Jumping Jack
最初に石田天海氏が戦前にアメリカに渡り、30年以上アメリカで活躍していた頃、ヴァーノンとも知り合いました。二人はよくマジックを見せあったり、アイディアの交換をしていたようです。そのとき、天海さんが考案したカードの技法、「テンカイ・パーム」と呼ばれるものをヴァーノンにも教えました。これはカードを手の中に隠す技法ですが、画期的なことは、手にカードをパームしていても、5本の指が自由に動かせる点です。少々指を開いても大丈夫です。
ヴァーノンはこの技法が大変気に入り、カラーチェンジやカードの交換現象に使っています。「ジャンピング・ジャック」もこのテンカイ・パームを使った交換現象のひとつです。
現象
ざっと観客から見たところを紹介します。
グラスと、2枚のカードだけを使います。使うカードは黒のジャック(J)と赤いエースです。
左手の指先にジャックを、右手の指先にエースを持ち、観客に見せます。
一度2枚のカードを左手に持ってから、右手でジャックをつかみ、裏向きにします。それをグラスの前に立てかけます。左手には赤いエースが見えています。
このエースを裏向きにして、おまじないをかけると、手に持っていたエースがジャックに変わっています。グラスに立てかけておいたカードを表向きにすると、それがエースになっています。
これをもう一度繰り返します。
コメント
現象自体は大変シンプルです。完成したマジックというより、テンカイ・パームを使ったマジックの習作という雰囲気があります。シンプルな現象の割には、これを実際にやっている人を見たことがありません。初心者の人がすぐにできるほど簡単なマジックでないからというのはありますが、プロやマニアでもやっている人を見かけません。基本的な現象は交換現象だけですので、それならなにもこのようなこ難しいことをしなくても、もっと易しく行う方法があるからでしょう。
ヴァーノン・ブックに解説されているとおりやってもできますが、今回ビデオを見ていて驚いたのは、最初のカードを立てかけるところがヴァーノン・ブックと異なっていました。これは著者のルイス・ギャンソンが勘違いしたのか、ヴァーノン自身がその後、ハンドリングを変えたのか、そのあたりは不明です。
以下の文章は、実際にこのトリックを知っている方しか、読んでも何のことかわからないと思いますが、知っているものとして説明します。
左手に2枚のカードをファンにして持ち、観客に表を見せています。この時点では右手にエクストラのエースがすでにスティールされ、テンカイ・パームされています。
この後、右手で左手の2枚のうち、ジャックを取りに行くのですが、原案では右手でジャックを取ったらそれを裏向きにして、そのまま右手でカードを持ったままグラスに立てかけていたはずです。
ところがビデオでヴァーノンの実演を見ると、左手に持っている2枚のカードのうち、ジャックを右手でつかんで裏向きにしたら、それをまた左手に持ち直します。つまり、左手で、赤いエースは表向き、ジャックは裏向きになった状態でファンにして持っています。
この2枚を保持したまま左手をグラスの前に持って行き、裏向きのジャックだけをグラスに立てかけます。
このようにすると、観客は表向きの赤いエースをずっと見ていることになるので、裏向きに置いたカードが何であったのか混乱することがありません。常に2枚が視線の中に入っています。これは大変大事なことです。これを見たら、このマジックをやりたくなりました。
また、右手で置くのではないので、パームしている手は動かさずにすみますから、角度にも強くなり、ちらっと見えたりする危険性も随分少なくなります。後は原案と同じですので、興味のある方は研究してみてください。
THE DAI VERNON BOOK OF MAGIC(by Lewis Ganson, Harry Stanley)に載っています。
ビデオは"Vernon Revelations"Vol.3にあります。
魔法都市の住人 マジェイア