書名 | 魅惑のトリックカード・マジック |
著者 | 松田道弘 |
出版社 | 東京堂出版 |
価 格 | 3500円(税別) |
ページ | 231ページ |
ISBN | 4-490-20540-6 |
分類 | カードマジック、トリックカード |
2005年5月2日
今年(2005年)の2月、松田道弘氏の新しい本が出ました。「魅惑のトリックカード・マジック」です。松田さんはこれまで数多くカードマジックの本を出しておられますが、初期のものは徹底して、レギュラーデックだけでできるものに限っておられました。それがいつの頃からか、トリックカードもまざるようになり、今回出版されたこの本では、とうとう全編トリックカードを使うものばかりです。食べ物でも人の好みは歳とともに変わりますから、カードマジックの好みが変わることくらい驚くことではないのでしょうが、昔から存じ上げている私などはやはり驚いてしまいます。
歳の話ばかりしていても仕方がないので本の中身を紹介します。
まず最初にこの本の特筆すべき点は、大変親切にできているということでしょう。トリックカードを作る場合、最近は著作権が厳しく扱われるようになったせいか、勝手にバイシクルの裏模様を印刷することはできなくなっています。とはいえ、オリジナルの裏模様でトランプを作ったとしても、それでカードマジックを演じるのは、たいていのマニアは抵抗があるはずです。どれだけ下準備が必要なものであっても、観客にはそのことは感じさせず、いつも使っているトランプで演じていると思わせてこそ、効果のあるものが少なくないからです。著作権の問題と特殊なカードという両面をクリアーするために、この本にはトランプのフェイス(表面)だけ印刷されたシールが添付されています。これを普段使っているトランプに貼れば、バックはそのままで表だけがネタという特殊なカードを比較的容易に作ることができます。
またバックの裏がいろいろと変化するマジックのために、裏模様のシールも数多く添付されています。
さらに、トリックカードを自作する人のために、レギュラーのトランプを薄くはがす技術が解説されています。この部分の解説は金沢にお住まいの山崎真孝氏が担当して書いてくださっています。私もこれまで数百枚のトリックカードを自作してきましたので、トリックカードの作り方は何種類か知っていますが、それでもここで解説されている方法ははじめて知りました。実際にやったことのある方でないとわからないでしょうが、山崎氏の方法を使うと、厚い方(二層分)を残したいときでもうまくできます。
各章で解説されていますマジックは、現象面だけを取りあげると、どれもパケットトリックして、ディーラーズアイテム(売りネタ)として十分販売可能なくらいよくできています。最近は売りネタの氾濫で、ディーラーズアイテムといったところで玉石混淆ですから、必ずしもほめ言葉にならないかも知れませんが、この絢爛豪華さは特筆ものだと思います。ネタカードを使うだけではなく、解説されている大半のマジックは指先のテクニックも併用するため、どれもとびきり不思議であざやかなマジックに仕上がっています。
私のようなものから見れば、もうこれで十分完成していると思えるような古典トリックであっても、松田さんにとってはどこか自分にとってしっくりこない部分、不満な部分があるのなら、貪欲とまでいってよいほど改良を重ねてこられた作品の集大成になっています。
「あそびの冒険シリーズ」が様々な分野の傑作をまとめて勉強できるように、この本もここ数十年の間に発表されたトリックカードを使うカードマジックの歴史を大変効率的に学べると思います。このような重宝な本は海外にもありません。