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Too Perfect Theory?!


1999/7/20


"Too Perfect Theory"というのを知っているでしょうか。私は今まで全然知らなかったのですが、今日、通販で購入した本、"SHATTERING ILLUSIONS"(シャタリング・イリュージョンズ、Jamy Ian Swiss、ジェイミー・イアン・スイス著、柳田幸繁訳 Y's-tRance Publishing発行)を読んでいたら、"Too Perfect Theory"という理論が紹介されていました。海外では時々話題になっているようです。しかしこれについて一番最初に言及したのはリック・ジョンソンで、ジョン・ラッカーバウマーが出していた雑誌、Hierophant(合本5/6:1970年8月号)に載ったコラム、"Too Perfect Theory"が初めてだそうですから、意外なくらい古い話題です。

そのころであれば、私もマジック関係の本をよく読んでいた時期ですから知っていても良さそうなものなのに、まったく記憶にありません。また、そのようなことが当時多少とも話題にもなっていれば知っていたはずなのですが、そのようなこともなかったのでしょうか。いずれにしても、これがまた何かのきっかけで表に出てきたのでしょう。

この理論は、これまで日本ではほとんど活字になったことはないそうですから、ざっと説明しておきます。

"Too Perfect"と言うのは、「あまりにも完璧すぎる」ということです。「理論が完璧すぎる」という意味ではなく、「あまりにも完璧すぎる現象は、観客にタネがばれやすくなる」という理論だそうです。

これには肯定派、反対派、中立派とあり、肯定派としてはジェイミー・イアン・スイス、ジョン・カーニー等で、反対派はトミー・ワンダー、中立派としてマイケル・クロースなどがいるそうです。

"Too Perfect Theory"を日本語にしようとしても適当な言葉を思いつきませんので、「トゥー・パーフェクト・セオリー」としておきますが、言っていることは、先ほども触れたように、「現象が完璧すぎると、かえって観客にタネがばれやすくなる」ということだそうです。

ジェイミー・イアン・スイスは、その例として「フローティング・ビル」をあげています。

現象が完璧すぎると、観客がその方法を容易に推測してしまうからよくないということなのですが、本当にそうでしょうか。「フローティング・ビル」というのは、観客から借りた紙幣を目の前で浮かせる「浮揚現象」の代表的なものです。これはあまりにも「現象が完璧」なので、タネがばれやすく、それよりも、ジェイミー・イアン・スイスは、「アニメイティッド・リング」のほうをむしろ好んでやっているそうです。「フローティング・ビル」は、よほど条件が整わないとやらないのだそうです。「アニメイティッド・リング」というのは、観客から借りた指輪を鉛筆に通して、鉛筆を水平に持っていると、指輪が右の方から左の方へ動いて行き、その後、鉛筆を垂直に立てると、指輪が下から上に上がって行くという現象です。このほうがタネがばれにくいのだそうです。

この二つに限らず、現象の完璧さは、本当に、観客にばれやすくなるのでしょうか。私はそうは思いません。今の二つを比べるのなら、現象が完璧かどうかといった問題ではなく、現象と方法が直接的かどうかの問題だと思うのです。

一般の人にマジックを見せると、色々とタネを推測します。その中にはまったく見当違いなものもあれば、当たっているものもあります。マジックによっては、ほとんどの人がこうなっているのだろうと思う推理が、実際に正解というものもありますが、このようなものはよいマジックとは言えません。

つまり、現象と手段が直接結びついているようなものは、タネが簡単に推測されてしまうので、まずいのです。

「ジャリ」を使ったものをいくつかあげてみましょう。

1.「観客から借りたお札が浮かぶ」
2.「観客から借りた指輪が鉛筆にそって上下する」
3.「ボルトに通したナットが、ボルトが勝手に回転してはずれる」
4.「街頭で販売されているジョニー君
5.「ヒョコ」と呼ばれる、割り箸など生きもののように操る芸
6.「胡蝶の舞」(紙で切った蝶が、扇子で扇ぐと生きた蝶のように舞う)

これ以外にもありますが、この中で、物が浮かぶという現象を見たとき、誰でも最初に考えることは、糸で上から吊しているのだろうということでしょう。 そして、もし糸をそのような目的で使用すれば、当然タネは気づかれやすくなります。

今上にあげた6種類の現象は、タネを知らない人からすると、これがどれも同じ原理のマジックだとは思わないはずです。1の「お札が浮かぶ」現象が、この中では最もばれやすいのは、何もこれが「完璧すぎる現象」であるからではありません。現象と手段が、この6種類の中では一番密接に結びついているからです。

「浮揚」という現象であっても、「ゾンビボール」や舞台で行われている大がかりな「人体浮揚」は、一般の観客の常識を破った方法で行われているので、今でもあれがマジックとして通用しています。もしあれを上から何かで吊しているのなら、とっくに見捨てられています。

つまり、「現象が完璧すぎるとタネが推測されやすい」という表現は適切ではなく、「現象と手段が結びつきすぎているマジックはタネがばれやすい」ということに過ぎません。

「現象が完璧すぎる」という言い方は誤解を招きます。"Too Perfect Theory"と言うより、むしろ、"Too Straight Theory"とでも言えばよいことです。「現象と、観客の想像する手段が、あまりも正直に結びついている」という意味です。誰でも考えそうなことをやれば、それはバレるでしょう。

そう思って先の6種類の現象を見て行くと、普通、2番から6番までは一般の人にマジックを見せたとき、「ジャリ」のことを想像することはまずないでしょう。つまり、現象と手段が結びつきにくいから、安全なのです。現象が完璧という意味では、2番から6番のどれも「完璧」です。

補足:上記の"SHATTERING ILLUSIONS"は、ジェイミー・イアン・スイスの何冊かのレクチャーノートなどをまとめたものです。解説されていますマジックもすばらしく、読み物としても大変おもしろいので、お薦めします。 名古屋のUGMや、奈良のオフィスニシカワ等で購入できます。(定価6,500円)

魔法都市の住人 マジェイア

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