「ダイス・スタッキング」の方法
How to stack the Dice.
1999/1/29
(追加更新:1999/1/30)
最初にこれはマジックではありませんが、サイコロを使った、有名なテクニックです。
前回の「スカーニのカードトリック」には1ヶ月半ほどの間に、100名以上の申し込みがありました。幸いにも好評のようでしたので、あのような形式でも、また近々、2回目を行うつもりにしています。それとは別に、様々な技法の解説も始めようかと思っています。
具体的には、カードマジックでよく使われる、「ダブル・リフト」、「パス」、「パーム」などです。
今回は、「サイコロを積み上げる」技法の紹介です。興味がある方は、一度、チャレンジしてみてください。
実技
サイコロを使って、トランプでおなじみの「ポーカー」を行うゲームがあります。「ポーカー・ ダイス」と言われるもので、最も一般的なものは、5個のダイスを振って、ポーカーと同じように、ワンペア、ツーペアといった組み合わせで勝ち負けを決めるゲームです。これには専用のダイスもあります。サイコロの各面に、トランプのエースやキング、クイーン、ジャック、10,9などが刻まれたポーカダイス専用のサイコロが海外では販売されています。日本では入手しにくいので、なければ普通のサイコロを使ってもできます。これを革でできたカップに入れて、振ります。
最近はめったに見かけなくなりましたが、20年くらい前までは、バーのカウンターなどで時々見かけたものです。
マエセツが長くなりましたが、今回は「ポーカー・ダイス」の講習をするのが目的ではありません。「ダイス・スタッキング」の話です。
昔はバーテンダーなどの人の中に、「ダイス・スタッキング」を得意にしている人がよくいました。「ダイス・スタッキング」というのは、ダイスを5個ほどテーブルの上に置き、それをダイスカップで集めて行き、最後にカップを持ち上げると、ダイスが全部積み重なっているというテクニックです。このページの最初にあった写真のように、5個のダイスが積み重なっています。これをダイス・スタッキングと言います。
はじめてこれを見せられると、大変高度な技術だと思うでしょう。修得するには数年かかりそうな気がします。実際に自分でやってみると、5個どころか、2個でも積み重なりません。30分ほど練習していたら腕が痛くなってきますが、それでも一向に積み上がる気配はありません。私もはじめてこれを練習したときは、いったいいつになったらできるのか、見当もつかないほどむずかしく思えました。
ところが、それからしばらくして、私と同じ大阪奇術愛好会の福岡康年氏と会ったとき、コツを教えてもらったら、なんと、1分でできてしまったのです。(笑)
ダイス・スタッキングは、ダイスのマジックや、チョップ・カップの手順のどこかに使えないこともないので、修得しておくと便利なこともあります。また、一般の人にマジックを見せるとき、このようなものを間にはさむと、こちらが思っている以上に驚いてくれます。
で、コツですが……、これは福岡さんに了解をとっていませんが、たぶん了承してくれると思いますので、紹介します(笑)。
まず使うダイスはなるべく平らなものを選んでください。5個のダイスを普通に積み重ねてみて、積み重ねるのもむずかしいくらい不安定なものはダメです。大抵のダイスは、これに関しては問題ないと思います。ダイスの大きさは、1辺が1センチから1.5センチ程度のものが適当でしょう。
次にダイスカップですが、これはやはり専用のダイスカップを買ってください。デパートなどに行けば、トランプを売っている場所などで見つけられるはずです。値段は,2,000円から3,000円程度です。硬いものと柔らかいものがありますが、握っても、まったくカップがつぶれないくらい硬いものより、強く握れば少しカップの口が楕円形につぶれるくらいのもののほうが使いやすいと思います。慣れれば、ハードタイプでも全然問題ありません。もし柔らかいものがなければ、硬いものでもかまいません。
普通のガラスのコップで練習する人がいますが、これは最初はまず無理です。紙コップでもできますが、やはり最初は、革製のダイスカップを使った方が楽です。
ダイスカップの大きさは、ダイスを5個積み重ねても十分な高さがあるものを選んでください。5個重ねて、カップを上から伏せたとき、カップの底にぶつかるようではできませんので、そのときはもう少し高さのあるカップを選ぶか、ダイスを少し小さい目のものにすればよいでしょう。
で、実際のやり方ですが、まず、ダイスをテーブルの上に1個置きます。テーブルの縁から20センチくらい離れたところに置きます。2個目のダイスは、1個目より10センチくらい向こうに置きます。こうして順にダイスを縦一列に5個並べてください。
ダイスカップを右手に持ち、一番手前のダイスの右、30センチくらいのところにダイスカップを構えます。このとき、ダイスカップの持ち方が最大のコツです。
まずダイスカップの口が下になるようにして、テーブルの上に置きます。右手でダイスカップの下の方を持ちますが、親指はダイスカップの左側に位置するにようにします。カップの口ギリギリの辺りです。他の4本の指はカップの右側を持ちますが、小指の先、第一関節から先の部分で、しかも膨れている部分だけがテーブルとカップの口の間に挟まるようにします。このとき、カップの口の向こう側はテーブルと接しており、手前側だけが1センチから2センチ程度、浮き上がるようにします。つまり、カップを少し前方に傾けて持つのです。この前方に傾けて持つのが、最大のコツなのです。
次は実際にカップでダイスをすくい取ります。勢いよく、カップを左の方へ動かしながら、最初のダイスをすくい取ります。すくい取ると言っても、実際に何かをすくうような動作はしません。もう少し具体的に言うと、カップが最初のダイスのところを通過するときは、カップを少し右のほうへ傾け、カップの口の左側部分が数センチテーブルから離れ、右の方がテーブルについている状態にします。先ほど、小指をはさむと言いましたので、先ほどのままでは右側の縁がテーブルから離れていますので、このときは小指を抜いて、カップの右縁がテーブルの上に接するようします。
カップが右に傾いたら、勢いよく、カップを左の方に動かし、ダイスをカップで拾い上げます。これは勢いよくカップを左の方へ動かすと、ダイスがカップの中で右の壁にぶつかり、しかも少し右の方にカップが傾いていますから、自動的にカップの中に入ります。カップはそのまま30センチほど左に動かし続け、今度は今と逆のコースをたどって、右の方へ動かします。慣れない間は、ダイスを1個だけ使い、1個のダイスを拾い上げ、拾い上げたらカップを左右に数回振る練習をやってください。拾い上げると言っても、ダイスカップはテーブルの表面から完全に持ち上がることはなく、常に一部はテーブルと接した状態で、左右に振ります。具体的には、左の方にカップを動かすときはカップの右側がテーブルに接し、右の方へ動かすときは、左側がテーブルに接しています。このような状態でカップを振る練習をしてください。
1個のダイスが確実に拾えるようになったら、先ほど5個並べた状態で、順に拾って行きます。これも最初は、1個目のダイスを拾ったら、カップを右の方へ戻し、また左に行くとき2個目のダイスを拾うという具合に、常に、ダイスカップが右から左に動くとき、ダイスを拾い上げるようにしてください。慣れると、左から右に移動させるときにでも拾えるようになりますから、半分の動作で5個全部が拾えます。最初の間は往復で拾うのは少しむずかしいでしょう。
ここまでまずしっかり練習してください。
この後は、カップの中でダイスを積み上げるのですが、利用するのは遠心力だけです。このとき、最初に言ったコツ、つまり小指をカップの下に少しはさむ感じで、カップを前方に少し傾けます。傾ける角度としては20度から30度程度です。
前方に傾けたまま、ダイスカップを少し強く握り、カップを変形させます。口が楕円形になるように少しつぶします。この状態で強く左右に振り続けると、中でダイスが上って行くのがわかると思います。うまくのぼると、音と感触で、カップの外からでもわかります。
ここまでが第3段階です。ここまでしっかり練習してください。
次は、中で積み重なっているダイスを崩さないようにカップを止めなければなりません。 これは、何十回か練習が必要かも知れません。前方に傾いているカップを、カップを左右に振りながら徐々に垂直の状態、つまりカップの口の全面がテーブルにつくくらいまで戻すのですが、このときもカップを少し大げさにつぶす感じで強く握った方が、最初の間はうまく行くと思います。徐々に力を緩めてきて、ダイスを落とさないで止めるコツをマスターしてください。
このダイス・スタッキングで一番むずかしいのは、普通にダイスをカップに入れて、左右に振っても、ダイスが立ち上がらないのです。それが、ダイスを前方に傾けることで、中での遠心力が壁に沿ってのぼる力に変わるので、中でダイスが立ち上がるのです。本当に、この前方に傾けるのが最大のポイントですから、そのつもりで練習してください。私の場合も、この部分を教えてもらって、すぐにカップの中でダイスが立ち上がるようになりました。
ダイス・スタッキングを得意芸にしていた方で、日本で最もよく知られているのは、長年、名古屋のマジックコーナーで、ディーラーをなさっていたパピヨン・大西氏でしょう。大西氏は、手の甲にダイスを立てたり、様々な高等技法をなさっていました。
また、これを使ったマジックとしては、根本氏がクライマックスに、10円玉を50個くらい積み上げた状態で取り出すことをやっていました。また根尾氏も、小さなダイスがダイスカップから数百個出現するというクライマックスをチョップカップの中に入れていました。
最近、ダイス・スタッキングのビデオも発売されましたので、興味ある方はL&Lにでも問い合わせてみてください。
追加更新:
昨日、「ダイス・スタッキング」についてアップロードしましたら、いつもメールをくださっているYさんからご自身の体験談やコツを送っていただきました。ダイスが5個、中で積み重なったあと、最後にカップの動きを止める部分のコツについて触れてくださっています。これは、私も昔練習したとき、同じようなことを感じましたので、それに関して追加しておきます。
ダイスカップを右手で持っている場合、最後は右斜め前方で止めるのがよいのです。これはフリスビーを投げるとき、最後は右手首のスナップをきかせながら、右斜め前方で止めるのと同じです。
ダイスカップを左の方から右斜め前方に移動させながら、少し手首も使う感じで、全体の運動を止めます。手首を使うのは、腕全体の動きを、手首を使うことで微調整でき、力を静かに吸収するためです。最後は右前方で腕がとまった後、さらに手首だけでカップを右の方へ10センチ程度の弧を描く感じで動かすと、中のダイスが崩れにくくなります。