マジシャン別Very Best集

Theodore Annemann

Yggdrasil

 

E.S.P. Cards

 

2000/1/18


最初に

アンネマンのマジックとして、これがベストというわけでもありませんが、構成には感心しましたので紹介します。

「E.S.P.カード」は、今ではマジシャンや「超能力」研究家の間だけでなく、一般の人の間でも広く知れ渡っているようです。これは1930年頃、デューク大学のライン博士が行った実験で使われ、論文として発表されたのが切っ掛けで一躍有名になりました。このカード自体はライン博士の創作ではないのですが、いつの間にかライン博士の創作のように思われてしまったようです。それはともかく、アンネマンがこのマジックをマジックの専門誌、THE JINXに発表したのも同じ頃です。E.S.P.カードは当時としては最新の話題であり、道具でもあったのでしょう。

このカードは「丸,十字、波、四角、星」の5種類からできています。トランプは52種類のカードがありますが、これはたった5種類しかないため、これで予言が当たったとしてもそれほど強いインパクトはありません。しかし、3回連続して当てられたら、偶然の一致では片づかないでしょう。

これを取り上げたのは、ただ不思議であるからというよりも、今のハイテク機器を使えば、「透視」など簡単に、しかも100%正確に当てることができるのに、そのようなものを使わなくても構成の妙で十分不思議な現象を作り出せることを知って欲しかったからです。

なお、原案はアンネマンの"Practical Mental Effects"で読むことができます。この本は今でもタネンから購入できると思います。また、松田さんの『松田道弘あそびの冒険2:超能力マジックの世界』(筑摩書房)にも解説されています。"Practical Mental Effcts"をお読みになれない方は、そちらをお読みください。しかし、今では、オリジナルのアンネマンの本よりも、松田さんの上記の本のほうが入手困難かも知れません

現象

25枚で構成されているE.S.P.カードを一組使います。各カードはそれぞれ5枚ずつ含まれています。

第1段

観客の一人に出ててきもらい、助手として手伝ってもらいます。カードを全部手渡し、5種類のカードをそれぞれ1枚ずつ抜き出してもらいます。この中の1枚だけ、心の中で思ってもらいます。

演者は5枚のカードを背中にまわし、1枚だけを抜き出し、そのカードをズボンの右ポケットに入れます。他の4枚は左手に持っています。

助手に思ったカードの名前を言ってもらいます。ズボンのポケットから先ほど入れたカードを取り出すと一致しています。

第2段

今度は5枚のカードを裏向きに並べ、1枚だけ、助手の人にこっそりと見て覚えてもらいます。5枚を集めてから上着の内ポケットに、いったん5枚とも入れてしまいます。

1枚ずつポケットからカードを表向きに取り出し、テーブルの上に並べて行きます。最後に残ったカードが観客の覚えたカードであることを宣告します。実際に当たっており、助手にポケットの中に手を入れてもらい、最後に残っている1枚を取り出してもらいます。 余分なカードなどはありません。

第3段

テーブルの上の5枚のカードを裏向きにして、助手によく切り混ぜてもらいます。演者は5枚をズボンのポケットに入れます。助手の人に、「私が指をパチンと鳴らしたら、手を私のズボンのポケットに入れて、1枚だけカードを抜き出してください。迷ったりせず、さっと抜き出してください」と頼みます。

助手が手を演者のポケットに入れて、1枚のカードをポケットから出す瞬間に、カードの前を告げます。助手の人が手にしているカードを見てもらうと、まさにそのカードです。

最後に

アンネマンは、どこまで大胆にやっても大丈夫なのかを知り尽くしています。常識では、そんなことをして観客が引っかかるはずがないと思うことでも、十分、使えることがわかるのでしょう。これはアンネマンの、持って生まれた本能とでも言ってよい資質なのかもしれません。

上の3段からなる現象では、客観的に見れば第2段が一番不思議に見えるかも知れません。第3段目など極めて厚かましいことをやっているのですが、第1段、第2段を見せられていると、第3段目など、当たった瞬間、観客から拍手が起きそうなくらい、演出効果があります。

蛇足の話

タイトルの"Yggdrasil"は何と読むのかさえわからないくらい奇妙な単語です。無理矢理英語読みすれば「イグドラシル」とでも読むのでしょうか。

2,3年前、松田さんからこの単語を一度調べてみて欲しいと依頼を受け、インターネットのニューズグループに投書して、たずねたことがあります。すると世界は広いもので、次の日にはイギリス人の学者からメールが届きました。この単語は、「北欧神話」に出てくるもので、天国、人間界、地獄を結ぶとされるトネリコの巨木のことだそうです。その話も詳しく説明してくれていましたが、マジックの現象とどう関係があるのかは不明だと言っていました。おそらくアンネマンもそれほど深い意味があって付けたものではないのでしょう。何となくそれらしい名前なので、タイトルに採用しただけだと思います。わかってしまえばどうってこともないのですが、わかるまでは松田さんも何かの単語のアナグラムになっているのかと考えたりもなさっていました。


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