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SHARING SECRETS
シェアリング・シークレッツ

 2026/01/19(追加)


書 名:シェアリング・シークレッツ
著 者:ロベルト・ジョビー
訳者:田代 茂
発行元:すまいるらいふ
発行年:2025年03月08日
定価:10,000円
ページ数:190ページ 大判 


内容を紹介しましょう

 本書 『シェアリング・シークレット』 は、全体の構成そのものに大きな工夫が凝らされています。見開き構成で、大判の左ページには「理論編」が配置され、理論の要点が非常にわかりやすい言葉で解説されています。さらに、その要約も付されており、理解を確かなものにしてくれます。

 右ページには「実戦編」があり、理論を裏づける具体例が丁寧に解説されています。例として使われているのは、マジシャンであれば一度は触れたことのあるマジックや「言葉」が多く、非常にイメージしやすい構成になっています。

 左右2ページでひとつの理論が完結するため、全体としてたいへん読みやすくなっています。また「注」にも細やかな工夫が見られます。本書には実に399もの「注」がありますが、はじめて読むときはそれらを飛ばして読んでも、理解にほとんど支障はありません。

 そして気になった箇所や、二度目に読む際にその「注」を参照してみると、また新たな驚きがあるでしょう。知りたいこと、知っておくべきことが随所に詰まっています。著者ロベルト・ジョビーの博識さと、言葉を扱う感覚には心底敬服しました。本文中に散りばめられた数多くの引用を読んでいるだけでも、思わずため息が出るほどです。

 本書の構成について多くを述べてきましたが、マジックを人に見せる立場にあるのであれば、知っておいたほうがよいことばかりが書かれています。「理論など何の役に立つのか」という問いに対して、本書は「知らない土地を訪れるのに、地図は何の役に立つのかと問うようなものだ」と答えています。

 多くのマジシャンが、これまで無意識に行ってきた動作も、名前を与えることで意識化され、理解が深まります。ジョビー自身も「何事も名付けなければ、それについて理解することはない」と述べています。

 理論などどうでもよいと思う人であっても、多くのマジシャンがホアン・タマリッツにことごとく引っかけられてきた事実を思い出せば、彼らの理論を学びたくなるはずです。

 本書には、「机上の空論」ではなく、実践の現場で確かに役立つ「生きた理論」が満載されています。

ひとつだけ具体例をご紹介します。
「潜在意識への働きかけ」/(説明可能なトリック) と題した章に載っているものです。

 最初に現象を紹介します。

 1953年、ダイ・バーノンが英国を訪れたとき、英国の著名なマジシャン数名とセッションを行いました。その際、メンタリストであるアル・コーランがバーノンに、最後に何か見せてほしいと頼みました。するとバーノンは自分のデックをコーランに渡し、シャッフルするように言いました。
コーランがシャッフルしている間に、バーノンは紙にある予言を書きました。コーランがシャッフルを終えると、デックのトップカードがめくられ、表向きにされました。そのカードはクラブの3でした。先ほど書いた予言を開けてもらうと、そこには「クラブの3」と書かれていました!アル・コーランは一言も発せず立ち上がり、上着を手に取り、その場を黙って去り、二度と戻って来ませんでした。これはコーラン流の表現で、『自分は達人に会った!』と言っているのです。

 バーノンの有名なマジックで、「説明できないマジック」(The Trick That Cannot Be Explained)というのがあります。しかし今バーノンがコーランに見せたのは「説明できるトリック」です。説明できるトリックですから、ほぼいつも成功します。しかし成功させるために、あるいは疑念を生じさせないために、観客の潜在意識にあることを行い、働きかけています。観客はそのようなことはまったく気づきません。
この章のタイトルは「潜在意識への働きかけ」です。どのように潜在意識へ働きかけるのかを説明しています。

 名人と言われるレベルの人のマジックを見ると、なにもあやしいことはしていないのに不思議なことがおきます。観客は本当の魔法を見ているような感覚におちいります。
タマリッツなどもそうですが、ちょっとした動作まで意味があり、よく考えられています。

 今のはひとつの例ですが、マジシャンが経験的に、無意識におこなっているようなことも一度言語化することで、マジックをする者に共通の財産になります。経験から学ぶことだけを期待していては、気がつかない人は永遠に気づきません。

 訳者は10年ほど前から、海外のマジック関連書籍を積極的に翻訳してきました。その中心となっているのは、タネの解説書ではなく、マジシャンの思想や考え方を前面に押し出した書籍です。
その翻訳において訳者が強く意識しているのが、英語をそのままカタカナ表記にするのではなく、可能な限り適切な日本語を探し、必要であれば新たに言葉を作り出すという姿勢です。そこには、「学びは母国語で行うのが最も深く、正確に伝わる」という確固とした信念があります。

その一例として、訳者は医学教育を挙げています。多くのアジア諸国では、大学の医学部で使用される教科書は英語ですが、日本では医学教育の大半が日本語で行われています。医師でもある訳者は、この点が医学の理解や発展に大きく寄与していると述べています。

 私自身も、これに通じるエピソードを思い出しました。かつて日本の大学院生が海外の学会に出席した際、アジアの某国から来た研究者に「日本では何語で大学の授業を受けているのか」と尋ねられたそうです。「もちろん日本語です」と答えると、その人物は驚きと羨望が入り混じった表情を浮かべていたといいます。母国語で高度な教育を受けられることは、決して当たり前ではないのです。

 訳者は、マジックの専門用語が英語のままカタカナで使われる現状に、以前から懸念を抱いています。ただし、すべてを日本語に置き換えるべきだと主張しているわけではありません。コインを「硬貨」、ロープを「ひも」と言い換えるといったことではなく、特に抽象的な概念については、できるだけ適切な日本語で表現することを重視しているのです。

 理解が難しい箇所については、著者に何度も確認のメールを送り、必要に応じてその分野の専門家にも意見を求めるなど、正確さを徹底的に担保しようとしています。その労力は想像に難くありませんが、読み手にとっては、これ以上なくありがたい配慮だと言えるでしょう



魔法都市の住人 マジェイア


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