GIMMIC COIN SERIES

製品名

Sun and Moon
サン・アンド・ムーン

原案者

Albert Goshman

分 類 クロースアップ、コイン

 

陽は沈み、また昇る

Sun Set

1998年10月22日

最初に

アルバート・ゴッシュマンのコインマジックです。原案はJ.B.Boboの"New Modern Coin Magic"に載っています。銀貨と銅貨を使ったコインのトランスポジション(移動現象)の一種ですが、最後の演出がビジュアルでとても詩的です。ただ、前半が猛烈に難しいので、原案どおりにやっている人を見たことはほとんどありません。

現象

Penny and Half Crown銅貨と銀貨をそれぞれ一枚ずつ使います。ゴッシュマンはイギリスのペニー銅貨と、ハーフクラウン銀貨(右の写真)を使っていました。赤い銅貨が太陽で、銀貨が月です。

2枚のコインを取り出し、完全に手を改め、この2枚以外、余分なコインを使ってないことを示します。ゴッシュマンは両手でコイン・ロールをやっていました。

全体で3段からなっています。最初と2段目は、ごく一般的なコインの交換現象です。つまり、左手に銅貨を握り、右手に銀貨を握ったのに、手を開けると2枚のコインがそれぞれ反対の手から現れます。

3段目はとてもビジュアルです。左手に銀貨を握り、右手には銅貨を握りますが、指先に銅貨を持ち、コインが見えている状態で保持します。4本の指を立てて、観客の方に向けると、銅貨が指先の一番上にあります。

左手も同じように指先を伸ばしますが、コインは見えていません。右手の銅貨を太陽に見立てて、日が沈んで行くときのように、銅貨を静かに指の中に沈めて行きます。完全に沈んだら、「太陽は西に沈み、また東から昇ってきます」と言いながら、左手の指先から銅貨を出現させます。ここが一番ビジュアルで、観客も驚くところです。続いて、「太陽が東の国に昇っているとき、西の国では月が昇っています」というセリフにあわせて、右手の指先から銀貨を出現させます。

最後は2枚のコインの裏表を改め、手にも余分なコインはないことをさりげなく示して終わります。

コメント

これはギミックコインを使うのですが、ゴッシュマンの原案どおりにやろうとすると、"Bobo Switch","Goshman Back Pinch"など高等技法の連発で、誰にでも出来るようなトリックではありません。特に「ゴッシュマン・バック・ピンチ」がやっかいだと思います。この技法は、手のひらを完全に上に向け、何も持っていないように見せながら、コインを隠すことが出来る大変すぐれた技法です。難しいので解説書を読んだだけではとても出来そうにないと思うかも知れませんが、実際はそうでもないのです。フレッド・カップス、沢浩氏をはじめ、多くの人が使っています。私も昔考案した、"Quadruple Change Spellboud"(1枚のコインが4種類のコインに変化する)(参照:『夢のクロース・アップ・マジック劇場』(社会思想社、松田道弘編、1992年)の中で使用していました。ただ、これは角度に弱く、見せられる人数が限定されます。ある程度角度が制約されますので、目の前の2,3人が対象であればよいのですが、周りを囲まれたような状況ではつらいでしょう。

この"Sun and Moon"のよいところは最後の部分ですから、そこだけを見せたいのであれば、それほど難しくありません。「ゴッシュマン・バック・ピンチ」を使うのも第1段と第2段だけです。この辺りのハンドリングは、もっと易しくしようと思えばいくらでも解決方法は見つかると思います。高木重朗氏と二川滋夫氏の共著になる『コインマジック事典』(東京堂出版)には、これを易しくした方法が解説されています。ただ、原案を知っていると、どうしても物足りなく感じるのは、私の中に、まだ「マニアの血」が流れているからでしょうか。(汗)

このマジックに限らず、銀貨と銅貨を使ったコインの「交換現象」は数限りなくありますが、最も実用的なものは"Stars of Magic"に載っているジョン・スカーニ("John Scarne)"の"Silver and Copper Trick"かも知れません。これは特殊なギミックコインも不要ですし、観客の手の中で変わるので驚きもひとしおです。

一般的に言えることは、交換現象は見ていて大変わかりにくい現象なのです。コンベンションなどで、テーブルから少し離れた状態で見せられたら、何が起こっているのさえわからないことがあります。少し古いビデオなどでは、編集技術が拙劣であったため、画面を見ていても、銀貨と銅貨の区別がつかないこともありました。さらに、どちらの手に何のコインがあったのかを覚えておく必要があるため、一層、混乱しやすいのです。

"Sun and Moon"で、最後の部分がきれいでわかりやすいのは、右手の中に沈んで消えたら、即座に左手の指先から昇ってくるからです。これだけビジュアルであれば、見ている観客も混乱しません。

ただ、これは、明らかにゴッシュマンがアマチュア時代に考案したマジックであることは間違いありません。実際、プロになってからはこのマジックを全然やっていません。キャッスルのレパートリーにも入っていませんし、コンベンションなどでも見せて欲しいと頼んでも、「もうあれはやっていないから出来ない」と言っていました。確かにそうだと思います。原案どおりにやるにはテーブルで座ったまま演じるのは少しきついでしょう。それに、あれほど難しいことをしなくても、観客にうけるマジックはいくらでもあります。アマチュア時代は、マニアを驚かせるために高等技法などを混ぜて演じたくなるものです。しかし、プロになってみると、裏でやっている難しさと、観客の反応の間には何の相関もないことがわかってきます。そしてもっと安全かつ確実な方法で、演出のほうに力を注ぐようになってきます。そのような理由から、これをゴッシュマン自身が捨てたのはよくわかるのですが、私は昔から、最後の部分が好きで、何となく捨てがたいのです。

最後に一言

今、このマジックをやろうとしてもセットを入手するのは難しいのかも知れません。ゴッシュマンの使っていたセットはイギリスのコインですが、これをアメリカのハーフダラーとイギリスのペニーで出来るようにしたものが昔はジョンソン・プロダクツ"JOHNSON PRODUCTS"という、トリックコインの専門メーカーで販売されていました。しかし、今はこの会社自体がなくなってしまったようです。

基本的な組み合わせは、ShellとD.F.Coinの組み合わせですから、個別にはマニアは持っていると思います。しかし、Shellの中にD.F.Coinを入れたとき、裏表を目の前で見ても完全な銀貨に見える必要があります。そして、ロックはせずに、いつでもはずれる状態になっていることも必要条件です。これをクリアーしようとすると、どうしてもこれ専用に作られたセットでないと無理かも知れません。

私も昔は原案どおりにやっていたのに、今回、やろうとしたら、こんなに難しいトリックであったのかと驚きました。(笑)

魔法都市の住人 マジェイア

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