My Favorite Tricks

The Piano Trick

 

Piano Trick

1998/6/26

最初に

大阪の梅田に、ライブハウス、"Blue Note Osaka"があります。ここはニューヨークのマンハッタンにある"Blue Note"の姉妹店で、N.Y.店同様、出演しているミュージシャンは毎回レベルの高い人を揃えています。N.Y.店のほうが店は狭く、入場料も安いので、いつも立ち見客が出るくらい混んでいます。ステージと客席が近い分、観客の熱気がまともにステージ伝わるので盛り上がりという点ではN.Y.のほうがライブハウスらしいでしょう。
大阪の店はN.Y.店と比べると、お洒落で、客層もなかなかのレベルです。こっちらはこちらで、お上品に盛り上がっています。ここのよいところは、ライブハウスには珍しいくらい、食事のメニューが充実している点です。種類も豊富で、本格的なディナーが楽しめます。コンサートが始まるまで、食事もゆっくりできるのがうれしいところです。

先日、ここでマジックをやってきました。と言っても、勿論、ステージに上がったわけではありません。テーブルで、同伴者に見せただけです。その時の様子を再現してみましょう。

現象

名刺を入れるカードケースから、幅が2センチで、長さが8センチ程度の薄くて白い板を取り出します。これをテーブルの上に、一枚ずつ一列に7,8枚並べます。

「これは何だと思う?」
「さあー、何なの?チューインガム?」
「違うよ。もっとイマジネーションを働かせてみて」
「えー、何だろう....、かまぼこ...」
「はあー?、もうちょっとロマンチックなものだよ。じゃ、ヒントをあげよう。これをみたらわかると思う」

カードケースから黒い板を3枚取り出し、白い板の上に重ねて置いて行きました。

「あっ、わかった。鍵盤でしょう!」
「そう、これはピアノの鍵盤だよ。この前、オーストリアへ行って来たとき買ってきた、携帯用のピアノなんだ。えっ、信じられないの。じゃ、弾いて見せよう」

白い鍵盤のひとつを指で軽く押すと、「ポーン」という音がしました。別の鍵盤を押すとまた別の音が出ました。鍵盤の端から端まで、指を滑らせて一気にはじくと、本物のピアノの鍵盤をはじいたような「ポロポロポローーン」という音が出たのです。

「ね、便利だろう。オーストリアではこうやって、必要なときにこれで演奏しているんだよ」

最後に一言

と、まあこんな具合でした。(笑) 最後は紙の鍵盤を手渡して調べてもらいます。

このトリックは、マニアの方にはお馴染みでしょう。沢浩氏のトリックです。沢さんのオリジナルマジックは数多くあり、カード、コイン、ロープ、リングといった、普通、よくマジックで使われる素材のものもたくさんあります。しかし、このようなものより、沢さんの詩的な面が最もよく現れるのは、この「ピアノトリック」や、「真珠物語」「テントウ虫」等に代表される、自然物や日常の品を使ったものだと私は思っています。

これに限らず、マジックを見せるのに一番良い状況は、相手がマジックだと思っていないときに、不思議な現象をさりげなく見せるときです。実は、今回も、このマジックを見せたいためにブルーノートに行ったのです。(汗)

「一枚の葉っぱを隠すのに、一番よい場所はどこか」という問いがあったら、あなたは何と答えますか?チェスタートンの『折れた剣』に出てくる、ブラウン神父とフランボウの有名な会話です。答えは、「森の中」です。一枚の葉っぱを隠す場所として、これほど自然な場所はありません。ではさらに、「もし、森がなかったら?」という問いかけがあったら、あなたは何と答えますか?

そう、「森を作ればよい」のです。一枚の葉っぱを隠すために森を作るという発想、この手間暇を惜しんでいては観客を楽しませることはできません。観客を驚かせるためなら、葉っぱ一枚のために森を作るくらい何でもありません。(笑)

あるマジックが最も効果的に見えるのはどのような場面かを考えるのは、自分の好きな女性がより魅力的に見えるのはどのようなときかを考えるのと同じことです。少々の手間暇はかかっても、それはそれで十分、楽しいものです。(汗)

なお、この「ピアノトリック」は市販されているネタではありません。しかし、何度か雑誌や書籍で紹介されています。今、手元に現物がないので確認出来ませんが、20数年前、アメリカの専門誌"GENII"でも、沢さんの特集があったとき紹介されていたと思います。単行本では、"SAWA'S LIBRARY OF MAGIC"Vol.1(Richard Kaufman 1988年)が、ビデオではStevens Magic Emporiumから"Magic of Japan" Vol.45が出ています。この本やビデオの中で解説されています。

蛇足になりますが、「ピアノトリック」には、同じ名前でカードマジックもあります。知っていますか?観客にピアノを弾くときのような指の格好をしてもらい、指の間にカードを2枚ずつ挟んで行く、例のものです。あれもピアノをやっている人に見せるのにはよいトリックですから一度やってみてください。

魔法都市の住人 マジェイア

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