書籍紹介

書名
大魔法使い アラカザール
マジックの秘密
著者 アラン・ゾラ・クロンゼック
Allan Zola Kronzek
出版社 東京堂出版
価 格 2,800円(税別)
ページ 175ページ
ISBN 4-490-20481-1
分類 入門書

2002年11月9日


マジックの秘密

この本は1980年にアメリカで出版された、アラン・ゾラ・クロンゼック氏の"The Secrets of Alkazar"の完全翻訳版です。角矢幸繁氏のわかりやすく、原文の雰囲気を忠実に伝えている翻訳に加えて、挿絵や解説のイラストをプロマジシャン、カズ・カタヤマ氏が新たに描いてくださっているため、オリジナルを越える素敵な本に仕上がっています。

1980年にアメリカで発売された当初は一般書店の流通に乗ったせいか、マジックの専門店ではあまり見かけなかったようです。さらに小さい子供向きの入門書と思われていたため、マニアは気にもとめていなかったのでしょう。アマゾンなど、書籍を扱っているサイトで調べると、読者対象をfor young magicianとしていますから、これからマジックを勉強し始める小さい子供、日本で言えば小学生くらいを相手にした本と思われ、見過ごされていたのかも知れません。そのせいか、出版された直後はアメリカでもあまり話題にならなかったようです。しばらくして、アメリカではこの本のすばらしさがマジック関係者の間に伝わり、広く知られるようになりました。しかし日本では出版されて20年以上経った今でも、ごく一部の人を除いて、まったく知られていなかったのが実状です。

日本でも海外でも、マジックの入門者用として発刊されている本は数多くありますが、この本くらい、見せ方や演出にまで多くのページを割いて解説しているものはありません。

決して、子供向きの入門書という分類に惑わされてはいけません。確かに小学生でも理解できるよう、懇切ていねいに、わかりやすく書かれていますが、内容のレベルは極めて高度です。

大切なことは細大もらさず、しかし余計なことは大幅にカットして、初心者にもわかりやすい本に仕上げるためには執筆者のセンス、それもマジックと解説の両面においてすぐれていることが絶対条件になってきます。どちらが欠けても満足できるものにはなりません。

日本では、大半の人がアラン・ゾラ・クロンゼック氏の著書を読むのはこれが初めてだと思います。これを読むと、クロンゼック氏がマジシャンとしてのセンスだけでなく、解説者としても群を抜いた才能を持っていることに驚くことでしょう。私もこれまで氏についてはほとんど知らなかったのですが、著者略歴を読むと、ある程度納得できました。氏はニューヨーク出身で、フリーライター、放送局の局長などを経て、マジック関係の著述や講演ならびに実演をおこなっています。最近ではハリー・ポッター関連本、"The Sorcerer's Companion"(2001年"を執筆しています。 邦題『ハリー・ポッターの魔法世界ガイド』(早川書房) 

またマジックの専門家向けの本としては、"Chance, Distiny and Free will"も各国のマジック関係者から絶賛を受けているそうです。

私の個人的な印象では、類い希なくらい、知識と精神のバランスが取れている人です。

★内容紹介

主人公である「私」が、昔、大魔法使いアラカザールからマジックを習い、教えてもらった数々の秘密を読者にも伝えるという構成になっています。

単なる種明かしではありません。タネの解説の部分はカズ・カタヤマさんのわかりやすいイラストのおかげで容易に理解できますが、それ以上に、個々のマジックを実際に見せるときの演出上の注意、また初心者がよくやってしまう失敗なども合わせて詳しく解説されています。小学生くらいの小さい子供を対象に書かれた入門書とはいえ、内容は本格的です。ミスディレクションやプレゼンテーション、セリフなど、手先の技術的なことよりもはるかに重要なことがわかりやすい例と共に数多く解説されています。

多くの初心者がおちいりやすいミスとして、マジックはタネの原理さえわかればすぐにでも演じることができると思っている面があります。しかし実際にはそれだけではできません。原理を知っただけで人に見せたとしても、すぐにタネがばれるか、たとえばれなくても、観客を楽しませるというレベルには到達できません。ではどうすればよいのか、この本ではその具体的かつ実践的な方法論を、順を追ってやさしく教えてくれています。

この本で最初に解説されているのは「ミスディレクション」です。ミスディレクションというのは、マジシャンが観客に注目してもらいたくない場所から観客の意識をそらす技法です。これを第一章にもってきて、しかも理論だけではなく、「塩の瓶がテーブルを貫通する」という、マニアであればよく知っている例のマジックを使って解説しています。技術系な面が理解できたあと、ミスディレクションのような、これまで上級レベルの話と思われていたことを同時に教えてもらえることはとてもよいことです。マジックは指先の技術だけではなく、観客の心理を操作することが醍醐味であり、奥深いものがあると気づかせてくれるはずです。

さらに演出面にも詳しく触れています。同じマジックを異なった演出、たとえば「魔法使い的演出」と「マッド・サイエンティスト的演出」で演じると、まったくちがった雰囲気になることがわかると思います。自分にはどちらの演出が向いているのか、あるいはこのような両極端な演出が可能であることを知れば、初心者の人であっても、自分の個性にあった独自の演出を作り上げることも可能であると気づくと思います。

また解説されている各マジックには「黒のノート」というコラムが添えられています。ここでは演じる上でのちょっとしたヒントやコツが述べられています。また「赤のノート」では、マジック全般に関わる重要なアドバイスがちりばめられています。

この本で解説されているマジックは、マニアであれば半分くらいはすでに知っているでしょうが、それでもあらためて解説を読むと、様々な面で刺激を受けると思います。そしていままで知ってはいたけれど、実際に演じたことのない「あのマジック」も、一度本気でやってみたいと思うに違いありません。

クロースアップマジックだけではなく、大きな舞台でも実演可能なマジックもあります。また、マニアでも一度はやってみたいと思っているマジック、「カード・イン・レモン」の簡易バージョンも解説されています。簡易といっても、方法がやさしいだけで、観客から見たときの効果は、本格的なものと何ら遜色はありません。

入門書という位置づけではあっても、実際には上級者でも超マニアでも、得るところが数限りなくある本です。初心者よりも、むしろ上級者のほうがインスピレイションを刺激されると思いますので、レベルにかかわらず推薦します。

書店には2002年11月11日(月)頃から出る予定です。


★現在発売中の雑誌 "The Magic" Vol.53(東京堂出版)に、著者のアラン・ゾラ・クロンゼック氏と翻訳者の角矢幸繁氏による対談があります。興味深い話が載っていますので、あわせてお読みいただくと、一層よくクロンゼック氏のことやこの本のことがわかると思います。

 


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