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トリックスター列伝
近代マジック小史

 2011/4/16


トリックスター列伝

書 名:トリックスター列伝 近代マジック小史
著 者:松田道弘
初 版:2008年
発売元:東京堂出版
ページ数:305ページ
定価:2500円
分 類:トリックスター


最初に

  マジックの種明かしではなく、読み物ととしてのマジックの本です。黎明期から現代にいたるマジックの歴史の中で、エポックメイキングと言ってよい画期的なトリックや演出を創り出してきた数多くのトリックスターたちが紹介されています。総花的な解説ではなく、ひとつひとつ、松田さん以外では書けない話であふれています。



内容を紹介しましょう

本書には、古今東西、様々な分野のトリックスターが紹介されています。

トリックスターという言葉は、一般には神話や民話に登場するいたずら者や道化師という意味で使われることが多いのですが、この言葉本来の意味は「人をだます者」という意味だそうです。本書ではその本来の意味、つまり奇術師や詐欺師、ペテン師、いかさまギャンブラーなどが紹介されています。古今東西、マジックの黎明期から現代に至るまで、彼らの「悪知恵」がオールスターキャストで登場します。

 これまで個々のマジシャンに関して断片的に紹介されたものはありましたが、これほどまとまって紹介されたことはありません。「近代マジック小史」というサブタイトルがついているように、マジックの歴史に一時代を画したマジシャンやトリックが臨場感あふれる描写で紹介されています。マジックの歴史を要領よく、ポイントを押さえながら学ぶこともできます。

第一部 トリックの黎明期
第二部 スピリチュアリズムの時代
第三部 ステージマジックの時代
第四部 近代マジックの世界

 どの分野も興味深いエピソードが満載です。一つひとつ紹介してもきりがありませんので、黎明期と近代の橋渡しをしたロベール・ウーダンについて紹介します。

1845年7月31日、ロベール・ウーダンがパリのパレロワイヤルで一番小さい劇場「ロベール・ウーダン劇場」でこれまでに見られない、革新的といってよいステージを披露しました。服装もそれまでのマジシャンが身につけていたダブダブの服にトンガリ帽子という前時代的なものから、礼装用の夜会服にしました。一般の人に、マジシャンの姿を思い浮かべてもらったら、たいていの人は礼装用の衣装にシルクハットを持ち、そこからウサギを取り出しているといったものではないでしょうか。最近までこれが奇術師の定番になっていたのですから、ウーダンの影響力の大きさははかり知れません。

 ロベール・ウーダンが残したものは衣装だけではありません。それまで多くのマジシャンが昔からある、同じようなマジックを演じ続けていました。ウーダンはそれも我慢ならなかったようで、出し物から見せ方まで、革新的なステージを作り上げました。具体的にどのようなものであったか、ぜひ本書をお読みください。まるで目の前でウーダンのステージを見ているような錯覚に陥ります。

 本書で紹介されているマジシャンの中には、日本ではこれまであまり知られていなかった人や、名前くらいは知っていても詳しくは知らない人も紹介されています。しかしこの人たちが、どれだけ後年のマジシャンに影響を与えているか、興味深い話とともに、認識を新たにすると思います。

 ありったけの才能とエネルギーを注いで作り上げた彼らの「悪巧み」を知ることは、私にとっては中学時代、ニュートンの運動方程式をはじめて知ったときと同じ種類の驚きです。複雑であり、難解に見える運動が、わずかF=maで表現できると知ったときの感激と同じです。

第二部のスピリチュアリズムでは、「ブックテスト」の元祖、ホフジンサーがおこなっていたオリジナルな演出が紹介されています。このような知識を持つことは、自分が演じるときにも大変参考になります。改案を考えたつもりが、何世代か前の誰かのアイディアに戻っていたということもよくあることです。元のやり方を知っておくに越したことはありません。

 もうひとつ例を引きます。

『エキスパート・アット・ザ・カード・テーブル』(1902年頃)という奇書についてです。著者はS.W.アードネスです。彼は本物の賭博師でした。しかしプロのギャンブラーが、自らの首を絞めることになりかねない、自分が使っている手口を公開することなど考えられません。そのような意味でも、なぜこの本が書かれたのか、長い間、謎でした。後年わかったことですが、アードナスはマジックにも興味がありました。そしていかさま師の使うテクニックはマジックにそのまま使えるものが多々あります。パス、カードコントロール、マークトカード、セカンドディール、カードのチェンジ、パームなどいくらでもあげられます。また「動作の統一性」という発想も、命がかかっているいかさま師ならではのものです。これはダイ・バーノンの「Be Natural」と同じです。

 カードマジックに多大な影響を与えていることもあり、この本はギャンブラーの間よりも、むしろマジシャンから「カードマンズ・バイブル」と呼ばれるくらい、高い評価を得ています。

 書かれた理由がよくわからないこと以上に、著者のアードネスという人物についても、実体はわからないことだらけでした。マジックの世界でも「犯人捜し」が行われ、1940年代に数学者でマジシャンでもあるマーチン・ガードナーがE.S.Andrewsであることを突きとめました。S.W.Erdnaseを逆に綴ると、本名に戻ります。さらに、驚くべき事実があるのですが、そのあたりのエピソードはぜひ、松田さんの本を読みください。

さらに、 ハーマン、ドコルタ、フーディーニ、マスキリン、マリニ、バーノン、トム・マリカ、アードネス、オーソン・ウェルズなど、トリックスター達の悪巧みが、目の前で再現されているかのような錯覚を覚えながら紹介されています。


魔法都市の住人 マジェイア


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