書名 | トリック・カード事典 |
著者 | 松田道弘 |
出版社 | 東京堂出版 |
価 格 | 3,400円(税別) |
ページ | 271ページ |
ISBN | 4-490-10568-1 |
分類 | カードマジック、トリックカード |
2001年4月12日
東京堂出版から、松田さんの新しい本『トリック・カード事典』が発売されました。この本の構想は5、6年前から松田さんにうかがっていたのですが、本としてまとめるにはやっかいな問題が多く、予想外に時間がかかったようです。
「トリック・カード」というのは、トランプに何らかの特殊な仕掛けをした特別なカードのことです。欧米では「フェイク・カード(fake card)」、「ギャフト・カード(gaffed card)」と呼ぶほうが一般的ですが、日本では「トリック・カード」と呼ばれています。具体的に、どのような仕掛けがあるのか、一口には言えないほど数多くあります。分類の仕方によっては数十から数百になるでしょう。
カードマジックの本はマジック全体の中でもとりわけ多く、レクチャーノートのようなものまで含めれば、数千冊は出ているでしょう。しかしトリックカードを使ったカードマジックをこれほどまとまったかたちで整理・分類したものはいまだかつて出版されたことはありません。その最大の理由は、松田さんご自身が「まえがき」で触れておられるように著作権の問題があるからです。
トリックカードを使ったマジックはディーラーズアイテム(売りネタ)として販売しやすいため、マジックショップから数多く売り出されています。発売されてから数十年の年月が経っているものや、マジック界では昔から広く普及しているものであれば問題はないのですが、中には微妙なものもあります。現象別の紹介だけであれば可能であっても、一歩踏み込んで、内容まで紹介しようとすればどうしてもタネに関する部分にも触れないわけにはいきません。特にそれが売りネタであれば勝手にネタの部分に触れることはできません。とにかく微妙でやっかいな問題がつきまといますから、だれも手を出さなかったのでしょう。
このあたりのことをクリアーしながら、歴史的にも重要で、ぜひ知っておいたほうがよいものを紹介していただけたことは、同好の士としては大変ありがたいことです。
トリックカードの世界はあまりにも膨大ですので、この本一冊ですべてが収まるようなものではありません。第一歩を踏み出しただけに過ぎないかも知れませんが、近ごろのように、情報の量だけは異常なくらい増えている時代にあっては、この数十年の間に発表されたものを一度整理しておいていただけることは奇術界全体のためにも大変有意義なことだと思います。将来、翻訳されて海外で出版されることになるかも知れません。
内容をざっと紹介しておきます。
第1部 トリック・カード用語辞典
トリックカードの分野でよく使われる言葉や、この分野で活躍したマジシャンの紹介があります。これに一通り目を通しておけばトリックカードに関しての「常識」が身に付きます。
マジックの専門書を読んでいるとき、文中に「メネテケル・デック」や「ミラージ・デック」といった特殊な言葉が出てきても、初心者ではわからないことがよくあります。誰か詳しい人に教えてもらうしかなかったのですが、これがあればそのような悩みからも解消されるでしょう。
また、あなたがマニアの中にいるとき、彼らの会話を聞いて、どこか地球以外の星から来た人が会話をしているとしか思えないと感じるのでしたら、この辞典は翻訳機としての機能もはたしてくれるかも知れません。
第2部 クラシック・トリック・カード
「ダブルバック・カード」と「ダブルフェイス・カード」を使ったものだけでも、古典的な傑作が数多くあります。大変な傑作なのに、これまでほとんど知られていなかったり、演じられていなかったりするものがあります。実際、この中で紹介されているものは、かなりのマニアでも知らないものがあるはずです。
クラシックには、時代を超えて伝わるだけのシンプルでかつ力強い魅力があります。
第3部 トリック・カード・ルーティン
トリックカードと技法を組み合わせると、さらに可能性は広がります。ここでは「ワイルドカード」、「カニバル・カード」「オープン・トラベラー」等、古典的なテーマを元にして、松田さんのアイディアを織り交ぜたルーティンが紹介されています。
あるテーマに基づいて、自分なりのバリエーションを組み立てるのは、実際のところ、簡単なことではありません。どのようなマジックにも、改案と称するものは数多く出回っていますが、原案者から見れば全然改案になっていないものや、むしろ「改悪」と言いたくなるようなものさえ多いの実情です。
バリエーションの作り方を学ぶにもよい教材だと思います。
トリック・カード30選
ディーラーズ・アイテムとして販売されたもののなかから、松田さんの好みにあった30種類のトリックが選ばれています。 現在では販売されていないものもありますが、ぜひ知っておいたほうがよいものばかりです。この数十年の間に販売されたパケットトリックは千を優に超えるはずです。それを全部知ろうと思えばたいへんなことですが、実際にはこの30をマスターしていれば十分すぎるくらいです。
★最後に
筑摩書房から出ていました松田さんの「遊びの冒険シリーズ(全5巻)」は、現在在庫切れになっています。マニアの中にも何としても手に入れたいという人が数多くいます。復刊ドットコムというサイトでも現在170名を越える人から申し込みがあり、出版社に増刷するようお願いしているところです。
東京堂出版から出ていました『メンタルマジック事典』もすでに版元に在庫がないそうです。つい数日前、ヤフーオークションでは定価の3倍近い値段が付いていました。
最近インターネットの普及につれて、松田さんの本はすぐに売り切れてしまうようになりました。後から買おうと思っても、古書店にもほとんど出回ることはありませんので、今のうちに買っておくことをお勧めします。
お断りしておきますが、この本は初心者向きのものではありません。ある程度マジックをやっている人向きのものです。しかし、しばらくマジックを続けていると、トリックカードに関して知りたいことが必ず出てきます。そのようなときのためにも買っておいて損はありません。
★追加情報
昔はポーカーサイズでトリックカードを作るのは大変でした。バイシクルのトランプは、1枚が三つの層からできています。表と裏は光沢のある薄い紙です。中央はこしのあるやや厚い紙でできています。破ることなく、表面の部分だけをはがす技術もマニアには必須のものでした。はがした後、それを別のトランプに貼り付けて、ダブルフェイスを作ることもよくやっていました。
最近はこのようなものを作らなくても、52枚が全部ダブルフェイスやダブルバックのものまでマジックショップに行けば売っています。またハートやスぺードのようなトランプのマークや数字を印刷したシートも売っています。これで上からこすりつけると、印刷したものと変わらないほどきれいなものを作ることもできます。
アメリカには、こちらの注文通りのカードを手作りで一枚一枚作ってくれる専門メーカー「カード・バイ・マーチン」もあります。