近頃、書店で気になること
1998年11月13日
大阪、神戸には紀伊國屋、旭屋、ジュンク堂、丸善といった大型書店がある。もう20年以上、週に1,2度は、このような本屋を1時間ほどかけて、ぶらつくのが私の生活パターンになっている。 この大型書店で、最近気になることがある。
<その1>某英会話学校の勧誘員
最近と言っても、もう10年くらいになるのだろうか、ある英会話学校が、大型書店で生徒を勧誘するようになった。これがどうにもうるさくて、気になる。東京や大阪では大抵の大型書店に入っている。
本屋では、静かに、ゆっくりとした雰囲気で、色々な分野の本を拾い読みしながら本を探すのが楽しみのひとつなのに、この英会話学校から派遣されている勧誘員は、一日中、でかい声で「参考資料をお渡ししています」、と叫び続けている。前を通るたびにパンフレットを差し出される。無視するのもなんだから、その都度、会釈だけして通り過ぎている。これが、毎回のこととなると実にうっとうしい。
大型書店には昔から「リンガフォン」や「I.C.E.」といった会話テープを売っているコーナーがあった。これはそれほどじゃまにならない。コーナーを作り、そこの場所だけで静かに座っていて、興味をもって来てくれた人にだけ説明するのであれば、別段、迷惑でもない。しかし、本屋の中で、風俗の客引きのようなことをやられたらうるさくって仕方がない。
この勧誘員が書店に現れた頃、差し出されたパンフレットだけでも受け取っておこうと思い、手に取ったことがある。それを受け取ったら、そのまま向こうへ行こうと思っているのに、パンフレットの端を離さないものだから、引っ張られる格好になり、思わずよろけそうになった。ばあさんや、じいさんにあんなことをやったらひっくりかえるぞ。パンフレットを手渡す動作をしていながら、客がそれをつかんだら、自分は離さないのだから、魚釣りの針に掛かった魚のような気分であった。
仕方なしに立ち止まったら、無料で模擬レッスンが受けられるチケットをくれると言う。面倒なのでそれも受け取った。すると、ノートを出してきて、行ける日時を指定させられるし、もうほとほと弱った。それ以来、ここのパンフレットは絶対受け取らないことにしている。しかし、旭屋書店(梅田)の2階と4階のエスカレータの降り口には、年中、門番みたいに勧誘員が立っている。
とにかく、一カ所で静かに、じっと待っていてくれないかな。
<その2>警備員
大型書店には万引き防止のため、私服のガードマンがいる。特に紀伊國屋、旭屋などは、常時、数名が廻っている。
20年以上も週に1,2度のペースで通っていると、大抵のガードマンの顔は見知っている。ところが2,3年に一度、警備員の移動があるのか、新しい警備員が入ってくることがある。普通は警備員の移動があっても、1,2名のことだと思うが、ごっそり顔ぶれが変わったことがあった。見たことのない顔がいっぺんに何人もいた。新しい人が来ても、警備員だということが雰囲気ですぐにわかる。目線があやしい。昔からスリと刑事は同じ目つきをしていると言われているが確かにそうなのだ。目線があらぬ方向を向いている。
最近、この新米の警備員の一人が、私を見かけるとズーと後をつけてくるのだ。
昔、植草甚一という爺さんがいた。本屋巡りが趣味で、毎日、神田の書店街を廻り、十数冊の本を買っていた。ニューヨークにもよく行き、朝、ホテルを出て本屋巡りをし、購入した本が鞄に入らなくなったらその日の予定は終了でホテルに戻るという生活をやっていた。私の場合毎日というわけには行かないが、それでも週に一度はこれと同じようなことをやっている。特に紀伊国屋書店では、いくつかのコーナーを廻るため、数冊、脇に抱え、大きい鞄を持って店内の隅から隅までうろついている。梅田の旭屋書店本店は、各フロアーごとに分かれているためその都度精算するが、紀伊国屋はワンフロアーにすべての分野がある。そのため、脇の下に本が抱えたまま長時間うろつくことになる。それで怪しいやつと思うようだ。
新入りの警備員が入ってきて、後をついてこられても、最初の数回は仕方がないと思いる。こっちは気がついていても知らんふりをしてる。新入りでも、数回、そのようなことをするとこの客は大丈夫だと思うのか、ついてこなくなる。または古いガードマンから話を聞くのだろうか、後をつけてこなくなる。ところが、最近私の後をついてくるおやじはしつっこい。 もう半年くらいになるのに、ずーとついてくる。いつもいつも期待を裏切るのも気の毒だから、一回くらい、脇に本を抱えたまま店から出てやろうかと思ってしまう。
まあ、店内をつけてこられても、別に邪魔にもならないし、立ち読みするとき足下に鞄を置いているので、こっちを見ていてくれたら、置き引きやひったくりの防止になると思って気にもしていないが、あまりにしつこいと、警備員としての適性を疑ってしまう。年齢は50歳過ぎだと思うが、この前なんか、野球帽にスニーカーという若作りに「変装」していた。しかし、昔の「グリコ・森永事件」の犯人じゃあるまいし、背広に野球帽なんて怪しすぎる。
30分くらい店内をうろついていても、たまにこの警備員の顔を見ないと、妙に不安になってくる。こっちから、このおじさんを探し廻ることがある。いるときは10分もすればどこかのコーナーで会うので、たぶん、非番なのだろう。
警備と言えば、これは書店に限らないが、コンビニなどにも備え付けてある監視用ビデオカメラがある。大抵、壁やレジのところに、「当店には監視カメラが設置してあります」などと書いたビラが貼ってある。このセリフは、もうちょっと何とかならないのだろうか。監視カメラはあってもかまわないが、どうもこのセリフは垢抜けない。
昔、ニューヨークである店に入った。そこのガラスケースの上に、「カメラの方を向いてにっこり笑ってください」と英語で書いたカードが立ててあった。これを読んだとき、来店記念に記念写真でも撮ってくれるのかと思い、カメラはどこにあるんだろうと、同伴者と探したが見あたらない。しばらく店にいて、やっとこの意味がわかった。実際は、「カメラがあなたを見ていますよ」という遠回しな警告であったのだ。この文句だけで悪いことをたくらんでいる人間なら、ピンとくるのだろう。
うちの近所のカラオケ店は、行くと毎回無料で写真を撮ってくれて、次回行ったら、受付の壁に写真が貼ってある。その写真は勝手にもらって帰ってよい。こんなサービスがあるので、先のN.Y.の店もてっきりそのようなことをやっているのかと思った。髪の毛をなでつけたりしてカメラを探したのにまるで馬鹿みたい。