日本テレビ系列&関連スポンサーへの抗議文
『スーパースペシャル2001』
噂の覆面マジシャンが禁断のトリック大暴露
2001年6月23日
2001年6月16日(土) 午後7時から、日本テレビ系列で『スーパースペシャル2001 噂の覆面マジシャンが禁断のトリック大暴露』という番組が放送されました。
これに出演していたマスクト・マジシャン(ヴァレンチノ)のやっていることなど、すぐに忘れ去られると思い、当初は傍観しておりましたが、このような盗人に荷担するテレビ局が存在しています。放っておくと、他のテレビ局でも同じような番組が企画・製作されるかもしれません。現実に、NHKの教育テレビで「サムタイ」のネタバラシをするマジシャンまで現れる昨今ですから、放置しておくこともできなくなってきました。
現在、スティングさんのサイト「スティングのマジック玉手箱」でもこの問題を扱い、国際的な広がりを見せています。個人でできることといえばテレビ局や関連スポンサーに対して抗議文を送ることくらいでしょう。このようなものも、数がまとまれば決してバカにはできないものになるはずです。以下に私がテレビ局ならびに提供スポンサーに送った抗議文を掲載します。
参考にしていただくのはかまわないのですが、これをコピーして、そのまま送ることはおやめ下さい。ご自身が一番訴えたい部分をアピールするものを書いてください。ただし、「二度とお前のところの商品を買わない」などといった、脅迫文のようなものはよくありません。
昨日約10社に送りましたら、現在3通、返事が届いています。みんなそれなりにきちんと応対してくれています。以下のものが、テレビ局や番組を提供したスポンサーに送った抗議文です。
2001年6月16日、午後7時より日本テレビ系列で放送されました、御社がスポンサーのひとつとして参加しておられる番組『スーパースペシャル2001 噂の覆面マジシャンが禁断のトリック大暴露』を見てとても残念に思いましたので、一言申し上げたくメールを送らせていただいた次第です。御社の文化面における貢献、様々なご支援には日頃より敬服いたしております。しかし、今回、上記の番組で放送されました内容は、マジックを純粋に娯楽として楽しんでいる私たちアマチュアマジシャンはもとより、マジックの不思議な現象そのものを楽しみにしている人たちにも大きな失望と後味の悪さを残したはずです。
もとより、マジックは娯楽です。「超能力」や「本物の魔法」を見せているわけではありません。人が空中に浮かぶのも、人が切断されたように見えるのも、すべてタネがあり、それをわかった上で観客もひとときの幻想を楽しんでいます。
マジックの歴史は古く、数千年前に遡ることができます。これが今まで連綿と続いていますのは、マジックがエンタテイメントとして認められ、多くの人に夢や希望を与えることができるからでしょう。もしそうでなければ、とっくの昔にこのような芸は消えてしまっています。
デビッド・カッパーフィールド氏やランス・バートン氏のイリュージョンを見るために、観客が1万円以上のお金を払っても大勢見に行くのは、いっときでも不思議を体験したいからです。東京フォーラムの会場は数千名収容できますが、あの場所がいっぱいになるくらいの観客が入るのですから、マジックを見るためにお金を払っても楽しみたい人がどれだけ多いか、想像するに難くありません。
このような人たちに、タネを明かすことは何らサービスになるものではありません。むしろ失望を与えるだけです。もしタネを明かすことが一層のサービスになるのでしたら、マジシャンは喜んで種明かしをしますが、経験上からも、タネを知って喜ぶ人など、1割もいないことがわかっています。9割以上の人は、タネを知ればがっかりします。マジックを見に来ている人は、マジックにはタネがあるくらいみんな知っています。知っていてなおかつ、非日常的なひとときを味わうために見に行くのです。
そしてそれが幻影であっても、大変不思議な現象はいつまでも印象に残ります。デビッド・カッパーフィールドが演じています舞台の上を自由に飛ぶ"Flying"や、ステージに雪を降らせる"Snow"など、多くの人に夢と感動を与えています。このふたつは、どちらもデビッド・カッパーフィールド氏が小さな子供のときに見た夢です。子供の頃の夢も、あきらめずにいつまでもそれをもちつづけていれば現実になるということを感じさせてくれる大変素敵なものです。
あの雪がたとえドライアイスのかたまりであったとしても、そのようなことはどうでもよいのです。この世はすべて人の心が作り出しています。その人がイメージしたようにしか見えていません。言い換えれば、イメージがすべてです。マジックは芸能のひとつにすぎませんが、それでも不思議な現象を目の当たりにすることで、夢を持ち、それをいつか実現したいと思っている人の力になれるのかも知れません。今の自分には出来ないことでも、それはいつか実現できるという希望を与えてくれます。
ヘンリー・フォードの言葉に「人はだれでも、想像できることならどんなことでもできる」というものがあります。「想像力が地球を動かす」という言葉もあります。マジックには、このようなことが可能であると感じさせてくれるパワーがあります。ところが、あのマスクマジシャンは、何百年、何千年と続いてきたマジックの世界共通の財産を私利私欲のために暴露するという暴挙をやっています。このような行為はテレビのワイドショーなどでよくやっているような、誰と誰が不倫をしているといったものと同じで、大変下品で愚劣な行為です。
マスクマジシャンは、マジックの進化のために古いネタを暴露すると言っておりますが、このようなことは詭弁に過ぎません。また、彼が自分で考案したものでもないものを勝手に暴露する権利などありません。あの番組の中で種明かしをされました「古い方法」でさえ、最初に現象を見せた段階ではゲストの方々はみんな驚いていました。これはテレビを見ている一般の視聴者でも同じはずです。古くからある方法であっても、今でもマジックとして十分通用するものばかりでした。勿論、デビッド・カッパーフィールド氏やその他のマジシャンの中には、それよりも一層進化した方法を使っている人もいます。それは各マジシャンが独自に工夫を凝らしているからであり、誰かが新しいものを考案したからといって、古いものを暴露してよいということにはなりません。
先日放送されたものの中にはヘリコプターを消失させるものがありましたが、あれなど原理としては比較的新しいものです。人体切断などは100年以上前からありますが、ヘリコプターの消失に関しては、高々ここ20年程度のことです。
また私のようなアマチュアマジシャンにとりましては、舞台で演じる道具を購入するのは決して安い買い物ではありません。市販されているものは安くても数十万円します。中には自作できるものもありますが、それでも年に一度の発表会をめざして、会員一同が日曜に集まり、半年ほど掛けて製作しなければなりません。そのようにして作った道具や、そこで使われている原理を暴露されてしまいますと、発表会では使えなくなってしまいます。テレビの影響力は大変大きく、発表会の会場に来てくださった人のうち、何割かがあの番組を見ていれば、ショーの後、「あれはこうなっているのよ」といった会話が交わされるのは自然なことです。つい今しがたまで不思議に酔っていた人も、隣の人からそのようなことを聞かされてたら、たちまち興ざめしてしまいます。そのため、私たちはあの番組で暴露された道具を使うことは諦めざるをえません。
最近はカルチャーセンターや公民館などでマジックを教えているところもめずらしくありません。年輩の方で、お孫さんにマジックを見せるのを楽しみにしておられる方も多いようです。勿論、普段このような場で習うものはそれほど大がかりなものではありませんが、年に一回ある発表会ではそこそこ大がかりな道具も使います。イリュージョンの道具は決して安い物ではないため、新しいものを購入したり、新しいアイディアを盛り込んだものを次々と製作したりできるものではありません。
マスクマジシャンの私欲を満たすためや、テレビ局が一回分の視聴率をかせぐために安易に作った番組が多くのアマチュアマジシャンの楽しみを奪い、それ以上に、マジックを見ることを楽しみにしている多くの人からの夢を奪う結果になっていることにお気づきください。
マジックの世界では数十年、数百年前から連綿と受け継がれているものが多いため、今となっては原案者が不明のものや、法律では保護できないものが数多くあります。しかし、マジックをやっている人たちはアマチュアもプロも含め、このような「遺産」を大切にしてきました。著作権もないからという理由で、好き勝手に暴露したり、同好の士を売るような行為をする者はほとんどいなかったのです。ところが、このことを悪用したのがマスクマジシャンです。このような行儀の悪い人間が現れるのが今の時代を反映しているのかもしれませんが、法律に触れなければ何をやってもよいというものではないはずです。
近年、アイディアや技術のような、物としては存在しないものであっても知的所有権が尊重されるようになってきました。人のアイディアを勝手に売るといったようなことは犯罪にも等しい行為です。
マスクマジシャンはブラジルでは裁判に負けて国外追放になっています。またI.B.M.(International Brotherhood of Magicians)やS.A.M.(Society of American Magicians)他、マジック界の世界的なつながりのある団体や組織がこぞってマスクマジシャンの暴挙に反対しています。
最初でも触れましたが、マジックという芸は人為的に作り出した不思議を楽しむ芸です。そのようなことはみんなわかった上で楽しんでいます。このような不思議な現象を作り出すためには、多くのマジシャンの苦労や経験があってできたものです。決して一朝一夕に出来るようなものではありません。御社のような、常日頃から文化面に多大なご理解がある会社が、今回のような愚劣な番組のスポンサーになっておられることには憤りと失望を禁じ得ません。
ご一考のほどよろしくお願い申し上げます。
index 魔法都市入口へ
k-miwa@nisiq.net:Send Mail