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TVの「種明かし番組」について

1998/6/15

テレビで、マジックの「種明かし」を目的とした番組が作られることがあります。ごく最近でも、海外でそのようなものが放映され、マジック界でちょっとした問題になっていました。 タイトルを"MAGIC'S BIGGEST SECRETS FINALLY REVEALED"と言い、vol.1と2がそれぞれ、$19.95でビデオ販売されています。

この番組で暴露されているマジックのタネは、一般の人でも何かの雑誌などで見て知っているものがかなりあると思います。しかし、なかには現在も多くのプロマジシャンによって実際に演じられているものも数多く含まれています。また、私自身、これではじめて本当のタネがわかったものもありました。

ステージで演じられている大がかりなマジックには、著作権など存在しないものが大半です。大昔から連綿と続いており、マジシャンの間だけで知られているものや、それに新たな改良が加えられて引き続き演じられているものが数多くあります。そのため、ネタを暴露したところで、訴えられるおそれもないので、このような番組が制作されるのでしょう。また、TV局や制作プロダクション側の言い分としては、タネを知りたい視聴者がいるのなら、そのような番組を作って何が悪いのだということでしょうが、自分が考えたネタでもないものを勝手に暴露する権利など,TV局にありません。このような厚顔な主張を聞くと、「盗人猛々しい」「泥棒にも三分の道理」といった諺を思いだしてしまいます。

マジックを見たとき、それが不思議であればあるほど、だれでも、そのタネを知りたいと思います。これは自然なことであり、何ら問題はありません。たぶん、99%以上の人が、そう思うでしょう。

では、この人達にタネを教えてあげたらどうなるでしょう。感心するでしょうか。または、その巧妙な仕掛けやタネを知って一層興味を覚えるでしょうか。実際にやってみるとわかりますが、95%位の人は、「えー、なにそれ。つまんない。」「なーんだ、くだらない」となり、つい今しがた見たばかりの不思議な現象に対する感動もすっ飛んでしまうのが常なのです。

ステージでマジシャンが見せている不思議な現象は、勿論本物の魔法ではありません。人為的に作り出した錯覚です。マジックという芸は、錯覚や幻覚を楽しむ芸です。そのようなことは、現代人なら誰でもわかっています。

今でもよくステージで行われているマジックで、女の子を檻に入れ、ピストルを一発鳴らすと、中にいた女の子が一瞬にして大きなライオンに変わるというものがあります。これを見たとき、誰も、「あれは悪い魔法使いに魔法をかけられて、ライオンに変えられてしまったのだ」とは思わないでしょう。

今年(1998年)の5月に、アメリカ人のスーパー・マジシャン、デビッド・カッパーフィールドが東京でマジックショーを行いました。9日間で18公演を行い、一度に5,000名入る会場がすべて満席でした。料金は約一万円です。これだけ多くの人が、一万円ものお金を出して、錯覚を楽しむために出かけているのです。

では、デビッド・カッパーフィールドのステージを見た人達に、サービスのつもりで、今見たトリックを全部種明かししたらどうなるでしょう。観客は喜ぶでしょうか。いいえ、絶対に喜びません。タネを知ったその瞬間、大きな失望と落胆がやってきます。今見たマジックがすばらしく、感動的であればあるほど、その大きさに比例して失望も大きくなります。人は、自分が感動できるものに対してお金を払っているのです。たとえそれが「偽物」であってもよいのです。自分自身が感動したのなら、それは「本物」です。よくできた虚構は、現実以上のリアリティを持っています。タネがあるとわかっていても、しっかりだましてくれるのなら、人はたとえお金を出してでも見に行くのです。

この世はすべて現象学です。何も実体などありません。この世にあるものは、すべて、その人の心が作り出している想像力の産物です。マジックという芸は、想像力のないところには存在しません。犬にマジックを見せてもちっとも喜ばないのは、想像力を駆使して楽しむことが出来ないからです。種明かしをして、目先の小銭を手に入れて喜んでいるような連中は、犬と同じレベルの想像力しかないのでしょう。

マジシャン必須の原則、「サーストンの3原則」で、「種明かしをしてはいけない」と言っているのは、何もケチってのことではないのです。それは、種明かしをしてもサービスにならないどころか、観客を落胆させる結果になることをマジシャンは身をもって知っているからです。タネを知りたいだけなら、マジックの専門店に行けば、いくらでもそのようなマジックを解説してある本があり、誰でも購入できます。本気で知りたい人に対しては、制限などなにもありません。

また、今回問題になっている海外の番組でも、実際に演じているマジシャンはマスクをかぶり、名前も出していません。自分の名前も顔も出せないのは、本人もまずいことをやっているという意識があるからでしょう。「マスクト・マジシャン」"Masked Magician"つまり、「覆面マジシャン」と洒落ていますが、要は大抵の泥棒が覆面をしているのと同じでしょう。覆面レスラーのように、マスクをはずしたら頭が禿げているからというわけではないはずです。(笑)

この種の番組は、日本でも何度か制作されましたが、最近はあまり露骨なものは減ってきています。それは、プロマジシャンの団体である社団法人日本奇術協会が、その都度、TV局の担当プロデューサーや編成局長に抗議し、事情を説明することで、理解が深まってきたからです。今でもたまにこの種の番組がありますが、実際には種明かしの部分は本当の種明かしになっていなかったり、タネを明かしたところで困るマジシャンもいないと思われるものに限り、行われています。

誤解されると困りますので、一言付け加えますが、私は何も「種明かし番組」がすべてダメなどというつもりは毛頭ないのですよ。制作理念と主旨によっては、賛同するものもあります。

例えば「講習もの」です。これは、10年ほど前であれば、高木重朗氏がよくなさっていました。NHKはじめ、様々な局で、このタイプの番組に出演されていました。高木重朗氏は、数年前お亡くなりになりましたが、アマチュアでありながら、世界的な碩学としてマジックの分野では高名な方で、蔵書の数だけでも、平積みにすれば東京タワーの3倍になると言われていたほどです。子供時代からプロに習い、生涯アマチュアではありましたが、高木先生の影響を受けていないプロの人のほうが少ないと言っても過言でないほどの方でした。本当にマジックが好きで、マジックを愛しておられた方です。このような方が協力して作られた番組は、マジックにたいする愛情や熱意が伝わってきます。普及活動のために、このような番組があるのは決して悪いことではありませんので、はっきりと区別して考えたほうがよいでしょう。

 

魔法都市の住人 マジェイア

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