Very Best集
サムタイ
柱抜き
最初に「サムタイ」(Thumb Tie)は海外でも「天一(てんいち)のサムタイ」としてよく知られています。そのため、日本に昔からある手品かと思っていましたが、実際は明治時代、海外から入ってきたもののようです。
松旭斎天一の一座が明治時代の後半アメリカに興行に行った際、これを演じて好評を博し、そのときの印象がよほど強かったのか、海外でも「サムタイ」は日本が発祥のマジックであると思っている人がいます。
今では日本でも「サムタイ」と呼ばれていますが、明治時代、この手品が日本に紹介されたころは、「柱抜き」と呼ばれていました。
現象
両手をそろえて前に出し、両手の親指だけをクロスさせます。そこに長さが40センチから50センチくらいの"こより"を2本使い、観客に縛ってもらいます。親指の色が変わるくらい、きつく縛ってもらいます。これだけきつく縛ってあれば親指は抜けません。 親指だけで、手錠をかけられたような状態になっています。
観客に棒の両端を持ってもらいます。縛ったままの両手を棒にぶつけるようにすると、棒は腕を貫通してしまいます。上にあった画像は、柱を腕に貫通させたところです。棒の代わりに、"わっか"を客席から投げてもらって、それを腕に貫通させることもよくやります。また棒の代わりに本物の日本刀を使って演じられることもあります。これは現象としてかなり強烈です。そのため、天一の演技を初めて見た海外の人たちは、日本刀との連想も加味され、日本で考案されたマジックと思ったのかも知れません。
最後は観客に"こより"をほどいてもらいますが、指が紫色になっており、実際にきつく縛られていたことがわかります。
最後に
日本、海外を問わず、サムタイをレパートリーにしているプロマジシャンは大勢います。「ヴァーノン・ブック」にもダイ・ヴァーノンの方法が解説されていますが、演技者が大勢いる割には海外での解説書はきわめて少なく、あっても原理だけを紹介してあるものが大半です。細かいハンドリングまで書いてあるものはほとんどありません。
昔は座敷などで演じるときは、部屋にある柱を腕の中に抱えるような感じで通しました。日本で最初に「サムタイ」が紹介されたのは明治十年以前に発刊された『大日本長崎渡海シイボルト先生直伝・座敷諸伝授』(福井歌呂久発行)だそうです。そのときは名前も「サムタイ」ではなく、「柱抜き」と呼ばれていました。その後、何度か種明かしの本が出ていますが、極めつけは昇天斎一旭の『西洋奇術自在』(明治三十六年)です。これは今読んでもかゆいところに手が届くような解説になっています。縛るときのコツから見せ方にいたるまで、重要なポイントがことごとく紹介されています。
最近では親指を縛るのに"こより"ではなく、ビニールテープを使うものも考案されています。また、親指だけをロックする金属製の手錠のようなものがあり、それを使い、コメディ仕立てで演じている人もいます。
今回、このページを書くにあたり、参考文献として、『図説・日本の手品』(平岩白風著、青蛙房、1970年発行)を利用させていただきました。また、実際の演技を詳しく解説したもので、比較的新しいものでは、『季刊 不思議 14号』(マジック・マガジン社、1985年)があります。高木重朗氏が"こより"の作り方、縛り方、棒を貫通させるときの動きにいたるまで、懇切丁寧に解説してくださっています。
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