「ルーティン」のことなど

1999/1/22

マジックの世界では「ルーティン」という言葉がよく使われます。英語の"routine"のことです。

アマチュアでも、マジックの発表会や結婚式、その他何かの集まりである程度本格的なマジック、それも複数のマジックをしなければならないことがあります。このようなとき、何を演じて、どのような順番にするかといったことを考えます。これを「ルーティン構成」と言います。ルーティン構成を考えるとき、「起承転結」「序破急」を考慮にいれて組み立てるのが普通です。

「序破急」で言うのなら、「導入部」、「展開部」、「集結部」、もっとひらたく言えば「つかみのマジック」「中心となるマジック」「クライマックス用のマジック」です。

どこで演じるか、客層、その他諸々の要素で変わってきますから一概には言えませんが、一般的に言えることは、最初出てきたとき、とにかく観客の視線をこちらに向けさせ、ハッとさせるようなものを見せることがポイントです。このような目的に適しているものとして、「火」がよく利用されています。

火のついた棒がステッキに変わったり、シルクのハンカチに火をつけると燃え上がり、それが一瞬にしてステッキに変わるといったマジックです。

また、シルクからフルサイズのワインボトルや、ワインの入ったワイングラスを出現させるのもパーティなどで演じる導入用のマジックとして適当でしょう。

この後の「展開部」は、その日の中心になるマジックです。導入部で、観客の意識をこちらに向けることに成功しているのなら、ここは落ち着いたものでも、何でもかまいません。しっかり演じてください。

この部分がうまく行けば、ここで終わるのが無難です。マジックの発表会や、マジックを見るために集まっている場であるのなら別ですが、一般的なパーティなどで演じているのなら、観客が集中して見てくれるのは、それほど長い時間を期待しても無理です。せいぜい、2,3分です。マジックも二つくらいで十分です。腕に覚えのある人は、15分も20分もマジックを見せ続けてしまいがちですが、あまり沢山やってしまうと、終わった後、観客はどんなマジックを見たのかさえ、覚えていないことが珍しくありません。

先ほど「火」を使うものが派手でよいと言いましたが、これも一カ所に使っているから効果的なのです。いくら火が派手だからといって、最初から終わりまで火ばかり見せたら、観客はもう火に対して驚かなくなってしまいます。終わった後も、とにかく火を見たのは覚えていますが、具体的に、どんな現象が起きたのか覚えていません。

料理でいえば、メインディッシュばかりを出すのがサービスにならないのと同じです。ディナーや懐石料理などでも、先付、吸物、向付、煮物、焼物等、全体の構成でバランスが取れるようになっています。どれにもそれぞれの役割があり、重要なのです。全体の味のバランスで、料理全体が一層引き立つように構成されています。

ところが、アマチュアの人の演技を見ていると、メインディッシュばかりを次々に出すのがサービスだと思っている人がいるようです。これは初心者というより、むしろ中級者あたりの人がよくおちいる誤りです。人前で見せることのできるマジックをいくつかマスターし、あれとこれは絶対にウケるというものがあると、それらを全部詰め込んでしまいがちです。

私は今回、「ルーティンなど考えるな」というタイトルで書くつもりでした。

「ルーティンを考える」ということは、少なくとも複数のマジックを演じるつもりだからでしょうが、私が以前から、「ラウンドテーブル」や「箴言集」などでもしつこく繰り返しているのは、「マジックは一つだけ見せたら、そこでやめよ」ということです。これを厳守するだけで、大抵のマジックにおける致命的な失敗を防ぐことができます。私だけが言うのでは信じられないでしょうから、プロとして長い経歴を持っているチャーリー・ミラーの言葉なども引用して、紹介してきました。本当にこれはあなたのマジックを引き立たせることのできる、魔法のような力を持ったアドバイスなのです。

ひとつだけでやめる。どうしても仕方がない場合でも二つまでしかマジックを見せないということを普段から守っていると、観客から、また見せて欲しいと声がかかるようになります。この辺りのことに興味のある方は、「箴言集」や「ラウンドテーブル」も読んでください。

つまり、マジックをひとつだけでやめるように心がけているのであれば、ルーティンのことなど、ある意味、どうでもよいのです。本当にそうです。しかし何かの都合で、どうしてもある一定の時間、複数のマジックを見せることが必要なときもあるでしょう。そのようなときは、ぜひ起承転結や序破急といった全体の構成を考えてください。これは一人でマジックを見せるときだけでなく、複数のマジシャンが出演して、いくつかのマジックを見せるときでも同じです。数名が出演してマジックを見せるときは、お互いの出し物を調整する必要があります。

全員がメインディッシュばかりのようような演技をやってしまっては、見ている側は疲れてしまいます。あまりメンバーがそろっていないクラブの発表会などでは、前の人がやったのと同じマジックを次の人もやっているということもあります。これなど観客のことや、構成のことを何も考えていない証拠です。

もう一度整理しておきましょう。

1.マジックは普通、一つだけやって、そこでやめるのがベストである。
2.複数演じる場合でも、「つかみ」と「メイン」のマジックの二つで十分である。
3.どうしても3つ以上やらなければならないときは、全体の構成をよく考えて組み立てること。メインディッシュのオンパレードばかりでは、決して観客にとってサービスにならないことをわかっておくことが必要。

 

魔法都市の住人 マジェイア


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