書名 | 現代カードマジックのテクニック |
著者 | 松田道弘 |
出版社 | 東京堂出版 |
価 格 | 3,800円(税別) |
ページ | 243ページ |
ISBN | 4-490-20512-0 |
分類 | カードマジック |
2003年11月17日
松田道弘さんの新しい本が東京堂出版から発売になりました。
松田さんご自身、カードマジックに対する考え方がこの1,2年で大きく変化してきたようです。
私自身のカードマジックに対する考え方もここ一二年で大きく変わってきました。以前はマニアにもそのタネがわからないような巧緻な作品をつくりあげるのがひとつの目標でした。必然的に手順が複雑化し長くなるのもやむをえません。短編だとどうしても他人のアイディアとぶつかる危険性が多すぎるからです。
いま考えているのは手つづきは必ずしも簡単でなくても、客からみた現象の簡明な作品の創造です。(あとがきより)
この言葉からもわかるように、解説されているカードマジックはどれもあざやかで、切れ味の鋭いものばかりです。どれも松田さんが数年から20数年、手塩に掛けて育ててきたカードマジックの、ひとつの完成した姿を見る思いがします。
欧米のマジックショップが出している広告を見ていると、「コマーシャル」"Commercial"という言葉がよく出てきます。"COMMERCIAL TRICK !!"とあれば、「商売になるトリック」ひらたく言えば「観客にうけるマジック」ということです。
ただお断りしておかなければならないのは、この本に解説されているマジックは観客から見た現象は不思議で、それでいてすっきりとしているのですが、裏側ではかなりのテクニックを要求されます。松田さんのオリジナル技法や、カードマジックの世界ではよく知られている技法なども駆使しているため、技術的に相当練習が必要なものも含まれています。しかしこれはあくまで裏側のことであり、表から見た現象は大変あざやかです。
今回新しい試みとして、この本には小野坂東氏考案の「ひっくりキング」に使用されるネタカードや、アルティメイト・ツイスターなどに使用する派手な裏模様のカードが添付されています。「ひっくりキング」は、キングの「後ろ姿」が描かれた特殊なものです。海外でも"BacKing"という名前で販売されていますので、ご存じの方もおおぜいいると思いますが、このカードを使った松田さんのバリエーションが解説されています。
このマジックは意外性があり、面白いので「現象」をざっと紹介します。
これは想像力のゲームだと説明します。4枚のキング見せ、この中の1枚のマークを自由に選んでもらい、そのカードだけが裏向きになった状態を想像してもらいます。カードを広げると、本当に観客の選んだカードだけが裏向きになっています。
さらに、そのキングが「後ろ向き」、つまり背中を見せている状態を想像してもらうと、実際に後ろ向きになったキングが現れるので観客は驚きます。最後はすべてのキングが後ろ向きになります。ざっと以上のようなトリックですが、品のよいユーモアと不思議さがほどよくまざったしゃれたマジックだと思います。箴言集でも紹介したデビッド・カッパーフィールドの言葉、
If it can be imagined, it is real.(想像できたら、実現したのと同じこと)
などの話を織り込みながら見せると、妙に説得力のあるマジックになると思います。
この本には、カードマジックの分野では有名なトリック、たとえば「リセット」「オイル・アンド・ウォーター」「カニバル・カード」「セブン・カード・モンテ」「ダンバリー・デリュージョン」「スローモーション・フォー・エース」等の、今となっては古典とも言えるトリックの松田さん流の改案が楽しめます。この種のマジックは世界中で数多くのマジシャンがさまざまなバリエーションを発表していますが、歴史と変遷、参考文献も充実していますので、興味がある方にとっては参考になるはずです。