ROUND TABLE

 

「手品をやる人は、手品を始めると急に敬語になる」

 

1999/3/13


先日もらったメールの中に、興味深いものがありました。

昔、明石家さんまがやっていたテレビ番組で、「気づいた事」というコーナーがあり、「手品をやる人は、手品を始めると急に敬語になる」というのがあったのだそうです(笑)。確かに、マジックを始めると、突然、しゃべり方が一変する人がいます。

それに関連して、その方ご自身の体験談もありました。

>「ここにペンがございます。」とか言っているビデオが流れていたけど、
>やはり敬語の方がいいのかしら。

これは多少説明が必要でしょう。メールをくださったのはKさんという女性の方です。Kさんがマジックを見せていると、すぐに観客から手が伸びてきて、道具類を勝手に調べられてしまって、マジックが続けられなくなるので、多少はあらたまった雰囲気を出すためにも、「敬語の方がいいのかしら」ということでした。

私がそのとき書いた返事は、手短に言えば、「観客にそのようなことをされないためには、さりげなく毅然とした雰囲気が出せるようになればよい」というものでした。つまり、観客とあまりにも親しすぎる雰囲気があると、観客のほうも多少無礼なことをしてもよいと感じてしまうことがあるため、勝手に道具類に手を出したり、マジシャンの体を調べたりといった、非常識なことをやってしまいがちです。このようなことを避けるためには、多少あらたまった雰囲気を出したほうがよいのは確かです。

>でも、前にカードの裏模様の説明からマジックに入ったら、「急に語り
>はじめるからビックリした」と、言われた事もあったし。
>本当に悩みはつきません。

マジックを始めるとき、敬語を使うかどうかは別にして、普段のしゃべり口調と多少変わるのは仕方がないことでしょう。どの程度あらたまった口調になるかは、見せる相手や場所によって変わります。ケースバイケースで多少のアドリブを入れたり、しゃべり方を工夫する必要はありますが、ある程度は変わっても、それは問題になりません。

上にあったように、「ここにペンがございます」も、その人が普段からそれに近い喋り方をしているのなら、違和感はありません。マジックをするときだけ劇的にしゃべり方を変えたら、何かヘンなものが憑いたのかと思われ、観客は引いてしまいます。(笑)

ごく自然な喋りでマジックができればよいのですが、これにはある程度慣れが必要です。むしろ困るのは、何をやっているのかよくわからないようなマジックを見せられるときです。アマチュアで、特に、普段一般の人に見せていない人のマジックはわかりにくいものがよくあります。自分の見せるマジックの台本、セリフの台本ですが、このようなものを一度は作っておくことは賢明なことです。セリフを作って、プリントアウトしたものを保存しておくと、久しぶりにそのマジックを見せるときに重宝します。

マニアにしか見せていない人にマジックを見せてらうと、途中でいきなり「講習会」になったり、種明かしをする人がいますが、これは間が持たないからでしょう。マニアの前で見せるとき、一般の人の前でやるようなセリフは言いにくいものですが、やはりこれはよくありません。本気で見せるマジックはセリフを作っておいて、きちんと見せる習慣を付けるに越したことはありません。少なくとも、自分が普段よくやっているマジックや、新規に見せるものでも、ある程度レパートリーに入るようなものは見せる前にセリフも一緒に考えておくことは必要です。

先日、アメリカ人のプロマジシャン、ドン・アラン(Don Alan)のビデオを見ました。1961年頃、テレビでやっていたマジック専門のレギュラー番組、"Magic Ranch"をビデオに編集したものです。"Magic Ranch staring Don Alan(1961)"というタイトルで、スティーブンスから、全4巻セットが97.50ドルで昨年(1998年)発売されました。

これは一回が30分程度の番組です。毎回、ドン・アランが数種類のマジックを見せ、それ以外に子供(13,4歳)のアマチュアマジシャンと、プロのゲストマジシャンが出演します。このような番組が4巻の中に、十数回分録画されています。

マジックそのものは、今から見れば目新しいものもなく、少し退屈かもしれません。しかし、見ていておかしかったのは子供の出演者です。彼らは何かワントリックをやるのですが、どの子も、ベラベラと、暗記してきたセリフを喋りっぱなしで、マジックを見せています。アメリカ人のマジシャンはプロもアマチュアもみんなよく喋りますが、子供の頃からあのように訓練させられているのでしょうか。

日本人の子供も、たまにテレビなどでマジックを見せることがありますが、大抵音楽に合わせて、黙々と演じているのが普通です。向こうの子供で、そのようなマジックをやっている子は誰もいなかったので驚きました。セリフの中にもギャグが入っていたりしますから、親か、誰か先生が台本も作っているのでしょう。マジックと同じくらいセリフも重要であることを、子供の頃から教え込まれているのでしょうか。

ただ、このような子供のマジックを見ていると、さむくなるのも事実です。(笑)どうも、こましゃくれた子供がペラペラ、ペラペラとエラそうに英語で(笑)喋っているのを聞くと、何だか落ち着きません。やはりマジックというのは、「大人の芸」だと思いました。ライプチヒが常々言っていたことですが、「客は紳士にだまされるのであれば悪い気はしないものだ」という言葉は、マジックという芸そのものが大人のためのもの、それも、何もかもわきまえたような大人が、T.P.O.を踏まえ、さりげなく何か不思議なことをやってみせるから、そこに妙味があるのでしょう。

話を、 「手品をやる人は、手品を始めると急に敬語になるに戻すと、要は「不自然なセリフを言うな」ということになるのでしょう。自分にあったセリフを考え、うまいギャグなどが思いついたら、それはその人自身の財産になります。試行錯誤を重ねながら、ぜひ自分にあった台本を作ってください。

魔法都市の住人 マジェイア


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