2005年2月


 

  寒い冬が到来し鍋の季節になった。

  日本中に名物鍋料理はあるが、東京で暖簾を守り続けている馴染みの鍋料理屋さんをページにしてみました。
 お店の所在地は、日本橋人形町、神田須田町、吉原・浅草界隈、隅田川を下って両国、更に下流の深川、それに、下谷といった風情ある下町です。

 昔ながらの木造建築で、テーブル席の他に、入れこみ(追い込み)の座敷で並んで食べる形式。下足番がいたり、炭火鉢を持ってきてそれで鍋をつくったり。
 夜も8時過ぎになるとラストオーダーだったり。値段も良心的。そういった庶民的なお店で心に残ったものが中心です。

  ところで、デジカメを始めて今年で10年目になります。今年は動画デジカメを使ってDV(デジタルビデオ)を始めました。
 そのテスト撮影で “みの家” の食卓を収めてから、他のお店も記録に残したくなりました。新規開拓ではなく再訪問です。
 食べ歩きの予算も心もとないし、どこまで記録できるかわかりませんが少しずつ追加していく予定です。

 さあ 老舗の暖簾をくぐってみましょう。



 
  
     なべの店総覧 
(画像クリックで飛びます。動画収録。)               
        

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 1. 牛鍋       米久       ( 浅草・ひさご通り)

 浅草寺奥のアーケード街・ひさご通りに入って進むと、左手にちょうちんで囲まれた大きな料理屋さんが見えてくる。ちょうちんで囲まれた風景は昔へタイムスリップさせる雰囲気がある。新宿末広亭(寄席)で桟敷から舞台を見たとき、客席を囲むちょうちんに現実から遊離していく感覚を想い出す。
 米久は値段が安い庶民的な老舗。明治の文豪たちはこの米久を色々と書いている。ここでは、すきやきと云わず牛鍋と称しており、文明開化の香りがする。すきやきの名称が生まれたのはもっと後かもしれない。
 鷲(おおとり)神社の酉の市の往きによく上がり込んで食べた。この日は店内は非常に賑わっており、お客が入ると大太鼓を叩いて知らせて活気に満ちている。下足番もこの日は大わらわである。ここの二階へ上がる階段は風情がある。浅草に多い高級すきやき店と違って庶民の味方である。

 住所 東京都台東区浅草2-17-10
 電話 03-3841-6416
 定休日 水曜

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
      YouTubeに動画アップ 61秒
     H17.2 撮影

     

 2. さくら鍋      みの家        ( 深川・森下)

 馬肉の鍋ということでなかなか入りにくかった。最初に入ったのは小石川の伝通院前店。さくら鍋のランチサービスで、これはおトクであった。座敷の入れ込みでいい雰囲気であった。
 しかし森下の本店は更に下町・庶民的ないい雰囲気である。入口の構えもいい。下足札をもらって上がると入れこみの座敷になっていて奥は小さな庭に面している。一直線に広間をぶっ通した二列の鍋台が目を引く。座って見回せば時代を感じさせる屋内空間である。
 鍋は味噌仕立てで、さくら肉はヘルシーな感覚でとても美味しい。年齢と共に脂肪の入った霜降り肉よりも、うま味のあるさっぱりした赤身肉を好むようになるが、さくら肉はそれにぴったしである。江戸前の小さな鍋でいただくので一人で行っても大丈夫。

 住所 江東区森下2-19-9
 電話 03-3631-8298
 定休日 木曜

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
           YouTubeに動画アップ 29秒  H17.1.21 撮影

                        

                      

 3. どじょう鍋          飯田屋        (浅草)

 浅草六区とは国際通りを挟んで反対側の落ち着いた地域にある。今半の角を合羽橋方面に少し入った処である。
とても居こごちのよい店である。この店が建替えになるときには本当に心配をした。その期間中も、別の場所で営業していた仮店舗にも食べに行ったが、その仮店舗もなかなか良く感心した。で、現在の店が昔の店をほぼ踏襲して出現し、ほっとした。コンクリートビルに建替えられるのでは、と心配していたからだ。 
 新しいお店は明るく綺麗で気分がいい。あがり間口も広くなり、掘りごたつ式の席も出来た。ここは大きすぎず小さすぎず、仲居さんの目配りが行き届いており、安心して美味しい”まる”を食べられる。
居こごちのよさには、多分に仲居さんが親切でホスピタリティに富んでいることがあげられよう。
1階、2階ともに追い込みの座敷である。


 住所 台東区西浅草3−3−2
 電話 03-3843-0881
 定休日  水曜

  DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 35秒  H17.10 撮影

  

 4. どじょう鍋       駒形          (浅草)

 ”どぜう”で知られ、今年で創業204年という老舗である。その伝統の良さを頑張って維持し、老若男女で賑わっている。はとバスでお客を呼ぼうが、その営業努力の結果として昔ながらの庶民の味方のお店が維持されているのだから応援したくなる。その象徴がお気に入りの1階の大座敷。今だに炭火を使用している。
 今は社会人になっている息子は、幼稚園に入る前からこの大座敷が大好きだった。狭いアパートの部屋と違って原っぱのような大空間だったからだ。その頃は、柳川のとじ卵だった。大きくなり一緒に食事に加わらなくなっても、どじょうを食べに行くぞ、というと黙ってついて来て、まるを美味しそうに食べていた。
 地下と二階にはテーブル席がある。仲居さんは飯田屋と違って若いおねえさん達である。

 
 住所 台東区駒形1-7-12
 電話 03-3842-4001
 定休日 無休(大晦日・元日休)

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
            YouTubeに動画アップ 1分14秒  H17.1 撮影

     

 5. どじょう鍋       伊せ喜         (深川高橋)

 大川(隅田川)に注ぐ小名木川の高橋(たかばし)のたもとにある。高橋の下流の萬年橋には芭蕉庵跡がある。
このお店の正面からの姿はシンプルでとても美しい。内部は追い込み座敷ひとつというスタイルではない。
  バブル時期にどじょう好きの編集プロダクションの社長とよく来た思い出がある。どじょう供養をしなければならないほど大量に食したものだ。ここのどじょうは形が大きく卵を持っていることもあった。最後に注文していたたまご丼もいい。どじょう鍋は夏の鍋である。暑い盛りに、団扇を片手にふうふうしながら汗にまみれた思い出があるお店である。
 久しぶりに食べに行ったら、座敷の席は掘りごたつ式に改造され、食べやすくなっていた。エアコンも設置されていた。しかし、丸のどじょうのサイズは小さくなっていた。


 住所 江東区高橋2-5
 電話 03-3631-0005
 定休日 月曜
 ※注: 明治20年(1887年)この地で創業した老舗だが、2011年に閉店。

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 25秒  H17.12 撮影

   

 6. どじょう鍋       桔梗家              (両国)

 両国橋のたもとのどじょう屋さん。柳橋方面から橋を渡ったすぐの左手にある。柳橋は亀清楼に代表される料亭があり、こちら側は、ぼうずしゃも、ももんじや、桔梗家と、ぐっと庶民的になる。
 桔梗家は、間口は広くなく全く庶民的などじょう屋さんである。入れこみの細長い座敷は机6つ程。よそいきではなく家庭的な雰囲気のお店である。気楽に入れる。
 ところで、近くにある鳥鍋の”ぼうずしゃも”は、落語の”船徳”に登場する店であり、落語好きの私としては是非行きたい店なのだが、いまだに縁がない。


 住所 墨田区両国1-13-15
 電話  03-3631-1091
 定休日  日曜・祭日

  DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
              YouTubeに動画アップ 12秒  H17.2 撮影

     

 7.あんこう鍋         いせ源               (神田須田町)

 神田須田町の、いせ源、ぼたん、竹むら、藪蕎麦がある一角は戦災を免れ老舗が残っている。
省線の万世橋駅の跡が交通博物館になっているが、昔のその駅前にあたる一帯である。 
  いせ源の建物は街角に位置し、堂々とかつ庶民的な趣があり好きである。ここの二階の座敷の窓から見下ろす須田町の通りもいい。竹むらの風雅な建物が目の前である。滝田ゆうの漫画の風景を連想する。
 あんこう鍋は、土鍋で味噌仕立てという田舎風とは異なり、しょう油味の割り下に金物の鍋という江戸風である。あんこうの各部位の他に、さやいんげん、椎茸、ギンナン、みつば、ウドの野菜系がたっぷり入っている。最後にいただくおじやも又格別。
 あんこうを出せない夏場は川魚料理等を出していた。

 
 住所 千代田区神田須田町1−11−1
 電話 03-3251-1229
 定休日  日曜

  DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
             YouTubeに動画アップ 1分38秒  H17.3 撮影

   

 8.とり鍋      ぼたん           (神田須田町)

 ぼたんは塀に囲まれた堂々とした建物である。玄関を入り、下足番に靴を預ける。座敷は入れこみだが、人数が揃わないと上げてもらえない。同僚達と来た時、一人が遅れ、全員揃うまで、玄関脇の控えで待たされたこともあった。
  鍋には今だに炭火を用いており、膳に着くと男衆が炭火鉢を持ってきて据えてくれる。この炭火鉢は表が銅板張りで風情がある。鍋は江戸前の小鍋である。メニューは一種類で注文する必要がない。 鶏は各部位が揃っており、すき焼き風に割り下で煮た鶏肉はとても美味しく、私の大好物である。ご飯がお櫃で持ってくるのも良い。帳場がなく勘定は食べ終わった席で仲居さんに払う。 こういうお店がまだ残っていることが素晴らしい。
  須田町が本籍という同窓生がおり、皆で食べに行ったり、家族とハレの日に行ったり、会社関係以外でも色々と食べに行った。とり鍋のお店はここがメインというか、私の場合は他はよく知らない。

 
 住所 千代田区神田須田町1-15
 電話  03-3251-0577
 定休日  日曜・祝祭日

  DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
           YouTubeに動画アップ 53秒  H17.10 撮影

  

 9.しゃも鍋      玉ひで            (日本橋人形町)

 人形町は、落ち着いていて華やぎがある大人の街であり、好きな街である。
  玉ひでは甘酒横丁に面している有名な老舗で、1760年(宝暦10年)創業というから250年近くも軍鶏鍋一筋で営業を続けている専門店である。昔初めてここの軍鶏鍋を食べた席は、二階のふすまを取り外して大座敷にした宴席であり、江戸の寄り合いの雰囲気があって印象に残っていた。
 今回、土曜の昼に予約を入れて食べに行ったが、建物の周りには名物の親子丼を目当ての長い行列が出来ていた。
親子丼の客は一階のテーブル席で、鍋の客は二階の座敷であった。玉ひでのとり鍋は、しゃも肉のすき焼きである。鍋は底の浅い土鍋である。食材はうるし塗りの器に盛られてきた。皮から、もも、胸肉と濃い割り下で煮たしゃも肉は脂肪分が少なくとても美味しい。最後に出てくるつくねもいい。しゃもは青梅方面で飼育されている東京軍鶏である。
 親子丼は、明治の中頃にこの店が、鍋の残りの割り下に卵をとじて考え出したもので、この店が元祖である。

 
 住所 中央区日本橋人形町1-17-10
 電話 03-3668-7651
 定休日  日曜・祭日

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 2分6秒  H20.6 撮影

 

      

 10.深川鍋        みや古           (深川森下)

 森下の商店街から離れ、落ち着いた場所にある大きな割烹。玄関を入ると入れこみの広い座敷がある。
かつて深川では江戸前のアサリがふんだんにとれた。そのとれたてのアサリのむき身を、ネギ、油揚げといっしょに味噌で煮たのが深川鍋である。ごく庶民的な江戸風のアサリ鍋で、鬼の平蔵も好んだと思われる。
 この店はまた深川めしでも有名で、それを復活させた元祖である。料理法を引用。
湯でコブダシをとり、塩、醤油、酒、ミリンを加え、アサリ、ネギ、油揚げを入れ2〜3分煮てザルにあげる。その煮汁でめしを炊き、炊き上がる寸前にザルのアサリなどを入れ、めしと混ぜ合わせ、ワッパに盛る。) ワッパの蓋を取ると磯の香りが漂よい、アツアツの味は格別である。
 昔は昼にこれを食べに通ったことがあるが、もう20年近い前になる。当時は珍しかった深川めしも、この店のおかげで、いまやポピュラーになり駅弁にもなった。
 みや古〜芭蕉記念館〜萬年橋〜清澄庭園〜深川江戸資料館は下町散策コース。深川江戸資料館はお薦めである。江戸時代の佐賀町の一角が実物大で再現されている。この中を歩くと江戸の世界にタイムスリップした感じがする

 
 住所 江東区常盤2-7-1
 電話 03-3633-0385
 定休日  月曜

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
       YouTubeに動画アップ 1分58秒  H17.2 撮影

                  

   

 11. ちゃんこ鍋           川崎         (両国)

 両国はちゃんこの本場でありお店は多い。この店は、昨年末に亡くなった下町の食事情に詳しい先輩に、昔教わった。奥さんは”かっぽれ”教室の先生で、先輩も家では長火鉢を使用している神田出身のいなせな人であった。
 川崎のちゃんこは、一般的なソップのちゃんこと異なり、”出世ちゃんこ”といわれる“鳥ちゃんこ”が特徴である。肉や魚(つみれ)は使用していない。野菜と鶏肉で、あっさりとしていて、とても美味しい。鍋のあとでの雑炊もいける。
 入口奥と脇に座敷があり、あと入った脇にカウンター席がある。マスコミに紹介されたのかどうか知らないが、急に人気が出てきて混み合うようになり、行ってもなかなか入れなくなったのが残念である。両国のちゃんこ屋さんのなかの老舗だそうである。

 
 住所 墨田区両国2丁目13-1
 電話  03-3631-2529
 定休日 日曜・祭日

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 62秒  H17.3 撮影

   

 12.ちゃんこ鍋          巴潟 (ともえがた)        (両国)

狭い裏通りの筋を挟んで、本店の向かいに新館も出来て久しい。個人でも団体でも安心して食べられる大衆的な店である。真夏に団体の暑気払いで本館2階で食べたこともある。クーラーがガンガン効いていた。また、友人と、家族と、良く行ったお店である。新館は明るくてゆったりしている。 
そっぷ煮といわれる醤油味の代表的なちゃんこの他に、味噌味、塩味のちゃんこもある。昼にはお得なちゃんこのランチサービスもある。
味もいいしサービスもいい。相撲甚句が店内に流れている。
ちゃんこ鍋は、実はヘルシーで美味しい鍋、ということがやっと定着し嬉しい。

 
 住所 墨田区両国2-17-6
 電話 03-3632-5600
 定休日 年末年始

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
         YouTubeに動画アップ 28秒  H19.5 撮影

  

 13.ぼたん鍋  (猪なべ)    ももんじや           (両国)

ぼたん鍋は、昔関西に住んでいたときに、丹波・亀岡の湯の花温泉の旅館の座敷で食べたのが始めてである。大皿に盛った猪の肉が、牡丹の花が開いたように盛られており綺麗で印象に残った。土鍋仕立ての鍋であった。
 ももんじやの猪なべは、すき焼き鍋で、割り下に八丁味噌を溶かして入れる。グツグツとじっくり煮込んでから、小皿に盛った山椒か七味を少しつけて食べる。この味噌仕立ての鍋は、野生のイノシシの肉によく馴染んでとても美味である。イノシシは丹波や鈴鹿からということだが、この日のは丹波産で11月15日〜2月15日迄の狩猟解禁期間に獲ったものであった。 
 店は両国橋を渡ったすぐ右手で、人目を引く造りである。1718年創業というから290年続いた老舗である。江戸時代、四足動物を扱う料理屋は屋号の前に”ももんじや”をつけたそうで、この店も「ももんじや・豊田屋」であったが明治になり改名したとのこと。猪なべの他に、鹿なべ、熊なべもある。 家畜肉と違い狩猟で得た肉である。 肉の野性味を尊ぶ奇をてらったところもない食べ方で、ジビエ料理の江戸風の原点を食した感じでとても満足した。

 
 住所 墨田区両国1-10-2
 電話 03-3631-5596
 無休 17:00〜21:00

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 1分20秒  H20.4 撮影

   

 14.ふぐ鍋       にびき         (下谷)

 実は、ふぐは関西で食べることを基本にしている。 関西に住んでいた時は、冬の鍋はてっちりで白子もあたりまえ。庶民的な食材であったが、東京では高級な食材として専門店が主流であり、なかなか足が向かない。
 下谷は戦災を免れ、富士塚がある小野照崎神社などもあり、隣の根岸とともに下町の風情が色濃く残っている。“にびき”は小さく古めかしい趣のあるお店で、はじめて入ったときは感激した。その後正面の姿がすっかり綺麗になっていたので建替えられたと思っていたが、先日食べに行ったら内部は昔のままの雰囲気であった。聞いたら外側だけ直したということであった。150年以上続く老舗である。力士の手形や会席の写真、番付表など相撲関連の品々が飾ってある。
  ヒレ酒で、にこごり〜ゆぶき〜から揚げ〜てっさ〜鍋〜雑炊 と、十分に冬のふぐの味覚を堪能した。
ニ階座敷の窓際の席であったので、通りから火の用心の見回りの拍子木の音が聞こえてきた。歳末に下町で食べる庶民的なふぐ鍋もいいものだと実感した。

 
 住所 台東区下谷3-3-7
 電話 03-3872-6250
  ふぐの営業月は9月〜4月で無休(他月は日曜・祝日休み)

  DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 71秒   H19.12 撮影

  

 15.ねぎま鍋        よし梅          (日本橋人形町)

 よし梅は人形町の狭い横丁を入ったところにある下町らしいお店。ここの横丁(芸者新道)は雰囲気がある。
江戸時代はマグロのトロは誰も食べず、捨てるほど安く、その食べ方としてねぎま鍋が誕生したそうだ。
 落語の「ねぎまの殿様」は、遠乗りに出た殿様が上野広小路で匂いに釣られてねぎま鍋を食べ、その味が忘れられなくなった噺で「目黒のさんま」に良く似ている。トロは下々の食べるものであり殿様や大店の番頭は食べなかった。ところが皮肉なことに、現在ではトロは高級食材になってしまい、庶民は気楽にねぎま鍋を食べられなくなってしまった。
私の場合も、たまたま誘いがあり食べに行ったくちである。もとは芸者の置屋だったという木造の建物は古めかしく、ほの暗い店内は少し入り組んだ造りになっており、座敷の他にテーブル席やカウンターもある。
 若おかみがつくってくれたねぎま鍋は、とにかく美味であった。贅沢にマグロを使うため、うま味の極めつきのようなダシであった。このダシで最後に食べるおじやはまた格別である。
(余談であるが、ここの焼はまぐりは吃驚するような大きさで印象に残った。いつもそうなのだろうか?)

 
 住所 中央区日本橋人形町1-18-3
 電話 03-3668-4069
 定休日 土曜、日曜、祝日

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
            YouTubeに動画アップ 1分34秒  H17.5 撮影

  

 16.桜鍋      中江            (吉原・日本堤)

 かつて栄華を誇った花の吉原の場所も、今では分かりにくく、江戸切り絵図で見た方がはっきりしている。
 裕福な遊び人は猪牙船で大川を上がり、吾妻橋を過ぎ、山谷掘が大川に合流する今戸橋で降り、歩いたり籠に乗り換えたりして、山谷堀沿いの土手を吉原に通った。今は山谷堀公園になっているこの道を吾妻橋から歩いたことがある。吉原に近づくにつれ、贔屓にしている桂南喬師匠の”お見立て”や、桂文楽師匠の”明烏”などの噺が思いおこされる。
 中江は、吉原遊廓の大門(おおもん)への入口、見返り柳の前にあるお店である。ここには戦災を免れた古い造りの店がまだ3軒並んでいる。右隣りは天婦羅の”いせや”。中江は風格がある建物である。 暖簾をくぐると正面は板張りの追い込み座敷になっている。磨き上げた板張りの床もいいものである。ここの座敷は掘りごたつ式でくつろぎやすい。
 馬肉は、”けとばし”ともいわれ、精がつく料理ということで流行り、店数も昔は多かったという。肉は味噌仕立で小鍋で食べる。とても美味しい。中江にはおトクなランチサービスもある。
  追記:2020年 97歳で亡くなられた内海桂子師匠は この店が大のお気に入りだったようで、中江での食事をよくツイートされていた。

 
 住所 台東区日本堤1-9−2
 電話 03-3872-5398
 定休日   月曜

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
            YouTubeに動画アップ 58秒
                 H17.2 撮影

 


 17(番外)   蛤なべ (はまなべ)    恵の本            (川崎大師参道)

 川崎大師の参道で340年以上続いたハマグリ鍋の老舗である。東京・下町ではないが、多摩川を挟んだ羽田の向岸でもある、ということで掲載した。ハマグリが好物ということもある。
 大森〜羽田〜川崎大師あたりの浜は、多摩川、鶴見川などの真水が入り込み、波が静かなことから、海苔の他に、ハマグリ、アサリ、アオヤギ、アカガイなどの貝類やシャコ、アナゴなどが良く育った。昔は川崎大師の参道には浜で獲れた”蛤なべ”を出す料理屋が軒を並べ、呼び込みも賑やかだったそうだが、今は”恵の本”が一軒だけが残っている。
 鍋は、水炊き風ではなく、土鍋の味噌仕立て。ネギ、シュンギク、シイタケ、エノキ、豆腐に大きな蛤が入っている。残り汁で作るおじやがいいそうだが、もう一つの名物のあなご重も食べたく、鍋の汁はお湯で割り味噌汁替わりにした。
 ハマグリはいつもあがるとは限らないので予約が必要。地場のハマグリは、今は金沢八景沖の小柴漁場で少し取れるだけとのことで、この日のは茨城県・鹿島灘の年季の入った大型のハマグリであった。

 
 住所 神奈川県川崎市川崎区大師本町9−12
 電話 044-288-2294
 定休日   木曜

 DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
          YouTubeに動画アップ 41秒
                 H19.6 撮影 

 

 18.しゃも鍋        ぼうず志ゃも                  (両国)

 両国は相撲の町である。江戸相撲は回向院で開かれていた。今でも周辺に相撲部屋が数多い。
ぼうずしゃもはその回向院の隣で、両国橋を渡った少し先にある。相撲取りや職人などの客筋で繁盛していた有名店で300年以上続く老舗中の老舗である。落語の”船徳”に登場するので知ったが、まさか現存しているとは思わなかった。特異な店名の由来は、初代が隅田川の船頭と相撲取りの喧嘩を頭を丸めて仲裁したところから来たという。
 昔は今の店の三倍位の大きな店で、大広間にずうっと長い板が敷き並べてありコンロがいくつも置かれていた、とあるので、”駒形”の大広間に近い感じだったのかもしれない。今の店は個室だけで部屋数も多くなく予約が必要である。そのため気にはなっていたがなかなか縁が無かった。
 通された座敷は、シンプルでくつろげる部屋であった。食事はしゃも鍋の一種類だけ。サラダ、レバ焼、鶏刺しから始まり、鍋は味噌仕立てであった。シャモの各部位はネギと白滝のザクと共に浅い桶に入って運ばれてきた。仲居さんが付きっ切りで鍋の面倒を見てくれる。個室での鍋も久方ぶりでいいものであり、とても満足した。


住所 東京都墨田区両国1-9-7
 電話 03-3631-7224 
 定休日 営業期間は9〜7月で日曜、祝日、土曜不定休

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
         YouTubeに動画アップ 52秒   H19.11 撮影

            

 


 19.軍鶏鍋       かど家                   (両国)

  店は”ぼうずしゃも”よりも遠く、赤穂浪士が討ち入った吉良邸跡の先である。座敷だけの店で、部屋数は一階に3室、二階に5室である。 しゃも鍋は予約のときに味噌仕立てか、鳥スープ煮かを聞かれる。看板の、江戸では珍しい八丁味噌仕立てを選んだ。鍋は仲居さんが全部面倒を見てくれる。
 始めて眼にする八丁味噌は真っ黒く、割り下を入れた江戸風の鉄鍋に落として溶いでから鶏肉を入れる。この鍋は一口で言うとすごくコクがある鍋である。熟成した八丁味噌のパワーなのか、煮込めば煮込むほどに軍鶏の味が浸み込み、スープが甘くコクが出て来て美味になっていく。煮込んだ鶏肉が味噌に馴染んでこれほどの味になるとは想像出来なかった。最後に、残った汁をご飯にかけて食べたが、見かけと違って旨かった。
 鬼平犯科帳に出てくる軍鶏鍋屋”五鉄”は池波正太郎の創作だが、ぼうずしゃも同様にこの店も五鉄のモデルでは、と取沙汰されたそうだ。作品中の所在地がこの店に近いというのが根拠のようだが、作者はモデルはないと否定した。
そのように思われる雰囲気のあるお店ということであろう。江戸末期の創業で130年以上続く老舗である。


住所 東京都墨田区緑1-6-13
 電話 03-3631-5007
 定休日 日曜、祝日

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
        YouTubeに動画アップ 2分29秒   H20.1 撮影

            

 


 20.しゃも鍋       鳥栄                   (上野・池之端)

 この店の予約は2ヶ月、3ヶ月先である。友人がそれを知って驚き、意地になって予約を取ってくれた。
店は、池之端の仲町通りを、守田宝丹、池の端薮そばを過ぎて出た先にある。出会い茶屋で有名な不忍池の傍で、今もその環境は相変わらずである。若い頃入ってみたいと思っていた木造二階建て一軒家は、そのままに改造され残っていた。
 入口から直ぐの階段をあがると部屋が3つあり、座敷のなかには、ちゃぶ台と火鉢が据えてある。昔懐かしい情景である。席に着くと、仲居さんが真っ赤に燃えた炭火を持ってきて、火鉢に活けてくれる。これも今どき珍らしい。
 江戸風の鉄鍋を五徳に乗せ、鳥スープとみりんを入れてしゃも鍋の開始である。最初の皿は、とり肉とネギ・豆腐。とり肉はダイコンおろしにつけて食べる。次ぎは、とり肉ダンゴのスープ煮。最後に、鍋のスープをお茶漬け風にご飯にかけて食べる。鳥栄の鍋は、鳥スープを使ったあっさり味の、しゃも肉の風味をそのままに味わう上品な味の鍋である。
 この日は寒く、炭火を前に熱燗を飲みながらの鍋はいいものであった。隣席は三世代の家族連れで、その雰囲気も下町の店らしかった。食事に満足して店を出て振り返ると、風情ある建物の暖かい明かりがあった。余韻の残る店である。


 住所 台東区池之端1−2−1 
 電話 03-3831-5009
 定休日 日曜・祝日

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
              YouTubeに動画アップ 2分30秒 
                        H20.6.3 撮影

            

 


 21(番外)  奥久慈しゃも鍋       割烹 千石                 (茨城県・大子町)

 しゃも肉は、脂肪が少なく、コクがあり、歯ごたえがある鶏肉で、東京軍鶏、奥久慈軍鶏、薩摩軍鶏 が有名である。
 奥久慈の中心、常陸大子(だいご)で軍鶏を味わった。大子は、茨城県の北西部で福島県との境に位置し、町中を清流の久慈川が流れ、しゃもの他に、鮎、ゆば、コンニャク、リンゴなどが特産で知られている。
 割烹千石は地元の料亭で、商店街を通り久慈川にかかる古い橋の左手にある(写真右に青色の橋が見える)。二階の座敷からは、眼下に清流が臨まれ、広い川幅を愛でながらゆったりと食べる食事は、都会では味わえぬ贅沢さである。
 軍鶏のフルコースではなく、しゃも鍋と特産のゆば、鮎などが味わえるコースを選んだ。ゆばとコンニャクの刺身、しゃものたたき、ゆばと山菜の天ぷら、あゆ塩焼き、ゆばと野菜煮物、しゃも鍋。あと赤だし・ご飯・漬物である。
コンニャクの刺身は、白身魚のようなコリコリした食感で驚いた。ゆばの天ぷらは、コンニャク・大葉のゆば巻き、しゃも肉のゆば巻き。しゃも鍋は、分厚く塊のようにボリューム感があるしゃも肉であった。とても美味しく満足した。


 住所 茨城県久慈郡大子町大子631 
 電話 0295-72-0200
 定休日 不定休

DV: 左画像をクリックすると動画で見れます。
              YouTubeに動画アップ 1分17秒 
                        H21.3.19 撮影

            shitamachi_nabe/neko_s02.gif (3883 バイト)

 


 22(番外)  鴨鍋       鴨料理 鴨亭                 (茨城県・真壁町)

 筑波山の西麓・真壁にある鴨料理の専門店「鴨亭」へ寄った。
田園地帯の中にぽつんとある、合鴨の養鶏場の脇にある一軒家で、昔、夜の宴席で様々な鴨料理を食べて印象に残っていた。
今回は昼なので「鴨鍋定食」と「鴨の石焼定食」を頼んだが、ゴールデンウィークの新緑の筑波山を眺めながらの食事はとても満足した。
ここは すべて個室なので落ち着いて食事ができる。
昨年、築地に鴨料理の高級な支店を出したが、夜のコース料理はこことは段違いの値段だ。
鶏舎は大震災で水が出なくなった、とのことで合鴨たちは移転していた。


 住所 茨城県桜川市真壁町椎尾2527 
 電話 0296-54-1122
 定休日 水曜日

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              YouTubeに動画アップ 2分6秒 
                        H25.5.28 撮影

            shitamachi_nabe/neko_s03.gif (3883 バイト)

 



 23.ふぐ鍋       つち田          (浅草)

 この店は「ふぐ鍋」の他に「すっぽん鍋」を食べさせる店として記憶にあったが、年末ということでフグを食べに友人と行った。それも何年かぶりの再会で..
浅草・浅草寺の奥に広がる浅草花街(見番・料亭・割烹がある一帯)の更に奥の、吉原に近い場所にあり、交通の便は良くない。
店も千束通り商店街でなく その裏通りで、地元の人が通う店のようで、実際、大人7人と小学生4人の家族連れが賑やかに2階座敷へ上がっていった。
創業から50年程で、老舗というには まだ若い店だが、庶民的で居こごちが良く、サービスも行き届いていた。
入り口の突き当りの座敷で、掘りごたつ式の卓で ふぐのコース料理を味わった。
ヒレ酒を飲みながら、トラフグの ニコゴリ、テッサ、唐揚、白子・皮のしゃぶしゃぶ、ふぐ鍋、雑炊 と 久しぶりにフグを満喫した。


 住所 台東区浅草5丁目9?7 
 電話 03-3875-1779
 定休日 不定休

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              YouTubeに動画アップ 1分52秒 
                        H26.12.19 撮影

            shitamachi_nabe/neko_s06.gif (3883 バイト)

 



 24.鳥すき焼き       韻松亭 (いんしょうてい)        (上野) 

  この店のことは知らなかった。大学時代のクラス仲間と、国立博物館に雪村の大作「蝦蟇鉄拐図」を見に行き、幹事が近くのこの店を予約してくれた。
 明治8年創業(創業140年)で、上野の山・寛永寺の鐘楼の隣に位置し、不忍池を見下ろす高台で、「鐘は上野か浅草か」と唱えられた鐘が「松に響く」さまを
 「韻松亭」と名付けられた。風情ある古い建物で、通されたのは不忍池に面した個室だった。
  豆腐、湯波、生麩などの豆菜料理が自慢の店で、それらがザクに入っていて一風変わった「鳥すき焼き」で とても美味しかった。
 鍋は、すき焼き鍋の後に、つみれ・豆腐を入れた2回目の鍋になり、最後は雑炊で締めた。
 仲居さんのサービスも行き届いており、古い友人たちと、気兼ねなく言いたい放題の席で、長い時間 居続けた。
 店を出る時はすっかり暗くなっており 人通りも途絶え、韻松亭の足元の明かりが 暗がりの中で風情を漂わせていた。


 住所 東京都台東区上野公園4-59 
 電話 03-3821-8126
 定休日 なし

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              YouTubeに動画アップ 2分15秒 
                        2022年7月17日 撮影

            shitamachi_nabe/neko_s02.gif (3883 バイト)

 


         < 後 記 >

 寒い季節が到来し鍋のページを作りましたが、日常的に鍋にこだわっているわけではなく、イタリアンも好きだし、インド料理も好き。嫌いなものもなく、旬で輝いている食材なら何でも大好きです。

全国各地にある名物鍋と比較して、下町の鍋について感じることは、江戸の鍋は「商売として客に出す鍋」として洗練され発達してきた。ということです。
 いつの世でも庶民の舌はキビシイものです。流行ったり廃れたりするなかで、評価され生き延びていくには、美味しく食べられるように、(家庭ではとても真似出来ない)秘伝の割り下づくりなどに苦労した結果でしょう。
 また、提供スタイルも、お客を確保するために、一人客でも入れこみで食べられる小型の鍋になった感じがします。長谷川平蔵が船宿の二階で、酒を傾けながら一人でつつく鍋のイメージです。
牛鍋、さくら鍋、どじょう鍋、とり鍋 ― みんな一人で料理屋に上がって食べられる。これは江戸の食文化だな、という感じがします。

 一方、地方の鍋は、家族らが囲んで食べる家庭鍋のまま、という感じです。素材さえ揃えば秘伝のタレなど不用で、何処の居酒屋でも出せる。 そのかわり、メニューで、提供は2名以上、という但し書きがついてしまう鍋が多い気がします。

 

 ※動画を YouTube に移しました。(2008年1月)
  撮影データが残っていた動画は、画面サイズと収録時間をリメイクして移しました。

 


      デジカメ : サンヨー Xacty C1

   2005年2月  宇田川 東