最初に

"New Stars of Magic"シリーズのVol.2,No.4です。"Stars of Magic"は、今ではすっかりクラシックとしての地位を獲得している本ですが、この"New"のシリーズは、昔のものと比べると、どうもイマイチです。「売りネタ」として、普通に単品で売り出せばよいのに、"New"が付いているとはいえ何でわざわざ"Stars of Magic”のシリーズとして売り出したのかよくわかりません。まあ単純に、「二匹目のドジョウ」をねらっただけのことでしょうが、昔の"Stars of Magic"を知っているものからすれば少し複雑な気持ちです。

今では"New"のシリーズも１０点くらい出ているのでしょうか、その中では今回紹介する「シンクロニシティ�V」は悪くありません。メンタル系のマジックですので、好みがあるとは思いますが、私は好きなトリックの一つです。

今から８年ほど前、ニューヨークのタネンに行ったとき、ディーラーの人から見せてもらいました。使えそうなネタだったので、その場で購入しました。

現象

実際に私が演じているときのせりふを紹介します。

「シンクロニシティ」という言葉を知っていますか？日本語では「共時性」などと訳されています。心理学者のユングが広めた言葉です。

日本でも昔から「虫の知らせ」とか「第六感」と言われていたようなものがありますが、それと同じようなものです。

たとえば、何年も会っていなかった友人のことがふと思い出されて、その人のことを考えていたら、その夜突然、その人から電話がかかってきたというような体験です。まるで私の「思い」が、遠く離れたところに住んでいるその人に伝わったかのような現象です。これを偶然の一致で片付けてしまうには、あまりにも不思議な出来事だと思いませんか？たいていの人は、似たような経験を一度や二度はしているはずです。

また、夢はどうでしょう。「正夢（まさゆめ）」といって、夢で見たことがそのとおりに現実でも起きたというような経験もあると思います。人によって個人差はありますが、よく見る人は何度も見るそうです。

私はあまり夢を見ないのですが、昨晩見た夢は、夢とも思えないほどはっきりとしたものでした。それはあなたがこの部屋で私の前に座っている夢です。そこで私はあなたにマジックを見せようとしていました。トランプを取りだし、裏向きのままあなたに３枚のトランプを抜き出してもらったのです。そのときあなたが抜き出したトランプは、私が今朝目が覚めてからもはっきり覚えているのです。普通、夢は朝目が覚めたら、細かい点などは覚えていないものです。ところが今朝の夢はまるで現実の場面を見たかのように、はっきりしています。それで、夢の中であなたが選んだ３枚のトランプを、私は財布に入れて持ってきました。お見せしましょう。

（ここで札入れを取り出し、開いて見せる）

財布の中に３枚のトランプが見えますね。裏向きになっていますから何のトランプか、あなたはわからないでしょうが、この３枚のトランプはあなたが昨晩の夢の中で引いたトランプです。これはのちほどお見せします。

（一組のトランプをケースから取り出す）

今ここに、一組のトランプがあります。この中から３枚、裏向きのまま抜き出していただけませんか。

（観客は３枚のトランプを抜き出す）

では、私はこのあと、一切、財布の中のトランプにもテーブルの上のトランプにも手を触れません。あなたにしていただきます。まず、先ほどの財布を開けますから、財布から３枚のトランプを抜き出してください。そして、それを一列に、裏向きのままテーブルの上に並べてください。

（観客が並べたら、今、一組から観客自身が抜き出した３枚も一列に並べてもらう。全部で６枚のトランプが、上下２枚ずつペアになって裏向きに並んでいる。）

では、この６枚を順に表向きにしてください。

すると、財布に入っていた夢で見た３枚と、今、観客が今選んだ３枚はすべて一致している。

コメント

上の現象は、一部省略して書いてありますが、観客の側から見れば、ほぼこのとおりに見えるはずです。

私は財布の中に入れてある３枚は、普通のポーカーサイズより一回り大きなトランプ、「ジャック・ダニエル」の顔が描いてあるものを使っています。同じバイシクルでも色違いのものを使えば問題ありませんが、「ジャック・ダニエル」だと、大きさや色も全然違いますので、テーブルに並べたときも混同される心配がありません。

また、このマジックはトランプではなく、タロットカードで演じることもできます。確かにタロットカードで演じたほうが雰囲気も出ます。予言のために、同じタロットカードが３枚必要なので、タロットカードがふた組必要です。しかし、この３枚のためにだけ、もう一組、同じタロットカードを買うのが面倒なら、カラーコピーでもよいでしょう。今ではコンビニでも、Ａ４のカラーコピーが５０円程度でできますから、タロットカードを３枚くらい複製するだけなら５０円でできてしまいます。コピーしたものを適当な厚紙に張り付けたら即席のタロットカードができます。これは財布から取り出すものですから、裏は何でもかまいません。家にスキャナーとカラープリンターがあれば、それでも同じようにできるでしょう。

この手のトリックは、それなりの場所で、それなりの雰囲気でやれば、結構不思議に見えるものです。