書名 | クラシック・マジック事典 |
著者 | 松田道弘 |
出版社 | 東京堂出版 |
価 格 | 3,400円(税別) |
ページ | 221ページ |
ISBN | 4-490-10608-4 |
分類 | クラシック・マジック |
2002年9月25日
松田さんの新しい本、『クラシック・マジック事典』が出ましたので紹介します。
「クラシック」という言葉から、古めかしくて、だれもがすでに知っているマジックが解説されていると思うかもしれません。確かに古いものが多いのですが、海外で次々と売り出させるディーラーズアイテム、つまり「売りネタ」や、若手マジシャンのオリジナル・マジックを集めた作品集などよりも、この本に解説されているクラシック・マジックのほうが新鮮に感じるのはなぜなのでしょう。
「まえがき」にある松田さんご自身による言葉がそのあたりのことをよく表していると思いますので、抜粋してご紹介します。
トリックに年輪はない。
芸術の世界でクラシックといえば、いつの時代にあっても変わることのない評価をうける、完成度の高い作品のことです。トリックの世界でも同じです。
<中略>
クラシック・トリックの特徴は、その単純さと現象の明快さにあります。2点間の最短距離は直線というのは幾何学の公理ですが、奇術の世界でももっとも単純で、そして直截的な方法でなしとげられるのが、最高の作品であるということができるでしょう。クラシック・マジックはまさしくこの必要条件を満たしています。クラシック・トリックはどれも昨日創られたかのように新しい。トリックには年輪はないのです。
『クラシック・マジック事典』(まえがき)
本当にそのとおりだと私も思います。本書に解説されているものから例をあげてみます。
「モーラーのボール・アンド・ネット」や「スライディーニの紙玉のコメディ」と呼ばれるマジックは、マニアであればたいてい知っているはずです。しかし名前がよく知られている割には、これを実際に演じている人は多くありません。大変ビジュアルで、単純な現象なのに、実際に演じるとなると意外なくらい難しい面があるからです。現象としては"Simple is best."ではあっても、演じる側からすれば必ずしも"Simple is easy."とは限らないものです。現象や方法がシンプルであるほど、ごまかしは効きません。きちんと、正しいやり方を習わないと、人前ではできないものです。
上記の「紙玉のコメディ」と呼ばれるマジックも、ひとつのルーティンとして演じようと思えば、克服しなければならない点がいくつもあります。また演技の途中で、観客に気づかれたときの対処の仕方なども含めて、事前に対応の仕方を確立しておかないと安心してできるものではありません。この本では、そのような点まで含めて詳しく解説されています。また、ここで解説されているミスディレクションは他のマジックでも応用範囲が広いため、数多くのマジックに適応できます。
すでに「クラシック」としての評価をうけているマジックであっても、それがどのようにして現在のような形にまで発展してきたのか、ヴァーノンをはじめ、優秀な先達がどこをどのように改案してきたのか知ることは、ただ単に完成されたルーティンだけを知るより、はるかに興味深く、知識も深まります。
本書の中には、松田さんがよく演じておられる「テンカード・ポーカー・ディール」、これは大変やさしく演じられるギャンブリング・デモンストレーションの一種ですが、このようなものから、「カード・アクロス」「スポンジボール」「カップと玉」「ロープ」「コイン・スルー・ザ・テーブル」など、だれもが知っていて、かつ奥の深いトリックが詳細に紹介されています。
この本には続編があります。次回出版予定のものは同じクラシック・マジックではあっても、何らかの道具や「売りネタ」を使うものが中心になります。もうすでに原稿は集まっていますので、概略だけ紹介します。
まず執筆陣が豪華です。前田知洋さんの「カード・イン・レモン」、ふじいあきら氏の「インビジブル・スレッドの使い方」「ホーンテッド・デック」、紀良京佑氏の「ポケット・リング」、六人部慶彦氏の「シリンダー&コイン」等、ある程度マジックをやっている人であれば、ぜひ知りたいと思うものばかりです。他にも小谷純司氏の「エッグ・バッグ」、赤松洋一氏の「八つ玉の基本ルーティン」などもあります。私も「小さくなるトランプ」「カラー・チェンジング・ナイフ」「エッグ・オン・ファン」を書かせていただいています。
以前筑摩書房から出ていました松田さんの「遊びの冒険シリーズ(全5巻)」は、絶版になったあとからも、多くの方が復刊を望んでいました。幸い、このシリーズは「復刊ドットコム」から入手できるようになりました。今回のシリーズも、後々まで残しておきたいトリックばかりですので、ぜひ手に入るうちに購入しておかれることをおすすめします。なお続編は早くて年末か、来年(2003年)の年明けくらいになると思います。