マジックを見るときのマナーとお願い

2000/8/25(追加更新)
2000/8/24

映画、コンサート、観劇、どのようなものであっても、自分以外の観客がいる席で何かを観たり聴いたりするとき、見る側にもそれなりのマナーが必要です。 これはマジックを見るときでも同じです。一般的な常識の範囲で、普通に見ていただければ何も問題はないのですが、マジック特有の状況もありますので、それらを含めて、いくつか知っておいていただきたいことをご紹介します。ほんの少し気をつけるだけで、演技者も観客も、お互いに気持ちよくマジックを楽しむことができます。


★携帯電話は切る。

最近はどこの映画館やコンサートなどでも、携帯電話は切るように言われます。これはマジックのときも同じです。必ず切るようにしてください。「マナーモード」で呼び出し音が出ないようにしておいても構いませんが、もし途中でどこかから電話があっても、マジックの最中に突然立ち上がって、席を離れるのは大変失礼ですので、切っておくか、マナーモードの状態で電話が掛かってきても、一区切りつくまで席は立たないでください。

★クロースアップマジックを見るときの注意事項

携帯電話はクロースアップマジックでも、パーラー、ステージでも切っておくべきですが、クロースアップマジックを見るとき、特有のマナーもありますので、それを紹介します。

1.マジシャンの真横や、後ろには行かないこと。

マジックはマジシャンの正面で見るのがベストです。正面から左右45度くらいの角度までなら、まず問題ありません。それ以上横に行くと、タネが見えることもあります。マジックによっては真横から見られても、真後ろから見られても大丈夫なものもありますが、いずれにしても真後ろから見たのでは現象がよくわかりません。

マジシャンの真横、さらにそれより後ろに行くことは絶対にしないでください。

2.勝手に録画・録音しないこと。

プライベートな利用に限っても、マジシャンの演技を勝手にビデオに撮るのは厳禁です。テープレコーダーに録音するのもダメです。無断でこのようなものを撮るのは窃盗と同じです。

スティル写真(静止画像)であっても、必ず本人の許可を得るようにしてください。

3.テーブルの上には絶対、勝手に手を出さないこと。

クロースアップマジックではテーブルの上がステージです。観客が勝手に舞台に上がったりすれば、どのような舞台であっても即座に係員が飛んできて制止されます。クロースアップマジックでも同じです。マジシャンから何かの指示があるとき以外、テーブルの上に置いてあるもの、たとえばカード、コイン、グラス、マット、その他何であっても、手を伸ばして触れることは厳禁です。

レストランや、バーのカウンターのような場所で見せるとき、観客の中には好意でテーブルの上を片づける人がいます。灰皿やグラスをマジシャンの邪魔にならないように移動させる人がいるのですが、これも普通はしないでください。マジシャンは、自分が今から見せるマジックにはどのくらいのスペースが必要なのかわかっています。そのため、テーブルの上に邪魔になるものがあればマジシャン自身が自分でそれを取り除いたり、移動させたりします。好意からであっても、観客に勝手に動かされると困ることがあるのです。灰皿、ライター、グラス、このようなものでもマジックの中で使うから置いてあるのかも知れません。直接は使わなくても、ミスディレクションのために必要だからそこに置いてあることもあります。

とにかくマジックが始まったら、一見不要に見えるものであっても、勝手に手を出して動かしたりしないようにしてください。

4.何かを頼まれたら、出来るだけ協力してあげてください。

たとえばトランプを広げて、観客に1枚取ってもらうといったことはよくあります。このようなとき、マジシャンがトランプを両手の間に広げた状態であなたに1枚取って欲しいと言ってきたら、なるべく普通に、素直に取ってあげてください。マジシャンが広げているところなど嫌だから、一番端っこのカードを取ったりする人がいますが、このようなことはなるべくしないで下さい。

ある程度経験を積んだマジシャンであれば、観客がどこから取ろうが大丈夫なものを準備しています。また、本当は真ん中あたりから取って欲しかったのだけど、端のほうにあるカードを取られたため、予定変更して、別のマジックに切り替えることもあります。

この程度のことは、ベテランであれば顔色ひとつ変えずに行えますが、それでも観客にとっては損です。本当はもっと不思議な現象が見られたかも知れないのに、自分がおかしなところから取ったために、予定外のマジックを見せられているかも知れないのです。

5.むやみに道具を調べさせろとは言わないこと。

マジックはあくまで娯楽です。超能力の実験や、本物の魔法を見せているわけではありません。人為的に不思議な現象を作り出し、一瞬であっても、普段味わえない体験を楽しむことを目的とした娯楽です。タネも仕掛けも当然あります。そのようなことを、観客も演者もお互いに了解した上で楽しんでいるのです。 現象を楽しむのが娯楽としてのマジックなのですから、演技の前後、途中いずれであっても、過剰に道具類を調べさせろという要求はしないようにしてください。

6.小さい子供を連れてくるときは慎重に。

マジックは小さい子供でも理解できますから、大抵の子供はマジックを見るのが好きです。そのため、小さい子供をクロースアップマジックの場に連れてくる親がいるのですが、これは大抵の場合失敗します。

クロースアップマジックは、ステージなどで演じられる派手なものと比べると、ずっと地味です。そのため、小さい子供には不向きなマジックもたくさんあります。元来、マジックというのは大変洒落た芸です。観客もイマジネーションの中で遊ぶ余裕がないと楽しめません。何もかもわきまえた大人が、イマジネーションの中で人為的に作り出した幻想を楽しむところに妙味があります。そのため、小さい子供には無理なマジックもあるのです。

マジシャンの中には、小学校や幼稚園のようなところを訪れ、小さな子供を相手に見せることを専門にしている人もいます。このような人は、小さい子供用のマジックを選んでショーを組み立てています。

最近の鮨屋は、ベルトコンベアーに乗って流れてくる鮨もあり、小さい子供もよく来ているそうですが、昔からある鮨屋では小さい子供は断る店もあります。鮨屋というのは、大人が鮨をつまみながら一杯飲むところです。

私がよく行くインド料理の店も、小学生以下は断っています。これは、料理によっては小さい子供用にスパイスを調整したり、作り替えたりできないものもあるからです。不満足なものを出すくらいなら、最初から断ったほうがよいと思ってのことです。この店のオーナーは、自分のできることとできないことがわかっています。すべての人を満足させることは無理です。無理だと思えば断ったほうがよい場合もあります。

ステージのマジックで小さい子供はお断りというのはさすがにありませんが、クロースアップマジックでは、小さい子供を連れて行くことは、親がよほどマジックのことをわかっていない限り、避けた方が無難です。

★マジシャンの側からのお願い。

これはマナーというより、マジシャンの側からのお願いです。

マジックを見るときの楽しみ方はいろいろあります。純粋に、不思議な現象を楽しんでもらうのが演じる側からすれば一番ありがたいのですが、なかにはタネを詮索するのが好きな人もいます。このような人がいてもそれは当然のことです。ですからそれは構わないのですが、少なくとも演技中は、あまりタネに関したことは言わないようにしてください。

「あれは、きっとこうなっているんだ」とか、「ポケットの中があやしい」とか、いちいちそのようなツッコミを入れられ、おまけにそれが実際に当たっていたらマジシャンは狼狽します(汗)。こうなっているんだろうとか思っても、それは声には出さないで、自分一人で納得しておいてください。

最後にもうひとつ、これもお願いですが、もしあるマジックを見ていて驚いたのでしたら、なるべく素直にそれを表に出してください。この程度のマジックで驚いたらプライドに傷がつくとでも思っているのか、一切、感情を押し殺したまま見ている人がいますが、マジックは勝負ではありません。タネがわからなかったからといって、そのことで自分の知性が低く見られることなどありません。むしろ何を見せても一切の感情を押し殺したまま、まったく表情を変えず反応しない人を見ていると、よほど何かの心配事でもあるのかと、気の毒になってしまいます。ひょっとして会社が倒産しそうなのかしら、葬式の帰りなのかしら、家庭がうまくいっていないのかしら……、とにかく、あまりにも無表情のままマジックを見ている人を見ると、その人のことをつい詮索してしまいます。「見ることは見られること」というのは真実です。何かを見るという行為は、同時に自分自身が見られていることでもあります。

もし本当に驚いたのでしたら、あまり意固地にならず、素直に「ワーッ」、「すごーい」といった歓声や、拍手でもしてもらえたらマジシャンにとってはそれだけで1万円札のご祝儀をもらったのと同じくらい……かどうかは人によるでしょうが、まあ、大抵のマジシャンはそれで十分満足するものなのです。懐の痛まないご祝儀のつもりで、せいぜい驚いてあげてください。 観客の反応ひとつで演者というのはのってくるものです。

魔法都市の住人 マジェイア


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