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1998/11/16


Match Penetration

マッチの貫通

 

Match Penetration


★最初に

「即席マジック」と呼ばれるカテゴリーのマジックがあります。身の回りにあるものや、何の仕掛けもない日用品などを使って演じるマジックです。それほどはっきり分類できるものではありませんが、普通、カードマジックは省かれています。

使用されるものは、身の回りにあるものならほんとに何でも使われます。食卓であれば、ナイフ、スプーン、フォーク、ナプキン、皿、カップ、グラス、塩や胡椒のビン、角砂糖、リンゴ等、何でもマジックの道具になります。その他、タバコ、ライター、マッチ、ペン、お札....、あげて行けば切りがありません。身の回りでマジックに使われていないものを探す方が難しいくらいです。ありとあらゆるものがマジックの対象になります。実際に何の仕掛けもない、このような道具類を使って、その場でマジックを見せることができたら、それはマジシャンが想像している以上に劇的な効果をあげることが少なくありません。

しかし、マジックをやっている人は、どうもこのタイプのマジックを軽視しがちです。入門者のレベルを抜けて、中級あたりにいる人が一番軽視しているかも知れません。「即席イコール安直」と思うのか、積極的にレパートリーに入れている人を見かけることはほとんどありません。

ところが、実際にやってみると、外国から取り寄せた数万円のネタより、その場にある「即席マジック」のほうが何倍もウケることがあるのです。いえむしろ、T.P.O.を考慮して選択された即席マジックであれば、怪しげな「ネタもの」より、数倍ウケるのはめずらしいことではありません。私自身、いくつかの即席マジックをレパートリーにしていますが、これは今まで「魔法都市案内」で紹介してきた数多くの、どんなマジックよりウケます。実のところ、これは紹介したくないのです。(笑) マジシャン相手に見せられるようなものでないので、マジシャンの前ではまず見せることはありません。しかし、一般の人の前ではよく演じています。本当にささやかなトリックなのに、見た人は数年経っても覚えていてくれます。それくらい強烈なのです。まあ、そのうちここでも紹介するかもしれませんが、実際に紹介したら、「なーんだ、もったいつけているからどんなすごいものかと思ったら、そんなのなら知っているよ」と言われる決まっています。(汗) でも私にとっては「切り札」みたいなトリックなのです。

最近始めた「世界のマジック傑作選集」では、色々な分野の「ベスト・テン」も紹介しようと思っていますので、「即席マジックベスト10」も、そのうち書くかも知れません。そのときにでも、紹介できたらします。

随分前置きが長くなってしまいました。

★現象

中指と親指でマッチの棒を持ちます。右手、左手とも同じようにして、2本のマッチ棒を持っています。最初、両手は左右に離れています。軸同士を近づけると、上の写真のように、マッチ棒が他のマッチ棒を貫通したかのように、交差します。互いのマッチ棒が溶けあうように、貫通するのです。指先から軸は決して離れることはないのに、また再び、左右に分かれます。マッチ棒には一切何の仕掛けもありません。

テレビや、デパートのマジックコーナーなどでもよく見かける、金属の輪がつながったりはずれたりする「チャイニーズ・リング」というマジックがありますが、あれの即席版とで言ったものです。

★コメント

これは昔からマジシャンの間ではよく知られているものですが、マジシャンでこれをやっている人を見たことはありません。ところが、2,3年前、クロースアップを専門にしているプロマジシャン、藤井明氏(現、元神氏)がレクチャーでこれをやっているのを見て、驚きました。藤井氏はマッチではなく、タバコでやっていましたが、タネを知っていても、本当に通り抜けたようにしか見えないのです。伺った話によると、藤井氏がアメリカで開かれた何かのコンベンションでこれを演じたところ、大変好評で、その後、ロビーなどで会う人から、何度もこのトリックをもう一度見せて欲しいとリクエストされたそうです。

藤井明氏といえば、コイン奇術の分野で最高難度である「マッスル・パス」をシークレット・ムーブとして使った最初の人として、マジックの世界ではよく知られています。また、おもちゃのウルトラマンが観客の目の前で飛び回るマジックでも有名です。どちらも大変はでなマジックですが、私は藤井氏のマジックで、実はこのタバコが貫通するトリックが一番気に入りました。見せ方一つで、こんなにすばらしいマジックになるのかと再認識したしだいです。もし、藤井明氏にマジックを見せてもらう機会がありましたら、ぜひリクエストしてみてください。すばらしさがわかると思います。

藤井氏自身は、このトリックを『ザ・マジック』(Vol.17 東京堂出版)に安田明生氏が解説しておられたのを読んでマスターしたそうです。一見易しそうに見えるのですが、「私がやっているマジックで一番難しいのがこれかも知れませんよ」と藤井氏がおっしゃっているのを聞いたことがありますから、実際に、あそこまでできるようになるには2,3年かかるのかも知れません。指先の技術としてはそれほど難しくないのですが、角度がポイントなのでしょうか。一瞬、観客からブラインドになる状態を作りながら、それを観客に感じさせないタイミングや角度を身につけようと思うと、相当、場数を踏まないことにはマスターできないのでしょう。

実際にこれが解説されているものとしては、洋書でも初心者用の入門書でよく見かけます。、めぼしい本としては、20年ほど前、マーチン・ガードナーが書いた電話帳くらいある分厚い即席マジックの本がよいでしょう。Martin Gardner "Encyclopedia of Impromptu Magic"(1978)

 


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