「奇術って何ですか?」、「奇術師って何?」とたずねられたら、あなたはどのように答えますか?
少し考えてみてください。
『広辞苑』(第五版CD-ROM版)で「奇術」を検索してみますと、
きじゅつ【奇術】
1.不思議な技術
2.手品(てじな)
とあります。
しかし、これではほとんど説明になっていません。
[不思議な技術」と言われても、何がどう不思議なのかはわかりませんし、[手品」と言い換えただけでは定義とは言えないでしょう。
私たちは、あまりに当たり前すぎることを改めて問われると、うまく答えられないことがあります。
誰もが同じように理解していると思っている言葉でも、実は一人ひとりが抱いているイメージや定義は微妙に違っています。
その違いに気づかないまま議論を進めれば、話がかみ合わなくなるのは当然です。
これは[奇術」についても同じことが言えます。
奇術の定義にはさまざまなものがありますが、私がもっとも簡潔で本質を突いていると思うのは、作家・奇術研究家の泡坂妻夫氏による次の定義です。奇術とは、合理的な方法によって、観客の知覚を誤らせ、不思議の世界を体験させることを目的とした芸能である。
『トリック交響曲』泡坂妻夫 時事通信社 1981年
初出は風路田氏発行の同人誌、『NEW MAGIC』に掲載。
この定義には無駄がありません。
どの要素が欠けても、エンターテイメントとしての奇術は成立しないでしょう。
奇術師とは、この体験を観客に提供する人のことです。
「そんなことは、言われなくてもわかっている」と思うかもしれません。
しかし、言葉として明確に意識し、自覚しているかどうかで大きな違いが生まれます。
これから奇術を始める人は、ぜひこの定義を心にとどめておいてください。
技法を学ぶ前に、「自分は何を届けようとしているのか」を考えることが、最初の一歩なのです。
魔法都市の住人 マジェイア