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      2009年3月16日


 

上の写真は、”神話と 「ちいじがき」 の里に生きる” というタイトルで、

第6回美しい日本のむら景観コンテスト(1998年)で最高賞を受賞した集落写真である。

急傾斜の段々畑のうえで、農婦が子供たちと語らっている、心暖まる写真である。

この写真を知ったのはだいぶ後のことだが、見るたびに、この里に足をはこんでみたいと思っていた。

 

今年の正月に朝日新聞が「にほんの里100選」を選定・発表したなかに、この秋畑那須 (群馬県甘楽町)が入っていた。

これがきっかけで、この地を訪ねることが出来た。

 

map2.jpg (201298 バイト)  秋畑那須の位置 

 日本測地系 

 36'10'34.744'N
  138'51'40.029'E

  Mapion地図

 

この里は、稲含山(いなふくみやま)の山麓にある。
10年以上も前にはなるが、コンテストの紹介文を掲げる。

 甘楽町の秋畑那須地区は、稲含山の山麓にある105戸の集落である。
 この地区の歴史は古く、古来より祭礼に奉納されてきた獅子舞、神楽が無形民俗文化財として引き継がれており、伝統文化の継承は地区住民の結束の根底となっている。
 山間傾斜地で、平坦な農地を持たないという過酷な自然条件の中、数々の神話や伝説に彩られた「稲含の神の民」としての誇りを持ち、
 「ちいじがき」(自然石を積み上げた石垣)に支えられた小さな段々畑でのコンニャクや蕎麦の栽培、養蚕、炭焼き、紙漉きなどを正業として暮らしてきた。
 
 現在は、地区の美しい山村風景、厳しい自然環境と共存をはかってきた伝統や文化を後世に引き継ぐべく、
 蕎麦畑のオーナー制度による都市住民との交流など新たな取組みを始めている。
 この地区には多くの人達を引きつける素朴で暖かい住民の生活が残されている。      
                                                                                                                   撮影者:飯野文江

 

 

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群馬県甘楽町の秋畑那須の集落に向かった。

上信越自動車道・富岡ICから、城下町小幡を経由して、山道を小さな川(雄川)に沿って入っていく。

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3月中旬で山里はまだ春ではなかった。

新芽も桜もまだまだであった。

 

 

轟という雄川を横切る処を経て、所々に人家を見ながら進む。

秋畑の集落を過ぎると山道で、人家もなくなる。

 

 

 道は、山間の谷底を雄川に沿って走っている。

 那須大橋に到着。

 

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                那須大橋           里の入り口にある案内板

 案内板には、

 蕎麦の香りとちいじがき
 神の棲んでいる稲含山
 ちぃじがき蕎麦の里

 とあった。

 

  ちいじがきの里はこの上にある。

 

akihata01.jpg (128033 バイト)  那須大橋から集落を

 

    

 橋のすぐ先には、そば処 那須庵 (集落が営業) がある。

 斜面を上がっていくと、中ほどに 体験民宿 那須の里 がある。

 

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  そば処 那須庵 (表から)    那須庵(通り過ぎて裏から)      石垣の小道を上がっていく

 

道が狭くなったので、傾斜地の中ほどで車を置き、歩いて上へ行く。

 

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        崖上の民家          体験民宿 那須の里        段々畑の上から

 

 

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早春の朝の光景

 

 

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かなり上がって、タラの芽畑のあぜの石垣に腰をおろして休んでいた。

眼下には斜面が広がり、向かいの山々まで遮るものがない大空間。

 

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 タラの芽栽培用のタラの木畑 (トゲだらけの幹)   右手斜面は野菜畑と、家屋を守る防風林の垣根

  

 

 気がつくと 急斜面を おばあさんが上がってくる。

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小道をこちらに歩いてきた。

         

 

akihata13.jpg (69693 バイト)  タラの木畑の、私の隣に座って一息いれた。

 

 挨拶した。

 

 何処から来なすったか?

 何のために来なすったか?

 会話が始まった。

 

  

   風もなく、暖かな気持ちよい日であった。

   一昨日少し積もった雪も、昨日の陽光で溶けたとのこと。

 

 ここでは、タラの芽 ウド 蕎麦 コンニャク  などを作っているそうだ。

  美しい村景観コンテストの写真で、この里がとても印象に残っていた、ということを話したら、

  あの写真は わたしと孫たちだ、と教えてくれた。

  え〜〜〜〜〜〜〜〜〜   あまりの偶然に 驚いた。

 

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お茶でも飲んでいかないか、

       と誘われ、 

では、と 自宅まで付いていった。

 

 

 

 

 上がってきた急斜面を降りて、 防風林の間にある裏門から敷地に入る。

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 段々畑の崖の上の平地である。

 大きな二階建ての棟が二棟連なっている。

 養蚕農家の造りである。

 

 

 

 

 

 

 土間の上がり間口に座って見渡すと、鴨居に写真が飾ってある。

 聞くと、小幡出身の写真家・飯野文江さんが、おばあさんの家族を撮った写真集のものだそうだ。

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 その写真集を見せてもらった。 

 飯野文江写真集 「すばらしき山の家族」 (1993年3月発行) であった。 

 コンテストに出した写真は、そのなかの一枚であることを知った。

 

akihata24.jpg (95780 バイト)  印象に残っていた写真が飾ってあった。

 

 

 まだ若かったおばあさんとお孫さんたちだ。 

 写真集発行から16年が経過している。

 ちっちゃかった女の子も、この春 大学4年生とのこと。

 男の子はもう27歳だそうだ。

 
 女のお孫さんが家に泊まりに来てくれるのが、とても楽しみなんだ、と語ってくれた。

 

 

 陽射しが暖かい外に出て、お茶をいただきながら 世間話を続けた。

 漬物や ブリ大根 もご馳走になってしまった。

 昔は、蒟蒻芋を輪切りにして、二階からコロ柿のように一面に吊り下げて干していたそうで、吊り上げ用のリフトも玄関脇に建っていた。

 特産のコンニャクの話になったら、奥から蒟蒻芋を持ってきてくれて、家へ帰ったらこれでコンニャクを作れと、親切に作り方を教えてくれた。 

 帰りにはアク抜き用のカセイソーダも出してくれた。

 

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   玄関の上には注連縄が     お茶と心尽くしの漬物など      蒟蒻芋を持って

 

 

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 大きな声で話をしていた。 

 静かな、遮るものもないこの斜面での会話は、集落中に響いていたことと思う。

 

 賑やかだのう、 と、ご近所のおじいさんが様子を見にかやって来た。

 新たに登場したおじいさんも加わって話がはずんだ。

 ここは、東西に伸びた谷間の奥の南斜面で、”西は神様の山・稲含山が風を遮ってくれているので助かってる。” と、語ってくれた。

 

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 庭先(崖上)の藤の木。 見事な花房で蔽われるとのこと。        家の入り口からお隣さんを

 

 全く静かな土地で、ウグイスや他の鳥の鳴き声だけが大気中に木霊している。 

 高台で心地よい風が吹いてくる。

 のんびりした時間を過ごした。

 

 おばあさん お世話になりました。

 


 

 

<メ モ>

 秋畑那須への入り口となる小幡は、小さな城下町である。

 かつて織田信長の次男、信雄が治め、 「大名庭園・楽山園」「武家屋敷」「織田家七代の墓」などの史跡がある。

 街道沿いには、桜並木と、雄川から引いた清流が流れる雄川堰がある。(雄川堰は”日本名水100選”、甘楽町は”水の郷百選”に選ばれている)

 古い商家も建ち並んでいる。 落ち着いた美しい町である。
       

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          桜並木               雄川堰



甘楽町は野菜の栽培が盛んであるが、コンニャク、そば、下仁田ネギ などの特産がある。

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甘楽町物産センター。 

農産物直売所に食堂が併設され、町で採れる産物がいっぱい並んでいる。

コンニャクの種類も非常に多い。

 

 

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       下仁田ネギ      秋畑手づくりコンニャク   冬季限定 お切りこみ(味噌煮込みうどん)

 

                                                      2009年4月          Photo: 宇田川東、須藤義男







< 追 記 >


2011年12月23日


中野アサ おばあさんが亡くなられた、というメールを 知らない方から受け取った。

ちぃじがきの里、秋畑那須の、あの写真の孫です 」 と添えられていた。





中野みづほ さんだった。


大好きなおばあちゃん、中野アサは
 10月29日、81歳でこの世を去りました。
”、と。

全く驚いてしまった。

アサさんのご冥福をお祈りした。


みづほさんのブログ








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 2009年 4月 9日(了)

    宇田川 東