2005年3月1日
『シェイド』というのはアメリカで2003年に制作された映画です。日本では2004年に公開されたそうですが、私はまったく知りませんでした。つい先日、この映画の中でギャンブラーのテクニックが公開されていることを知り、早速近所のレンタルビデオ店で借りてきました。
映画の内容はギャンブラー、もう少し正確に言うならポーカーの「いかさま師」の話なのですが、詳しく書くとこれからご覧になる方の楽しみを奪ってしまうことになりますので、それには触れないことにします。マジックやギャンブラーのテクニックに関心のある方なら十分楽しめると思います。
内容はさておき、私が驚いたのはこの映画のオープンニング場面です。時間にして数分のことですが、ここで興味深いカードテクニックを見ることができます。フォールスディールやフォールスシャッフル、スイッチ、パームなどがあり、どれもかなりのレベルです。なかでも特にうまいのが「ボトムディール」です。ボーと見ていると、本当に配っているのか、ボトムディールをやっているのか、まったくわかりません。DVDのスピードを落として、それでやっと本当にボトムディールをやっているのがわかったくらいです。
「ボトムディール」(Bottom Dealing)を知らない方のために、簡単に説明しておきます。これは一組のトランプを持ち、普通に配っているように見せて、実際は一番下(ボトム)から配るテクニックです。たとえばポーカーなどをするとき、4枚のエースをボトムに集めておいて、自分のところに配るときだけ、こっそりボトムから配ると4枚のエースを自分のところに集めることができます。
この技法自体は大変古くからあり、アードナス(Erdnase)の著書、「エクスパート・アット・ザ・カード・テーブル」"The Exper at The Card Table"(1902)にも解説されています。この映画を見て、はじめてアードナスの本にあった挿絵の意味がわかりました。これまでは絵がヘタなので、あんな不自然な持ち方に見えると思っていました。図22〜25の絵です。と言っても、わかったところですぐにフルデックでできるというものではありませんが、なるほどと合点した箇所が数カ所ありました。
この技法を練習したことのある方ならわかると思いますが、ボトムディールはフルデック(52枚)ではなく、30枚以下のカードであればそれほど難しくありません。しかし52枚では大変難しくなります。それでも映画、あるいはアードナスの本にあった持ち方、左手の使い方を納得した上で練習すれば何とかなりそうです。この種の技法がお好きな方はよく観察してみてください。
またこの映画ではダイ・バーノン、チャーリー・ミラー、ラリー・ジェニングス、ジョン・スカーニーといった、マジシャンにはおなじみの名前が次々と出てきます。といっても本物のバーノンやジェニングスが出てくるわけではありません。役の上の名前だけです。
ギャンブラーのテクニックが出てくるものとしては、1973年に封切られた『スティング』があります。これは当時劇場で見ました。『スティング』の中では「セカンドディール」をやっています。当時はまだビデオも普及していなかった時代のため、書物の中では知っていても、実際のセカンドディールを見るのはこれがはじめてであったと思います。劇場でも、観客席にいる客全員が、この場面で「オッー」と声をあげていました。いつの時代でも、ギャングリング・デモンストレーションというのは観客にアピールする要素を持っているようです。
なお、先ほどの」The Exper at The Card Tableは東京堂出版から『プロがあかすカードマジック・テクニック』として出ています。
魔法都市の住人 マジェイア