魔法都市日記
(69

2002年8月頃


空飛ぶマンボウ

空飛ぶマンボウ(神戸阪急百貨店前の通路)

今年の夏も暑かった。ヨーロッパでは大洪水が起きている。このままいけば北極の氷が溶けて『日本沈没』が現実となる日も遠くないのかも知れないと、本気で心配してしまう。

暑くても仕事はびっしり詰まっているため、盆休みも取れなかった。月末になって1週間ほど休めたが、遠出もせず、"Routined Manupulation"等、ルイス・ギャンソンの古い本を片っ端から読んでいた。


某月某日

前回の日記でTDL(東京ディズニーランド)の中にあるマジックショップについて触れたところ、予想外に多くの反響があった。頂いたメールは、スタッフの応対が「つめたい」、あるいは何かをたずねても詳しく答えてもらえないといった不満を綴ったものが大半をしめていた。今回TDLの内部事情に詳しい方からも話をうかがうことができたので、それも踏まえて少し補足しておきたい。

あのマジックショップに限らず、TDL内にあるすべてのショップやイベント全般に関して根底を貫いている精神は「ゲストを均等にもてなす」ということのようである。このことはTDLで働いているスタッフにも徹底しているらしい。これ自体は決して悪いことではないのだが、「等しく」を金科玉条として、あまりにもとらわれすぎすると、状況によっては新たな問題を生じてしまう。どれだけよくできたルール、あるいは目標であっても、臨機応変に使い分ける能力がないと、うまく機能しないものである。

TDLのマジックショップで、マジックに関しての雑談をしたいと思ってスタッフに話しかけても、こちらの望んでいるような応対をしてくれないと、つめたくあしらわれたという感じを受けてしまうのだろう。このような不満は初心者よりも、ある程度マジックをやっている人から出ている。

一般的なマジックショップに行くと、大抵のマニアは店主や従業員とマジックについて雑談をしたり、商品を紹介してもらったりするのを楽しみにしている。このようなつもりでTDL内のマジックショップに行くと、期待はずれになってしまうのかも知れない。とは言え、TDLにあるショップはどこも大変な混雑ぶりである。このような場で、一部のマニアや常連が従業員と話し込んでいては一般の人が話しかけにくくなってしまう。これはこれでまずい。

話が少し逸れるかも知れないが、TDLに行った数日前に、赤坂見附にあるサントリー美術館にも行ってきた。そこで、TDLとはある意味正反対の出来事を経験した。接客の難しさを示すひとつの例として、紹介したい。

「ガラスに描く、光と彩りの二千年 古代エジプトからグラス・アートまで」
2002年7月16日(火)〜9月1日(日)

私がサントリー美術館に着いたとき、うまい具合に女性学芸員による解説が始まるところであった。約1時間かけて、展示物を詳しく説明してもらえた。これはありがたかったのだが、その後の学芸員の応対には不満が残ってしまった。

この学芸員は身長が170センチくらいあり、大変知的で、魅力的な女性であった。だからというわけでもないのだろうが、固定ファンもいるのかも知れない。解説が終わった後、参加者数名からあいさつを受けていた。取り巻きのような人が離れた後、私はひとつたずねたいことがあったので、学芸員に近づいて行った。そのとき横から出てきた若い女性が先にたずねはじめた。仕方がないので、その人が終わるのを展示物を見ながら待っていた。

学芸員は女性の質問に、ひとつひとつていねいに答えていた。10分ほど経ったから、もう終わっているだろうと思って近づくと、また別の質問をしている。疑問点を解消するというより、あこがれの先生に教えてもらうのがうれしいといった雰囲気がこの女性の周りには漂っていた。

このままではいつ終わるかわからないため、切りのよいところを見はからって声を掛けた。しかし学芸員からは「まだこちらの方の質問が終わっていませんので、お待ちください」と言われてしまった。質問者の女性も、邪魔者を見るような目つきで、私をにらんでいた。

この後私も予定があったため、いつまでも待っているわけにはいかない。しょうがないので質問はあきらめ、そのまま外に出たが、これは気分が悪かった。

質問をする側は、もしいくつもたずねたいことがあるのなら、ひとつたずねた時点で他に質問者がいないかどうか確認するべきである。もし質問者にその程度の常識もないのなら、学芸員が同じ人からの質問は中断するくらいの配慮がないとまずい。あのときのようすでは、質問者は1時間かけて説明してもらったことを、もう一度全部についてたずねないと気がすまないという雰囲気であった。

話を戻すと、ある特定の人を大切にしようとするとこのようなことが起きてしまう。といって、「等しく」ということをマニュアルどおりに実行しようとすると、「つめたい」とか「よそよそしい」という不満が出ることもある。

英語のことわざに

Pleasing everybody is pleasing nobody.
(すべての人を満足させようとすると、結局だれも満足しないことになる」

というのがある。

私が経験したように、特定の人にかまいすぎると、他の人から不満が出る。またすべての人に分け隔てなく満足してもらおうとしても、また不満が出る。どうやったところですべての人を満足させることは出来ないため、ケースバイケースで、臨機応変に対処するしかない。

TDLでは、パレードなどでスタッフが愛想よく手を振っている場面に出くわすことがある。そのとき、こちらが手を振り返したとき、さらに手を振ってくれたら嬉しいのに、視線はすでに別の方向に向いている。これも何だかすかされたようで、がっかりしてしまう。これは一見愛想よく手を振っているように見えても、特定の人に向かってのものではないため、このようなことになってしまうのだろう。

最近では、ある程度もまともなサービス業は教育システムに力を入れている。そのため、従業員教育もよくできている。しかしどれだけマニュアルがよくできていても、最後は人と人のつながりをどれだけ大切にしたいと思っているか、それによって雰囲気はがらりと変わってしまう。

話をTDLのマジックショップに限定すると、ここはマジックの道具は売っているものの、マジックショップというより、TDL内にある他のみやげ物店と本質的には変わらない。この店で、マジックの道具が店頭で購入できるということをはじめて知った人も大勢いるはずである。普及という意味では十分役割を担っているのだろう。

テンヨーもTDLも、ゲストに対しては満足してもらいたいと願い、企業努力を続けているのは私も十分理解している。それでもなお、現実に不満も出ているのだから、一層の細やかな精進をお願いしたいものである。

某月某日

スペース・ステーション 3D現在地球の大気圏の外、地上から約352km上空では、巨大な宇宙ステーションが建設されている。このプロジェクトには16ヶ国が参加し、2006年の完成を目指している。これができると、ここを足場にして、観測や実験なども格段に効率よくできるようになるのだろう。

大阪のサントリーミュージアムにあるアイマックスシアターでは、この宇宙ステーションの製作現場を実際に宇宙空間で撮影した映像、「スペース・ステーション 3D」が上映されていた。

3D専用の眼鏡を掛けて、巨大なスクリーンで宇宙飛行士が実際に作業をしている場面を見ているだけで、しばしの間でも、日本の暑さを忘れることができそうだ。

立体映像として見ると、無重力空間というのは文字どおり足元がおぼつかない。何ともゾクゾクする。「浮かんでいる」というのは、頭ではわかっていてもなんとも、実際に体験しないことには形容しがたい体験かもしれない。「地に足をつける」という表現も、無重力の場では意味がなくなってしまいそうだ。

ステーションの外で浮かびながら作業をしているとき、不安感はないのだろうか。うっかり足元を滑らせても、下に落ちるという心配はないが、つま先でステーションを蹴飛ばせば自分はどんどん離れていく。宇宙の彼方まで飛んで行ってしまうのだろう。もちろん安全のためにロープで固定し、携帯用のロケット噴射機を背負っているので、実際にはそのようなことはないのだろうが、それでも恐ろしい。

宇宙飛行士が浮かんでいる場面や、大気圏外からながめた地球の映像を見ていると、高校のとき、物理の授業でやった引力の話を思い出した。

日本から地面に穴を掘り、地球の中心を通って反対側、これはアルゼンチンになるのだそうだが、そこまで直通のトンネルを作ったとする。この穴に日本から飛び込むとどうなるのかという問題であった。

最初は落ちていくのはわかるが、地球の中心あたりまで来ると引力は弱くなり、そこで止まってしまうのか、すごい勢いで落ちて行くから、アルゼンチンに着いた頃には加速され、地面から飛び出すかもしれないとか、いろいろな意見が出ていた。しかし地球の真ん中で、人間が浮かんでいるという状態も想像しがたく、みんな頭を抱えていた。実際には摩擦や空気抵抗を無視して日本から穴に飛び込めば、アルゼンチンの地表まで頭が出るところまでは行き、その後、またふたたび中心に向かって落ち始め、日本まで戻ってくる。これがずっと繰り返される。バネが伸びたり縮んだりするのと同じ動き、つまり単振動になる。正確な時間は忘れたが、確かアルゼンチンまで「落ちて」また日本に戻ってくるまでの時間は1時間と少しであったと思う。

宇宙飛行士が地球に戻ってくると、人生観が変わってしまうと言われている。確かにあのような位置から地球を見ると、地図帳で見慣れた国境などはなく、陸と海しかない。ジョン・レノンが「イマジン」で歌っていた"Imagine there's no countries"が実感できる。

人間というのは地球という共同体に暮らしている同胞であることがはっきりわかる。もし地球以外にも生命体があるとしても、それも宇宙という大きな器で見れば同じことである。映画の「スターウォーズ」に出てくるくらい、自由に地球から飛び出せるようになっているのなら、他の星の生き物と戦争をするといった愚かなことはしないだろう。

ひとしきり宇宙遊泳を楽しんだあと、外へ出ると向かいには海遊館があった。宇宙の次は水の中か。ここも涼しいので入ろうかと思ったが、今回はパスした。


海遊館などがある天保山ハーバービレッジには、マーケットプレイスという商業施設の入った建物もある。ここに今年の7月オープンした「なにわ食いしんぼ横丁」が好評である。これができてから人の集まりがずいぶんよくなったそうである。この横丁は、昭和40年前後の大阪の下町を再現している。その頃といえば東京オリンピックや、大阪万博などもあり、日本全体が高度成長期のまっただ中にあったころである。この頃から人気のあった食堂などを一堂に集めている。

20軒ほど入っている店は、千日前の自由軒(ドライカレー)、北極星のオムライス(日本のオムライスの元祖)、桃屋いかやき屋(いか焼きの元祖)他、一度食べてみたいと思っていたB級グルメの店が軒並みそろっている。なかでも北極星のオムライスは昔からぜひ一度食べてみたいと思っていた。さすがにこの店はここでも群を抜いて人気があるようで、いつも20人以上の行列ができている。

北極星のオムライス

昔はオムライスといえば、チキンが入ったケチャップ味と決まっていたが、最近はバリエーションも増えている。しかし私はどこで食べるにしても、チキンにケチャップ味という、一番スタンダードなものに決めている。今回もそれにした。(650円)

味は比較的あっさりしている。私の個人的な好みでは、もう少しバター風味がきいていて、巻いてある玉子は厚く、しかし裏側はとろっとした半熟状態のものが好きなのだが、ここのは全体に薄味で、玉子も薄い。上に掛かっているソースと一緒に食べると、ちょうどよい味になる。

大正11年にオムライスをはじめてから、今では大阪を中心に支店が8軒もあるので味は確かに悪くはない。値段との兼ね合いで言っても、これならまず不満はないだろう。


某月某日

IBM大阪リングの例会前日、埼玉の田代茂さんからドイツ人のマジシャン、トビアス・ハイネマン氏(Tobias Heinemann)が例会に参加したいという意向であるという連絡をいただいた。

トビアス氏は現在29歳で、スイスでプロマジシャンとして活躍されているそうである。1994年のFISM横浜大会にも参加し、今回が三度目の来日ということであった。ただ今回の来日は仕事ではなく、京都にいる友人と会うのが主な目的であったようだ。半分はバカンス、もう半分はレクチャーでもできれば小遣いくらいにはなると思ってのことかも知れない。

deception 4 the real worldいくら日本には慣れているとはいえ、東京から新幹線を乗り継いで、一人で例会の会場まで来るのは難しい。とりあえず新大阪駅からタクシーに乗ってもらい、運転手にメモを見せたら会場まで着けるよう、手配をしておいた。

普段の例会は午後7時ごろからメンバーが集まりはじめる。トビアス氏は午後5時ごろには新大阪に着きそうなので、あまり待たせるのも悪いと思い、今回私とSさんは6時過ぎには会場に行って待っていた。

6時半頃、半ズボンにTシャツ、肩から大きな鞄を下げ、両手にもそれぞれ大きな鞄を持ったトビアス氏が現れた。普段私も5、6キロはある鞄を持ち歩いているので、重い鞄には慣れているのだが、トビアス氏の鞄は半端な重さではなかった。どれも20キロ近くはある。それを両手と肩からさげているのだから、60キロほどにもなる。大柄な人とはいえ、さすがにこの大きな鞄を三つ持って、夕方混雑している地下鉄や在来線には乗れないだろう。タクシーで来てもらって正解であった。

簡単なあいさつを済ませたら、突然新聞が欲しいと言い出した。よほど何か気になる記事でもあるのかと思ったが、英字新聞でないと読めないと思い確かめてみた。日本語のものでもよいというので、どうやらあとで見せてくれるマジックに使うらしいということがわかった。「新聞紙の復活」でもやってくれるのかも知れない。

日本の新聞でよいのなら地下鉄の売店で売っているので、Sさんにお願いして案内してもらった。10分ほどで戻ってきたら、手には同じ新聞紙を2、3部と段ボールの空箱をつぶしたものを二つ手にしていた。さらにその後、鞄のひとつを持って部屋から出て行ったと思ったら、5分ほどで黒い衣装に着替えて現れた。

仕事ではステージ、クロースアップのどちらもやっているようだが、この会場ではクロースアップマジックしかできない。また今回は正式なレクチャーでもショーでもなく、ゲストの一人として、遊びに来てもらっただけなので、ステージ用の衣装にまで着替えてもらうまでもなかったのだが、このあたりはさすがにプロである。

今回、例会に出席したいという連絡を受けたのが前日であり、しかも正式に確定したのが当日の午前中ということもあり、ほとんどだれにも連絡が出来なかった。せめて数日前にわかっていればメンバーには連絡を取り、もう少し早く集まってもらったのだが、いつもの例会と同じようなペースでしか集まらなかった。それでも7時半を過ぎた頃には常連が十数名そろったので、始めてもらった。

見せてもらったマジックは数点あった。そのうち一部はトビアス氏のレクチャーノート、"deception 4 the real world"と"psycho"に載っている。また、普段レストランなどのテーブルホッピングなどで一般の人に見せているマジックもあった。

トビアス氏はマジシャンだけでなく、役者としても仕事をしているらしい。ミュージカル、『ウエスト・サイド・ストーリー』や『グリース』にも出演したそうだから、パフォーマーとしての基礎訓練ができている。そのため立ち姿や声の通りもよく、マニアの演技とはひと味違うものを見せてくれた。

私が感心したのは、"deception 4 the real world"の表紙裏側に、デビッド・クロネンバーグの言葉を大きく取りあげている点であった。この言葉は私も「箴言集」で紹介している。おそらく私と同じ、デビッド・パールの著書"Brain Food"の中で見つけたと思うのだが、あまり目立たないところに載っている言葉なのに、よく気がついたものだ。こんなところまで読んでいるのなら、相当いろいろな本を読んでいると思って間違いない。

マジックそのものはちょっと懲りすぎて、マニアを引っかけることにウエイトをおいたものがあり、それはいまひとつ気に入らなかったのだが、一般の人に見せている、ごくやさしいものがむしろ私の好みには合致していた。

最後に見せてくれた「サイコ」は、ヒッチコックの映画「サイコ」から取っている。今回、会場の都合で音楽が流せなかったので、今ひとつ盛り上がりに欠けたが、目隠しをしてナイフでカードを突き刺す、「ブラインドフォールド・カード・スタビング」である。マリニが得意としていた例のマジックを、彼なりのアイディアと演出を加えて演じている。会場に着くなり新聞紙が欲しいと言ったのは、このマジックを演じるためであったようだ。

会場が9時までという制限のため、最後はあわただしくなり、おまけにこれから京都まで戻らなくてはならないので、ゆっくり話をうかがっている時間が取れなかったのが残念であった。

60キロ近くもあるような重い荷物を担いで京都まで行くのはいくら何でも気の毒だと思っていたら、森下氏が京都の友人の家まで車で送ってくださることになり、私たちとしてもホッとした次第である。

某月某日

神戸ハーバーランドにある阪急百貨店でディズニー関係のイベントがあった。

「ディズニー・アートに見るアメリカン・アニメーションの世界 ドリームファンタジアム」
(2002年8月21日〜9月9日:神戸阪急ミュージアム:入場料高校生以上500円)

フィギュア

期間中、土曜日曜にはマジシャンが会場にやって来るらしい。パンフレットには「ディズニーミニマジックショー」とあり、ディズニーのマジックグッズを使ったデモンストレーションをするようである。ディズニー関係のマジック用品といえば、おそらくテンヨーの商品を販売するのが目的なのだろうが、ひょっとして東京ディズニーランドの中にあるマジックショップ限定の商品もあるかも知れないと思い、行ってきた。

イベント会場にはディズニーアニメの原画、映像、古いミニチュアフィギュアなどの他に、ウォルト・ディズニーが自宅の庭にレールを敷いて走らせていた1/24スケールの蒸気機関車もあった。これは会場でも実際に動いていた。展示物はあまり多くはないものの、はじめて見るものが数点あり、それなりに楽しめたのだがマジックはひどかった。2、3演じたマジックのうち、最後はおなじみの「スポンジボール」である。マジシャンが手にスポンジボールを握ると、それが観客の手に移るといった、ごく標準的なルーティンなのだが、途中、5、6歳の女の子に手伝ってもらっていた。この女の子がスポンジボールを握ったあと手を開くと、ボールがゴム製のゴキブリに変わっていた。女の子は手を開いた瞬間、驚いて投げ捨てていた。

このマジシャンは悲鳴をあげさせることができたらウケていると勘違いしているのかも知れない。それにしてもディズニーという夢をあたえることを主題としてるイベントで、ゴキブリはひどすぎる。あの女の子は今後マジシャンから何かを握ってと頼まれたら拒否するだろう。

「スポンジボール」は観客が参加し、実際に観客の手の中でボールが増えたり、変化したりするため、大変反応のよいマジックである。そのため多くのマジシャンが愛用している。バーマジシャンの一部には、若い女性が観客のとき、決まって最後にスポンジできた男性性器を出現させているバカがいる。これも救いようがないほど非常識なのだが、それよりも今回のゴキブリは数段たちが悪い。小さい女の子にゴキブリを握らせ、悲鳴をあげさせてどうする。こんなことをしなくては観客を驚かせられないのであれば、マジックなどやめたほうがよい。はなからマジシャンとしてのセンスはゼロである。

会場には主催者らしい関係者もいたのに、注意しないところを見ると、このような行為を容認しているらしい。これにもあきれ果ててしまう。商品が売れさえすれば、夢をこわそうが、不愉快な思いをさせようが、何でもよいと思っているのだろう。

スポンジボールはごく標準的なルーティンをそのまま演じたとしても大変受ける。それなのになんでわざわざゴキブリに変える必要があるのか、私にはわからない。もしどうしての他のものに変えたいのなら、ゴムでできた小さいミッキーやプーさんにでも変えればまだわからないでもないのだが、ゴキブリはない。

このマジシャンは若い人なので、どこかの大学の奇術部から来ている学生のバイトかもしれないが、それにしても論外なほどレベルが低すぎる。もし本人、あるいは関係者がこれを読んでいるのなら、猛省を促しておく。

某月某日

あるとき、あるものが無性に食べたくなる。それはたとえばギョウザであったり、カツ丼であったり、カレーであったりと、何の脈絡もなく急にやってくる。体がそれを要求しているからということなのだろうが、今回、突然焼肉が食べたくなった。

考えてみたら、しばらく焼肉屋に行っていない。といっても家ではときどき食べているので、狂牛病を気にしてひかえていたというわけではない。焼肉というのは材料を買ってきて家で焼くより、腰を据えて本格的に食べようと思えば焼肉屋に行くに限る。ちょうど友人と電話で喋っているとき、「焼肉食べたい症状」が出てしまったので、焼肉屋で会うことにした。友人の家の近くにある焼肉屋がうまいという評判なので、そこに決めた。

店はJR神戸線、甲南山手駅の南、サティの一階にある「嘉祥」(かしょう)である。。このあたりは芦屋と御影という”高級住宅地”のちょうど真ん中あたりになるため、鶴橋あたりの焼肉屋とはだいぶ雰囲気がちがっている。斜め向かいに座っているカップルはワインを飲んでいた。他の席に視線を移しても、ワイングラスがあった。落ち着いたレストランという雰囲気で、普段私が行くような店とはだいぶ差がある。周りから聞こえている会話も大変静かで、客層のレベルの高さがわかる。

メニューにあるワインリストを見ると、数は多くないが吟味されており、焼肉にあいそうなものがそろっている。その割りには値段も全然高くない。ワインで儲けようとはしていないのも気に入った。

ご主人も、女性従業員も感じがよく、肉に対する吟味も行き届いている。神戸牛のよいところを備長炭で焼いて食べる。テーブルの中央がへこんでいて、そこに炭を入れるため、焼き網はテーブルより少し低い位置にある。煙はテーブルの中に仕込まれている装置で、全部吸い込まれるようになっているため、外にはまったくもれない。これなら服に焼肉や煙の匂いも着かないので、女性でも気にならないだろう。

この店の名物として、一頭の牛からごく少ししか取れない最高級肩ロースの「みすじ」がある。これを一度食べてみたかった。後はその場で考えるつもりにしていたのだが、メニューを見ると「おまかせコース」があり、それにも「みすじ」が含まれているので、「おまかせ」を頼んでみた。これは毎日店に入ってくる素材のなかから一番よいものを組み合わせて出してもらえるようだ。

ホルモンも大変新鮮でおいしいという話を聞いていたが、行った日はお盆の最中であり、仕入れの関係でホルモンのよいものがなかったそうである。そのため、この日はコースにはホルモン類は入れていないということであった。このあたりも食材にあわせて適宜変えているようで、安心できる。

最初に数品出てきたものは、どれも生でも食べられるくらい新鮮で、とろけるほどうまい。しかし大変薄く切ってあり、量も少ないので、これでは焼肉を食べたという満腹感が得られないのではないかと心配になった。次々出てくる皿を食べ続けていると予想外に多く、おまけに最後にはサーロインステーキといってよいような大きな肉が出てきた。これで量に関しても、人並み以上に食べる私でさえ、問題はなかった。

途中、ちょっとしたトラブルが私を襲った。久しぶりに焼肉を食べたからというわけでもないと思うのだが、薄く切ってある肉が喉に詰まり、一瞬、死ぬかと思った。薄い肉が膜のようになり、喉に貼り付いたのだろう。呼吸ができなくなった。慌てて水を飲んで背中を叩いてもらったら無事喉の奥に落ちたが、これには驚いた。薄い肉を生に近い状態で食べるときは、しばしばこのようなことがおきるのだそうだ。薄くてもしっかりかみ砕いてから食べたら大丈夫なようである。今後は気をつけよう。

ちょっと店内を騒がせてしまったが、その後もバリバリ食べたので、店の人も安心したようだ。

仕上げにはクッパを頼むことが多いが、今回は玉子スープにした。これもおいしいので、おそらくクッパやビビンバも間違いなくおいしいと確信している。

予約だけでもすぐに埋まってしまうような店なので、行くときは電話で前もって予約してから行ったほうがよい。予算は一人5000円くらい。「おまかせコース」は二人以上で、一人前7000円。

嘉祥(かしょう)
神戸市東灘区森南町1-5-1 サティ一階
定休日:火曜
営業時間:17:30から。ラストオーダーは22:00、閉店は23:00
電話:078-451-3376

某月某日

神戸港に面したモザイクで、夕方から「トワイライト・パフォーマンス」と題したイベントが開催されていた。ここは陽が落ちると、ホテルオークラや赤く光るポートタワー、ブルーに輝くオリエンタルホテルなどが夕闇に浮かびあがり、美しい。観光船の出入りをながめているだけでも飽きない。

神戸港
モザイクの対岸からの夜景


イベントは暑い日中を避けて、夕暮れどきから午後8時過ぎまで、大道芸の人を中心におこなわれていた。

私が行った日はジャグリングのアパッチさんが出演していた。中国雑伎団に留学して修業をしてきた人だけに、見せ方という面では群を抜いてうまい。2年前にも見せてもらったが、また確実にうまくなっている。

ジャグリングは手先の技術もさることながら、観客にアピールするためには演出や客とのやりとり、しゃべり方などが手先の技術以上に重要である。ただ器用な芸を見せるだけでは客は集まらない。

ジャグリングの場合、バリエーションはあるようであまりない。大抵、みんな同じようなことをやっている。出し物だけでは変化をつけられないため、他のジャグラーと差をつけるためには個性を全面に押し出すしかない。アパッチさんの場合、2年前でも関西ではトップクラスにランクされていたと思うが、今では完全にNo.1と言ってもよいだろう。

レパートリーとしては一般的なジャグリングに加えて、自転車の曲乗りもうまい。自転車の芸自体は珍しくないが、今回は映画の「E.T.」の音楽を流し、カゴにはE.T.の人形を乗せ、本人はエリオット少年に扮していた。演技の最初、カゴに乗っているE.T.と、指と指を合わせる場面でE.T.の指先が赤く光った。私なら例の「光る指」を使って、自分の指も赤く光らせるのにという話を一緒に行っていた友人にしたとき、アパッチさんの指も赤く光った。だれでも同じようなことを考えるものだ。

アパッチ

途中、観客数名に出てきてもらい、一列になって寝てもらった上を自転車で飛び越えるときも、最後まで観客をドキドキさせ、引っ張っていく演出がうまい。今回のような自転車の芸はある程度場所の条件も重要なので、どこででも出来るとは限らないが、これだけいろいろなことができると、何かにつけて有利である。

ジャグラーの場合、出演者は変わっても出し物はよく似ているので、名前を指名してまでお呼びが掛かるようになるのは難しい。しかしアパッチさんくらいになればはっきりと指名が掛かるはずである。こうなってこそ、一流と言えるのだろう。


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