ショー&レクチャーレポート
フィリップ・ジャンティ・カンパニー
動かぬ旅人
Compagnie PHILIPPE GENTY : VOYAGEUR IMMOBILE
1996年7月5日 、大阪の近鉄劇場で、フランスから来ているフィリップ・ジャンティ・カンパニーの『動かぬ旅人』を観ました。この劇団はこれまでも何度か来日していたのですが、私はまったく知りませんでした。今回の来日も知人に教えてもらい、予備知識なしで観に行ってきました。
人形と人間が一緒になって芝居をします。人形が主で人間が従でも、その逆でもありません。両方が一体となって奇妙な空間を作り出し、今までに経験したことのないような不思議な感覚を体験できます。
シュールな舞台構成で,心理学者のユングが言っている人類共通の認識、「元型」の思い起こすような場面が続出します。つまり、心のもっとも深い領域として仮定されている世界です。世界中の人々の心に、繰り返し想起され、人類が記憶できないほど遠い昔から絶えることなく出現してきたイメージ、大変なつかしく、それでいて不気味で、不条理で、何とも言えない不思議な空間が現れているステージでした。
私たちは外的世界とその中で、抑圧された諸々を自分自身であると理解しています。しかし個人を超越する普遍的無意識があり、それらはふだん激しい情動をともなうイメージ、象徴、気分、そして儀式、習慣、恋愛などに投影され、行動パターンとして体験されています。この劇団はそれを人形やマジック,ダンスなどを使い表現しています。この芝居をエンタテイメントとして観た場合、ちょっと難解かなという気もします。
この劇団は、ステージのマジックで使われるような仕掛けを巧妙に利用しています。しかしそれはあくまである場面を作り出すのに必要だから使っているだけです。 そのため、マジックを見ているという意識などまったくないままに、気が付いたら不思議な場面や現象が起こっています。
たとえば、今回のステージでは人間の出演者は最初から最後まで7名です。それがある場面で一人一人を大きな紙ですっぽり包んで、寝かせて行くのに,そして舞台には大きな紙包みがすでに数個できているのに、相変わらず舞台の上には人間が7人いるのです。これは最初全然気が付かず,3人ほど包んだとき、隣の人が「あれ?人間が減っていない....」と言ったので私もはじめて気が付いた次第です。びっくりしました。マジックで言うミスディレクションが効果的に使われています。
このステージもマジック同様、舞台の上で起きる様々な現象を細かく紹介してしまうとまだご覧になっていない方の楽しみを減らすことになりかねませんのでカットします。
表現芸術としての舞台には様々な可能性があるものだとあらためて複雑な思いにとらわれました。
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