The Dos and Don'ts of Magic
マジックにおける「べからず集」

 

第2回:都合の悪いことがあるのなら頼むな

2000/4/13

マジックでは、観客に何かを手伝ってもらうことがよくあります。トランプを一枚取ってもらったり、ロープを結んでもらったりすることは毎回のようにあるはずです。そのようなとき、観客に予定外のことをされると、マジシャンが慌てます。特にマジックを始めたばかりで、経験の少ない人は、ちょっとでも観客に予定外のことをされると、それだけで後のマジックができなくなるくらいパニックになることもめずらしくありません。手伝ってくれた観客は、決して悪意から予定外のことをしているのではなく、ごく普通にやってくれただけなのに、マジシャンにとっては冷や汗が出るほど慌てることがあります。

実際、次のような場面を見たことがあります。マジシャンは1本のロープを観客に手渡し、端を結んでくれるように頼みました。ところが、どうもそのマジックは観客の結び方では都合が悪かったようです。マジシャンはいったんそれをほどいてから、もう一度自分で結び直していました。いくら何でもこれはひどすぎます。観客も興ざめでしょう。

もし観客に予定外のことをされて、それでマジックが続けられない可能性があるのなら、観客に頼むのではなく、最初からマジシャンが自分で結べばよいのです。

同じような例はカードマジックでもよく見かけます。例えば「カット」をしてもらうときです。テーブルの上に一組のトランプがあり、観客に「カットしてください」と指示すると、かなりの率で失敗します。

まず、「カットしてください」と一般の人に言っても通じません。マニアにとっては常識でも、これは世間の常識、特に日本ではたいていわかりません。カットという言葉を知っている人が相手であっても、ただ「カットしてください」と言えば、10回のうち、2、3回は失敗します。

カットという動作は、テーブルの上に置いてある一組のトランプから半分くらいを持ち上げてもらい、それをいったん下半分の隣に置き、続いて下半分を上半分の上に乗せて重ねてしまう動作です。要するに、一組の真ん中あたりで上半分と下半分を入れ替える動作です。大変簡単な動作なのですが、このようなものでも、ただ「カットしてください」と指示すると、観客はマジシャンの予想していなかったことをやる場合が少なくありません。

よく見かけるのは、上半分を持ち上げ、下半分の隣に置いたとき、枚数が少ないと思うと、さらに下半分から追加する人がいます。

また上半分はきちんとカットしてくれても、残っている下半分を持ち上げるとき一度に全部持ちあげられず、1、2枚がテーブルに残ってしまうことがあります。残っているのに気がつき、それを最後に乗せます。 このような動作は悪意があってのことではありません。ごく普通にやっているだけですが、マジックによってはこのようなことだけでも、都合の悪いことが生じます。

マジシャンにとって都合の悪い「カット」をされたとき、もう一度最初からやり直してもらっている場面を私は何度も目撃しています。しかしこれでは一般の人でも、何か特別な順にカードがセットされていたのだろうと推測するでしょう。

カットのとき、マジシャンにとって都合の悪いことが起きるのをなくすには、言葉で適切な誘導をすれば防ぐことができます。「カット」の具体的なセリフは、「カードマジックの基本技法」に解説してありますので、まだ読んでいない方は一度目を通しておいてください。

今は二つだけ例をあげましたが、マジックでは観客に何かを頼んだり、手伝ってもらうことがよくありますので、そのようなとき、観客が予想外のことをする可能性があり、そのようなことをやられたらマジックができないのであれば、最初から頼まないことです。また、どうしても頼まなければならないのなら、観客がおかしなことをしないよう、具体的に指示することです。

成功と失敗の境目など、本当にちょっとしたことです。しかし、マジックを長くやっている人でも、このようなことの重要性に気づいていない人が大勢います。いつも失敗ばかりしている人は、結局、イマジネーションの不足です。マジックという芸は観客のイマジネーションにうったえかけて成立する芸です。それなのに、当のマジシャン自身にイマジネーションのかけらもない人が多すぎます。 少しは起こりうる最悪の状態でもシミュレーションしておいてください。

魔法都市の住人 マジェイア


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