ROUND TABLE

 

「リセット」

RE-SET


1999/4/21


SUPER MAGIC1977年、ポール・ハリス"SUPER MAGIC"という本を出しました。彼の作品は、プロット、メソッドともそれまでの常識を破ったものが多く、しばらく低迷期にあったカードマジックの世界に新鮮な息吹を吹き込んでくれました。

一風変わった発想で作り上げられた彼の作品は、ただ目新しいだけでなく、後世に残るものも少なくありません。ざっと挙げるだけでも、「リセット」「インタレースト・ヴァニッシュ」「カード・ボード・コネクション」「リップ・オフ」「ビザー・ツイスト」など、傑作揃いです。

また、彼の作品はマジシャンのインスピレーションを刺激するものが多く、様々なマジシャンがヴァリエーションを発表しています。なかでも、「リセット」は世界中でいったいどのくらいの数が発表されているのか見当もつきません。アンダーグラウンドなものや、印刷物になっていないものまで入れると、数百、数千あるのかもしれません。

オリジナルの「リセット」を知らない人もいるでしょうから、ざっと現象を説明しておきます。

エースを4枚とジャック(J)を4枚取り出します。エースとジャックの8枚だけを使って演じます。

4枚のジャックを裏向きにして、テーブルの右の方に置いておきます。手には4枚のエースを持っています。このエースを一枚ずつジャックに変えて行きます。最後は4枚のエースがすべてジャックに変化します。

ところが、これが最後にはまた4枚のエースに戻ってしまいます。テーブルの右の方に置いてあった4枚のカードを表向きにすると、それはジャックです。

ざっと以上がポール・ハリスが発表した「リセット」です。

これが載った"Super Magic"が出たのが1977年です。この頃というと、私が一番マジックに狂っていた頃ですから、当然、このマジックにもすぐ飛びつきました。しかし、しばらくやっていると飽きてきて、全然やらなくなりました。特に1980年頃から、この2,3年前までの十数年間、私自身がマニアの前ではまったくマジックをやらなくなっていましたので、その間、リセット」は一度もやったことがありません。

3年ほど前から、十数年ぶりにマニアの前に顔を出すようになって驚いたのが、この「リセット」です。パソコン通信などで知り合ったマジック関係のオフ・ミーティングに出たり、個人的にマニアの人と会ったりしたとき、5,6回続けて、会う人会う人みんなから「リセットの改案」を見せられたのです。その人なりのヴァリエーションです。それぞれよく考えられており、見せてもらったものは決して悪くないのですが、そのようなことより、約20年前に流行った「リセット」が、いまでもこれほど多くのマニアの心を捉え、魅了していることに、驚くと同時に不思議な感じがしました。

私自身の中では完全に消えてしまっていたこのマジックが、20年経っても、そして一人や二人ではなく、全員から見せられと、今、世間では何が流行っているのかわけがわからなくなりました。突然、20年前にタイムスリップした感じです。ひょっとしたら私がブランクであったこの20年間、マジックの世界は全然進歩していないのかと思ってしまいました。これはある意味、そうでした。

進歩の話は別にしても、なぜ「リセット」がこれほどマニアの創作意欲をかき立てるのかを考えてみると、いくつかの理由はすぐに思いつきます。

1.適度な難しさと複雑さがあり、練習するだけでも自己満足に浸れる。
2.ある程度長いルーティンなので、技法の組み合わせが自由である。そのため、数多くのヴァリエーションができる。
3.何の仕掛けもない普通のカードが一組あればよいので手軽である。
4.一般の人に見せても、タネを完全にフォローされる恐れはまずない。

このような理由から、ある程度カードマジックをやっている人であれば心ひかれるマジックであることは理解できます。

「リセット」で中心になる現象は、手に持っている4枚のエースが一枚ずつ順にジャックに変化して行くところです。そして変化し終わったら、「スイッチを押すと(ポール・ハリスはこのスイッチのことを「リセットボタンを押す」と表現しています)、また再びジャックに戻ります。

確かにおもしろいのですが、もし1枚ずつ変化させて行くのを見せたいのであればば「ワイルドカード」があります。リセットの場合、さらにそれを元に戻すのですが、それは果たしてよいことなのでしょうか。マニアはこの部分にも引かれるのですが、どうもこの部分がイマイチ、評価が難しいのです。

たとえば、コインマジックで、1枚のコインを消したり出したりすることを何度も繰り返すのと、1枚のコインをよく見せた後、それを完全に消してしまって、そこで終わるのではどちらが観客にとってより大きな驚きになるのかといったことと似ているような気がします。

マックス・マリニやユージン・バーガーも言っているように、「消したものは出してはならない」というのはたいていの場合、真実です。

「ワイルドカード」では、9枚すべてのカードが「スペードのエース」などに変化したところで終わります。これを元に戻すことは普通やりません。やろうと思えば出来ないことはありませんが、それは効果を減じることはあっても、それで一層観客が驚くことはないとわかるからでしょう。この広い世の中では、ひょっとしたらすでにどこかの間抜けなマニアが発表している可能性はありますが、まず普通はそのようなことはやりません。9枚のカードが完全にスペードのエースに変わり、テーブルの上に9枚の同じカードが並んでいるのを見るのは、観客にしても信じられないものを見たと感じるはずです。

リセットの最後の部分も、どうもこれと同じような気がするのです。最後にもう一度戻すのは、効果という面では必ずしもプラスにならないような気がしていました。

今回、久しぶりにいくつかの「リセット」や、そのヴァリエーションのひとつである「リセット・リセット」を読みました。「リセット・リセット」にもすでにいくつかヴァリエーションがありますが、私が読んでおもしろいと思ったのは『松田道弘のクロースアップ・カードマジック』(東京堂出版)にあった、デビッド・ソロモンのプロットです。第6章に「リセット・リセットの改案」とし解説されています。

これは8枚のカードを取り出すのではなく、4枚のエースしか使いません。オリジナルの「リセット」では、最初に4枚のエースと4枚のジャックを見せますが、これではエースしか見せないのです。

現象自体は普通のリセット同じで、この4枚のエースが順にジャックに変化して行き、最後はもう一度エースに戻るのですが、この戻ったとき、完全に4枚のエースを見せることが出来ます。「エルムズレイ」などを使うのではなく、4枚広げてエースを完全に見せることが出来ます。

つまり、このプロットがすぐれていると思ったのは、現象が起きるまで観客は4枚のエースだけのマジックだと思っています。それが突然ジャックに変化して行くから驚くのです。「リセット」では、最初にエースもジャックも観客は見ています。そしてジャックはテーブルの上に残すのですが、このあたりで、すでに観客中のには何となくあやしいと感じる人も出てきます。テーブルの上に伏せて置いたあのカードは、本当にジャックなのだろうかと思う人がいても不思議ではありません。

ソロモンの現象では、エースしか見ていなかったのに、突然ジャックが現れるので、意外性がリセットより強烈です。これと同じプロットで、松田さん流のハンドリングが上記の本に解説されています。最近、2,3回、これをやっています。

ただ、私自身がこれをやるとき、少し変えている部分があります。

まず、「即席」という感じを出したいため、エースはデックから取り出します。以下の説明はこの本を持っているものとして解説しますので、そのつもりでお読みください。

準備として、デックのトップに2枚のクイーンをセットしておきます。トップがダイヤのクイーンで2枚目がクラブのクイーンです。(トップというのは、デックを裏向きの状態にして一番上のカードのことです)

4枚のエースをバラバラにデックの中に差し込んでおきますが、デックを表向きにした状態で、エースは上からダイヤ、スペード、ハート、クラブの順です。

ここまでが準備です。これでケースの中に入れておきます。

デックを取り出し、表向きに持ち、「エースを使います」と言いながら、両手の間に広げます。このとき、まず最初に、一番下の2枚(準備したクイーン)の上に左手の小指でブレイクを作ります。一度デックを閉じて、もう一度表向きのまま上から順にエースを探して行きます。出てくるたびにアウトジョグして、4枚のエースだけが突き出た状態にします。いったんデックを閉じますが、左手のブレイクはキープしたままです。右手の人差し指をブレイクの中に入れ、親指をデックのフェイス側に持ってきて、デックを右手で握ります。左手を前に出す動作で、突き出ている4枚のエースを抜き出しますが、そのとき一番下の2枚のクイーンを4枚のエースの下にアディションします。後は松田さんの解説どおりにやってください。

なお、3枚目のエースを変化させるときは、私は「カラーチェンジ」の技法を使い、表向きのままエースをクイーンに変化させています。

最後に、もう一度4枚のエースに戻しますが、ここでもやはり、一番最初にエースしか見せていないので、観客は混乱しません。視線に入っているのはいつでも4枚のカードしかありません。

オリジナルの「リセット」は、テーブルの上のジャックと手に持ったエースの「交換現象」ですが、この「リセット・リセット」では交換ではなく、「変化」です。まだこちらのほうがすっきりしていると思いますがいかがでしょう。

魔法都市の住人 マジェイア

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