Silk and Silver
最初にダイ・ヴァーノンがこのルーティンのアイディアを思いついたのは、1930年代です。石田天海師が戦前アメリカに渡ったとき、天海師からもアドバイスを受けたというコメントがありました。実際、手が空であることを示す部分のハンドリングなど、まさに天海師が考えそうなことです。天海師もヴァーノンには多大な影響を受けていますから、このような天才がお互いにアイディアを出し合ってできあがった「名品」なのでしょう。
それにしても自然な動作のうちに、何度も右手から左手に、また右手にとコインを移し替える部分など、マジックをやっている人であれば、それだけで感激します。わざとらしいあらためではなく、すべての動作が自然です。「何もしていないように見えるのに、不思議な現象が起きる」。これこそがマジックとしての理想だと思います。裏ではどれほど難しいことをやってもよいのですが、それを観客に感じさせずにできることが絶対条件です。それは練習で克服するというより、どうすれば自然に見えるのかといった部分の感性が優れていることのほうが重要です。ただ難しいことをすればよいというものではないのです。
本だけではこのあたりのことはわかりにくいと思いますので、ビデオを参照されることをおすすめします。Vernon RevelationsのVol.5でヴァーノンやアマーがやっています。このビデオを見て、ヴァーノンがアマーに対して、細かいアドバイスをしているのを見ると、いかにヴァーノンが細かいところまで考えているかがわかり、一層、感激します。
現象
よくあらためたハンカチ(シルク)から、1枚ずつ3枚のコイン(ハーフダラー)が出現します。
ハンカチを手のひらに広げて、その上に3枚のコインを乗せます。ハンカチの4隅を持って、袋のような状態にします。ハンカチを上下に振ると、中でコインが跳ねて、音もしています。
ところがハンカチを一振りして広げると、コインは全部消えてしまいます。手にもハンカチにもコインはありません。3枚のコインが空中にとけ込むように消えてしまいます。
もう一度ハンカチを袋状にして左手に持ちます。右手で空中を指さすと、コインが1枚出現します。それを空中に投げあげると、見えない飛行をしてハンカチの中に飛び込みます。2枚目も同じようにして出現させ、ハンカチに飛び込ませます。3枚目は、「見えるよう」に飛行させて、ハンカチの中に入れます。
コメント
神戸の元町商店街に、雑貨とともにマジックの道具も扱っている店がありました。ここの店主が、これとほぼ同じマジックを得意にしていたそうです。私自身、1970年代の中頃にこの店に行きました。そのときは見せてもらえなかったのですが、やり方を解説した1枚の紙が100円で販売されていました。そのときすでにすり切れそうな状態でしたから、相当前から販売されていたことはわかります。当時、街頭で販売されているマジックの解説書といえば、たいていタネの原理だけを書いてあるだけで、詳しいハンドリングなど何もわかりません。一般の人が読んでも絶対できません。マジックを相当やっている人でも、まず理解不能です。私も原理はわかりましたが、それを読んだだけでは無理でした。
後年、ヴァーノンのルーティンを知ってから比較してみると、日本で演じられていたものはハンカチを袋状にしたあと、中にコインが入っていることを示すのに、扇子を使い、それでハンカチの下をたたいて、音をさせていました。これが果たしてヴァーノンの手順と関係があるものか、まったく独自に開発されたものかは不明です。ひょっとしたら、天海師が戦前に一度帰国したとき、誰かに見せたものが日本で広まったのかも知れません。
なお、このヴァーノンのルーティンはフレッド・カップスにも多大な影響を与えています。カップス自身、ヴァーノンから直接習い、それにカップス自身のハンドリングを加えたものをステージで演じていました。
THE VERNON CHRONICLES VOLUME ONE;THE LOST INNER SECRETS(by Stephen Minch, L&L Publishing)に載っています。
追加コメント(2000年2月26日):上記の神戸にあった店は、現在なくなっています。私と同じ大阪奇術愛好会の福岡康年氏は小学生の頃、店主の角(すみ)氏からこのマジックを習ったそうです。今から50年以上も前のことだそうです。
魔法都市の住人 マジェイア