ビデオ紹介

 

製品名
ゆうきとも ワイズ・ワークス2
WISE
WORKS 2
出演者 ゆうきとも
購入先 UGM
価格 3,800円
販売元 UGM

WISE WORKS 2

2001年2月23日


最初に

ゆうきともさんの作品集です。前回の「ワイズ・ワークス」でも紹介しましたように、ゆうきともさんの作品集はどれも実用的なマジックばかりです。今回のビデオはいっそう充実しています。7種類のうち、三つを早速やってみました。実際にやって見せると、どれも大変すばらしいものばかりであることがわかると思います。1本のビデオの中に、これほど使えるものが入っていることなど、めったにありません。

現象

1.デュオ(パースフレーム&コインズ)

がま口の枠(パースフレーム)を使ったコインマジック。パースフレームから2枚のコインが出現し、手の甲を貫通する現象や、観客の手に飛行する現象などを見せる。最後は、コインをパースフレームに入れると、また見えなくなる。

大変実用的なコインの技法が学べます。技法をおこなうタイミングなど、コインマジックに限らず、マジックで重要な「さりげなさ」、ミスディレクションの使い方などもよくわかると思います。現象を見ていると、こんなものはとても出来ないと思うでしょうが、ポイントを押さえて解説されていますので、見かけほどは難しくはないはずです。このビデオのなかでは一番難しいマジックであることはまちがいありませんが、使用されている技法はどれも応用範囲の広いものばかりですから、ぜひ練習することをお勧めします。

2.アベック・ピアノ(巧妙なピアノ・トリック)

大変古くからあるセルフワーキングのカードマジックで、「ピアノ・トリック」があります。これはpair(ペア、偶数)、odd(オッド、奇数)を使った一種の言葉の錯覚を利用したマジックです。日本語で演じると、すこし違和感があるのと、原理そのものが単純なため、観客によっては気づく人も少なくありません。昔、厚川さんが、動物の絵を使ったものでなさっているのを見たことがありますが、いずれにしても、それほど不思議なマジックではありません。

今回ゆうきさんが考案されたものは、原案とはかなり雰囲気が異なっています。観客の手をピアノを弾くときのようなポジションにしてもらう必要もありません。テーブルの上に「ペア」と言いながら、裏向きで二つの山を作っていきます。左右どちらも8枚ずつの山になるようにします。この途中、一枚だけデックから特別なカード抜き出し、表向きにして(仮にスペードのエースとします)、それを二つの山のうち、観客に指定してもらった山の上に置きます。マジシャンズチョイスではありません。この上にさらにカードを配って行き、左右に8枚ずつの山を作ります。片方の山にはスペードのエースが表向きに入っていますから、9枚になっています。

スペードのエースが含まれていない山を観客に押さえてもらい、マジシャンはエースが含まれている山を取りあげ、もう一度エースを見せて確認してもらいます。このエースを山の中に押し込み、観客の手の下に移動させるジェスチャーをした後、手に持っている8枚を全部見せてゆくと、エースが消えています。観客の手の下にあるパケットを見ると、そちらからエースが現れます。

現象はオリジナルとは比較にならないほど強烈です。まったく別のマジックといってもよいものになっています。やさしくできる割には強烈なインパクトを持った「トランスポジション現象」になっています。

3.ザッピング(巧妙なカードスタブ)

観客に一枚トランプを取ってもらい、デックの中にもどします。ナイフを渡して、デックの横からナイフを差し込んでもらいます。差し込まれたところでデックを二つにわけると、観客のカードが出現します。

これも古くからあるマジックですが、すぐれているのは、インディケーター・カードの使い方です。理想を言えば、観客がナイフを差し込んだところからずばりと出現しくれたらそれが一番強烈です。もしどうしてもそのようなことがやりたければ、それはそれで別のマジックとしていくつも方法が考えられています。今回のものは、「インディケーター・カード」を見せた後、その前後のカードも見せられる点がすぐれています。もしナイフを差し込む位置が前後に一枚でもずれていたら、まったく違った結果になることを観客に確認させることができますので、説得力が増しています。

4.ディープ・インパクト(アルティメイト・ペネトーション&ビーツ)

これはテンヨーの鈴木徹さんの作品だそうです。100円玉に爪楊枝を突き刺すと、中央から完全に貫通します。即席でできる「シガー・スルー・コイン」です。先にタネを知ってしまうと、こんなことで観客が驚くとは思えないのですが、はじめて見ると、どこかのメーカーが100円玉でこのようなギミックコインを作ったのかと思うでしょう。タネを聞いたらびっくりします。ネタを作るのに、金属製のドリルが必要ですから、それだけは準備しておいてください。

 というのは、冗談です。特殊な準備は一切不用です。

5.ダブ・ミックス(スロー・フリー・モンテ・リミックス)

3枚の赤いカード(たとえば3枚ともダイヤの10)と1枚の黒いカード(スペードのエース)を使います。裏向きにカードを混ぜて、どれがエースか当てることができたら勝ちというゲームがあります。4枚ですとカードが多いので、1枚、赤いカードをテーブルの上に置いて、2枚の赤いカードとエースでおこないます。しかし、エースの場所を当てることはできません。最後は意外なクライマックスがあります。

フレッド・カップスの「サイドウォーク・シャッフル」と同じような現象ですが、レギュラーカード(エキストラカードは必要)で演じることができます。

6.トリオ(フェイディング・コインズ)

アメリカで発行されている奇術の専門誌"GENII"の2000年5月号は日本特集でした。そこでもこれは紹介されています。『ザ・マジック』の古い号(10号から20号の間)にも紹介されているのですが、そのときはほとんど注目されなかったマジックです。しかし、これは本当によくできた即席のコインマジックです。これを知っただけでも、このビデオの値段くらい元が取れて、まだおつりが来ます。

私も昨晩I.B.M.大阪リングの例会でやってみせましたが見せましたが、みんな驚いていました。三田皓司氏など、「コインが出現するものとしては、初めて面白いと思った」とおっしゃっていました。赤松さん、松田さん、六人部君などにも見せましたが、他のメンバーも一様に感心していました。

現象は、見えない3枚のコインを使います。500円玉、100円玉、10円玉をポケットから取り出し、テーブルの上に並べます。といっても、実際には見えないかコインですから、何もありません。

観客に一枚のコインを選んでもらいます。フォースではありません。仮に観客が100円玉を取りあげたとします。それを観客にしっかり握ってもらいます。マジシャンは残っているコイン、この場合ですと、500円玉と10円玉です。左手に500円を握り、10円を右手に握ります。以上のことは、すべて「見えないコイン」で行っていることを忘れないでください。

ここで観客に、手に握っているコインをしっかりイメージしてもらいます。マジシャンも同じようにします。手を開くと、マジシャンの両手から500円玉と10円玉がそれぞれ本物になって出現します。観客が手を開けると、そこは空のままです。 「まだイメージをする力が弱いようですね」というオチで、終わります。

私は「箴言集」に紹介したデビッド・カッパーフィールドの言葉をこのマジックの後に紹介することにしています。

"If it can be imagined, it is real."(想像できたら、実現したのと同じこと)

観客が女性の場合、このセリフは妙に関心してくれます(笑)。 先にこの話をすると結果が予測できますから、現象が終わってからするとよいでしょう。これは"David Copperfield's Tales of the Impossible"に載っています。(下の本)

Tales of the Impossible

7.デイドリーム・ビリーバー

3本の長さの違うロープが同じ長さになる「プロフェッサーズ・ナイトメアー」のセットを使います。原案は最初、長さの異なった3本のロープが同じ長さになるというものです。

今回のは、最初は同じ長さであったものが、異なった長さになり、最後はまた元に戻ります。

コメント

とにかく実用的で、おもしろいマジックばかりです。ゆうきさんはマジックの講師として大変すぐれたセンスをお持ちです。 あの松田道弘氏が、今回私がご覧に入れたいくつかの作品を見て、「どれもちゃんと改案になっている」とめずらしく誉めておられました。このようなことはめったにないことです。

あと、気づいたことをいくつか補足しておきます。

ビデオ全体の構成は、最初に7つの現象を通して見せています。これは大変見やすくて、よいことです。通して演じると、全体で15分程度です。ひとつあたりにすると、2分から3分程度です。

ゆうきさんのユーモアも私には好ましいものです。淡々と喋りながら、ところどころにはさまれるギャグは聞いていて思わずクスッと笑ってしまいます。

全体は大変すばらしいのですが、ひとつ、ふたつ、気になったこともあります。ほめ殺しになっても悪いので、それにも触れておきます。

まず最初に、ゆうきさんが観客のことを「お客」と言っている点です。何度も、「お客が」、「お客に見せるときは」とかいった表現が出るのですが、これは大変耳障りです。

以前からゆうきさんは観客のことを「お客」と呼んでおられたのですが、今回のレベルになってきますと、それが一層気になりました。というのは、今回辺りから、ゆうきさんが講師として一流である雰囲気が漂ってきていますので、余計にその辺りの言葉使いが気になってきたのです。ただのマジックオタクのお兄ちゃんが喋っているだけなら、そのようなこともたいして気にならないのですが、講師として優秀になってくるにつれて、逆にそのあたりが目立ってきます。

とにかく、観客のことを「お客」という言い方はやめたほうがよいでしょう。「客」に「お」をつけたからといって、それで丁寧な言い方になるわけではありません。「観客」、「見ている人」、「助手の人」といった程度で十分ですから、一度考えてみて欲しいものです。

サービス業の関係者がお客様のことを話題にするとき、それがスタッフ同士の会話であっても、「客が」なんて言っているような店は、どうせたいした店ではありません。私など店の人間がそのようなことを言っているのを聞いただけで、二度とその店には行きません。

レストランでもホテルでも、その他どのようなサービス業でも同じことです。ふだんから気をつけていないと、このようなことは出てしまうものです。客の前ではいくら丁寧に喋っていても、裏で「客は」などと言っている店は雰囲気が伝わってくるものです。

俳優の藤山直美さんが、父である藤山寛美さんからよく言われていた言葉があるそうです。

「芸人は舞台に楽屋が出るもんや」

どれだけ観客の前でとりつくろっても、楽屋つまり普段の人柄は必ずにじみ出てくるから、お前も気をつけろという、アドバイスであったのでしょう。

もうひとつ、このビデオでは最後に「おまけ」があります。ゆうきとも氏と柳田幸繁氏が、このビデオに収録されているマジックについて対談されています。これは大変楽しく、知的な雰囲気が漂っているのに、一部、ちょっとしたことで、気になる部分がありました。

ビデオの中で、ある人のことを話題にするとき、実名をあげるには言いにくいことなので、名前の部分だけ「ピー」という音が入っていたのです。全部で10回近くあったのではないでしょうか。このようなことはテレビのワイドショーなどでよくやっているようですが、耳障りであるだけでなく、とても下品です。言いたいことがあるのなら、きちんと名前をあげて言うか、ビデオのように一方通行になる怖れがあるのなら、そこは匿名にして、一般論として話せばよいことです。今回は、何かの雑誌で誤って紹介されたことに対する恨みを晴らすつもりなのか、お二人でその人のことをあれこれ言っているのはどうにもいただけません。このようなビデオはこの後も何十年と残りますから、余計にまずいのではないでしょうか。

また、これはUGMが編集の段階で入れたのかも知れませんが、お二人の対話の最中に、第三者の感想、もしくはツッコミが、漫画の「吹き出し」のように画面に表示されていました。あれも目障りなものです。

このようなことをしなくても、ごく普通にお二人の会話を流せば、それで十分質の高い、 興味深い話になっているのに、このようなものが入るだけで、下品になるものです。

UGMにゴマをするわけではありませんが、最近UGMが出すレクチャービデオは価格が3,800円と、比較的リーズナブルになっています。マジックのビデオといえば、海外のものしかなかった頃、某ショップなど1ドルを400円〜500円換算でやっているところがありました。このため、実際の値段は30ドル程度のものが、日本では一万円を超えて販売されているものも少なくなかったのです。また国内でも、マジックのビデオを製作販売するところが出てきましたが、これもこのような価格に準じていたため、随分高い価格に設定されていました。(今でも、一部のショップではあります。)

海外では定価で購入しても1本30ドル前後です。また安売りをしている店で買えば、定価の2割から3割引きで、ずいぶん安く買える店もあります。インターネットではこのような海外の店からも手軽に購入出来るようになりましたので、今までのような無茶な価格設定は出来なくなってきたのでしょうが、このレベルのビデオが3,800円というのは大変ありがたいことです。

随分いろいろと書きましたが、とにかくこのビデオは買って損はありません。

魔法都市の住人 マジェイア

 


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