Chinese Coin Routine
(Giant Chinese Coin Climax)
1997/11/28
最初に今まで数多くのマジックを見てきましたが、フレッド・カップスにはじめて「チャイニーズ・コイン・ルーティン」を見せてもらったときほど驚いたことはありません。PCAM東京大会(1976年)でのクロースアップマジックショーで演じてくれました。
そのとき部屋には200人以上いたのでしょうか、最後に直径15センチほどある大きなコインが出てきたとき、部屋全体が大げさでなく揺れました。参加者の90%くらいはマジシャンという場所で、よくまあ、あれほどみんなを驚かせることができたものです。
現象
あまりにも詳しく書いてしまうと、まだ見ていない人の楽しみを奪うので後半はアウトラインだけ紹介します
1.ハーフーダラーを6枚使い、左右の手に3枚ずつ握ります。これが1枚ずつ、右手から左手に移って行きます。(Eddie Fechterの本、"Magican Nitely"にある"6-5-4 Coin Trick")
2.6枚のハーフダラーと、ほぼ同じ大きさの中国のコインを財布からとりだし、7枚で見せます。
左手に3枚のハーフを、右手にハーフと中国のコインの4枚を握ります。左手の3枚が一度に右手に飛行します。(Vernonの"Chinese Classic"と同じ)3.コインが多すぎるので減らして、ハーフダラー4枚だけで見せます。左手に2枚、右手に2枚握りますが、左手の2枚が一度に右手に移動します。(Slydiniの"Han Ping Chein Trick")
4.「まだ多すぎますか?」と言いながら、ハーフ2枚だけで演じるコインアクロスをします。
(L Irelandの Coin Across) 「1、2,3、4、..、10」と数えながら見せる例のトリックと言えばわかるしょう。5.この後はスカーフを出してきて、ハーフ1枚とチャイニーズ1枚が、スカーフの下と手の中で場所が変わったりします。立て続きに、この後、3枚の大きなチャイニーズコインが出現してくるのです。直径5センチ、10センチ、15センチと出てきます。このあたりのセリフや客とのやり取りがうまく構成されており、感激するほど自然なミスディレクションになっています。
コメント
前半は、マニアであれば誰でも知っているトリックです。しかし、どれも一般の人に見せるのであればすばらしいトリックばかりですから、決して捨てないでください。今回、フィルムを見直しましたら、カップスはハンピンチェンムーブもうまいですね。マニアの人がハンピンチェンをやると、どうしても「あの一瞬」に構えてしまって大げさになるのですが、カップスのはまったく自然です。全然、どこにも余計なストレスがありません。
最後に一言
カップスは、1972年にハワイで開かれたコンベンションに参加したとき、みやげ物屋で、この最後に取り出す大きなチャイニーズコインを見つけたそうです。1年ほどして、サンフランシスコのマーティン・ルイスが大きなコインを取り出す手順をレクチャーノートに発表していることを知りました。しかし、ルイスの手順は座って演じる必要があるため、フレッド・カップスにはそのまま使えなかったのです。
カップスはいつもパーティなどで立ったまま、しかも観客に囲まれような状態でマジックを演じていますので、そのような状況でも演じることができるように組み直したのが、上記の手順です。立ったままでも座っていても、周りを観客に囲まれていても、あれほど大きなコインを出せるなんて信じられないでしょう。特に最後のコインのスティールなど、今回ビデオで見なおしても感心します。ちらりとも見えません。
PCAM東京大会でこのマジックを見せてもらってから2,3ヶ月したときです。イギリスのケン・ブルックのところからエアーメールが届きました。世界中で限定100個だけ、このセットを発売するという知らせです。値段は、20年ほど前で100ドル(3万6千円)くらいであったと思います。このメールを見たとき、信じられませんでした。あのようなすごいトリックを、100個限定とはいえ、カップスが売りに出したのが信じられなかったのです。早速、その日のうちに申し込みました。
この頃からでしょうか、コインマジックの最後に大きなコインを出すのが流行りました。ほとんどのコインマジックの最後に大きなコインが出てくるのです。それまで見せたコインマジックが退屈でつまらないから、最後に大きなものを出して驚ろかせているのかと思うほど、意味もなく出していました。
確かに、カップスのこのマジックを、予備知識なく見せられたら、どれほど大きなショックを受けるか、私も知っています。そのため、つい最後に大きなコインを出したくなるのですが、ただ出せばよいというものでもありません。
カップスの手順は、スカーフの上下でコインが入れ替わるという現象を見せながら、観客とのやり取りがうまく構成されています。そのようなやりとりの中で、観客の予想をことごとくはずしながら、大きなコインが出現してきます。最後に大きなコインを取り出して驚かせるだけではないのです。
ジョン・F・メンドーザも直径30センチほどもあるコインを出現させたり、誰なのか名前は知りませんが、50センチ近いコインを出しているマジシャンもいました。しかし、こうなってくるとただの「びっくり箱」にすぎません。突然、大きな声を出して観客を驚かせるのと同じことです。取って付けたように、大きなものを出しても効果は期待したほどではありません。観客が何も予想していないときに、さらにすごいものが出てくるので、見ている側は驚くのです。ただ大きいだけではないのだということを考慮してルーティンを組まないと意味のないものになってしまいます。
魔法都市の住人 マジェイア