならばまだいいかもしれないが、例えばラインケーブルならば端子からぶら下がったモジュールという存在は精神衛生上よろしくないのではないか。端子に余計な負担が掛かっていそうではないか。

 さて、それは良いとしてどうするのだ。買うのか。価格に関しては今入荷したばかりのようでプライスタグは付いておらず、店長がこっそり破格値を提示してくれた。うーむ悩ましい。で、買ったらどこに導入するのだ。それはある程度固まっていた。パワーアンプである。あのJeff102はパワーにしてはケーブルによる変化が大きい。面白そうだ。

 しかしまだ問題はある。だいたい長過ぎやしないか。そう、3mあるようだ。今パワーに差しているハーモニックスは1m。つまり長さは2mも余計なのだ。しかも太い。狭いラック後部に押し込めるのは無理があるのではないか。ここは慎重にならざるを得ない。

 暫くの間、ケーブルを持ってシミュレーションに励んだ。この位置でパワーに差し込んだら、このように巻いて、あちらの方向からタップめがけて進み、最後はコンセントにこの角度で差し込む…傍目から見たら本当に蛇と戯れているようだったに違いない。異様である。まあ、オーディオマニアと言う存在なんてそんなものである?

 何とかなりそうだ。ケーブルは長い方がその効果が分かりやすいという説もある。とにかくお買い得なので使ってみようではないか。

 そもそもMITには良い印象がある。昔、一度だけ「オーディオベーシック」でスピーカーケーブルレビューを書かせて頂いた折、最後がMITだったのだ。まさに「レベルの高いオーソドックス」とでも呼べる、フラット基調だが無味乾燥にならずに音楽を楽しく聴かせるという絶妙のバランスだった。結局返却期限ギリギリまでMITを付けたまま楽しんでいた事を思い出した。

 と言うわけで、「Z-CORD 3」は我が物となった。

 早速ハーモニックスを抜き、店でシミュレートした通りにくるりと曲げながらタップのコンセントに向けて…あ、しまった。コンセントの向きが思っていたのと逆だった。これだけで意外に困るものである。もう一度こう曲げてこう巻いて…などとぐるぐる回してようやくタップに辿り着く。ふう、ようやく蛇の暴れを抑える事が出来た。それにしても何度も書くが太い。水道のホースなど問題にならない。やはり蛇としか言い様がないのだ。これが全部ケーブル導体では無いにしても、内部構造を見てみたいものだ。それにしても外見的に小型のアンプには不似合いな事は間違いがない。

 頭に血を上らせながらもセッティング完了。これで良い音がしなかったらショックではある。

 良かった。音のレベルを満遍なく上げてくれる、そんな感じなのだ。この辺りはやはりMITだ。レンジが広がり、フラットで癖のない音だ。だから前に比べると若干中低域の量感が減ったようにも感じる。その代わり、下の下まで伸びているのだ。高域もはっきりと出すのでソースによっては若干きつい場合もあるが、良い録音とされているものは大変美しく再現する。そう言った意味ではよりモニター的な表現なのだろう。

 そうして時間と共に最初に感じた厳格すぎる部分は徐々にほぐれて行き、良いバランスとなった。結果的に、その直前までのケーブル交換で若干感じていた不安点も払拭される事となった。まさにめでたしめでたしと言えるが、まだ現在CD再生に於て少々の問題点はある。やはりほんの僅か、高域にピーク感があるのだ。小音量時にはさほど気にならないが、ボリュームを上げた時に感じるものである。まあ、100%満足してしまってはオーディオはお終いである。課題があるという事は良い事なのだ。また、この点を克服していこう。


 235. ケーブル無間地獄あるいは天国(08.12.22)

 と言うわけで、プラグを交換してみよう。

 その前に。思い出した。書き忘れていた事があったのだ。CD系の電源を司るタップのコンセントである。ここには以前フルテックの無メッキタイプを使っていたのだが、J1プロジェクトロジウムメッキタイプに交換している。この交換で滑らかにして明晰、透明感の向上と中低域の厚みを手に入れたのだ。いつ替えたっけか…確か今年の初めくらいではなかったか。ずいぶん報告が遅れてしまった。

 そういうわけで、そのコンセントに差すプラグの方も同じロジウムの方が相性が良いのではないかと思ったのだ。機器側のインレットプラグの方はそのままでも良かろう。と言うより、一度に両方替えてしまってはかなりの出費になってしまう。「たかがプラグ」と、ある程度の我慢と割り切りも必要だろう。もちろん、2つの良いところだけ抽出できれば言う事はないのだ。

 ブランドは当然同じオヤイデのロジウムメッキヴァージョン「P-037」である。これは銀メッキの上にロジウムメッキを施している、というのが正しい。さて、面倒だがまた太いケーブルからプラグを外して付け直しだ。もっとも、同じブランドのものなのでケーブルの末端がその形を保ったままならば楽勝…と思っていたのが甘かった。

 そう、このプラグはボディ部を予めケーブルにくぐらせておかないといけないのだ。これを忘れていた。その作業で末端は思いっきりよじれてしまう運命となった。ああ…

 気を取り直して思い切って指でぐいぐい撚り直し、コンタクトオイルを塗ってキレイキレイ、味気ないブラックのP-029に比べて半透明ブルーのボディが綺麗な「P-037」に装着して完成。元通りトラポにセットしたら、さあ試聴ですぞ。

 思った通り。刺激的な成分は見事に影を潜めて、空間感がそれに代わった。少々大人しくなり過ぎたか、とも感じられるがそれも織り込み済みだ。エージングで変ってくる筈。しばし待とう。
 数日後、少しの生々しさがまた戻ってきて程よいバランスが取れてきた。そうそう、これなんだよ。この位の生々しさとしなやかさとの均衡が欲しかったのだ。いやいや、自画自賛したい程の匙加減。総じてこのケーブルの情報量と力強さは素晴らしい。オーソドックスなグレードアップには間違いの無い一本だろう。癖を求めるならば別のケーブルにすれば良いだけなのだ。

 さてそんな矢先。「リラクシン」であるものを購入して、まったりと話していたらあるケーブルが目に入った。と言うよりケーブルの切れ端なのだが。

 それはブラックロジウムの「salsa」。前から気になっていたブランドなのだが、どんな音か分からないので何処かで試してみたいと常々思っていたのだ。これはスピーカーケーブルで、もし現在のクエストと交換したらどうなるのか、大変興味深いのだが何せキャラクターが大きく異なると思われる。雑誌の評価も「リラクシン」店主の評価もそうなのだ。直球のクエストに、変化球のブラックロジウムとでも言おうか。素性は良さそうなケーブルだが、やはりこれまで築き上げてきたバランスを崩してしまっては元も子もない。

 そこで切れ端の登場である。約50〜60cmだろうか。これなら電源ケーブルとして使える。CD系を繋ぐタップ用にうってつけではないか。ここにはちょうどクエストが使われている。良い実験にもなるし、結果があまり思わしくなかったら元に戻せばいいだけだ。スピーカー用に4mも買って失敗したら悔しくて堪らないが、50cmならそれ程悔しくはない。

 そんなわけで帰って早速タップを分解。直付けしていたケーブルをsalsaに交換する。このケーブルは被覆が他とはちょっと変わっていてシリコンで出来ている。それがチューニングなのだろうが、加工しやすくて大変うれしいものである。芯線は銀メッキ撚り線だが1本1本が思ったより硬い。うっかりすると指に刺さってしまいそうだ。もっとも、柔らかくて曲げ癖を付けにくいものよりも扱いやすい事も確かだ。で、程なく完成。

 試聴、試聴。さあどうだ。…なるほど、ヴォーカルがすこぶるよろしい。厚みが出てきたのだ。美音系とまでは言えないが音色が大変美しく、柔らかさがある。一旦「パワーマックス」で硬質な方向へ振ったので、余計にそう思えるのかもしれない。しかし「滑らかさ」や「しなやかさ」とか、「濃さ」に特徴がある事は確かだ。やはりこういう色気も欲しかったところだったので願ったり叶ったりだ。

 ただ、クエストが持っていた生々しさや直線的なパンチ力が若干減じているのが惜しいところだ。まあ、全てを望むのは贅沢というものだろう。やはりスピーカーケーブルを交換するのはリスキーかもしれなかった。かなり柔らかさの方向へ振られてしまうだろうからだ。ここの位置を変えるくらいが丁度良いだろう。あとはこのケーブルもメッキ線なのでエージングが必要だろう。力感はもう少し出るかもしれない。様子を見よう。

 …などと思っているうちに、またしても我を無間地獄に落とすような事態が発生するのであった。



 234. リベンジ(08.11.22)

 人間、常に同じ状況に置かれると落ち着かなくなるものだ。

 ケーブルもいつか替えたくなるものだ…またか!と自分でもツッコミを入れたくなってしまうのだが仕方がない。現状にいつまでも甘んじていてはダメなのである。そうなのである。

 今回思い立ったのはCDトランスポートに差す電源ケーブルである。現在ゾノトーンのマイスターシリーズだが、ここをグレードアップしたい。ただ、当時元々刺激的なところを抑えたくてマイルド(と予測された)なゾノトーンにしたのだが、結果は予測通り良好だった。なので、下手をするとバランスが崩れてしまう事も予想できる。マイルド系でグレードアップなら当然筆頭はカルダスだが、とりあえず出物はないようだ。では。久し振りに何か作ってみるとしようか。

 とは言え、切り売りの電源あるいはスピーカーケーブルというものは選択肢が決して多いわけではない。特に海外製品がもう少しあれば、と思わざるを得ない。国内ブランドはオヤイデやサエク、最近ではフルテックなどそこそこ揃ってはいる。欲を言えば少々バタ臭い海外ブランドのものがもう少しあればいいのだが、まあ仕方があるまい。

 そんな中で選んだのはアコリバパワーマックスである。「前、それで失敗したんじゃなかったのか」という声が。はい、そうです。あれは高域が出ませんでした。しかし、これはそのニューヴァージョン。芯線材をPCOCC-Aに変更したものなのだ。この素材なら高域が出るだろう。むしろ出過ぎになるんじゃないかという危惧さえ抱かせるこのケーブル、しかし太さは従来のまま、これなら低域の安定感も得られているのだろう。そう思って購入に至ったのだ。プラグはオヤイデの無メッキ(29番)を選んだ。まあ、少しでも節約…という要素もあるが、まず基本の無メッキで試してみて様子を見たかったのだ。これで良ければ何の問題も無いわけだ。

 何せ太い。このケーブルは。もう少しくらい細くても何の問題も無いような気がしてくる。また、アース用の3本目の芯線は端から使う気がないので勿体ない事も確か。2芯でいいのだ、実際には。まあブツブツ言っていても始まらないので製作開始。まずはプラグの胴体部分をケーブルに通しておくのだが、これが太いのでなかなか入って行かない。力任せに「ぐいっ」と通したものの、何だかそれだけで疲労感を覚えてしまった。やれやれ、こんな事ではいけませんな。運動しないと。

 太くて曲げにくい割には被覆は切れ込みを入れやすく、端末処理は意外に容易だ。アース線は切り落としてしまおう。そして迎えるのは課題である、芯線の接続。何度も言うが太いので、大変端子に入れづらいのだ。オヤイデにした最大の理由はまさにこの点で、芯線を通す穴が大きく穿たれているのだ。それでも芯線を二股に分けて入れなくてはつらいものがあるが、こうすることで容易な接続が可能となった。

 手間と時間ばかり掛かって音質的な効果に疑問のある網組チューブは今回使わなかった。吉と出る場合もあるのでやってみたい気もしたのだが、それ程大勢に影響はあるまい。よって、被覆のグリーン色がそのまま出た電源ケーブルが完成した。庭に水撒きでもするんじゃないか、というまるでホースのような色は何だか今一つの気もするが、音さえ良けりゃ文句は言いません。そう、音さえ良ければ、ね。

 試聴の前には機器との接続が当然待ち受けている。柔らかいケーブルなら何の問題も無い話なのだが、何せ硬い。えい、とばかりに曲げてトランスポートに接続、そして返す刀でタップにねじ込むようにぶっ差す…のだがタップがぐらり。やはりケーブルの力に負けてタップが傾いてしまった。黒檀程度の土台ではダメなのか。うーむ、どうしてみようか。とりあえず手近にあった鉛インゴットを浮き上がった面に乗せてみる。お、上手く行った。無理矢理押さえつけて、これで聴く準備は整った。

 では聴こう。定番の「ルパン」で行きましょうか。

 おお、増えた。増えたぞ。

 何がって、情報量だ。やはりランクが一つ上のものに交換しました、という感じが如実に出たのだ。旧パワーマックスの中低域の厚みや太さは保ったまま引き締まり、高域も逆にきらびやかになるくらいの出方になった。まあ、派手さはある程度エージングで変っていくだろう。

 と言うわけで、暫く音は出さずにCDを回すだけにするなどのエージングに勤しんだ。段々派手さも落ち着いてきて、バランスの良い音になった。やはり日本のブランドだけあってフラットでレンジの広い、真面目な音造りである。そうするとやはり、バタ臭さも欲しくなってしまうがこのケーブルに求めてはいけないものなのだろう。

 2週間が経ち、もうこれでエージングもほぼ完了しただろうという状態で聴くと、まだ心持ち高域にシャリつきのような部分を感じた。特にシンバルなどの音が少々刺激的なのだ。これはこれで生々しくて良いのだが、贅沢を言えばある程度生々しさを残したまま刺激成分を抑えたい。

 ここでプラグの事に思い至る。やはり無メッキだからか。無メッキの良さであるストレートな生々しさがここでは過剰になってしまうのか。

 そう思い始めてしまうと、無性にプラグの交換を実験したくなるのが人情というもの。

 と言うわけで。


 233. レトルトでも旨い(08.10.28)

 「なるほどね」

 何だか斜に構えた物言いなのだが、出てきた音は申し分のないものだった。

 机の上でこんな良い音が鳴っているという事実は、違和感さえ感じさせた。やはりオーディオアンプを通して鳴っている、という音だ。「」のようなものが音に加わるのだ。

 中低域も意外に量感があり、リアダクトなのでなるべく壁から離して調整する必要が生じた。しかしそうした対策に十分応えてくれるだけのクオリティがあったのだ。このユニットは高域はあまり伸びていないので少々物足りないのだが、厚い中低域から中域がそれを紛らわせてくれる。Macに入っている音源を色々再生して、暫く間それを楽しんだり、ネットラジオをずっと聴いたりしていた。

 しかし、やはりある程度音のクオリティが上がると、欲が出てくるものである。高域の物足りなさが気になってきたのだ。それに能率が低いユニットなのでこのアンプの本領を発揮できていないこともある。

 元々この箱にはフォステクスの「FE83E」を取り付けていた。低域の量感が物足りなかったので交換していたが、このバランスなら再びこちらに戻してみても面白いのではないか…

 で、戻してみた。ネジ穴は既にバカになっていた(MDFの欠点だ)ので、フレームを少しずらして付けざるを得なくなってしまったのはちょっぴり残念だ。まあ、素っとぼけた表情になってこれはこれでいいかもしれないが。

 音は見事にユニットの特徴通りに変わった。高域はすっと伸び、低域は少々物足りないくらいに引き締まった。また壁に近づけたりして調整する。もう少し低域が欲しいが、全体的にはこちらの方が良いだろう。おそらく能率が高くなった事でアンプも本領を発揮しているのだろう。iTunesのイコライザで調整してかなりバランスを好ましいレベルに近づける事にした。

 そんなふうにして真夜中のお供に、と聴き続ける日々が続いたのだが、ある日知ってしまったのだ。
 「強化電源」なるものが登場する事を。

 どうやらACアダプタの強化版らしいのだが、これは物凄く心惹かれるではないか。6000円台という価格は高いのか安いのか微妙な所だが、試してみるにはいいだろう。電源を強化する事で少々すっきりし過ぎている低域を増強出来そうな気もする。早速注文する事にした。

 待つ事半月が経ち、ようやく届いた強化電源。開封してみると標準のACアダプタより一回り大きいかな、という程度のもの。25Wから45Wにアップしてはいる。本体に至る細いケーブルが少しだけ太くなっているのは何となく好ましいが、問題はインレットコネクタだ。通常の形をしておらず、メガネ型の変形のような特殊な形状をしているのだ。これでは付属の専用ケーブルを使わざるを得ず、不安になった。電源ケーブルの性能とトレードオフになってしまってはまるで意味がないではないか。

 ブツブツと不満を垂れながらセッティングをする。付属電源ケーブルは細目で柔らかいので取り回しがしやすく、汚い机の周りが多少なりともすっきりするのは決して悪くはない。

 さてさて音の方は。

 「あーっ」

 驚愕。いいじゃないの。って言うか、こんなに良くなっちゃっていいの?と、思わず細い目をぎょろっと見開いてみたくなった。はっきり言って別物の音なのだ。どう変わったか云々、と事細かにここで述べる必要がまるで無くなってしまった。

 とにかく良くなってしまった。

 と、言うしかない。違うアンプに替えたのと同じである。いや、それ以上かもしれない。何だか馬鹿馬鹿しくなってくるくらいだ。

 それにしてもこれは、反則ではないか。今までの音は何だったのだ。これだったら、最初からこの強化電源を標準装備すれば良いではないか。これを標準で付けても40,000円を割る事は出来ただろう。

 それにしても、電源容量をアップさせただけでこれだけ音質がアップするという事実は、いかに電源が重要かを痛感させてくれる。しかし、このようなACアダプタならパーツ屋に行けば安価にゴロゴロ積まれている。代わりに使えるものはありそうだ。既にそのような実験をしている方もいらっしゃる事だろう。わしは今更やらないが、とりあえず45Wのものを入手して実験してみるのもいいかもしれない。その結果次第で本物を手に入れる事も考えて良いわけだ。

 そんなわけで、デスクトップシステムは完成。机の上でも良い音が聴けることは大変嬉しい。とは言うものの、これで簡単にそこそこの音が構築できてしまう事は良いのか悪いのか…という気も僅かながらしてしまう。普通の人ならば大げさなオーディオシステムを組む必要は全く無いのだ。何だかねえ…



 232. ミーハーと呼んでくれ(08.10.08)

 「人は見た目が9割」というベストセラーがあった。わしの読書は「好きな作家しか読まない」ので、こういった話題のものを手にする事はあまりないのだが、だいたいの内容はわかる。まあ、あざといタイトルの付け方だこと。

 それはともかく、「買い物は見た目が9割以上」であることは間違いあるまい。誰が見た目の悪い服を買うと言うのか。サイズ合わせは次の段階である。オーディオも然り。そう言い放つと、「何を言っているのだ、音の良いものを買うのだろう。見た目なんて関係ないではないか」という声が聞える。そりゃあね、それが正論です。しかしですね、情報は耳から出はなく、大抵は目から入ってくるわけです。まずは目で見て、そして実際の音を耳で確かめるのです。やはり見た目から入らないと、聴くチャンスも殆ど無くなるのである。

 そういうわけで。わしも買ってしまった。「icon」である。ニューフォースの、あれである。何色もある、小さなアンプである。まさに見た目で選んでしまった。試聴もせずに。

 そもそも。

 ある春の日、「Macに繋ぐアンプが欲しい」と思い立った。こうやってMacに向かって文字を打ち込んでいる時、ネットに戯れている時、ネットラジオや取り込んだ音楽を聴いていたのだが、やはり物足りない。昔に比べればパソコンの音はアンプを内蔵しているのでそれ程悪くはない。それでも外部アンプを繋げばもっと良くなるだろう。USB端子でデジタル接続の出来るアンプが欲しくなったわけだ。

 当時話題になっていたのがファイヤーストーンラステーム。コンパクトなファイヤーストーンだが、少々子供っぽいデザインがスタイリッシュなMacとは合わないかな、と感じていた。ラステームの方は武骨で実用重視な趣だが、逆にこういうのもいいかもしれないと思った。何より音が良さそうだ。これを買ってみようか…

 と、殆ど心は決まりかかっていたその時。発表されたのだ。「icon」が。

 見た瞬間、一気に気持ちはこちらに傾いた。カッコいいじゃないの。まさにMacのために作られたかのようなそのデザイン。デジタルアンプなのに、つまみがアナクロでアナログな雰囲気。このデザインバランスが素晴らしいではないか。さらに、さらに魅力的なのはが選べる事。シルバー、ブラック、レッド、ブルーの4色の中から選べるのだ。これはたまらん。もう買う。絶対買う。

 土壇場での大逆転。発表されたばかりで音がどうなのか、全くよく分からないまま心は決まった。このNuForceと言うブランド、最近注目されてはいた。デジタルアンプで中級プリメインから電源別筐体セパレートアンプまで、かなり幅広く展開しているが、見た目が「いかにもデジタル」と言うか、パソコン周辺機器然としたスタイリングは今一つ好きになれなかった。なのにどうだ。パソコンに近い存在であるこの「icon」は素晴らしいデザインではないか。縦置きが出来る事もポイントが高い。机の上はかなり雑然としているからだ。 

 何色にしよう。Macと合うのはシルバーかもしれないが、せっかく色があるのだから赤か青にしようではないか。やっぱりここはかなあ。何せ実物が無いので迷う所だが、赤で行こう。情熱の赤?だ。

 そんなわけで注文からしばらくして手元に届いた「icon」は何とも素敵にまとまったパッケージに収められていた。そして取り出してみて驚いた。

 「小さい」

 小さい事は分かっていた筈なのだが、実際に見るとこんなに小さいものだったのか。パソコン周辺機器であるルーターや外付けハードディスク、そのくらいなのだがもっと小さく見える。しかし絶妙の寸法比と唸らされる。適当な寸法で作られたその他の周辺機器が物凄くカッコ悪く見えた。

 選んだ赤は思っていたより渋い色だった。外車によく見られるような鮮やかな赤を想像していたのだが、そこだけがちょっと後悔を憶えた点である。(実際にどこかの店頭で青を見たのだが、こちらはプジョー辺りを思わせる鮮烈なブルーだったので、ますます「しまった…」と思ってしまったが、今はこの赤も結構気に入っている。)

 さてセッティングだ。縦置き用の台座はシリコンゴムのようである。何だかゴムっぽい音になってしまいそうだが、まあとりあえず。MacとはUSBで接続する。面白いのはスピーカーとの接続だ。「speaker」と表示された箇所には何と、LAN端子になっているのである。そう、これは専用ケーブルでしか接続できないのだ。パッケージに入っているスピーカーケーブルはアンプ側がLAN、スピーカー側がバナナプラグになっている。電線病患者としては色々試せないのは痛いが、まあ仕方がない。専用スピーカーというものも存在するのだが(購入時は日本未発売)、これはスピーカー側もLAN端子になっていて、これにより最適な音にコントロールしているらしい。

 それはともかく、机の上のスピーカー「BS-89t」に付けた端子はバナナプラグに対応していなかった。端子を変えるか、スピーカーを替えるか。手っ取り早いのは後者である。ここはブルーが鮮やかな「イスト君」に再登場してもらおう。Hi-Vi researchのユニットをまとったイスト君、こいつにはバナナプラグ対応の端子が付いている。大きさも奥行きこそあるが、ちょうど良い。問題はリアダクトなので壁から離したいがあまり離せない事と、能率が低い事だ。「icon」は能率87dB以上を推奨しているのだ。つまり、あまり駆動力はないと言う事だが、まあ音が出ないわけではないはず。

 電源はACアダプターだが、そこから先はIECコネクターが付いていて自由に電源ケーブルが使える。手元に余っていたDIVASのものを使う。設置場所はiMacとプリンタの間である。元々ケーブルだらけでぐちゃぐちゃの中で、さらに落ち着かないセッティングとなってしまったが、まあ仕方があるまい。渾沌の中で咲く、一輪の花。

 さあ、やっぱり音出しはワクワクする。たとえパソコン用のシステムであったとしても、だ。緊張の一瞬。