ROUND TABLE
Coffee Break
「スーパーテレビ」雑感
2004/5/6
2004年4月5日(月曜)の夜9時から、日本テレビ系列で約2時間のマジック番組がありました。『スーパーテレビ特別版』です。本来、番組の感想であれば「ショー&レクチャー」に書くのですが、今回はマジック自体の感想というより、別の面で一言、二言言っておきたいことがあるため、こちらに書くことにしました。
ここ2、3年、私はテレビ放映されるマジックの番組は、ごく一部を除いてほとんど見ていません。昨年(2003年)一年間では、見たのはNHKのFISM特集だけだと思います。見る気がしないのは、どうしても見たいと思うほど魅力的なマジシャンがいないということと、民放で放映されるマジック番組には必ずといってよいほど「種明かし」が付いているからです。それがうっとうしくて見る気になれないのです。
しかし今回は前田知洋さん、沢浩さんという私の好きなマジシャンが出演されることもあり、楽しみにしていました。また前田さんが中心の番組ですので、種明かしがあるとも思えないため、見ることにしました。
放送されたものを見ると、この番組は前田さんが実際にアメリカへ渡り、インタビュアーも兼ね、時間を掛けて作られていることがわかりました。また普段は見られない珍しい映像もありました。細川元総理が前田さんのマジックに感銘を受け、個人的に前田さんからカードマジックを習っているという話もあり、あらためて前田さんの人脈の広さ、ファン層の質の高さに驚いた次第です。
昔の映像も混ざっていましたが、出演していたマジシャンはマックス・メイビン・ユージン・バーガー、島田晴夫、ダイ・ヴァーノン、トミー・ワンダー他、大変豪華なものでした。
番組の中では、日本のホテルの一室に数名のゲストを集め、そこで前田さんがクロースアップマジックを生で見せるという企画もありました。このときのゲストは、和田アキ子さん、露木茂さん、テリー伊藤さん、石原良純さん、菊川怜さんの5名です。
番組が始まると、司会者がゲストに向かって言ったセリフが少し気になりました。
「彼(前田知洋さん)のおこなうマジックは他のマジックのようにタブーはありません。基本的に、ワザの進行の妨げにならない限り何をしていただいても結構です」
これを聞いたとき、嫌な予感がしました。
実際、前田さんのカードマジックが始まると、一部のゲスト、特に若手の2名の態度には呆れ果てました。気がつくと、私はこの2人に向かって何度か叫んでいました。
「○○○! ○○○○○○○!」「XXXXXXXXー!」「△△△△△」(自主規制により伏せ字)
それにしてもこの2人は日頃よほど何か強烈なコンプレックスでもあるのか、はたまたタレントとしての最低限のマナーもセンスも持ち合わせていないのか、その辺りの事情は知りませんが、見ていて何度も血が逆流しそうになりました。あらためて言うまでもないことですが、マジックという芸には当然タネも仕掛けもあります。演じる側も見る側も、そのことをわかった上で、不思議な現象を楽しんでいます。あくまで人為的に作り出した非日常的体験です。決して科学の実験、あるいは超能力と偽って怪しげな芸を見せているわけでもありません。そのため、観客に対しても、ある程度常識的なマナーを求めています。それがなければマジックという芸など成立しません。
それを演技の途中であろうが始まる前であろうがお構いなしに「調べさせろ」を連発すれば演技の流れが中断されてしまいます。
いくら冒頭に司会者が「タブーはない」と言ったとしても、見物のゲストは出演料をもらい、番組を盛り上げるために呼ばれているはずです。自分が出ている番組で、ここではツッコンだほうがよいのか、おとなしく見ていたほうがよいのかという判断、これは同席する芸人としての最低限のマナーだと思うのですが、これが先の2人には完全に欠如していました。
昔、マジックを見せてくれるバーに行ったことがあります。そのとき、少しアルコールの入ったおやじが自分の財布から千円札を取り出し、それを手でしっかり握りしめ、「この千円札を一万円札に変えてみろ」とわめいている現場を目撃したことがあります。マジシャンができないと断ると、まるで鬼の首でもとったかのように、「そらみろ、やっぱりできないんだろ」と一人で騒いでいました。先日のテレビに出演していた5名中の2名はこのレベルです。
「見るというのは見られること」でもあるのですが、それをあらためて実感した次第です。「お里が知れる」とはよく言ったものです。
ゲストのガラの悪さを別にすれば、番組自体はよくできていたと思います。実際、この番組が終了した直後から翌朝までに、私のところにはメールが数十通来ました。これはマジックの番組、といってもどのようなマジック番組でもというわけではなく、数年前のMr.マリックの番組のような、ある一定レベル以上の番組が放映された際に起きる現象です。
大半は「オンラインマジック教室」への申し込みなのですが、今回は今までにない現象が起きていました。オンラインマジック教室への申し込みが急増したのと比例して、前田さんのマジックを生で見たいという人からの問い合わせが10件近くありました。そしてこのようなメールをくださった方の大半が、前田さんのマジックもさることながら、前田さんのパーソナリティに感動したと添えてありました。具体的には、これほど品がよくて知的なマジシャンがいることに驚いたという内容でした。前田さんのことを称して、「掃きだめに鶴」とおっしゃっている方もいましたが、まさに言い得て妙だと思います。
ある程度マジックをやっている人間であれば前田さんの技術的な面に目が向きがちですが、一般の人、それもマジックをこれまでまったくやったことのない方から、このようなメールを何通もいただいたことで私も嬉しく、救われた思いです。
今回の番組に関しては、ゲストの傍若無人な態度はひとまず置くとして、別の面でも不満があったことも一言付け加えておきます。
それは番組冒頭にあった司会者の言葉、「彼のおこなうマジックは他のマジックのようにタブーはありません」や、テレビカメラをマジシャンの後ろや下といった通常では考えられないような場所に配置し、タネを見破ってやろうという態度を認めた前田さんサイドの問題です。
おそらく前田さんは普段パーティやテーブルホッピングのような場での仕事が多いため、周りを囲まれても演じられるという自信があるところから承諾した企画だと思うのですが、これは少々いただけません。マジシャン自らがこのような挑戦的なことをおおっぴらに宣言すると、観客の中には対抗意識をもち、過剰に反応してくる人が出てくるのも無理のないことです。
前田さんとしては、あそこまでひどい反応が返ってくるとは思わなかったのかも知れませんが、これはある程度予想できることだと思います。
いずれにしても、今回の番組は見る側(観客)、演じる側(マジシャン)のどちらにとってもよい勉強になったのではないかと思います。
魔法都市の住人 マジェイア