頭を使え
「頭を使え」(Use your head.)というのは、ダイ・ヴァーノンの言葉です。ヴァーノンに限らず、天才肌の人の言葉は禅語と同じで、わかる人にはそれだけでひらめきを与えてくれますが、わからない人には何もわかりません。
ジャイアンツの長島監督が、若手の選手にバッティングの指導をしたときのアドバイス、「いいか、バッティングの極意は、向かってきたボールにバットをバシッと当てることなんだ」というのも、当たり前すぎて何のアドバイスにもなっていません。(笑) しかし、これだけでも、わかる人には何かひらめくものがあるのかも知れません。(汗)
ヴァーノンの言葉も、長島監督に負けず劣らず「難解」です。有名な"Be natural"同様、この"Use your head."も難しい。(笑)
「頭を使え」と言われても、誰だって大なり小なり使っているのですから、今さらこんなことを言われても、大抵の人は戸惑うだけでしょう。
ヴァーノンがこのようなことをわざわざ言わなければならなかったのは、年中、ひどいマジックを見せられていたからだと思います。ヴァーノンのような天才からすれば、大抵のマジシャンのやっていることなど、見るに耐えられないものであったに違いありません。「もう少し何とかしろよ」の嘆きが、"Use your head"と表現されているのでしょう。
さすがに80歳を越えてからは、何を見せられても「すばらしい」の一点張りで逃げていたようですが、"VERNON BOOK"が出た60歳台くらいまでは、レクチャーで毎回のように,"Use your head"と"Be natural"を強調していました。そしてオフレコでは、「90%以上はホープレスなマジシャンだ」と嘆いていました。
そのようなことから、レクチャーで毎回のように"Use your head"を強調していたのでしょうが、本人に何も問題意識がないのなら、頭の使いようもありません。
ヴァーノンにすれば、頭を使っていないから大抵のマジシャンはあきれるほどひどいマジックを平気でやっているように見えたのでしょう。しかしこれは、畢竟、センスの問題ですね。マジックセンスのよい人は、始めて1,2年でもそれなりに洒落たものを見せてくれます。逆にマジック歴が20年、30年といったベテランで知識も相当ある人でも、相変わらずひどいことをやっているマジシャンはいくらでもいます。何がひどいのかわかっていないのですから、永く続けたところでなおりません。いくら頭を使っても、トンチンカンな妙な方向へ頭を使ったのでは、ますますひどくなるだけです。
残念ながらマジックのセンスをよくする特効薬はありませんが、クラシックになっているようなマジックをしっかりマスターすることが遠回りに見えて、一番近道なのかも知れません。
魔法都市の住人 マジェイア