30数年も生徒指導をしていると、さまざまなタイプの生徒がいます。そのような中から,とりわけ印象に残っている生徒を紹介します。
その1
高校2年のA子は、長机を挟んで、私の前で数学の問題を解いていた。順調に解いているので他の生徒に目を移した瞬間、A子のノートの上にポタポタと水滴が落ちた。風邪でもひいて鼻水でも落ちたのかと思って、A子の顔を見ると、目から大粒の涙があふれていた。
何が起きたのかわけがわからず、「どうしたの?気分でも悪いの?」と声をかけた。数秒、間があり、「すみません。大丈夫です」という返事が返ってきた。
と言われても、わけがわからない。A子が泣き出すようなことを言った覚えもなく、私は狼狽した。他の生徒も驚いていたが、気づかないふりをして、自分の問題を解いていた。しかし部屋には「???」が飛び交っていた。私が困っている様子を察知したA子は続けた。
「今解いている京大の問題ですが、前回、先生にこのパターンの問題の解き方を習ったばかりなのに、もう忘れている自分に呆れて、情けなくなったんです。たった三日前に教えていただいたばかりなのに、それをもう忘れているなんて、自分はなんてバカなんだろうと思うと、悲しくて涙が出てしまいました。」
A子はそのあと、ちょっとひっかかったものの、きちんと最後まで解ききっていた。
授業中、口をすっぱくして、「ここは重要だ」と強調しても、一回で覚えてくれる生徒はめったにいない。そのことはこちらもわかっているので、同じことを二度、三度、教えることには慣れている。今回のケースは、そういう意味でめずらしい。一度習ったことは、完全にマスターしたいというA子の根性は見上げたものだ。これだけの集中力があれば、どこでも受かると私は確信した。
その後A子は苦手だった数学の偏差値も安定して65を超えるようになった。元来、英語や国語はよくできていたため、数学の2次試験である程度確保できれば、どこでも受かる力は十分あった。
最終的にはA子は現役で京都大学に受かり、大学院ではイギリスに行き、その後、国際機関に勤めている。
★このことから見習って欲しいのは、A子の集中力である。一回で覚えるという強い意志と、自分のできなかった問題は完全に習得するというガッツである。この二つがあれば、短期間に成績を上げられる。
もう少し具体的なアドバイスを付け加えるなら、自分が解けなかった問題をコピーしてファイルにストックしていく。そして、翌日にもう一度解き直し、さらに2,3日後、そして一週間後にもう一度解いてみる。一週間後に解けたら、まずその問題はマスターしたと思って間違いない。
このようにしてストックした問題を月に一度くらい,まとめて解きなおす。一ヶ月後でも解けるなら、間違いなく定着している。もし解けなかったら、そこでもう一度確認して、数日後に解き直す。
このような作業は一見面倒と思うかも知れないが、実はこれ以上に効率的な勉強方法はない。大事なポイントは、初めて解いたとき、その解答を完全に理解することである。ここがあやふやだと定着しない。そして上記のように、数回、適当な間隔をおいて解き直す。
自分にとって難しかったものや、手が出なかったものでも、3回繰り返せば習得できる。そして5回も解き直せば、その問題は苦手からむしろ得意になる。全然歯が立たないと思っていたレベルのものでさえ、これで同じタイプのものはできるようになる。これはどの教科にも当てはまるが、とりわけ理系の科目には有効である。