第五回大会


 西暦2001年8月。中本重工業主催ストライク・バック第五回大会の開催に先立って、新規企業の参加が正式に通達された。大会としては国内規模となっているストライク・バックは中本重工業を中心にキバヤシファクトリーが参加、その他地域振興を目的に青森県工業連盟、井原技研といった中小企業も多く参加していたが、今大会から新規参加となったKUSUNOTEC社も社長がベンチャー系の父親の跡を継いで就任した女子中学生というふれこみであり、大会運営に関する底上げと固定支持層の確保は順調であるようにも見えた。
 今回、問題があったとすればKUSUNOTEC社の参加申請が遅れた事により当初決定されていたトーナメント参加の八機に加えて一機が追加され、余剰が出てしまった事にあるだろう。もっともこの問題は即時に解決された。大会運営委員会の所属でもあり、オブザーブ登録員でもあった新規参加機のアウグストゥスと、KUSUNOTEC所属の機体とで予選を行い、勝者を本戦のトーナメントに参加させるのである。単純な決定だが、試合数が一つ増えるのであれば観客に否がある筈もなかった。


トーナメント予選

 オープニングマッチとなったトーナメント予選は、KUSUNOTEC社謹製ねこMA−Turbo V10(以下ねこMATAと記載)騎乗は社長の山本いそべ自ら、対してマクシミリアン・カトウルス騎乗の大型機アウグストゥス。軽量機の台頭する昨今の大会では珍しい中量機と重量機の激突である。両機カタパルトからフィールドへの射出、重力制御の施された戦場での戦いが始まる。中間距離、ねこMATAの左手に装着された連装式NEKOレーザーがアウグストゥスに着弾、大型チェインガンによる反撃は空を切る。更に近接したねこMATAは炸裂弾ブリッツを搭載した右手によるNEKOパンチを命中させる。名の通り猫型を意識した機体はやもすると偏見の目で見られるが、中近接格闘を意識した機体バランスはなかなかのものか。更に反撃能力を持たないアウグストゥスにNEKOパンチの連打を一回、二回を命中させここまで圧倒的な展開。
 中間距離に離れてねこMATAのレーザーが直撃!アウグストゥスもチェインガンを命中させるがダメージで及ばない。距離を取って相手の射程から離れ、90mmミサイルを射出するが外れ、距離を詰めるが今度はNEKOレーザーもチェインガンも双方とも外れ、離れてアウグストゥスのミサイルは外れ。そして長期戦になると両者のパイロットとしての経験不足が思わぬ展開の変化を呼び込む。中距離でのレーザーとチェインガンを互いに掠めると、遠距離を確保したアウグストゥスが対鑑用90mmミサイルを連続射出、これが二発続けて命中してそれまでの劣勢を挽回してしまった。ねこMATAも必死の反撃、レーザーを命中させてペースを取り返すと近接してNEKOパンチ、離れてレーザーで牽制、接近してパンチ、最後は離れてレーザーの直撃と畳み掛けてアウグストゥスを撃沈した。終盤になって理想的なヒット&アウェイを完成させるあたりはパイロットとして合格点だったろう。

○ねこMA−TurboV10(16分機動停止)アウグストゥス× 15vs-7


Aブロック一回戦

 白熱の予選が終了し、いよいよトーナメント本戦の第一試合は神代進騎乗の重攻撃型ホウオウとネス・フェザード騎乗のスレイヴバイパー、常連同士の一戦。人気薄の重量機を徹底した攻撃型に改造したホウオウと、大会で猛威を振るう機動型軽量機、いずれも今大会の新兵器となる有線式伸縮剣、ガリアンソードをカスタマイズ装備しての対決となった。両者の距離はそのガリアンソードの間合いとなる近接戦闘からの開始。ホウオウのフェニックステールとスレイヴバイパーのコブラコマンダーが双方命中するが、重量機特有の装甲に護られて損害はスレイヴバイパーが上。削り合いでは不利か。
 ここでホウオウが距離を離し、中間距離からレイウイングを射出するがこれはスレイヴバイパーが辛くも回避、更に距離を離してホウオウのレッドアイは外れ、スレイヴバイパーのサイドワインダーはダメージ軽微ながら先程のダメージ差を取り戻す。ネス・フェザードの操縦ぶりは見事だが、距離の変更に伴って装備が切り替わるホウオウも不気味な威圧感を与える。
 近距離、遠距離で体勢を作って確実にダメージを与える事を目的とするスレイヴバイパーに対して、ホウオウは火力で圧倒し制圧を図る。特に中間距離で構わず発射されるレイウイングがスレイヴバイパーの装甲を確実に削り、得意の近接戦闘ではホウオウの装甲にダメージを阻まれる間にフェニックステールが襲い掛かる。一撃、二撃と連続で受け、レイウイングでの追撃は辛うじて回避すると遠距離に。
 遠距離戦ではホウオウのレッドアイは単発な分だけ威圧感が少なく、スレイヴバイパーは直撃を回避しつつ反撃を試みる事が出来る。僅かでも距離が詰まるとレイウイングが飛んできて、距離を離して遠距離射撃、詰まってレイウイング。装甲の削り合いでは明らかに軽量機のスレイヴバイパーに不利は否めず、手詰まりの状態で近接、剣の軌跡が三度交錯し、勝負が決した。

○重攻撃型ホウオウ(14分機動停止)スレイヴバイパー× 16vs-3


Aブロック一回戦

 続けてAブロック一回戦。こちらも常連となるレイモンド・オース騎乗のアークロイアルとテムウ・ガルナ騎乗のスノウディアー2LDKの一戦。元艦載機乗りのレイモンド・オースはこれまで愛機の変更が無く、テムウ・ガルナは井原技研チームの登録パイロットである為か開発新機体への乗換が多いのは、同じ常連でも方向性の違いが見える。
 試合は遠距離で開始、アークロイアルのセラミックショットがスノウディアーの装甲を削り、スノウディアーは反撃の地対地ミサイル、サテライトフォールの八連弾を射出するが全て命中せず。これまでの大会ジンクスでは多弾頭ミサイルが役に立った例は無く、今回も派手な火花が観客の目を楽しませるに留まった。
 距離を詰めてレーザーキャノンとウェッジランチャーの撃ち合い、双方互角のダメージ。更に近接、アークロイアルのガリアンソードがスノウディアーに巻き付いて派手に装甲を削る。このあたり機動性を活かした近接武器の使用の見事さは流石優勝経験者という所か。更に近接での追撃は間合いを誤ったか、回避されるが中間距離でレーザーキャノンを直撃させ、反撃も受けるがペースはアークロイアルが保持。近接しての剣撃はスノウディアーが回避。
 距離を離してスノウディアーのウェッジランチャーが命中、更に離れてサテライトフォール八発がついに一発のみ命中。アークロイアルはセラミックショットの精密射撃で確実にダメージを与えるが、続けてのショットは外れ、反撃のサテライトフォールが二発、遂にアークロイアルを捕らえる形で命中する。これで形成は一気に逆転、中間距離での撃ち合いは一度は双方回避したものの、続けての撃ち合いではアークロイアルのレーザーキャノンがスノウディアーの装甲を削りきる前に、ウェッジランチャーの反撃で機動停止となった。多弾頭ミサイルが勝負の帰趨に影響を及ぼしたのはこの試合が初めてか。

○スノウディアー2LDK(11分機動停止)アークロイアル× 11vs-2


Bブロック一回戦

 続いてBブロック一回戦。前回二連覇を果たしたハーフリング2ndとシャル・マクニコルは自信の軽量型近接機で参戦、対するは謎の女性、ふわふわにこにこぽえぽえお姉さんこと静志津香騎乗ののんびりエターニア。いずれも近距離と遠距離に攻撃を分けた機体ながら、ハーフリングは近接重視、のんびりエターニアは遠隔射撃メインとコンセプトは異なる。試合はハーフリング得意の近接戦から開始。炸裂弾ブリッツがエターニアの装甲を削り、更に続けて命中させるがエターニアのレーザーメスも制度と破壊力ではブリッツを上回る。まずは挨拶代わりといった展開。
 中間距離で両者装備を持ち替え、ハーフリングはロングレンジキャノンで精密射撃を図り、のんびりエターニアは二連装ロックオンレーザーで反撃、初弾は互角だが二発目はロックオンレーザーが直撃し、ようやく試合が動き始める。
 一旦距離を外すハーフリングだがエターニアが距離を離すとロックオンレーザー射出。二発とも辛うじて回避したハーフリングはロングレンジキャノンを命中させて反撃。更に続けての攻撃も直撃させて確実に装甲を削る。一旦距離を詰め、また離れて攻撃する様子は遠距離版のヒット&アウェイといった所で、自動照準式のロックオンレーザーを逃れるには有効に見える。だが、攻撃の僅かな隙を捕らえてのロックオンは流石に避け難く相打ちに近い状態で双方の攻撃が命中する。一撃、二撃、三撃と相打ち、二撃目のロックオンレーザーが二発同時着弾した為に状況は互角ながらも僅かにエターニア優位。ここで勝負に出たハーフリングが距離を詰め、ブリッツでの逆転を狙う。命中して装甲を削るがブリッツ自体の攻撃力の低さが災いし、機動停止に到らなかったエターニアはレーザーメスの一撃でハーフリングに止めを刺した。

○のんびりエターニア(14分機動停止)ハーフリング2nd× 3vs-3


Bブロック一回戦

 一回戦、これで全ての機体が出揃う。華麗さと力強さの融合と言われるロストヴァ・トゥルビヨンはセクレタリアトIIに騎乗、相手は予選でアウグストゥスを粉砕したねこMA−Turbo。いずれも装甲を無視して機動力戦闘力を上げた攻撃型機体である。
 両者射出、近接戦で試合開始。セクレタリアトIIのフォーチューナとねこMATAのNEKOパンチが同時炸裂、炸裂弾の連爆が薄い装甲を突き破り、双方に大きなダメージを与える。更に中距離の撃ち合いはスティグマの一発を外したセクレタリアトにねこMATAのレーザーが二発命中、続けての撃ち合いはセクレタリアトが二発、ねこMATAが一発の命中。だが中距離射撃の火力と経験とで勝るセクレタリアトIIが与えるダメージの方が大きく、両機甚大な損害を受けつつもセクレタリアト有利。ここで懸命の反撃を試みるねこMATAがスティグマの二発を辛うじて回避、NEKOレーザーの反撃を二発命中させて戦況を互角に持ち込むが、続けてセクレタリアトがNEKOレーザーが完全回避してスティグマを直撃させる。試合時間僅か五分で苛烈な撃ち合いは幕を閉じた。

○セクレタリアトII(5分機動停止)ねこMA−Turbo V10× 9vs-3

Aブロック準決勝

 Aブロック準決勝は攻撃特化した圧倒的な火力で相手を制圧する重攻撃型ホウオウと、地対地ミサイルサテライトフォールに賭けるスノウディアー2LDKの一戦。両機とも遠距離戦志向であり、勝敗の全てはサテライトフォールの命中率とホウオウの回避率に掛かっていると思われた。
 両機の間合いもその遠距離からスタート。ホウオウのレッドアイは外れ、スノウディアーの八連装ミサイルも全て外れ、フィールド内に虚しくも華麗な光芒が炸裂する。続けての攻撃もホウオウは外れ、サテライトフォールは二発命中するが、厚い装甲に遮られて損害は軽微。或いは長期の削り合いになるか。続けてホウオウはレッドアイをようやく命中、ダメージ軽微。サテライトフォールは一弾が命中し、こちらもようやくといった感でそれなりのダメージを与える。続けてレッドアイが命中、サテライトフォールは全弾外れ。少しずつ制度の上がってきたホウオウのレッドアイがスノウディアーにダメージを与え、返しのサテライトフォールは一発が掠っただけで展開は互角ながらややスノウディアー有利か。ここでスノウディアーはホウオウの攻撃を続けて回避、八連弾ミサイルを二回続けて発射し、計三発が命中、何れも損害軽微ながら蓄積ダメージはそれなりか。じりじりとダメージ差を離されるホウオウに焦りが見える中、スノウディアーのサテライトフォールが遂に目標を補足し始めた。八弾中一発が命中、続けて八弾中三発が命中、これでペースを掴んだが、より重要な事はスノウディアーのセンサーがホウオウを完璧に捕らえた事がより重要であった。バランスを崩しつつホウオウから発射されたレッドアイを掠らせながら今試合10回目のサテライトフォール射出、一弾目外れ、二弾目命中、三弾目命中、四弾目が掠り、五弾目直撃、六弾目直撃、七弾目命中。八弾目こそ外れたが、まだ充分に余力を残していた筈のホウオウはこの攻撃で一気に機動停止に到った。

○スノウディアー2LDK(10分機動停止)重攻撃型ホウオウ× 32vs-5


Bブロック準決勝

 準決勝最後の一戦は近接、遠距離の攻撃切替型のんびりエターニアと中間距離で無敵を誇るセクレタリアトII。自分の得意な間合いで勝負できた者が勝利を掴むであろうと思われたが、距離の奪い合いに於いてロストヴァ・トゥルビヨンの操縦は悪魔的な程に熟達していた。
 両機射出直後に得意の中間距離にもちこんだセクレタリアトのスティグマ初弾はエターニアに回避されたが、続く二射目は命中、続けて一弾が命中、更に連装で命中、続けて命中と五連射でエターニアを完全に追いつめてしまった。何とか距離を離したエターニアがロックオンレーザーで反撃するが時既に遅く、突進しつつ照準を合わせたスティグマがエターニアに被弾。機動停止に追い込んだ。
 攻撃力を活かした短期戦、完勝に近い内容でセクレタリアトは決勝進出。

○セクレタリアトII(7分機動停止)のんびりエターニア× 35vs-1


NAKAMOTOストライク・バック第五回大会決勝戦

 軽量機の台頭が見られる中で、中量機同士の激突となったストライク・バック第五回大会。遠距離攻撃力の無いセクレタリアトIIが得意の中間距離で勝負を決めるか、スノウディアー2LDKが強力な地対地ミサイルサテライトフォールで押し切るか。そして操縦に勝るロストヴァ・トゥルビヨンと強引さと豪快さが売りのテムウ・ガルナのパイロットの腕も勝負を分ける要因となるであろう。
 両機がカタパルトに設置され、耐G用の姿勢を取った所で射出される。球形フィールドの外周に沿ってカタパルト上を滑る二機の機体が重力制御のされた戦場で最高速度に達すると、両機は切り放され同時に操縦竿に掛けられていたロックが解放される。ストライク・バック第五回大会決勝戦の開始である。

 中間距離。まずは挨拶代わり、連装式熱線砲ウェッジランチャーがスノウディアーの両肩から放たれるがこれは外れ、セクレタリアトの内蔵式二連装チェインガン、スティグマが直撃して相手の装甲を削る。セクレタリアトが有利に見えるが戦闘が長期になり、その装甲の薄さが欠点として路程すれば苦戦は免れないだろう。更にスティグマを直撃させるセクレタリアトだがスノウディアーも反撃のウェッジランチャーを直撃させる。これで距離を離したスノウディアーの両肩に着いたミサイルポッドが開き、今大会の恐怖の象徴となったサテライトフォールを一斉射出。フィールドの天井ぎりぎりまで上がった八発のミサイルは軌道を変えるとその名に相応しい軌跡を描いてセクレタリアトの頭上から落ち掛かる。うち一発が命中し、続けて射出されたサテライトフォールは全て外れ、機動力で勝るセクレタリアトと相対的な攻撃力と防御力で勝るスノウディアーは両機とも互角に近い展開を見せていた。
 そして展開が動いたのは一瞬の事で、次の瞬間には勝負が決まっていた。中間距離でのウェッジランチャーとスティグマの撃ち合いは双方に直撃!更に続けて撃ち合った一撃も両機に直撃し、装甲の薄いセクレタリアトIIが耐え切れずに機動停止。テムウ・ガルナが初の栄冠を手に入れる事となった。

 第一回優勝のロストヴァ・トゥルビヨン、第二回優勝のネス・フェザード、そして第三回第四回優勝のシャル・マクニコルに続いて、初の中小企業系からの優勝者が誕生した事は、大会の今後の展開に大きな変化をもたらす事であろう。

○スノウディアー2LDK(6分機動停止)セクレタリアトII× 7vs-2

cut



総合成績

テムウ・ガルナ      スノウディアー2LDK 3戦3勝 通算 9戦6勝
ロストヴァ・トゥルビヨン セクレタリアト     3戦2勝 通算 9戦6勝
神代進          重攻撃型ホウオウ    2戦1勝 通算 5戦2勝
静志津香         のんびりエターニア   2戦1勝 通算 3戦1勝
シャル・マクニコル    ハーフリング2nd   1戦0勝 通算11戦8勝
レイモンド・オース    アークロイアル     1戦0勝 通算 9戦4勝
ネス・フェザード     スレイヴバイパー    1戦0勝 通算 8戦4勝
山本いそべ        ねこMA−Turbo  2戦1勝 通算 2戦1勝
中石譲          ねぷた祭り       0戦0勝 通算 2戦1勝
新庄ジュンペイ      拳花火         1戦0勝 通算 4戦1勝
マクシミリアン      アウグストゥス     1戦0勝 通算 2戦0勝


ストライク・バック大会記録に戻る