THUMB TIP
1998/4/19
”サムチップ”(Thumb Tip)と呼ばれるマジックの基本用具があります。どこのマジックショップにも必ず置いてある、必須ギミックの一つです。これは大変古くからあるネタですので、何を今さらと思われるかも知れませんが、このようなものこそマスターしておく価値があると思いますので、あえて紹介しておきます。
鞄の中にこれを一つ入れておくだけで、すぐに数種類のマジックが可能です。これほど役に立つ道具もないのですが、中級者からマニアの入り口あたりにいる人が、最もこれを軽視しているのではないでしょうか。”本物のマニア”であれば、これの便利さと優秀さはよくわかっているはずです。
とにかくこれ一つで、「出現・消失・変化・移動」といった、マジックの基本的な現象を作り出すことができます。
これを使ったマジックで、よく知られているものを思い起こしても、すぐに数種類は思い浮かぶはずです。思い付くまま適当に並べてみます。
1.客から借りたハンカチからシルクのハンカチが出てくる。またそれが消える。
2.ハンカチを使わずに、空の手でシルクの出現・消失現象を行う。
3.客から借りた千円札が一万円札になる。
4.切ったロープや布テープがつながる。
5.空中から塩や水のようなものを取り出したり、消したりできる。小さな金魚を空中から取りだし、コップの中に入れて泳がせることもできます。
6.メンタルマジックでは、様々な「予言」に、また、「バンクナイト」をはじめ、数限りなく使われます。
7.火のついたタバコやマッチを左手の中に入れると、完全に消えてしまう。
これだけでマジックの基本的な現象が起こせるのですから、演出次第でいくらでも作ることができます。
以上のように、サムチップを使うと様々なことができます。この中でも、最初にあげた例、つまり、借りたハンカチからシルクを取り出したり消したりするものだけでも、大変奥の深いマジックになります。
ビデオで見たのですが、サルバーノが、観客から借りたハンカチを使って、そこからシルクを取り出したり、また消したりする現象をやっています。初めて見たとき、サムチップを使っているのが信じられませんでした。何か特別なギミックなのか、それとも指に合わせて特別に作ったものか、とにかく、一般的なサムチップではできないと思えるようなことをやっていたのです。
サムチップのタネを知っていると、ハンカチが消えたときは、「あの部分」を見ますね。ところがサルバーノの演技を見ると、「あの部分」を見ても何もないのです。全然、あやしくありません。一体、シルクはどこへ行ってしまったのだろう...と、まるでマジックをやっていない人にマジックを見せたときに返ってくるような反応を自分がしていることに笑ってしまいました。
借りたハンカチの中央に指でくぼみを作るときも、観客自身に指を突っ込んでもらってくぼみを作ります。そこからシルクが出てくるのですから、マニアでも驚くのは無理ないでしょう。そして、出てきたシルクをまた穴に入れて、コルクの栓をもってきて、そこにふたをしてもらいます。このときも、「あの部分」は、全然あやしくないのです。客自身に栓を取ってもらい、ハンカチを広げると、中に詰めたシルクは完全に消えています。
ほんとうにこれだけでもちょっとしたパーラーマジックになります。
サルバーノがこれを解説しているビデオは、スティーブンスから発売されています。
The Grater Magic Video Libraray のシリーズ Vol.10、"Salvano, Thumb Tips"です。また、Sophieという女性マジシャンが売り出したサムチップだけを解説したビデオの3巻セットがあります。"RULES OF THUMB" (Vol.1-3)
これは、本人のSophie以外に、Larry Jennings, Billy McComb, Steve Valentine, Daryl,Kevin James, T.A. Waters, Earl Nelson他、有名なマジシャンがそれぞれサムチップを使ったマジックを実演、解説しています。さすがに3本も見ると飽きてきますが、この中のひとつでも、自分のレパートリーにはいるのであれば儲けものでしょう。
Vol.3でEarl Nelsonがダイ・ヴァーノンの手順を解説しています。現象は、テーブルに置いてあるシルクを取り上げ、何もないことをよく見せた左手の中に入れてから手を開くと消えています。それがまた左手から出てきます。文字で読むと、よくある空の手で演じる、シルクの「出現・消失現象」なのですが、実際に見ると驚きます。ほんのちょっとしたアイディアをつけ加えるだけで、実に鮮やかなマジックになります。
このビデオではありませんが、ヴァーノンは「色変わりシルク」でも、ちょっとしたアイディアをつけ加えて、このよく知られたマジックを一級のものにしています。
(THE PALLBEARERS REVIEW: Close-Up Folio #9)サルバーノやダイ・ヴァーノンのやっている「サムチップ」、「色変わりシルク」などを見ると、フレッド・カップスが言っているように、「古いマジックを研究して、自分なりのアイディアをつけ加えること」の重要性が理解できるはずです。新ネタを追い求めるより、このような誰でも知っているネタでさえ、自分なりの工夫を入れると立派によみがえります。
クラシックは、シンプルではありますが、それゆえにマジック本来のもっている素朴な不思議さがあります。
追加:
昔は紙や金属でできていましたが、今ではプラスチック製ものが一般的です。値段は、標準的なもので400円前後です。
最近、スイス製で、大変精巧にできたサムチップが販売されていますが、このネタは基本的に、見せるものではありませんので、それほど神経を使う必要はありません。いくら精巧に出来ていても、真横から見られて大丈夫ということはありません。まだサムチップをお持ちでない方は、”DPグループ”から販売されています「スーパサムチップ」(1,300円)がお薦めです。これには大中小の3本のサムチップと、教則本がついています。「千円札が一万円札に変わる」マジックは覚えておいて絶対に損のないマジックです。
DPグループの商品は、マジックショップだけでなく、東急ハンズにもあります。また、トリックスでもシルクと標準的な大きさのサムチップがついたものが600円で販売されています。