ぱられるわーるど/ひなたで過ごす


 子供たちがあこがれている世界には冒険や探検がつきものですが、そうした冒険の世界は大人たちが読まないまま棚に積まれている、分厚い本の中にも見つけることができるものです。たとえばそれはめずらしい生き物だったり、古代の人々が暮らしていた遺跡だったり、けわしい山や深い谷の姿といったものでした。
 図鑑や事典にある世界を思い浮かべて、子供たちは帽子に懐中電灯をくくりつけたり堅い杖を手に持ったり、虫めがねや方位磁石をポケットに詰め込んだりするのですが、そんな世界が身近にあることに気がついた子供たちはいてもたってもいられなくなって扉の外に駆け出してしまいます。それはたぶん、子供たちが小さい子供であっても、少しくらい大きな子供になっても変わることはありません。

「さあ、いくぞ」

 長い休みの一日であれば、いつもよりも少し遠い、山の裏手をぐるりまわりこんだ向こうにある谷のほうまで足を伸ばしてみることもありました。
 小さな谷間はひらけていて、固い石や岩が転がっていますがそこからもう少し奥に入っていくと、粘土の多い崖が切り立った場所に抜けていきます。このあたりまで歩くにはけっこう時間がかかりますから、朝早くに出発しなければなかなかやってくることはできませんでした。

 谷の口から崖のあたりまではそれなりの広さがありましたが、そこでは石の面にくっきりと残っている貝殻や魚の骨の跡といった、とほうもない宝物を見つけ出すことがあるので子供たちは苦労をして発掘調査にやってきます。このあたりは川が流れていたらしく、昔の人が捨てた貝殻や骨が集められた貝塚というものがつくられていたことを子供たちは知っていました。
 見つけた最初のころは化石を発見したと思っていた子供たちにすればちょっとだけ残念な気もしましたが、そんなことで発掘隊がやる気を失ったりはしないものです。

「踏まないように気をつけろよ」
「わかってるよ」

 貝塚は単に貝や魚を食べたあとのごみを捨てていただけの場所ではありません。まっすぐな骨をとがらせた釣り針とか、石を割った石器だとか、骨を削ってつくった矢じりが一緒に見つかったとしても何の不思議があったでしょう。古代の人が使っていた道具!それは恐竜の化石にも劣らず発掘の成果にふさわしいものです。
 もちろん、貝殻や魚の骨に比べればそうした道具が見つかることはとても珍しいことでした。男の子たちが見つけていた矢じりと黒っぽく光る石の刃は彼らの自慢の宝物になっていましたから、女の子としてもここは立派な武器を探さなければいけません。

「おい、そろそろお昼だぞ」
「えー、しょうがないなあ」

 子供たちはそこに行くたびに、日が過ぎてお腹が不平をならすまで歩きまわっては発掘調査をしていましたが、ときどき崖に下がる木のつたを使って上に登ってみたり、石のすき間に隠れてみるようなこともありましたから、いつもそうした宝物を探しているわけではありませんでした。
 女の子は大きな石の上に登るのがとくいだったので、てっぺんにある平たい場所を男の子たちよりも先にとってしまうと遅めのお昼を広げます。谷間を抜ける風が砂をかぶった短い髪をなであげて、子供たちはパンを包んでいた紙が飛ばされないように器用に食料をほおばっていました。

「あれ?」

 足元の石の下で、きらきらと何かが光った様子に女の子は目を細めます。半分ほど残ったパンをくわえたまま、するすると下におりると転がった石の影で光っていたのは、手のひらに乗るくらいの大きさをした黒っぽい石でした。男の子が持っている石の刃とおなじものにも見えますが、するどい刃はなくて丸っぽく割れた面は平らに磨かれて光っています。ごしごしとこすってから、よくのぞきこんでみると小さな面に自分の顔がうつっているのが見えました。

「鏡、だ」

 女の子が思っていたような矢じりや刃といった武器ではありませんでしたが、めずらしい石の鏡は発掘した女の子のものでしたから、彼女は得意げに石の上に戻ると何度も日の光に当てて、きらきらと光る鏡を見せびらかせます。男の子たちはうれしいのとうらやましいのを半分ずつ思いながら、食べかけのパンをのみこんで石の上に子供たちの宝物を並べたりしていました。
 でも、もしも石の鏡が石器の中でもほとんど見つかったことのない、とても珍しいものであることを知っていたとしたら、男の子たちのうれしいのとうらやましいのはやっぱり半分ずつだったでしょうか。

 やっぱり半分ずつだったと思います。


おしまい

                                      

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