The Kangaroo Coins
最初にダイ・ヴァーノンの「カンガルー・コイン」です。今では、コインがテーブルを貫通する、「コイン・スルー・ザ・テーブル」という現象は大変ポピュラーなものになっています。クロースアップマジックが好きな人であれば、「カンガルー・コイン」に限らず、このタイプのマジックを練習したことがない人はいないでしょう。
現象
現象は大変シンプルです。4枚のコインを右手に握ります。左手は空のグラスを持ち、テーブルの下に入れます。コインを握ったまま、右手をテーブルの上にたたきつけると、テーブルの下で「チャリーン」という音がします。右手を取り除くと、コインは3枚になっています。
テーブルの下からグラスを取り出すと、中にコインが1枚入っています。
これを後3回繰り返し、テーブルを貫通させながらグラスの中に落として行きます。コインもグラスも全部調べてもらうことができます。
コメント
「コイン・スルー・ザ・テーブル」というマジックは、コイン自体が相当昔からあるので、これもコインと同じくらい古い歴史をもっていると思うかもしれません。しかし、実際はそうではありません。意外なくらい新しいマジックです。
アル・ベーカーが1941年に彼の著書、"The Magical Ways and Means"に発表してから、やっと一般にも知られるようになりました。ここ60年ほどのことです。しかし、この本が出ると、たちまち世界中に広まりました。現象のシンプルさと、コインという日常どこにでもあるものを使って演じることができるので、マジシャンの心をあっという間にとらえてしまいました。実際、、多くのマジシャンが様々な手順を発表しています。それらの中でも、ダイ・ヴァーノンが『スターズ・オブ・マジック』の中で解説した「カンガルー・コイン」は「音による効果」も加え、いっそう派手でわかりやすい現象になっています。
アル・ベーカーの原案はグラスを使っていません。また、発表されている数多くのヴァリエーションも、99%はグラスなしでやっています。私がよくやっていたもので、グラスを使うのは「カンガルーコイン」以外ではD.ディングルの「インターナショナル・コイン・トリック」くらいです。これは4枚のコインがすべて異なった国のものが使われています。イギリスのクラウン銀貨、メキシコの50センタボ(銅貨)、アメリカのハーフダラー、フランスの2フラン硬貨です。大きさや色が違うコインを使うことで、一般的な「コイン・スルー・ザ・テーブル」を知っているマニアに対する挑戦のようなルーティンです。
「コイン・スルー・ザ・テーブル」は技術的にはそれほど難しいものではありません。しかし、マニアでこれを普段からよく演じている人はあまりいないと思います。人がやっているのをみるとわかるのですが、見た目は意外なくらい地味な芸なのです。その最大の理由は、4回同じ現象が起きるので、後半に行くほど意外性が薄れてしまうという、マジックとしては大変まずい結果になりやすいからでしょう。早い話、クライマックスがないのです。
今では「コイン・スルー・ザ・テーブル」といえば4枚のコインで行うのが定番のようになっていますが、私は必ずしも4枚使う必要はないと思っています。マニアにすると、1枚目から4枚目まで、裏で使っているテクニックを変え、違う手段でやっているので、そう気にならないのでしょうが、観客の立場ではまったく同じことをやっているようにしか見えません。
本当なら、1枚のコインを貫通させるだけでも十分不思議です。1枚を完璧にフェアーな状態で見せ、それがとけるようにテーブルを貫通したら十分不思議です。
先のディングルの手順では、最後の4枚目のときクライマックスをつけたいと思ったのか、アメリカの1ドル銀貨を紙で包んで、その紙包みをテーブルの上でたたきつけると包んだはずのコインが貫通するという見せ方もやっていました。しかし、これもそれほど効果があるとは思えません。
4枚で行うのは単調だと言いましたが、大阪奇術愛好会の赤松洋一氏に見せていただいたときはそうは感じませんでした。どこが違うのでしょう。3枚目くらいまではあまりもったいを付けずにサーとやってしまって、最後の4枚目を少し強調すればよいのかもしれません。
グラスを使うと、グラスなしの場合と比べて少しもたつきますが、そこさえクリアーできれば、「チャリーン」という音とともに貫通する現象は捨てがたいものがあります。
魔法都市の住人 マジェイア