ショー&レクチャーレポート

2002/2/2記


不思議の国のSHOW TIME

カズ・カタヤマ プロデュース
作・演出 鈴木徹


 プロマジシャン、カズ・カタヤマさんのマジックを鈴木徹さんの作・演出で見せる一風変わったマジックショーがありました。「不思議の国のSHOW TIME」シリーズとして、昨年(2001年)の11月に開催されたものが3回目になります。このシリーズを一口で言うなら、マジックと芝居をドッキングさせたものということになるのでしょう。

 1999年11月に開催された第1回目は「マイ・ライフ・アズ・ア・マジック・ラビット」、2000年11月の第2回目は「ドリーム・ビフォア・クリスマス」、そして3回目が「リトル・マジック・ショップ・オブ・ホラーズ」というタイトルです。

 一番新しい第3回目は2001年11月16日(金)から18日(日)まで、東京のアイピット目白で、5公演が開催されました。私は関西のため、残念ながらこれまで一度も生で見る機会を持てなかったのですが、鈴木さんのご好意で第1回目から3回目までのすべての公演ビデオをお送りいただき、見ることができました。まずこのことを鈴木さんならびに主演のカズ・カタヤマさんにお礼申し上げます。                 


 お二人のことをご存じない方もおられると思いますので、簡単にご紹介します。

 鈴木さんはマジックのメーカー、テンヨーの開発部で新しいマジックを考案しておられるクリエイターです。毎年夏頃テンヨーが開催している大会では、ここ数年、マジックショーの演出も手がけるなど、最近はマジックを見せることに関しての様々な可能性に、意欲的に挑戦しておられる方です。

 カズ・カタヤマさんは京都出身のプロマジシャンです。得意とされているレパートリーはシルクやカードのマニュピュレーション、ゾンビボール、リンキングリング、ロープなど、スライハンド(Sleight of Hands:手練)中心のものが多く、これは最近のプロマジシャンにはめずらしいことです。

 このようなものは、アマチュアのマジッククラブや学生の発表会であれば必ず演目の中心となっているものばかりです。しかし芸としては大変繊細であるため、大抵のプロは敬遠しています。大がかりな道具を使ったネタモノのなかに、アクセントとしてひとつかふたつ混ぜることはあっても、この種の芸だけを中心にルーティンを組みたて、見せているマジシャンは海外を見渡してもそう多くはありません。

 とくに近年はイリュージョンか、そうでない場合はメンタル系、いわゆる「超能力」といわれるものが主流になっているため、スライハンドが中心のものはあまり演じられなくなっています。そのような中で、カタヤマさんの存在は貴重です。スライハンドでありながら、決して線の細い芸ではなく、十分、観客にアピールできるだけの力強さがあります。

 とは言え、マジックという芸は、一人のマジシャンだけで1時間以上のショーを構成するのは容易なことではありません。1回くらいなら可能であっても、もしこのようなものを毎年行うなら、すぐに出し物に行き詰まってしまいます。大きな道具を使うイリュージョンであれば道具自体の目新しさで多少はカバーできますが、1時間以上のショーをすべてスライハンドが中心のルーティンで構成し、しかも毎年新規な現象だけで舞台を作るのは、現実には不可能と言っても過言ではありません。

 スライハンドの場合、名人芸と言われるレベルになると何度見ても感動しますが、それでも毎年同じものばかりでは観客に飽きられます。マニアには受け入れられても、一般客は、昨年とまったく同じものを見せられたのでは納得しません。

 鈴木さんやカズ・カタヤマさんが数年前からこのシリーズに取り組んでおられるのは、マジックの見せ方における可能性の追求、もしくは挑戦なのでしょう。「不思議の国のSHOW TIME」では、ただ不思議な現象だけを見せるのではなく、あるテーマにもとづき、そのテーマを表現する手段としてマジックが使われています。


 このシリーズがどのような経緯で始まったのか詳しいことは知りませんが、演出面での新たな可能性への挑戦なのでしょう。同じ料理であっても、盛りつけ方や添え物、器を変えることで、随分印象が変わるように、いろいろと試しておられるのかも知れません。

 一口にマジックと芝居を組み合わせるといっても、この二つをどのように一体化させ、またどのようにしてマジックの場面だけを切り出すのか、これは演出家として、鈴木さんが一番苦労されているところだと思います。

 内容自体の詳しい説明は、またこれが上演される機会があるかも知れませんのでカットしますが、鈴木さんが演出されたマジックショー全般に言えることは、最後のシメの部分にあたるマジックやセリフがいつも大変印象深い点です。

 1999年の「マイ・ライフ・アズ・ア・マジック・ラビット」では「ヒンズー・ヤーン」が最後の演目でした。これはよく知られている糸の切断・復活現象です。人と人は不思議な縁でつながっていますが、それを暗示的に象徴していました。「ヒンズー・ヤーン」をこれ以上素敵な演出で見たことはありません。

芝居でもそうですが、見終わったあと、何かひとつでも後々まで印象に残るものがあれば、その芝居は十分成功だと思います。そのような意味では、第1回目のエンディングマジックは、私にはとても感動的で、印象深いものでしたので不満はありません。

 2000年の「ドリーム・ビフォア・クリスマス」では、全体のテーマは「人は想像し続けたら、それはいずれ現実となる」ということなのでしょう。これは多くの先達が言っていることですが、私も本当にそうだと思っています。あきらめなければ、いつか必ず実現します。

 このテーマは、カズ・カタヤマさんのマジック全般にも当てはまります。

 カタヤマさんのマジックは、シルクにしてもゾンビボールにしても、その他どのようなマジックでも、必ずどこかにカタヤマさん自身のオリジナルが入っています。それは技法であったり、ギミックであったり、見せ方であったりするのですが、マニアが見ても驚く部分が含まれています。これはカタヤマさん自身の性分と関係しているのかもしれませんが、一部分であっても、自分なりのアイディアが含まれていないと人前で見せる気にはなれないのかも知れません。観客を驚かせたいというサービス精神の現れと同時に、自己表現の手段としても欠くことのできないものなのでしょう。

 当初は雲をつかむようなものでしかなかったものが、それを追い求めていると、いつか具体的な姿を現し、しっかりとイメージできるようになってきます。そしてその人にしか表現できない何かが織り込めたら、人はその芸人をひとかどの人物として認めるようになります。

 第2回目の「ドリーム・ビフォア・クリスマス」を見ながら、カズ・カタヤマさんがマジシャンとして成長してきたそのノウハウを垣間見せてもらった思いがしました。             


 マジックショーと言えば、どれだけ観客が驚いたかで評価が決まると思われていますが、それだけではない何かがあることをこのシリーズは感じさせてくれます。

 お二人にはこれからも、失敗を恐れず、果敢にいろいろなマジック、演出に挑戦していただきたいものです。

 また、このようなすばらしいショーが東京だけでしか見られないのはとても残念です。採算面などを考えるとむずかしいのかも知れませんが、いつか関西でもやっていただけたらと願っているのは私だけではないはずです。


 参考資料として、第3回目"LITTLE MAGIC SHOP OF HORRORS"のパンフレット等を掲載しておきます。

 出演者だけでも個性的な5名に加えて、コーラス担当の3名とギター奏者が加わり、これまでにないほど多彩な演出になっていました。

Little Magic Shop of Horrors

出演:カズ・カタヤマ/神 雅喜/大野ちかこ/MAYAKO/HIROSHI/
コーラス:TOMOKO/吉野満咲/松澤登紀子
ギター:池田クニト

開演日時:2001年11月16日(金) 19:30
              17日(土) 15:00 /19:00
              18日(日) 13:00 /17:00
              (開場は開演の30分前)

会場:アイピット目白 (JR山手線目白駅より徒歩8分)

前売り:3,000円
当日 :3,500円


魔法都市の住人 マジェイア


backindex 魔法都市入口へ魔法都市入口へ
k-miwa@nisiq.net:Send Mail