2009年09月18日


アリ大爆発(動物)

 ジャン・アンリ・ファーブルならずとも昆虫というのは実に面白い存在で、あれだけ小さな身体に様々な習性を秘めていて人間が生涯を費やしたところでその全貌が明らかになることはない。種類が多い上に寿命が短いから次々と進化収斂を繰り返すためで、ことに熱帯地方ともなれば明日には新種の昆虫が生まれていても不思議はないのだ。キリスト教徒ならずともムシはどこかから沸いてくるのかと思いたくもなるだろう。
 例えばアリだけでも国内では250を超える種類が知られているし、世界ともなれば5,000や10,000を超えるとさえ言われている。これだけいれば奇妙な習性や能力を持つものにも事欠かないが、中でもインパクトがあるのはマレーシアに棲息するカンポノーツス・サウンデルシ(Camponotus saundersi)だろうか。和名がないので爆弾アリとか自爆アリとか呼ばれているが、その呼び名のとおり爆発して死んでしまうというアリだ。

 西ドイツのマシュヴィッツ教授の報告では、氏がジャングルで発見したそのアリを指でつまんだところなんとアリは破裂してしまった。教授が伝説の拳法を体得していたという極少の可能性を除けば、破裂して飛び散った成分を浴びせるアリの防衛行為という訳だろう。この成分はアゴのあたりにある腺にたまっているそうで、襲われたアリはこれを破裂させて中身をぶちまけるとそのまま死んでしまう。

 日本では知られていないがアリというのは毒を持っていたり針で刺す種類がけっこう多く、彼らの液体もそうした類のものだろう。その目的となれば推察するしかないが咬んだり刺したりすれば良いものを、わざわざ浴びせているのだから強烈なニオイで相手をひるませるかマーキングをして仲間に危険を知らせるかのどちらかといったところだろうか。
 何も死ぬことはないという人もいるかもしれないが、群体で暮らす生き物にはこういう例は珍しいものではなくミツバチが針で刺すと自分も死んでしまうのと同じである。他のアリはこのニオイをかぶった生き物から逃げればいいことになり、まさに身を賭した犠牲という訳だ。

 ところで昆虫というのは実によくできていて面白い生き物だ。あの小さな身体に様々な修正を秘めているのだが、身体が小さければ脳みそも小さいからあまり難しいことは考えられない。だから彼らは様々な作業を自分たちの身体にあらかじめプログラムしている。有名なところでは足の裏の感触で身体の色を変えるバッタなど、何らかのスイッチが入れば自動的にその機能が働くのだ。
 ということは、かの爆発するアリも一定の条件を与えれば勝手に破裂して死んでしまうし逆にスイッチさえ入れなければ決して爆発しないということでもある。仲間を守るために自爆する種族、だがそれにはスイッチがあって君はそれを作動させないようにしなければならないと言えばまるでサイエンス・フィクションの物語のようだが、これぞ事実は小説よりも奇なりといったところだろうか。
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