My Favorite Tricks

Fred Kaps 特集6

Short Change Trick

1997/11/29

最初に

「ショート・チェンジ・トリック」というのは「釣り銭詐欺」のことです。翻訳すると、どうにもあまり響きのよい言葉ではありません。

ここで紹介するのは、本当の「釣り銭詐欺」の手口ではありません。お札を25ドル分使ってマジックを見せようとするのに、どうしても25ドルにならなくて、マジシャン自身も困ってしまうという演出です。

これの原案は「ホーンスウォグルド」(Hornswoggled)という名前で、J. Thompsonの"MY BEST"に収録されています。フレッド・カップスはこの原案にちょっとしたアイディアを付け加えて、マニアが見ても不思議なマジックに仕立てあげました。 私もカップスがこれを演じている映像を見たときいったいどんな原理になっているのか、まったくわかりませんでした。

現象

 観客の一人に出てきてもらい、助手として手伝ってもらいます。5ドル札を4枚と、1ドル札が5枚財布から取り出し、全部で25ドル使います。これを公明正大に数えてみせます。観客にも手渡して、確かに25ドルあることを確認してもらいます。観客が納得したら、25ドルを返してもらい、もう一度、テーブルの上に一枚ずつゆっくり並べて行くと、24ドルしかありません。1ドルなくなってしまったのです。今までしっかり25ドルあったのに、どうしても1ドル足りないのです。(観客に疑惑の視線を向ける)

しかたなく、財布からもう1ドル付け加えて、25ドルにします。観客にも手渡して、再び、間違いなく25ドルあることを確認してもらいます。それを受け取り、テーブルの上に一枚ずつ数えて行くと、今度は5ドル札が消えてしまって20ドルしか残っていません。(ますます、観客に不信の視線をむける)

25ドル使うトリックはあきらめて、テーブルの上にしばらくそのまま置いておきます。 そして、別のマジックを一つ見せます。

最後に、お札をもう一度確認してみると、いつの間にか25ドルに戻っています。 観客との信頼関係が回復したところで、急いでお札を財布にしまい、終わります。

コメント

フレッド・カップスのひらめきは、原案に「ブルドッグクリップ」(書類などをはさむ、金属の普通のクリップ)を使って、お札の一端をはさむというアイディアを付け加えたところです。これだけで、観客にお札を渡して数えてもらうことが出来るようになりました。観客が自分で数えるからこそ、このトリックはとても不思議に見えるのです。マジシャンが数えるだけでは、何か特殊な数え方でもしているのではないかと思われてしまいます。 リンキングリングのとき、一度は観客にリングを渡して調べてもらわないと効果は激減するのに似ているでしょう。

カップスはさらに金属の鎖を取り出し、クリップにはめて、鎖の一端を持ったままお札を観客に渡して数えてもらいます。盗難予防です。観客に疑惑を持っているからという演出なのですが、このような洒落た小道具一つで、このマジックが1級のエンターテインメントになってしまうのですからすごいものです。

最後に一言

"MY BEST"に収録されている原案は、松田さんの本に紹介されています。興味のある方はご参照ください。『松田道弘 あそびの冒険3 ギャンブルのトリック』(筑摩書房 1994年 1,748円) 

魔法都市の住人 マジェイア

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