My Favorite Tricks

Out of This World

この世の外で

 

Earth and Moon

1998/11/10

最初に

ニューヨークのアマチュアマジシャン、ポール・カリー(Paul Curry, 1917-1986)の原案になるカードマジックです。1940年に発表されると、その巧妙さ、現象の目新しさ、不思議さ、指先のテクニック不要という、まさにマジシャンが理想とするようなトリックであったため、たちまち世界中に広まりました。

現象

一組のトランプを使います。観客に手渡して、裏向きのまま持ってもらいます。

トランプにはハートやダイヤのような赤いマークのものと、スペードやクラブのように黒いものがあります。手に持っているトランプの一番上から、表を見ずに、カンだけを頼りに、それが赤いマークのトランプだと思ったらテーブルの左の方に、黒いマークのトランプだと思ったら、テーブルの右の方に置いていってもらいます。一組すべてをそのようにして、表を見ることなく二つに分けてもらいます。この間、マジシャンはトランプには一切手を触れていません。全部配り終わったら、トランプを表向きにすると、観客の人が配ったとおりに、全部、完璧に赤と黒に分かれています。

これは観客は自分の意志で、自由に配ったと思っていたでしょうが、実はマジシャンが観客に念を送って、「左に置け」、「右に置け」とテレパシーを送っていたからなのです。

コメント

マジック界の神様、ダイ・ヴァーノンはこのマジックを絶賛し、今世紀に発表されたカードマジック、それこそ数万はあると思われるカードマジックの中で、唯一、新しい原理のカードマジックである、とまで言っています。

このマジックがどれほど強烈な印象を与えるものであるかは、いくつかのエピソードが物語っています。

英国のチャーチルが首相であったころ、昼休みにマジシャンが来て、いくつかのマジックを見せました。その中の一つに、これがあったのです。チャーチルはこのマジックに大変驚き、もう一度やってくれと頼み、もう一度、もう一度と繰り返しているうちに、いつの間にか、7回もさせることになり、とうとう、午後の国会に遅刻してしまったそうです。マジックの世界では、「サーストンの3原則」にもあるように、同じマジックをその場で2回繰り返すことは厳禁なのですが、7回もやるなんて、例外中の例外です。まあ、英国の首相からもう一度と言われたら、イヤだとは言えないでしょう。 余談になりますが、20年ほど前、高木重朗氏が昭和天皇、皇后の前で「リンキング・リング」を披露されたときも、終わった後で、皇后から、「高木、その輪を見せておくれ」と言われたそうです。(笑) 皇后陛下から見せてと言われたらイヤだとは言えないし弱ったと仰っていました。実際にはすでに見せても大丈夫な状態にしてから手渡したので問題はないのですが、その時の話を楽しそうに話しておられたのを今、思い出しました。

閑話休題(話を戻してと、)

また、オカルトや怪奇現象、犯罪心理学等に造詣の深い作家、コリン・ウィルソンに、マジシャンのユージン・バーガーがこれを見せたときも、コリン・ウィルソンの驚きようは大変なものであったそうです。「もし、私があなたのことをマジシャンだと知らなかったら、今見たことは超能力によってなされたと思っただろう」と言ったそうです。 無理もありません。

このトリックの優秀な点は、観客自身が自分ですべてのトランプを配るので、マジシャンが何かをしようにも何もできないように思える点でしょう。

マニア用コメント

マジックをなさっている方であれば、上で私が紹介した現象には一部省略があるのに気づいたと思います。省いたのは、詳しく書くと煩雑になり、まだこのトリックをご存じない方にはわかりにくくなると思ったからです。

ポール・カリーがこれを発表したのが1940年で、その後様々なヴァリエイションが考案されました。1970年代半ばに、ポール・カリー自身が売り出したマニュスクリプト、"Out of This World --- and Beyond"には、それらがまとめて紹介されています。借りたデックですぐに演じることのできる方法、ストリッパー・デックを使う方法、ハリー・ロレインの"Out of Universe"など数多く紹介されています。

また、これとは別に、単品でカリーが売り出したヴァリエイションもあります。"Never in a Life Time"という商品名で、途中のガイドカードをチェンジする部分をなくした方法です。ただ、これはどうも気に入らない点も多く、私はむしろ原案のほうがすぐれていると思います。20数年前、これを私なりの解決法で作ったのが、Never in a Life Time; Gaffed Version"です。これは大阪奇術愛好会の機関誌、『スベンガリ』に発表したものですが、その後、社会思想社から発刊された『夢のクロースアップマジック劇場』(松田道弘・編 1992年発行 2,913円)にも掲載されていますので、興味のある方はお読みください。

現在、日本で入手可能な書籍で、"Out of This World"を解説してあるものとしては、『カードマジック事典』(東京堂出版)があります。

 

魔法都市の住人 マジェイア

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