Grandfather's Legacy

「おじいちゃんが残してくれたもの」

最初に

デビッド・カッパーフィールドが1998年の公演の際、演じていたものです。 5,000名が入る会場で、クロース・アップ・マジックを見せてくれました。手元をカメラで撮り、巨大なスクリーンで見られるようになっていました。

現象をご存じない方のために、ざっと紹介しておきます。

現象

４枚のエースを取り出し、テーブルの上に表向きに置きます。スペードのエースだけは他の３枚のエースとは少し離して置きます。

３枚のエースの上に、普通のトランプを３枚ずつ置いて行きます。

エースが含まれた４枚のトランプからなる山が３つと、スペードのエースが１枚だけ、少し離れたところにあります。

最初の山を取り上げ、４枚を広げて、エースがあることを見せます。それを閉じてからもう一度広げると、３枚しかありません。表を見ると、エースが消えています。これをあと２回繰り返し、３枚のエースをすべて、それぞれの山から消してしまいます。エースが消えたら、スペードのエースに注目して、スペードのエースを少しずらすと、したから消えたエースがすべて現れます。

一般的なエースアセンブリーと違うのは、１枚と思っていたスペードのエースから、突然、すべてのエースが現れるところです。普通は、スペードのエースの上にも３枚のカードを乗せますが、それがありません。そのため、移動現象としては、このほうがダイレクトでわかりやすいでしょう。

コメント

私はデビッド・カッパーフィールドの公演を見ていませんので詳しいことはわかりませんが、大掛かりなイリュージョン同様、このささやかとも言ってよいカードマジックにも観客は大変感動したそうです。

タイトルが「グランドファーザーズ・レガシー」（おじいちゃんが残してくれたもの）となっていますのは、「おじいちゃんから習ったマジック」というストーリーになっているからです。この演出は添付されているオリジナルの解説書にはありませんので、デビッド・カッパーフィールドが自分で作ったものだと思います。

子供の頃、大きくなったらマジシャンになるという夢を親や周りの人に話しても、だれもまじめに話を聞いてくれません。しかし、おじいちゃんだけが、「おまえなら、必ず素晴らしいマジシャンになれる」と言ってくれたのです。そして、そのおじいちゃんが見せてくれたのが、このカードマジックでした。

ざっと、今のような話をしながらマジックは進んで行きます。また、このマジックには音楽が流れており、それも大変印象的なものであったようです。

広告では、大変簡単にできるように書いてありますが、決して簡単ではありません。デビッド・カッパーフィールドはこれを演じるとき、上からカメラで撮っていましたので、このマジック特有の弱点をカヴァーできるのですが、これを実際にクロース・アップで見せるのは無理かも知れません。消すところは、３種類とも同じように消すのであれば全然難しくありません。デビッド・カッパーフィールドは違う消し方をしていたそうです。

しかし、このマジックはそのようなことはどうでもよいことです。現象自体は、「エースアセンブリー」の一種にすぎません。それこそ数え切れないほどある類似のトリックのひとつです。

結局、このトリックが優秀なのではなく、デビッド・カッパーフィールドの演出が優秀なのだということをわかっておかないと意味がありません。

すべてのトリックに言えることですが、自分に合うような演出とストーリーができてはじめてレパートリーになります。掃いて捨てるほどある「カードアセンブリー」でも、演出次第で5000名の人が一度に感動するマジックになるのです。むしろ、これこそが「マジック」であり、そこにデビッド・カッパーフィールドの秘密があります。参考にするのなら、その部分です。と言っても、これを見た人がみんな、「おじいちゃんから教わったものです」とやっても全然意味がありません。

有名なマジシャンが、あるトリックをテレビ番組の中で見せると、翌日、マジックショップには問い合わせの電話が殺到するそうです。そして、たちまち、それが売り切れてしまうといったことが珍しくありません。昔から販売されている商品なのに、有名プロマジシャンが演じただけで、それが素晴らしいトリックであるかのように思ってしまいます。しかし、いつも私が言っているように、トリックそのものに、良いトリックも悪いトリックもありません。あるトリックがよくなるか悪くなるかは、ひとえにマジシャン次第です。フレッド・カップスもアルバート・ゴッシュマンも言っているように、新しいトリックを追い求めても切りがありません。古いトリックでも、自分に合った演出が付け加えられたら、それはその人のものになります。今回紹介した"Grandfather's Legacy"は、それをあらためて思い出せてくれました。