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「種明かし番組」について(6)
マジシャンのモラル
2001/9/12
一昨日、「種明かし問題(5)」を掲載したところ、想像していた以上の反響がありました。わずか数時間の間に、10通近いメールをいただき、そのどれを読んでも、怒り心頭に発する、というくらい、どなたも憤慨なさっていました。確かにあのマジシャンはひどすぎます。
私も最初は相手にするのもばかばかしいので静観するつもりでした。しかし記録として残しておくことも何かの役に立つのではないかと思い、書いた次第です。これが契機となり、その後、続々といろいろな方の意見が出てきました。マジック関係のメーリングリスト等でも、私が書いたものより数十倍くらい過激なメールが飛び交っているそうです。
芸というのは自分が陰でどれほど練習し苦労をしようが、そのようなことはおくびにも出さないのが粋というものです。それにもかかわらず、手にできたタコを見せて自慢しているのですから、よほど他に自慢するものがないのでしょう。
昔見たテレビドラマ、「新・刑事コロンボ」のシリーズに『汚れた超能力』というタイトルのものがありました。
この元になっている原作は大変よくできています。マジックやマジック界の裏側に詳しい人物が書いたか、相談役としてマジシャンが協力しているのでしょう。 マジックや超能力についてある程度の知識があると、実在の人物をモデルにしたり、実際にあるマジックや、場所などが出てきたりするため、大変リアルです。多少名前は変えてありますが、容易に実際の名前は連想できます。
ハリウッドに、マジック・キャッスルというマジックを楽しめるナイトクラブがあります。本の中ではマジック・シャトーとなっていますが、マジック・キャッスルがモデルになっていることはすぐにわかります。
コロンボ警部がここに行き、バーのカウンターでとなりに座ったマジシャン、ブルース・シンクレアに、ある殺人事件で使われたマジックについてたずねる場面があります。
「そのう、ちょっとだけでもマジックのタネを教えてくれませんか?実はうちのカミさんも知りたがって……」
バーテンダーがブルー・ムーンを差しだした。
ブルース・シンクレアは青く澄んだカクテル・グラスを見つめ、
「昔の、惚れた女を思いだすなあ」
とつぶやいて一口飲んでカウンターにおいてまわりを見まわした。そしてコロンボに顔を近づけると、ひそひそ声できいた。
「秘密を守れますか、警部?」
「ええ、もちろん守れますとも」
ブルースはさらに顔を近づけ、耳もとでささやくように、
「実は私も、秘密を守る主義なんです。ですから、ギロチンの仕掛けは教えられません」コロンボはマジック・シャトーで他にも何人かのマジシャンにタネを尋ねるのですが、誰一人として明かすものはいませんでした。
また、コロンボ警部がマジックショップへ行き、店の主人バートにあるマジックのタネを教えて欲しいと頼むくだりがあります。
バートは肩をすくめると、侮辱を受けたような顔つきをして、
「この私に、タネ明かしをしろというのかね?」<中略>
「マックスはマジシャンだった。私もマジシャンだ。しかし、あんたはマジシャンではない。マジシャンは決してタネを明かさないものだ。いかなることがあろうと」
同業者を売るようなことはできないと、きっぱり断ります。これがマジシャンのモラルというものです。
<補足>
テレビで放映された『汚れた超能力』は文庫本になって発売されています。本のタイトルは『殺しのマジック』ですが、中味は同じものです。
二見書房、1991年5月、定価490円、ISBN4-576-91057-4
テレビでは新コロンボシリーズの第1回目として、1993年5月7日に放送されました。ビデオも出ているかも知れません。
なお、この本のオリジナルタイトルは、
"GOES TO THE GUILLOTINE"
です(笑)。
魔法都市の住人 マジェイア