Triumph
最初にダイ・ヴァーノンの「トライアンフ」です。ヴァーノンがこれを発表したのは1946年の"Stars of Magic"シリーズです。現象も技法も画期的であったので、たちまちマジシャンの心をつかんだようで、この後、世界中で数多くのヴァリエーションが発表されました。1976年にラッチェルバウマーが出した「トライアンフ現象」を集めた本、"ARCH TRIUMPHS"(Jon Racherbaumer, Magic Limited )ではすでに90もの作品リストが載っています。
現象
観客に一枚トランプを覚えてもらい、デックに戻します。デックの半分を表向きに、残りを裏向きにして、リフルシャッフルをします。つまり、トランプの表と裏をごちゃまぜにします。ところが、マジシャンがおまじないをかけてから、テーブルの上に広げると、上の写真のように観客の覚えたトランプだけが表向きで、他のカードはすべて裏向きにそろっています。
コメント
ヴァーノンがこれを発表したとき、画期的であったのは現象もさることながら、フォールスシャッフルの部分です。リィフル・シャッフル(Riffle Shuffle)"でおこなうフォールスシャッフルのひとつ、「プル・スルー・シャッフル」(Pull-Through Shuffle)を大変簡単にできるようにした点が革命的です。それまでの「プル・スルー」はギャンブラーによって使われていた極秘の方法で、大変難しい技法の一つでした。ミリ単位やコンマ以下の単位でカードをずらせることで行っていたのが、ヴァーノンの開発した方法では、2センチくらいずらせてOKなのですから、だれにでもすぐにできます。
ほぼ同じ現象をディーラーズアイテム(売りネタ)で行うものとしては"Cheak-to-Cheak"があります。これはギミックカードを使うため、裏と表を混ぜてシャッフルした後、一度、テーブルに広げて、完全に裏と表が混ざっている状態を見せることができます。その後、何ら怪しげな動作も、シャッフルもカットもなく、もう一度広げると、観客の覚えたトランプ以外、すべてが裏向きになっています。現象の鮮やかさという点ではこれがベストでしょう。私も何度かこれを実演していますが、観客の驚きようはヴァーノンの原案にもまさります。特にある程度マジックを見慣れている観客(ノン・マジシャン)ほど驚きます。
ヴァーノンのトライアンフはよく知られている割にはマニアでこれを自分のレパートリーに入れている人はあまり多くありません。実際には難しくないのに、見せてもらうとぎこちない人が多いのは何か考え方が間違っているのでしょう。練習方法としては、フォールスシャッフルを行う部分で、フォールスではなく、実際に押し込んだとき、どのようになるかを何度かやってみて、その後、さらに手順と同じようにカットなどをやってみることです。これを何度かやってみて、タイミングなどがわかったら、フォールスシャッフルを行い、手順通りに続けてみるとうまく行くと思います。
また、プッシュスルーのとき、異常に緊張している人が多いのも気になります。あれでは気配からだけでも何かをやっているのが観客に伝わってしまいます。あの部分は、実際にはただトランプを押し込み、2,3度カットしているだけのように見えないとダメです。リラックスした状態でできるように練習してください。
トライアンフのヴァリエーションで多いのは、フランク・ガルシアなどもやっていた、デックを数個、6個から8個くらいに分けて、表と裏が混ざっているのを見せる方法です。しかし、私はこれは好みではありません。表と裏を混ぜた後は、デックをひっくり返す動作は極力避けるべきです。ヴァーノンの原案では一度だけありますが、これはさりげない動作のうちに"Turn over"を行うので、ナチュラル・ミスディレクションでカヴァーされています。とにかく、混ぜた後はデックをひっくり返す動作を入れないことです。
最後に一言
「トライアンフ」の原案はヴァーノンということになっていますが、フランク・トンプソン(Frank Thompson)だという人もいます。今となってはトンプソンのアイディアがどのようなものであったのか不明ですので何とも言えませんが、Stars of Magicに発表した作品はヴァーノンのタッチが感じられます。少なくとも、フォールス・シャッフルの部分はヴァーノンのアイディアでしょう。表と裏を混ぜて、観客の選んだトランプだけが表を向いているという現象、このあたりがひょっとしたらトンプソンのものかもしれませんが、文書として残っているものがありませんので、そのあたりのことも不明です。