1998/10/21
石が浮かぶ?
昨年(98年)の10月、98年度の”something stupid大賞”、最有力候補として紹介したものですが、そのまま大賞(大笑)に繰り上げ認定します。(笑)画面の最後にコメントを追加しておきました。
★初めに
これほどひどいと言うか、笑わせてくれるものは最近ではちょっと記憶にありません。 だって、これって全然マジックになっていないんだもの。(笑) 今日、発売されたばかりの新製品ですが、ディーラーの人たちはいったいどうするつもりなのでしょう。実演しないで済ませるのか、ガラスの陳列棚の中にでもディスプレイとして飾っておいて、それで納得したら買ってもらうしかないでしょうね。
カタログに書いてあったセリフを紹介します。
絵の入ったフレームの上に石を置き、念を込めると、石がゆっくりと浮かび上がります。フレームを動かしても、石はまったく動きません。その他にも、透明な人形や、相手から借りたコインなどを浮かしてみせることもできます。 (定価2,000円)
★コメント
私のように凝りもせず、40年近く国内、海外を問わずネタを買い続けていると、何が届いても少々のことでは驚きません。ここの「入り口」にも書いたように、購入したネタの90%は私にはボツネタです。ですから、少々ひどいものであっても、大抵は笑って済ませています。そして、原則として「武士の情け」でボツネタは紹介しないようにしているのですが、あまりにも笑わせてくれるものは紹介したくなります。(笑)今回のは発売前から期待していただけに、実物を見て余計がっかりしました。
今回の商品がマジックになっていない点をあげておきます。
まず第一に、添付されている石を観客に渡して調べてもらうことが出来ません。実演前も、実演後もです。(そりゃ、渡そうと思えば渡せますよ。タネがばれてもよいと開き直るなら)
このようなタイプのマジック(?)で、品物を相手に渡せないのは、これだけで致命的です。私は、「手品の道具はすべて観客に渡して調べてもらうべきだ」、なんてことを言っているのではありませんよ。ステージで演じられているマジックなど、観客が道具を改めることは普通ないのですから。しかし、観客の目の前で見せるマジックで、現象の中心となる物体を、演技の前も後も観客が調べることができないというのでは、これはもうマジックではありません。パズルにすらなっていません。とにかく、このようなタイプの現象は、何の仕掛けもないように見える石が浮かぶから不思議なのであって、調べてもらえないような石が浮かんでも、観客は納得しません。納得した振りをするのはマニアだけでしょう。
これをデパートの売場で、一般の観客相手に見せたとき、どのような反応が返ってくるのか興味深いものがあります。とにかく、ディーラーの人は困ると思いますよ。(笑) 最近は実演しないディーラーやショップも多く、興ざめなことも多いのですが、良心的なディーラーであればあるほどこれは困るでしょう。
2番目に気に入らない点は、石が浮かぶのは1センチほどの高さですが、浮かんでいる状態で真横、もしくは下から覗かせることはできません。そのため、石の回りに丸い枠をします。実際にはこの枠をしても、角度によってはネタが見えてしまいます。せめて浮かんでいるとき、下から見ても大丈夫なようになっていないと、浮かんでいることすら説得力を持ちません。上の写真が角度としては限界です。あれよりもう少し視線が下になるとネタが見えます。
そして、これがもっとも致命的な点ですが、実際にこれを見た人が、たぶんこうなっているのだろうと考えることと、ネタが一致してしまう点です。(笑)
出たばかりの商品ですから、ここに書くのはもう少し遅らせようかと思いましたが、これほど笑ってしまうものも少ないので、紹介しておきます。でも言っておきますが、これはあくまで私の感想にすぎませんよ。映画や本などの紹介で、どれほど評判が悪くても、「自分にとっては最高!」ということもありますから、ぜひ、一度、売場で見せてもらってください。たぶん、見せてもらえないと思いますが.....。(汗)それで納得したら購入してください。いや、マニアは買っておいたほうがよいかもしれません。このような商品は、10、20年後くらいに、持っていると結構珍しがられますから。(笑)
★追加1
カタログには観客から借りたコインなども浮かせることが出来ると書いてありますが、「石」を使うよりさらに角度などに弱く、ほとんど実用にならないでしょう。
★追加2
自分ではやる気もしなかったのですが、一度も見せずにボツネタ大賞候補に入れるのも何ですから、とにかく2回実演してみました。すると、共通した感想は、浮かぶ部分は浮かんでいるように見えないということです。高さがわずか1センチほどですから、底のほうが空気で膨れて丸くなっているだけだと思うという感想が返ってきました。台を動かすと、少しは不思議がってくれました。でも、これだって真横からは見せられないのですから、結局、よくてパズルですね。どうして台だけが動くのかはわからないと言っていました。
●コメント(99年1月)
このマジックの原案者はルーバー・フィドラーです。彼の作品がテンヨーから3点ほど出ています。「鍵」のマジックと、ペンケースに入れた鉛筆が消えるものです。どれもアイディアはおもしろいのですが、マニアでこれらのネタを自分のレパートリーにしている人はほとんどいないでしょう。また実際、あまり売れていないようです。
例えば「鍵」のマジックの場合、現象がわかりにくいのと、あまりも鍵が安っぽいのが気になります。というより、鍵なのですから、せめて金属でできていないと不自然です。プラスチックでできたちゃちな鍵なんて人前に出す気にもなりません。
鉛筆が消えるものにしても、アイディアはおもしろいと言えばおもしろいのですが、たった一本の鉛筆を消すだけにしては、あまりにも大げさ過ぎます。鉛筆一本を消すために、あのようなでかい筆箱を持って行く気にはなれません。
今回のこの石にしても、角度を限定して、浮いてしまってから台を動かす部分は確かにおもしろいのですが、石のネタがひどすぎます。ディーラーの人たちは、本当にあの石を使って実演しているのでしょうか。私は売場でディーラーの人がこれを演じているのを見たことは一度もありません。やはりできないのでしょう。やればできるでしょうが、それを見た客が買いたいと思うかどうかは別です。パッケジーの説明だけで買ってもらうのが、売る側からすれば一番賢明な方法であるとは思いますが、ディーラーがいながら、実演しないというのも、結局長い目で見れば自分の首を絞めているのと同じことだと思います。テンヨーの売場でディーラーがいるところは大抵デパートに入っていますので、客への応対もそれなりに丁寧で、最近のマジックショップにしてはめずらしいくらいによく実演してくれます。それに敬意を表して、あまりきついことを書くのは気が引けますが、テンヨーとも40年以上のつきあいですし、昨年1年間だけでも10数万円分は買っているわけですから、ひとつくらい文句を言っておいてもバチがあたることもないでしょう。
テンヨーの商品は、マニアの目からすれば値段が大変安く設定されています。よほど特殊なマニア用の商品を除いては、きわめてリーズナブルです。これは大量に作るからできるのでしょうが、ものによっては、マニア用として、素材を変えて作り直してもよいのではないでしょうか。先の「鍵」なども、金属でできていればやってみたいと思うはずです。これに限らず、アイディアとしては大変優秀なものが多いので、別ヴァージョンとして、売り出すことも考えてください。>テンヨー開発部の皆様。